Roses fall fleetingly, violets bloom vividly   作:MIA

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152 part timer

 クルミは不貞腐れ気味にカウンターに突っ伏していた。

 

「お会計、千六百円になります♡」

 

 レジを打ちながら、にこっと微笑んだせりが、男性客のハートを打ち抜いて。

 

「『ノバラちゃんスペシャル』とコーヒーのセットお二つ、お待たせいたしました。……ごゆっくりお召し上がりください、お嬢様方」

 

 優雅に一礼したすももに女性客たちがきゃーきゃーと顔を赤くしながら騒いで。

 

「ミズキさーん、テーブル四番様、上りでーす」

 

 厨房ではすずなが店長とミズキに褒められながら、調理をしている。

 

 一方のクルミはというと、ご注文の品をひっくり返すこと二回、皿洗いでお皿を四枚、カップを二つ割った。

 

 ……結果、ミズキに、コイツ使えねーなぁ、的な目で見られつつ、せりに気を使われた結果、カウンターの一席を占領して不貞腐れるに至った。

 

(……店員はボクの仕事じゃない……)

 

 そうは思うものの、今日きた新人より使えないという扱いは微妙に納得がいかなかった。

 

 頬を膨らませながら、スマホをいじっていると、一つのメッセージがポップする。

 

「……お?」

 

 それを見たクルミは、にやり、と笑うと席を立った。

 

「……ミカ! すまないが、野暮用だ。ボクは奥にいるから!」

 

 そう厨房にいるミカに声をかけると、クルミは、ほくほくした顔で自室へと走っていった。

 

「なぁにぃ、あの子? ……サボり?」

「そもそも、クルミは善意のお手伝いだろう?」

「そういや、そうか……まぁ、あの子が抜けたところで戦力は減らないどころか、増えるくらいだから、まぁいいでしょ」

 

◇◆◇

 

 自室(と言う名の押入れ)に入ったクルミは、コンソールに座ると待機状態であった自らの愛機を稼働状態にする。

 スマホに送られてきたデータを愛機を連動させれば、画面上には幾つものタスクが立ち上がった。

 

「くっふふ! やっぱり、仕事のできるヤツは違うなぁ!」

 

 普段ならば見ることすら許されない機密情報がヒットする様子にクルミは涎を垂らさんばかりであった。

 

 過去のハッキングの際に、ラジアータにクルミが仕込んだバックドアは塞がれないまま残っている。

 故に、セキュリティの弱い浅い部分であれば、日ごろからクルミもモニターしているし、そこから零れ落ちるデータを復元し、もう一つ先の階層で実施されている作業を推測している。

 

 ……だが、今回のものは、それよりも一歩進んでいる。

 

 ヤバい機密情報の閲覧にはさすがに注意が必要であろうが、基本的にはどんな情報にもフリーパスを得た形になっている。

 

(……まぁ、でも踏み込み過ぎても危険、か。好奇心はあるが、さすがに命は惜しい)

 

 あえて藪を突いて蛇を出す必要はない。少なくとも今のところは。

 

(これで専門じゃないだと……? まぁ、確かに魔術師(wizard)には届かないだろうが、その一歩手前……差し詰め、魔女っ娘(magical girl)と言ったところか……それでも十分破格だが)

 

 魔術師(wizard)級になろうと思えば、どうしてもセンス、才能と言ったものが必要になるし、それなりのマシンがなければ難しい。だが、素人目にはそれっぽく見えるような、なんちゃって、であれば、知識的にも技術的にも整えることはできなくはない。

 

「……楽しませてくれるじゃないか、二代目!」

 

 自らの好敵手としては、一枚も二枚も劣る。

 

 ……だが、遊び相手やビジネスパートナーとしては十分なレベルであった。

 

 限られた状況下でありながら、DAに堂々と侵入できる場を整えることができたのは、彼女の手腕とコネがあってこそである。

 

(ハ……ミズキよりも余程()()()じゃないか!)

 

 情報部にいたミズキもこちら側に対する知識も技術もそれなり以上にはある。

 だが、専門ではない、と宣う彼女の方が、情報部らしい仕事振りであった。

 

「ふん……まぁ、報酬ももらっている。お膳立てもしてもらった。こっちもこっちでちゃんと仕事をしないとな?」

 

 にやり、と笑みを浮かべて、クルミは趣味と実益を兼ねた自分の本業に精を出すことにした。

 

◇◆◇

 

「千束が戻りましたー!!」

 

 元気に入り口を開けて入ってきた千束を認めて、せりが、ほにゃ、と微笑んで出迎えた。

 

「千束さん、お帰りなさい!」

 

 ぽよんぽよん揺れる胸を見て、うぅむ、と千束は思わず唸った。

 

(……すげぇな……私の予備のはずなのに、せりが着るといかがわしい感じが甚だしい……)

 

 着慣れていないせいかもしれないが、コスプレ感が強い。

 

「千束さん、お帰りです! あれ!? ノバラ先輩は!?」

 

 奥から出てきたすずなはキョロキョロとノバラの姿を探している。

 

(うむ! こちらは安心安全!!)

