Roses fall fleetingly, violets bloom vividly 作:MIA
千束とすみれが帰り、たきなとノバラは入浴を済ませた後、ノバラは自室で日課の柔軟を行っていた。
百八十度足を開脚して、前方に上体を倒していく。三十秒ほどその状態を維持すると、手を床に付いて体を起こし、そのままお尻ごと足を浮かせていく。
そしてゆっくりと足を持ち上げていき逆立ちに移行すると、今度は右足を前方に左足を後方に百八十度開いた形にすると、左足方向から立ち上がる。
「……よっ……と」
立ち上がったノバラは、回れ右をすると、今度はその逆の動きをなぞるように行っていき、再び開脚の姿勢に戻った。
ノバラは元々体は柔らかい方ではあったが、このような動きができるのは、日ごろから柔軟を欠かさなかったことに加え、体幹をみっちり鍛え上げたからでもある。
体が丁度良く解れたところで、そろそろ眠ろうかと立ち上がったところで、たきなの気配が近づいていることに気づく。
こんこんこん、というノックの音にノバラが扉を開くと、寝間着姿のたきなが立っていた。
「……たきな? どうしたの?」
「……ノバラ、今日は一緒に寝ませんか?」
「今日
「……千束がいくらヤキモチ焼きでも、私とノバラでは何も言いませんよ」
「え~、そう? じゃあ、今度、『……私、たきなお姉ちゃんと寝たの……』って意味深に言ってみるよ」
視線を合わせないように下を向き、軽く体を抱きしめるように言ったそのセリフはあまりに迫真過ぎて、本気にしてしまいそうなくらいには様になっていた。まぁ、言っていること自体に間違いはないのだが、完全に誤解されるような言い方である。
「……それは、普通に本気にしそうですね……絶対に止めてください」
たきなはその場面を想像して思わず真顔になった。
千束が可愛らしく嫉妬してくれるとか、千束とノバラがお互いにビンタをし合うくらいならまだ可愛いが、逆上した千束が自らの誓いを破って実銃を撃ちかねないし、それにノバラが応戦したら目も当てられない。
……完全にド修羅場である。
「あ、やっぱり? ……私も命が惜しいから止めとくよ」
「……そうしてください」
顔を見合わせ、二人で、ぷっ、と噴き出した。
「んふふ。じゃあ、たきなの部屋に行こうか?」
「……いえ、たまにはノバラの布団で一緒に寝ましょう」
「そう? じゃあ、ノバラちゃんの布団に、いらっしゃいませぇ!」
自らの布団をぺろんと捲ったノバラが横になりながら、自分の横をぽんぽんと叩く。
そんなノバラの様子にたきなも笑みを浮かべながら、ノバラの横に寝っ転がる。
ふわりとたきなにも布団が掛けられ、横にはノバラの体温を感じる。
「じゃあ、電気消すよー?」
「……はい」
ノバラがリモコンで電気を消すと、部屋の中は一気に暗くなる。
「……何かお話?」
「そうですね……まずは、この間の内緒話の続きをしましょうか?」
「たきなも思ったより乗り気だねぇ……」
布団の中で顔を見合わせながら、ノバラは、くすり、と笑う。
「ノバラも今回の作戦が終わったら、仙台に戻るんでしょう? であれば、何かやりたいところではありますし」
「ま、何もなければ、荷物回収しにこっちに来つつ、お休みは貰えるだろうから。何か思い出に残ることはしたいかなー?」
ノバラが一緒に生活するようになってくら、そんなに長い時間が経っていたのに、たきなはもう何年も一緒に暮らしているような感じになっていた。
正直、ノバラが離れていくのは悲しい……悲しすぎる!
だが、そんなことを表面に出さずに、たきなはノバラたちをどう送り出そうかと考える。
「……外で食事でも、と思いましたが、正直、ノバラのご飯の方が美味しく感じてしまうんですよねぇ?」
「あはは、ありがと。……じゃあ、外で何か作る?」
ふと、ノバラがそう言った言葉は、至極素敵なアイディアと思えたものの、場所の心当たりがなく、たきなは少し考える。
「……一体どこで?」
「……どんだけ騒いだって、黙らせられる場所があるじゃない?」
……怒られない、でもなく、黙らせられる、ときた。
つまり、それはノバラにコネクションがあるということを意味するが。
「……まさか、DA本部なんて言いませんよね?」
「うふ」
ノバラは意地の悪そうな笑みを浮かべているが、実のところ勝算はかなり高い。
「……怒られませんか?」
「楠木さんに言っておけば、大丈夫大丈夫!」
実際、深いため息をつきながら、渋々了承してくれるだろう。
……ついでに当日参加してもらって、共犯にすれば完璧である。
「ほら、訓練用のテントとかもあるじゃない? あれ使えば泊りがけでキャンプができるよ! いいよねー、キャンプご飯!」
「……キャンプご飯……」
BBQでももちろんいいし、魚を焼いたり、カレーを作ったりと楽しそうではある。
「……いいですね。それでは、千束とすみれには内緒にして進めますか」
「本部の方の準備は、フキとサクラにお願いしよう」
確かに本部の方での準備と段取りは必要であろう。
……しかし、たきなにはちょっとした懸念があった。
「……それは、大丈夫なんですか?」
「? ……何が?」
たきなに問われるものの、ノバラは心当たりがなく、首を捻った。
「……いえ、ノバラが分からないなら、それでいいです」
「えぇ……? 教えてよぅ……」
ノバラが甘えたようにたきなに抱き着いてきてそう言うが、たきなは、くすり、と笑って誤魔化した。
当の本人に自覚がないのは困りものだが、今日の本部での様子を考えれば、すぐに思いつくはずだった。
サクラの部下、『旧ノバラ組』の面々が、そんなイベントを見逃すとも思えず、むしろ、嬉々として参加してきて、楽しいはずのキャンプがブートキャンプに早変わりしそうである。
……たきなとしては、それはそれで、面白そうだな、と思ってあえて放置することにしたのだ。
想定して然るべきところを、考えなかったノバラが悪い。
「日程は決められないでしょうが、場所と物の準備は進めないといけませんね」
「あと、何を作るかも」
「……実際、何が作れるんですか?」
食べてみたいメニューを考えてみるが、たきなには絞り込めない。
しかも、屋外となれば、作れるものも限られてくる。
……そう思って聞いたのだが。
「……へ? 器具と材料と火があれば、大概のものは作れるじゃない?」
ノバラの答えはたきなの想像の埒外だった。
「…………つ、作れるんですか……そうですか……」
サバイバル訓練でもしていたのだろうか、とたきなは考える。
(………………………………本当にやってそうですね)
何なら自給自足でも平然と山の中で過ごせそうではある。
「だから、ど~んとノバラちゃんにリクエストしたらいいよ!」
ノバラが満面の笑顔を浮かべてそう言ったので、たきなはノバラをぎゅっと抱きしめた。