Roses fall fleetingly, violets bloom vividly   作:MIA

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153 Feelings of gratitude

 訓練場で立って残っているのは、ノバラ以外では、サクラとかやだけだった。

 汗だくのサクラは、地べたに倒れたままの部下たちを見ると、怒声を発した。

 

「おらぁー! 訓練終了だ! 起きろ、お前ら!!」

 

 精も根も尽き果てた彼女たちは本来であれば、立ち上がることなど到底できないのが普通であっただろうが、彼女たちは元『ノバラ組』。

 

 朝から晩まで扱かれ続け、疲れ果てて倒れてなお、訓練をするために立ち上がってきた者たちである。

 

 動けない、立ち上がれない……そんな甘えに縋ることなく、上官が起きろと言うなら起き上がらなければならない。

 

 そんな使命感が、死体同然であった彼女たちを立ち上がらせる。

 

 動きが鈍く、あまりの体の痛さで呻きつつ、フラフラ動いている様子はまさにゾンビそのものであった。

 

 一人、また一人と立ち上がると、そうするのが当然のように、整列を始める。疲労の極致で誰もがしんどそうな顔をしているが、目だけが爛々と未だにやる気を灯らせている。

 

 やがて全員が四列横隊に整列すると、列外にいたさくらが号令をかける。

 

「っつけぇぇぇい!」

 

 所謂、「気を付け」の号令である。

 全員が足音をそろえて気を付けの姿勢を取ると、直立不動のまま待機する。

 

「訓練教官殿にぃ、ぃぇれい!」

 

 これも「敬礼」と言っているのだが、一般人には中々聞き取れないだろう。

 

 ともかく、サクラの号令に従って、元『ノバラ組』の面々は一糸乱れぬ動作でノバラに対して一礼した。

 

 前に出たノバラが一礼する。

 

「ぉれぇい!……すめぇい!」

 

 サクラが「なおれ」の号令をかけた後、「休め」の号令を掛けて、ノバラの訓示を待つ態勢を作った。

 

(何かしれっと挨拶する流れを作られちゃったなー……)

 

 ノバラ苦笑気味にサクラを見ると、何か喋れ、とばかりに笑みを浮かべたので、ふぅ、と息を付く。

 

「皆、ナマっていないようで何より。あなたたちは、新たに部隊に配属された訳だけど、当然のことながら、それで終わりではありません。むしろ、これからが本番。見習いではなく、プロフェッショナルな仕事が求められます。あなたたちのチームのメンバーがヘマをやからかしたら、このチームのメンバー全員の恥となり、引いては隊長のサクラの恥となり、あなたたちを育てた私の恥となる……そんなことを許容できるか!?」

「「「否であります(no, ma'am)!」」」

「よろしい! ならば、我々に恥をかかせることのないよう一切の妥協なく努力を続け、任務に当たっては最善を…最善以上を行うよう、一層奮起せよ!!」

「「「承知いたしました(Yes, ma'am)!」」」

「……私からは以上」

「っつけぇぇぇい! 訓練教官殿にぃ、ぃぇれい!」

 

 ノバラの訓示の後、再び、号令があって、一礼すると、ノバラもそれに一礼して下がる。その代わりにサクラが前に出てくる。

 

「本日の特別訓練は以上だ! 各自、クールダウンに外周二周と、基礎トレ十セットして今日の全体訓練は終了だ! 別れっ!」

 

 そう言うと、全員が足並みを揃えて、外周のランニングに向かっていったようだ。

 

「……なぁに、サクラ? 様になってきたんじゃない?」

 

 にやにや笑いでノバラがサクラを揶揄うと、サクラも両手を頭の後ろで組んでにやりと笑う。

 

「あっはっは! 半ばお前のやりそうなことを踏襲してるだけなんだけどな! お前が完全に上下関係叩き込んだおかげで、あたしは楽なもんだよ」

「そりゃそうかもしれないけど、サクラの言葉と実力であの子たちが締まってるんだから、自信持っていいと思うよ?」

「お前にそう言われるのは、こそばゆい感じもするけど、まぁ、ありがたく受け取っておくわ」

 

(元はモチベーション最悪、チームワークも危うかった奴らをここまで一体感のあるチームに育てたのは間違いなくノバラの手腕なんだよな……半ば、洗脳の如く訓練バカが量産されたのには閉口するけど)

 

 彼女たちをサクラが統括することになったのにもそれなりの理由がある。

 

 まず第一に、元々の本部DAにいたリコリスたちは未だに彼女たちに対する悪いイメージが払拭できていないこと。

 要はあまり引き取り手がいないのである。

 

 第二にサクラの部下になりそうな他のリコリスがほとんどいなかったこと。

 

 フキから引き継いだ、エリカ、ヒバナ以外でも何人かは班のリーダーとして得ることができたが、サードの数が少なすぎて、有望株はすでに唾がつけられていた。

 

 第三に、サクラが実際に彼女たちを指揮してノバラと模擬戦をやった際の感触は悪くなかったし、彼女たち自身が何の偏見もなく、自分たちに接してくれるサクラに一定以上の敬意を払ったからである。

 

(……ま、集団戦に関しては、無慈悲なまでに統率が整った部隊になってしまったな……いいけど)

 

