Roses fall fleetingly, violets bloom vividly 作:MIA
ノバラは千束とたきなの分のオムレツを作り、それぞれをチキンライスの上に置くと、それが乗った皿をテーブルまで持っていき、そこでオムレツに真っすぐ切れ目を入れる。
吹きあがるように半熟の卵が零れ落ちる。
そして、その周りにビーフシチューを一かけしていく。
「おぉ~。本格的だな!」
「……これはおいしそうですね」
食欲をそそるビジュアルに千束とたきなもスプーンを取り、一口食べようとしたところでノバラが待ったを掛けた。
「……なんだよー、早く食べさせろよー」
「ふっふっふ……千束、それでは物足りなくはないかね……?」
一度台所に引っ込んだノバラがごとりごとり、と何かを用意している。
その形状と取り出した食物を見て、千束はそれに思い当たった。
「ノバラ、ま、まさか……それは!?」
千束の驚愕の言葉を聞きながら、ノバラはテキパキとセットを進める。
機械に取り付けられたの半円のチーズ。……ラクレットチーズだ。
「……そう言えば、この間、また何か届いていましたしね」
たきなはやや呆れ顔ではあるが、ノバラはわくわくとした顔をしている。
新しい調理器具のお披露目が楽しみなのである。
「新兵器のチーズメルターです! さぁ、オムライスにチーズを掛けてほしいのは誰だ!?」
「「「はい!」」」
三人が一斉に手を挙げるものの、すみれの皿にはすでに何も残っていなかった。
「……すみれ、あなたは最後……どうせお代わりするでしょ?」
「しょぼん……」
落ち込んだ様子を見せたすみれだが、すすっとノバラの手前に空になったお皿を、置いてお代わりを催促する。
そんな様子にノバラはやれやれと苦笑した。
そして、チーズメルターを見れば、チーズが、ふつふつといい感じに溶け始めている。
「……というわけで、千束に掛けるよ! 準備はいい!?」
「よっしゃ、こいや!」
ノバラがチーズの上にナイフを走らせて、とろとろにとけたチーズが、オムライスビームシチューの上にたっぷりと掛けられる。
「おほぉ~! これは絶対おいしい……って、本気で美味しすぎる!?」
千束が驚きの声を上げながら、残りにがっつく。
「次はたきなの番!」
「よろしくお願いします!」
再び、チーズの上にナイフを走らせ、チーズを掛けていく。
たきなも一口を含むと、その味を味わう。
(……濃厚なチーズの味に、ふわふわとろとろの卵。チキンライスはトマトの酸味が心地よく、ゴロっとしたお肉の入ったビーフシチュー……最高です!)
「……ノバラ……最高です」
たきなは、ほぅ、と幸せそうに息をつく。
千束とたきなの喜んでいる姿にノバラは小さくガッツポーズを取る。
「ノバラちゃん! すみれも! すみれも早く!!」
「はいはい」
すみれにも同様におかわりを作り、チーズをかける。
「ほわぁ!! しゅんごいよぉ!! いただきまぁす!! ……っ!? ……っっ!?」
すみれはとろとろのチーズと卵、チキンライス、ビーフシチューを上手に絡めて口の中に入れて、一口味わったが、あまりの美味しさに言葉にならず、ただただ驚き、二口目を同じように口にいれても同様の美味しさに感動している。
三人が三人ともガツガツと食べる様子をノバラはにこにこと見守りながら、自分のオムライスにもチーズをかけて、食べる。
(……ラクレットチーズは温野菜の方が合うかも、とは思ったけど、これも中々……良い買い物だった)
ノバラは、うんうん、と頷いて出来栄えに納得の表情を浮かべる。
「……ノバラちゃん……」
ノバラはまだ半分も食べていないが、すみれは既に空いたお皿を悲しそうに見つめながら、ノバラにうるうると視線を向ける。
「……はいはい。今度はいつものにしようか」
ノバラが作ったのは卵でチキンライスを巻いたものだ。
