Roses fall fleetingly, violets bloom vividly   作:MIA

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 オムライスは簡単そうに見えて難しい。

 

 いや、簡単に作ろうと思えば手抜きできるが、こだわり始めたらキリがないのだ。

 

 最も簡単に作ろうとするなら、ご飯にケチャップを混ぜたものに、薄く焼いた卵焼きを上から置いただけでも、まぁ、オムライスと言えなくもないだろう。

 

 もうちょっと進めば、卵で包むまで進化できる。

 

 中に入れる物も、きちんとしたチキンライスを作れるなら、見た目も味もそれなりの物に整うだろう。

 

 このくらいであれば、ノバラもそこまで気合を入れない。

 

 すみれと二人で食べるだけであれば、量を作るためにこの程度で妥協することもあり得る。

 本格的に作ったヤツももちろん好きだが、ちょっとチープに作った物もそれはそれで、ノバラもすみれも大好きだ。

 

 しかし、千束とたきなのリクエストによって、ノバラのハードルはグッと上がった。

 

(……期待されていると思うと中途半端なものは作れないしね)

 

 だが、質を上げようと思うと、量を作るのが難しくなる。要となるオムレツ部分は一つ一つ仕上げるしかないにしても、どうやって量を確保すべきか。

 

(……ちょっと邪道かもだけど……炊くか)

 

 幸いにして、たきなの部屋にある炊飯器は大きめである。最大容量で炊けば、すみれの胃袋は満たされるだろう。

 

 残ったご飯をお櫃に取って、釜を洗うと、ノバラはチキンライス作りに取り掛かる。

 

 玉ねぎ、にんにく、しょうがをみじん切りにする。

 次いで、鶏肉を一センチ角くらいに切っていく。

 ご飯を砥いで水気を切ったら、これらの具材にケチャップ、バター、ウスターソース、野菜ジュース、コンソメスープの素を加え丁寧に混ぜ合わせた後、通常炊くよりも少なめの水を加えて、炊き始める。

 

(……吸水時間が少ないけど……まぁ、しゃあない)

 

 美味しく炊けますように、とノバラは手を合わせて、なむなむ、と炊飯器を拝んだ。

 

 炊きあがるまでの間にノバラが手掛けたのは、ビーフシチューである。

 

 千束とたきなが何かを話し合っているとしてもそう何時間も時間が掛かる訳もない。つまりは、長く煮込む時間は取れないということ。

 

 これを解決するには、薄切り肉を使う、という方法もあるが。

 

(でも、ビーフシチューって肉がゴロッとしているのが嬉しいよね?)

 

 そんな考えから奮発してお高いステーキ肉をカットして対応することにした。煮込み時間が少なくても、元の肉が柔らかく、食べ応えもある。

 

 先ほどオムライスを作った際に他の材料もまとめてカットしていたのだが、まずは鍋にバターを引いて、中火で牛肉を焼いていく。

 焼き色がついたところで取り出すと、ニンニクを加え、バターと肉の油で弱火で炒めていく。

 そこにスライスした玉ねぎを加え、透き通るくらいまで炒めたら、ニンジンを加えて炒め、弱火のまま、リコリコから接収してきたミズキの赤ワイン、残った野菜ジュース、ローリエを加えて煮立たせる。

 これに取り出していた肉を投入し、マッシュルームを加えてじっくりと煮込んでいく。

 煮詰まってきたところに、ビターチョコレートを入れて、焦げ付かないように煮ていき、最後に塩、コショウで味を調えていく。

 

 すみれと軽く談笑してチキンライスの炊き上がりを待つことしばし。

 

 トマトの香りが柔らかく香り、炊き上がりを知らせる音が鳴る。

 

(……そんで、千束とたきなはまだ来ない……っと。でも、すみれが涎を垂らしてるから、先に頂いちゃおうかな?)

 

 炊飯器を開けると、ほかほかといい感じに炊き上がっているのを確認したノバラは満足気に微笑むと、しゃもじで混ぜ合わせていく。

 

「すみれ、食器とか準備して、チキンライスを皿によそってくれる?」

「はぁい!」

 

 すみれが食器などを準備している間に、ノバラはオムレツの方に取り掛かる。

 

(やはり割ったらとろっとなる感じの半熟がいいよね)

 

 多目のバターをフライパンに引き、温めている間に、卵を三個割って菜箸でよくかき混ぜ、生クリームを加えて更に混ぜる。

 

(……温度良しっ!)

 

 ノバラはくわっと目を開くと卵をフライパンに投入する。

 じゅうっ、という音と共に卵に火が入っていく。

 

 そして、混ぜつつ、前後にフライパンを振る!