 実質上は、全員がサクラ隊と扱いとなっているが、実態としては、サクラの直轄部隊とフキの直轄部隊、これにエリカ、ヒバナ、その他のセカンドの班を加えて、サクラ隊を構成している。

 現状では、DA本部の最大勢力、最大派閥を形成した形になる。

 サクラ本人には上昇志向はあっても、権力志向はないので、大きな問題にもなっていない。

 

 おそらくだが、楠木があえてそうなるように人事を組んだとも言える。

 本来なら、もう少し茶々が入ってもおかしくない人事ではあるのだが、丁度粛清された者もいたごたごたの間にねじ込んだので、後から文句を言ったところで、あなた方も承認したでしょ、と突っ張れるので、楠木の内心はほくほくだ。

 

「……さぁて! 私は帰るとしますかねぇ?」

「お、そうか。お疲れさん。エントランスまでは送るわ」

「んふ。ありがと」

 

 廊下を二人で歩きながら、ノバラとサクラは何てことない話をする。

 

「そういや、帰りはどうすんだ?」

「楓司令が乗せてってくれると思うけど……ダメでも誰か付けてくれるよ」

「まぁ、お前、運転はできるんだろうけど、職質されそうだもんな」

 

 当然にノバラは車の運転はできるし、もっと言えば、小型セスナ、ヘリなども操縦できるのだが、如何せん幼い見た目ではサクラの言う通りになることが分かり切っているので、ノバラも緊急時以外は自ら運転することはあまりない。

 

「いやぁ、しっかし、アイツらあそこまでノバラのことが大好きだったとは……」

「ホントにね……まぁ、訓練が好きなのは悪いことじゃないと思うけど……」

「あっはっは! お前、やっぱりその辺は鈍いよな。アイツらのちゃんと訓練しよう、っていう根底には、お前に見離れされたくない、認めてもらいたい、って気持ちがあるんだぜ? ノバラが好きっていうのは、単に訓練好きってことじゃねぇぞ?」

「……私としては、仕事だからなんだけどねー」

「ま、恩はあるだろ。アイツらは、訓練所に返されるか、下手すりゃ処分もあり得たんだろ? お前が拾ってちゃんと育てたからこそ、今回の部隊配属なんだぞ?」

「そりゃ、私は気楽なもんよ? あれをやれ、これをやれって怒鳴ってだけだし。サクラがちゃんと受け入れてくれてからこそでしょ?」

「まぁ、私に対してもアイツらは感謝している気持ちがあるのは分かるが、お前とはまた別だろう。子犬を拾って躾けたお前と、それを引き取って育ててる私とじゃあ、懐き方も違うわな……だけど、あたしもお前には感謝してるんだぜ? お前が育ててくれてなきゃ、私だって引き取ろうと思ったか分かんねぇもん。だからな、アイツらと会わせてくれて、ありがとう」

 

 歩いている途中、足を止めたサクラが真面目な顔をしてノバラに礼を言った。

 

「こっちこそ、あの子たちを正当に評価して、受け入れてくれてありがとう」 

 

 ノバラもサクラの言葉を聞くと、正対して、サクラに一礼して、顔を上げると、くすりと笑う。

 

「……サクラのそういう、懐の深いところ、すごく好きよ?」

 

 ノバラのその笑顔にすこしだけ、ドキッとしたサクラは少しだけ顔を赤くして答える。

 

「ありがとよ。私も、まぁ……お前のことは大好きだよ。あ、もちろん友達として、ライバルとして、だからな!」

「念押ししなくても分かるってば……」

 

 慌てたように念を押すサクラにノバラは苦笑する。だが、そんなノバラにサクラは真剣な表情で言葉をつづけた。

 

「……だからな、ノバラ。何かあんなら、ちゃんと相談しろよな」

「それ、前も聞いたよ?」

「今日の話を聞いてても、心配だから言ってるんだよ!」

 

 今一つはぐらかされているようなノバラの言葉に、じれったくなってサクラがそう叫ぶと、ノバラは、嬉しそうに微笑むと、サクラに正面から抱き着いた。

 

「……ありがと、サクラ」

 

 茶化すようなものでもない、いつもの悪戯っぽい感じでもない、その真剣な声はサクラにもノバラが本心を語っているように聞こえていた。

 

 そして、ノバラの高めの体温と、とくんとくんという鼓動の音が、サクラにも気を得て、微妙に恥ずかしくなる。

 

「……お、おう……」

「……まだ言えないことが多いから、相談もできないけど、もし迷ったらちゃんと相談するよ?」

「おう。そうしろ!」

 

 ニカッ、とサクラがノバラに笑いかけると、ノバラも少しだけはにかんだような笑みを浮かべていた。

 

「じゃあ、ここで。ありがとう、サクラ!」

 

 気づかない内にもうエントランスだったことにサクラは少しだけ残念に思いつつもノバラに手を振って、見送った。

 

「おう! またな!」

 

 ノバラの背を送りながら、サクラは少し考える。

 

(この作戦が終われば、ノバラは仙台へ戻ることになんだろうから……やっぱり寂しくなるな)

 

 短い付き合いの中でも、自分の好敵手と認めることができて、友達と言える人間が遠く離れてしまう。そんな事実にサクラは胸の中にもやもやとしたものを感じていた。

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