せっかくなので、オムライスの上にはハートマークをケチャップで書いてみた。
それを渡されたすみれは、ポッ顔を赤めながら、ノバラの方を見るが、いつものとおりだったので、少しがっかりしながら、食べ始めるが、これはこれで美味しいらしく、幸せそうな姿をを見せた。
「はぁ~……ご馳走さま~」
「ご馳走様です。本当に美味しかったですよ、ノバラ」
一心不乱に食べていた二人は、綺麗に食べ終わっていた。
「ふふっ。お粗末様です。……すみれも、とりあえずは、満腹かな?」
「うん、満足!」
まぁ、とは言うものの、すみれのことだから、あとでお腹を空かせることが予想された。
「んー……それじゃあ、残りのチキンライスは薄焼き卵で包んだ、オムライスおにぎりしてあげるから、千束、すみれ、持って帰ってね」
「いいの!?」
「あなたのことだから、どうせ途中でお腹減るでしょう?」
「えへへぇ……」
すみれが恥ずかしそうに笑うが、いつものことと思い、ノバラは笑みを浮かべながら、作っていく。
「ところで、実はデザートがあるんだけど……」
ノバラがそう言うと、三人の目がキュピーンと光る。
「蔵王高原で作られたレアチーズケーキだよ」
「おおぅ……これ、マスカルポーネチーズとクリームチーズ? 濃厚かつクリーミー!」
「あ、私のはブルーベリー風味ですね。果物の酸味もあって美味しいです」
「……もぐもぐ」
「あ、すみれ、二つ取ったでしょ?」
「ん……ん……ごきゅん……ダメ?」
「はぁ……まぁ……良いけど」
ノバラは自分の分をすみれに食べられた形になるが、表面上は涼しい顔をしていた。
……内心ではちょっと楽しみにしていたので、実はちょっと悲しかったのだが。
しかし、自らの妹分の笑顔を見てしまえば、苦笑するしかない。
だが、さすがにこれは酷いと思ったのか、千束から後片付けを命じられたすみれは、一生懸命洗い物をしている。
「……ホントにアンタはあれだね。すみれには甘いね」
「……そう?」
千束とノバラは食後のお茶を啜りながらそんな話をしている。
「いや、さすがに、自分の楽しみにしてたデザート取られたらキレるだろ?」
「んー……まぁ、楽しみは楽しみだったけど。ケンカしてまで惜しいものじゃないし? お腹の中にあるものが出てくるわけでもないしさ」
ノバラは少し考える表情をしたものの、結果的にはそう答えた。
これが明日を生きるためのパン、というなら、ノバラももう少し必死になったかもしれない……いや、本当にそんな状況であれば、ノバラは躊躇わず、すみれに食べさせて、自らは死を選ぶだろう。
そう考えるくらいには、ノバラにとって、すみれは大事な存在である。
「……ノバラはそういうところ大人ですね」
「大人なのかねぇ……私にしてみれば、未だに食に興味が薄いんじゃないかって疑うんだけど?」
「あはは。まぁ、美味しいのは好きだけど、食べること自体はそんなにだね。自分が食べるよりは、周りの人が美味しく食べてくれているのを見てる方が幸せかな?」
「……ノバラが料理上手な理由が分かった気がします」
少し照れたような表情をして答えたノバラをたきなは、いい子いい子、と撫でる。
「私も妹がいい子に育ってくれて嬉しいぞ!」
うりうり、と対面のテーブルから手を伸ばして、千束はノバラ頬を突く。
「もう、なぁに? お姉ちゃんたち……」
ノバラは少し困ったような表情をしているが、その中には嬉しさも含まれているように見えた。
それに気づいた千束とたきなは互いに目配せして微笑む。
「いんや。ウチの妹は可愛いなぁ、って再確認してたとこ」
「ええ。ノバラはとても可愛いです」
姉二人に可愛いと言われたノバラは照れたように頬を赤くしてそっぽを向く。
「……あんまり揶揄わないでよね?」
少し唇を尖らせているノバラを見て、千束とたきなは再び目配せをすると優しく微笑んだ。