 やがて、卵が半熟になって、箸に引っかかるようになる頃、火から下して、手前側から奥に向かって卵を折りたたんでいく。

 先の方に丸めるようにまとめて形を整えると菜箸からゴムベラに持ち替えて、フライパンの先の方を数秒火にかけて固めつつ、ゴムベラを使いながら、くるりと卵をひっくり返し、火の通り具合を見極めながら、もう一度ひっくり返す。

 

「すみれ! お皿!」

「いぇす、まぁむ!」

 

 差し出された大盛りのチキンライスの乗ったお皿に、ノバラは苦笑しながらも出来上がったオムレツをぽふっと乗せる。

 

 そして、周りにはビーフシチューをかけて、少しだけ生クリームを垂らす。

 

「ノバラちゃん、早く早く!」

 

 すみれが待ちきれないとばかりに手をぱたぱたさせながら、その瞬間を見守る。

 

「……ふふっ、それでは、ご開帳~!」

 

 ノバラがナイフでオムレツの真ん中に切れ目を入れると、そこから半熟の卵が花開いたように溢れていく。

 

 ビーフシチューソースで食べるたんぽぽオムライスの完成である。

 

「ほわぁ!? とろとろっ!?」

 

 すみれが目をキラキラさせながらオムライスを見る。

 嬉しそうなその様子にノバラもほっと息をつく。

 

「温かい内に召し上がれ? 私は自分の分やるから」

 

 すみれの、んまぁ~ぃ、という声を聞きながら、自分の分のオムレツを作って、出来上がったものをテーブルに持って行く。

 

「それでは、本日二回目のご開帳~!」

 

 最初と同じようにとろとろ溢れ出す半熟の卵にノバラは満足気に頷くと、スプーンで一匙掬い上げ、自らの口へ運ぶ。

 

(……ん。まぁ、及第点かな)

 

 若干手抜きせざるを得なかった部分はあるが、十分においしいと言えた。とは言っても、さすがにこのレベルでは店に出すのは難しいだろう、とも考える。

 

「ノバラちゃん、あ~ん!」

「え~……? 同じのでやっても意味ないでしょ?」

「すみれがしたいの! いいでしょ? ……あ~ん、して?」

 

 甘えるようなすみれの視線にノバラは仕方なく、右手で顔に掛かっている髪をかきあげると、ゆっくりと口を開く。

 

「……あ~……ん」

 

 口を開いたところに、すみれから匙を入れられ、それを軽く舐るようにしながらオムライスを口の中に絡めとる。

 

「……おいしい?」

「ふつー」

「えぇ~? すみれが食べさせたから、おいしくなってるはずだよ?」

「私が作ったんだもの。思った通りで、思っていた以上の味じゃないわよ」

「……じゃあ、もう一回。……あ~ん」

 

 これは美味しいと言うまで続けそうだな、と苦笑しつつも、ノバラは再び口を開ける。

 それと同時に近づいてくる足音を察知する。

 

(……お? 帰ってきた。この慌ただしい感じは千束かな……)

 

「……あ~……ん」

 

 頭の隅ではそんなことを考えながら、ノバラはパクっとスプーンを口に入れる。

 

「ノバラ! 私のオムライスは!?」

 

 ノバラは背後に千束の声を聞きながら、んぐんぐ、とスプーンに乗ったオムライスを口の中に取り、口からスプーンを引き抜きつつ、汚れた唇をぺろりと舐めとる。

 

「んー……おふぁえぃー」

 

 ノバラは普段と変わらない表情だが、すみれは少しだけ恥ずかしそうに照れ笑いしている。

 

「ただいま……と言うか、ノバラは口に物を入れたまま喋らない!」

 

『あーん』をしながら食べさせられていたことを千束は察しつつも、相変わらず仲の良いこと、程度にしか感じていなかったが、今さら意識しだしたらしいすみれは顔を赤くしながらもじもじとしている。

 

「んぐんぐ……ごきゅ……おかえりー、千束。もう、食べるならオムレツ作るよ?」

「……お、おかえりー、千束ちゃん……えへへ」

 

(……う~ん……すみれにしては攻勢に出ていたのかもしれんが、いつもどおり過ぎて、ノバラはおろか私もただ呆れるだけ……すみれは、もうちょい! もうちょいなんだよなぁ!)

 

 これの相手がせりだったら、千束も少しは慌てて、見ちゃいけないものを見た的な感じになったのだろうが、ノバラとすみれで今さら『あーん』をやったところで、変わり映えしない。すみれの中ではちょっと違うのだろうけれども。

 

 それ故に、千束は『もうちょい!』と歯痒く思ってしまうのだ。

 

(攻めるべきはそこじゃないというか……もう通り過ぎたところを周回しても経験値は微々たるものしか溜まらないというか。攻めるならもっと攻めろよ、すみれ……)

 

 新しい妹分のチキンな様子に千束はため息をついた。

 




筆者もオムライスは好き。
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