Roses fall fleetingly, violets bloom vividly   作:MIA

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166 How a warrior should be

「……ふーん。つまり、結局、あなたは何処まで行っても研究者というわけだ?」

 

 南部義藤の半生は戦場にあったが、残りの半生は研究者である。

 

 傭兵として転戦を繰り返し、血みどろの戦場を駆け巡った南部は、しかし、とある戦場で右腕と左脚を失った。

 

 以降、南部は、戦場に戻るために三日月義肢研究機構に所属し、義肢の研究に明け暮れたという。

 いつしか、彼は戦場に戻るという目的を忘れ、義肢技術のその先の技術に魅了された。

 

 四肢機械化技術は彼の執念であり、その答えは、今、彼が五体満足でノバラの前に立っていることで明らかだ。

 

「無論、戦士の矜持を忘れたわけではないがね? そもそも、どうして私が傭兵稼業に身を窶したかと言えば、人を効率的に殺すことを追求してのことだ。まぁ、あまり自慢気に言うことではないが……」

 

 くく、と自嘲気味に笑う南部の姿は、確かにかつての戦士の姿を偲ばせる。

 

「あら、皮肉なこと。結果、あなたは生かすことに半生を費やしたことになるわね」

「皮肉などではないよ。なるべくしてそうなったのだ。生きるということは殺すこと。そして、殺し方が上手い者は、生かし方も上手いという、ただそれだけのことだ。……その点、君も同類だろう?」

「……否定はしないけど。私たちリコリスはその最たるものでしょうし?」

 

 ぷく、とノバラは頬を膨らませる。

 自覚はあるが、相手から指摘されるのはあまり面白くはない。

 

「ははは。良い割り切りだ。リコリスは思想教育のせいで、そういったことは考えないのかと思っていたのだが」

「そういう子がいるのは確かだけど……そういうことを考えないのはただの思考停止でしょう? 考えることを止めた子は直ぐに死ぬわよ?」

 

 担当教官の方針にもよるが、大なり小なり思想教育は確かにある。

 しかし、それは必ずしも思考停止を意味しない。

 (一般人)(リコリス)の違いを理解することで、護るべき者の意味を知る。その意味を知らなければ、リコリスとしての価値がない。

 そして、ノバラの経験上、それを理解していない、考えることを止めた者から死んでいく。

 何故なら、死地にあって、目的意識もなく、ぼーっとしているからだ。

 狩る側からすれば、それ以上のカモはいない。

 

「……ふふふ。感情についても同じようなことが言えるのではないかね?」

「……『人狼計画(Werewolf Project)』が欠陥品なのは、そういうことでしょう?」

 

 南部の言う通り、感情についても同じことが言えた。

 戦場に在って、生と死を別つものは生きたいと願う感情に他ならない。

 よって、感情のない兵士は容易く死に至る。

 

 ……それは誰よりもノバラが一番良く分かっている。

 

「そうだとも! 感情のない兵士は使い易いかもしれないが、強くはない。戦場では生き汚い者の方が生き残る。それには感情の方が重要だ。ならば、本当に壊すべきものはなんだ?」

 

 ノバラの内心を知ってか、愉快そうにそう問う南部に、ノバラは、何で分かりきっていることを聞くのか、という目線を返す。

 

「……? 倫理観でしょ? 相手を殺すことへの抵抗感を無くすこと。理想は、殺すこと、奪うことに快感が得られるようにすることかな?」

 

 ……そうなったら止まらない。

 麻薬のようなものだ。

 より大きな快楽を求めて、殺して殺して殺して殺し尽くす。

 

 際限のない殺しの連鎖。

 

 それはもう人としては壊れた怪物に等しいが、間違いなく強く、手強い。

 ……極めて扱い辛いだろうが。

 

素晴らしい(Di molto)! 完璧な答えだ(È la risposta perfetta)!」

どうもありがとう(Ti ringrazio)。……全然嬉しくないけどね?」

 

 南部の考え方は理解できるが、賛同はしたくない。

 

 ノバラは職業としての『殺し』を是とするが、別に快楽殺人者ではないのだ。

 

