Roses fall fleetingly, violets bloom vividly   作:MIA

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154 Jealousy

 生憎と楓は用があるらしく、ノバラを送ってくれたのはDAの職員だった。

 

 見知らぬ相手では、会話があるはずもなく、ノバラは後部座席で軽く仮眠を取りつつ帰ってきた。

 

 喫茶リコリコの付近で車が止まるのを感じ取ると、ノバラはパチリと目を開ける。

 

 ノバラは、運転してくれた職員に礼を言って、車から降りると、既に閉店しているであろう、喫茶リコリコの様子をちらりと見る。

 

(……まぁ、閉店後が営業開始みたいなところがあるから、誰かしらいるんだろうけど)

 

 リコリコと言ったらゲーム大会。

 もはや、営業なのかプライベートなのか良く分からない状態になっているが、千束たちも常連さんたちも楽しんで参加しているのは確かである。

 

 ノバラも気が向いたら参加することはあるが、基本は見ているか、おつまみでも作っていることの方が多い。

 さすがに常連さんたちの顔は覚えたし、普通に話もできるが、基本的にノバラ人見知りのため、他人と距離を詰めるのが苦手なのだ。

 これがリコリスならまだ慣れているが、一般人との接し方は特に良く分からない。

 

(……千束は凄いなぁ……)

 

 初対面であろうと距離を詰めるのに遠慮がない。

 まぁ、ノバラとは逆方向に距離感がバグっているのだろうが、彼女のコミュニケーション能力と愛想の良さのせいか相手に不快感を抱かせないのである。

 

 自分と千束の違いがあまりにも大きすぎて、ノバラは、はぁ、とため息をついた。

 

 ……憧れの姉はあまりにも遠く、歩みの遅い自分はどんどん遅れてしまう。

 

 たきなと出会う前の千束であれば、ある種の諦念のようなものがあった。

 

 そこには、『どうせ長くは生きられない』という自棄になった気持ちもあるのだろう。だからこその『やりたいこと最優先』であり、ノバラ自身もそれを是としてきた。

 

 しかし、今はどうだろうか。

 

『やりたいこと最優先』。その気持ち自体は変わっていないのだろうが、その裏の感情は大分変っているように見受けられた。

 

 自棄っぱちの『どうせなら』は、精一杯生きるための『せっかくだから』に。

 自分のやりたいことを『最優先』していたものを、たきなと自分の『最優先』に。

 

 思わず妬いてしまうほどではあるが、それは悪い変化ではない。

 

 ただ、ノバラがそれに距離を感じてしまっているだけだ。

 

 ……無論、そんなことはちらりとも表には出さないが。

 

(……相手がたきななら仕方ない)

 

 東京に出向となってから世話になっているたきなはノバラから見ても魅力的な人物だ。

 

 おそらく元は相当ガチガチにお堅い感じだったのだろうが、千束に関わったことでいい感じに解れている。

 たきなは、リコリスとしての生活の中で、余計なことを考えず機械のようになろうとしていたと思われるものの、意外に激情家なところがある彼女は相当なストレスだったのではないだろうか。

 今の彼女は生き生きしているように見える。

 

 ……まぁ、千束に振り回されていることも多いのだろうが。

 

(……たきなも大変そうだなぁ……まぁ、それはそれで楽しんでいるんだからいいのか)

 

 千束と付き合うのであれば、振り回されるのに慣れるか、楽しめるくらいの境地にならないと辛いだろう。この点、たきなは十分にクリアできている。

 

(だからこそ、たきななら安心して任せられる)

 

 別れの日が見えてきたから、そんな埒もないことを考えてしまうのだろう。

 

 ノバラは自分自身に苦笑してから、リコリコの入り口の扉に手を掛ける。

 

「……ノバラちゃんが戻りましたよー……」

 

 盛り上がっているところに水を差す訳にもいかないため、ノバラは気配は消さないまでも、静かに扉を開けて、中に入った。

 

「あ、ノバラちゃ「ノバラさーん!!」

 

 真っ先にすみれが気づいて声を上げたが、その声に被せるように声を上げながら、せりがノバラに抱き着いてきた。

 

「……あれ? せり、すずな。まだいたの?」

「ノバラさんのヘルプで入ったのに、酷い!?」

「そうですよ、先輩……ウチらは労働が終われば用済みですか!?」

 

 いつの間にかノバラの隣に現れたすずなもノバラの腕を取って、不満そうにしている。

 

 一方、声を上げただけだったすみれは、途方に暮れたように、ノバラの方を向きながら涙目になっている。

 

「はいはい。ありがとう、二人とも」

 

 ノバラはそう言って、二人に微笑むと、へにゃり、と二人が呆けた顔をした瞬間を見逃さず、するりと抜けると、すみれが座っていたカウンターの隣に座る。

 

「ただいま、すみれ」

「……うぅ……ノバラちゃん、お帰りぃ!!」

 

 ノバラがすみれに笑いかけると、すみれは顔を赤くしながらもノバラに抱き着いてきた。

 

(おろ? 珍しい……)

 

 ここ最近、少なくとも人前では、ノバラにべたべたしたがらなかったすみれが、自分から抱き着いてきた。ちらりと周りを見てみれば、千束とたきなが頷いているので、この二人の入れ知恵だと分った。

 

「私がいなくても大丈夫だった?」

「……うん。ちゃんと働けたよ?」

「そう。それは良い子ね」

 

 ノバラはよしよしとすみれの頭を撫でるが、途中ですみれははっとしたような顔をして、頬を膨らませた。

 

「……ノバラちゃん、すみれは子供じゃありません」

「? それはそうでしょ。私たちもう十六よ?」

「そ、そうじゃなくてぇ!?」

 

 違うんだよ、と抗議の視線を向けてくるすみれに、ノバラは首を傾げるような仕草をするが、頭を撫でるのはやめない。

 

 そんな様子に千束はけらけらと笑い、たきなは苦笑していた。

 

「ノバラさん! すみれさんばかりズルいです!!」

「そうですよぉ、先輩。ウチらの扱い雑じゃないですか……?」

「……あなたたち二人、そんなに構ってちゃんだったかしら?」

 

 せりとすずなの言葉にノバラは苦笑しながらも、すみれを引っ付けたまま、二人を撫でる。

 ぎゅうっ、とすみれの抱きしめる力が強くなり、膨れていた頬はパンパンになっている。

 

(……焼きもち……?)

 

 すみれは甘えたがりだが、あまり焼きもちをするイメージのなかったノバラはすみれの行動に一層の違和感を覚える。

 

 元々、他の人間との関わりが薄いすみれは、そもそもが焼きもちをするタイミングがないということもあるが、千束やたきなに対してはほとんどなかった行動である。

 

「……すみれ、さすがにそれ以上は痛い」

「あぅ!? ……ごめん、ノバラちゃん……」

 

 ノバラが痛がっていることに気づくと、すみれは慌ててノバラを離してしゅんとした。

 

 ……悪戯をした大型犬が叱られてしゅんとしているようで可愛らしい。

 

 くすっ、とノバラは相棒のそんな様子に笑みを浮かべた。

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