 

 こちらも着せられている感はあるが、なだらかな平原のせいか、何というか微笑ましい。

 

「……お帰りなさいませ、千束嬢」

 

 軽く一礼で出迎えたすももはクールなイメージそのままであるが、その口調と接客姿勢は働いている店を間違えているようにしか思えなかった。

 

(……うーん……不在だった一日で別な店と認識されていないか不安になるな)

 

 チラリ、と千束がミカの方を見ていれば、いつものとおり、軽く笑みを浮かべている。特に問題はなかった、ということなのだろうが、それはそれで、普段はこの店がどう思われているのか気になった。

 

(……あぁ、いや……普段からミズキがカウンターで酒飲んでるところ見られているから、お察しか……)

 

 そもそもお店として残念であったことに改めて気づいて、千束は少しため息をついた。

 

「……ノバラはかやさんたちに捕まってしまいましたから、遅くなると思いますよ?」

「えー……先輩にレシピ確認したかったのにぃ……」

「……というか、私たちが帰る頃にノバラさんが戻ってくるなら、朝会っただけで終わっちゃう!?」

 

 たきなの言葉にすずなとせりはしょんぼりと落ち込んだ。

 

「……二人とも、お客様の前で落ち込まないでください。……それと、新規のお客様がいるんですから、ちゃんとご案内」

 

 めっ、とたきなが二人を窘めると、二人は即座に営業スマイルを取り戻した。

 

「こんにちはー」

 

 エリカとヒバナが顔を覗かせると、せりもすずなも、意外そうな顔をして二人を見た。

 

「エリカ先輩、ヒバナ先輩。珍しいところで会いますね?」

「いやいや、私らはお前たちの迎えに来たんだよ」

「……っていう体で、せっかくだからスイーツを食べに来たんだよ」

「あはは、いらっしゃいませぇ。カウンターのお席へどうぞ~」

 

 せりが、くすくす、と笑いながら、二人をカウンターへ案内する。

 

「噂の『ノバラちゃんスペシャル』のコーヒーセット二つで」

「はぁい。Nスぺ、二丁~!」

「あいよっ!」

 

 エリカの注文に、せりがふざけて注文を厨房に通すと、すずなが威勢よく返答する。

 

「いやいや、ラーメン屋じゃあるまいし」

 

 ヒバナがそんな二人に苦笑しながらも、せかせかと働いている二人を微笑まし気に見ている。

 

「……お冷とおしぼりです、先輩方」

 

 すももがすっと水の入ったコップと、温かいおしぼりをテーブルの上において、微笑みかける。

 

「あはは。ももちゃん、ここ和風喫茶だよ?」

「いえ、どうにも慣れんので。いっそのこと気障っぽく振舞えば何とかなると思ったんですがねぇ?」

「ふふふ。執事喫茶とかなら様になるかもだけどね。うんうん、可愛い可愛い!」

 

 エリカはくしゃくしゃと傍に立っているすももの頭を撫でまわす。

 普段あんまりそんなことをされることがないすももは少し困惑した表情になるも、セカンドとしては先輩のエリカに強く出ることもできずに、一先ずはされるがままになっている。

 

「そいつぁ、どうも……って、エリカ嬢? あんまり髪を乱されても困るんですが……」

「ぷふっ! 普段の口調になると、よりミスマッチ感が……!」

 

 エリカには、元々ボーイッシュな容姿で、声も若干ハスキーなすももが、可愛らしい和風の給仕服を着ているのがどうにもつぼのようで、くすくす、笑っている。

 

「あー……これはこれで、今日は面白そうだったなぁ。残念!」

 

 三人のエリカとヒバナに接する様子を見ながら、千束は今日の営業中も色々面白かったんだろうな、と微笑ましい瞳で見つめていた。

 

「ああ、三人とも初めてにしてはすんなりと溶け込んでいたな……これでノバラたちと同じで短期というのは実にもったいない」

 

 三人の働き振りに満足気だったミカがしみじみとそういうと、ノバラとすみれを含め、せり、すずな、すももが短い期間だけのバイトということに気づいた客の何人かは、そんな、と残念そうにして、涙目になった。

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