 ……その点、南部は、自己の興味で人を殺すという意味でノバラと大きく異なっている。

 

「まぁ、確かに、君とは相容れない考え方だろうがね。君は努めて兵器……いや、誰かのための銃であろうとしている」

「……そもそも(リコリス)たちはそういうものでしょう? 撃つべき場所、撃つべき相手。それは撃ち手次第。決められないなら一緒に考えてあげるし、何なら銃の撃ち方だって教えてあげる。そうして決めた結果に、一度引き金を引いたなら、一切の躊躇もなく、一片の慈悲もなく、ただただ殺し尽くす。リコリスは……私は、そうあるべきだと思っているわ」

「ふむ。興味深いな。私とは異なるアプローチではあるが、兵士として、戦士としての在り方として、それもまた正しい」

 

 得心が言った、という南部の様子に対して、ノバラは睨むようにして南部を見る。

 

「……じゃあ、あなたは、どうなの?」

「……私かい? 酷なことを聞くね? 同類の君なら、分かっているものと思っていたが」

 

 苦笑した様子の南部ではあったが、では、先達として、と前置きをした上で口を開いた。

 

「私は元々壊れている人間だ。倫理観というものがまるでない。よって、殺人を忌避しないし、何なら愛してさえいたと言ってもいいだろう」

 

 南部はコーヒーカップを傾けて、残りのコーヒーを飲み干した。

 コトリ、というカップを置く音が、やけに大きく部屋に響く。

 

「君が練習を好むのと同じでね? 上手く殺すためにはどうしたらいいか、そんなことばかりを考えていた。こうすれば、もっと苦しめて殺せる。あるいは、そうすれば楽に殺せる、とね。……しかし、そうしている内に分からなくなった。満たされなくなった。……当然だ。割れた器にいくら水を入れようとも零れ落ちるだけだ。壊れた私という器は決して満たされなかった。そうこうしている内に……少しの迷いの中で、腕と足を持っていかれてね?」

 

 ぽんぽん、と南部は己の右腕を叩いて見せる。

 

 見た目こそ、普通の腕に見えるが、その中身は金属と樹脂の塊だ。己の意思で自在に動かせる、というのは、今現在でも最先端の技術であろう。

 

「当時は今ほど進んだ義肢は開発されていなかったからね。不便なものだったよ。その不便をどうにかするために、研究にのめり込んだ。……いつか、あの懐かしい、血と硝煙の漂う戦場に還るために、と。欠けたものを取り戻すために、必死だった」

 

 どこか恥ずかしそうに語る南部の言葉は、逆に当時の彼の必死さを物語るものだった。

 

「……そして。不自由しない程度の義肢ができた頃には、私は不思議と満たされていた。生憎と、ぶっ壊れた倫理観はそのままだったがね。戦場に舞い戻ろうと思う気は失せていた。だが、まぁ、何だ……私のこの壊れた倫理観というのは、研究者としては、ある意味優れていてね? 誰しもが、禁忌と思うことでも平然とできてしまうんだ。だからこそ、思いついてしまった。いっそ、あらゆる肉体を機械に置換してはどうかと。もちろん、口で言うほど、簡単なものではないのだが。今の私を見れば分かるとおり、腕と脚程度ならば、さほど難しくない程度には仕上げられているよ」

 

 南部はおどけたように両手を広げて見せるが、そこにはやはり不自然さはない。

 ……いや、あるとすれば、彼の見た目から推測される体重以上にソファが沈んでいることくらいか。

 

「君の兵士としての在り方は、誰かのための銃であること。考えもする。指南もする。しかし、命令には忠実で、対象は確実に抹殺する。だが、私の兵士、戦士としての在り方はこうだ。幾千幾万の戦場を駆け抜けても死なないこと。そのための肉体、精神、技術。全てを磨き上げ、欠けているなら付け足して、満ちていないなら押し込む。それがどれだけ歪であったとしても、最後まで立っていられること。それが最も重要だ」

 




イタリア語は翻訳ソフトに任せたよ
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