Roses fall fleetingly, violets bloom vividly   作:MIA

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16 Somehow, I feel something is off.

 ノバラは当初の目的を忘れて、うっかりクルミを色々な意味で『おっ持ち帰りぃ☆』してしまうところだった。

 

 ……何という、魔性の女だ。クルミ、恐ろしい子!

 

「あ、そうだ。千束を拉致るんだった。うっかりクルミを拉致しそうになってたよ」

 

 しっぱいしっぱいと笑みを浮かべるノバラにクルミは顔を引きつらせ、千束はその内容に慄く。

 

「おい」

「さらっと不穏なことを言ったな、貴様!」

 

 二人の言葉を意図的に無視して、ノバラはパチンと指を鳴らした。

 

「すみれ! やぁあっておしまいっ!」

「あらほらさっさ~☆」

 

 すみれは千束の正面から腰を持つと、自分の肩に担ぎ上げる。俗にいうお米さまだっこというやつである。

 

「おわっ、って、力つよっ! 持ち方が雑っ! お米さまだっこかよ! 捕虜の待遇の改善を要求するっ!」

「千束は別に捕虜じゃないからジュネーブ条約は適用されないんだよ。合法!」

 

 わーわーと若干楽しそうに叫ぶに千束にノバラは両手を広げて、セーフのポーズ。

 

「刑法に引っかかるわ!」

「リコリスに戸籍はありませ~ん。よって、合法!」

 

 再びセーフのポーズを取るノバラ。

 

「んなわけあるか!」

 

 刑法第一条第一項にはこうある。

 

『この法律は、日本国内で罪を犯したすべての者に適用する。』

 

 つまりリコリスにも療法の意味で刑法は適用され得るのである!

 

 さて、ついでなので『略取、誘拐及び人身売買の罪』を確認してみると、同法第224条では『未成年者を略取し、又は誘拐した者は、三月以上七年以下の懲役に処する。』。

 

 誕生日を過ぎている千束は実際のところ一八歳、成人なのである。この条文は適用できない!

 

 同法第二二五条では『営利、わいせつ、結婚又は生命若しくは身体に対する加害の目的で、人を略取し、又は誘拐した者は、一年以上十年以下の懲役に処する。』。ほら、どれにも該当しない!

 

 つまりは合法なのである!

 

(同法第二二〇条『不法に人を逮捕し、又は監禁した者は、三月以上七年以下の懲役に処する。』、同法第二〇八条『暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、二年以下の懲役若しくは三十万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。』、逮捕及び監禁、暴行? 知らない子ですね)

 

「寂しがりの妹は切なくてお姉ちゃんを想うとすぐに拉致しちゃうの☆」

 

 てへ、とノバラは照れたように笑みを浮かべる。内容が物騒なので、まったく可愛く見えない。

 

「物騒すぎるわっ!」

「もう、千束は我がままばっかり言って……」

 

 困った子だね~と笑うノバラに、千束はムキになった様子で拳を振るが、千束の腰をがっちりと掴んだままのすみれがびくともしない。千束は意外そうにすみれを見るが、すみれは「?」と無邪気な笑顔を浮かべている。

 

(この子……もしかして、ヤバいんじゃない?)

 

 まるで、巨岩を相手にしたような感覚に、千束は内心で冷や汗を流す。

 

 妹の相方がこの子というのは、頼もしくもあり、恐ろしくもある。

 

(……ちょっと、見定めないといけないかもねぇ)

 

「千束、ノバラさん、漫才はいいですから、早く行きましょう」

 

 呆れた様子のたきながいつの間にか自分と千束の分の鞄を持って待機していた。

 

「「漫才ちゃうわ」」

 

 同時に言って千束とノバラはお互いににひひと笑みを浮かべている。

 

 たきなはその様子を見て、千束がノバラを『妹』と呼んで可愛がり、ノバラが千束を『姉』と呼んで甘えている二人の関係が姉妹以上に姉妹らしく、嫉妬すらできないほどに自然に感じた。

 

(…………妹がいれば、こんな感じなのかもしれないですね)

 

 甘えたがりで可愛らしく、でも我がままで子憎たらしい。怒った顔も愛らしく、笑顔を見れば許してしまう。

 同僚はいても肉親のいないリコリスにとって、疑似的であったとしても、姉妹同然の関係というは精神的な癒しとなるものだろう。千束とノバラの生き生きとした様子に、たきなはそんなことを考えていた。

 

「楓司令~、車お願~い」

 

 カウンターではミズキが顔を真っ赤にしたまま撃沈していた。

 

「そうだった。今日は運転手だったな。……今日、ミズキに用があったのは、これを渡すためだったんだ。ミズキがあまりに可愛い顔をするから忘れていたよ」

 

 楓はミズキの手にUSBメモリを握りしめさせたあと、その手を両手で包んだ。

 

「幸い、子どもたちの研修が終われば、あとはフリーだからな……そうだな、アクアリウムバーにでも行こう」

「分かったわよぅ……付き合えばいいんでしょう?」

「忘れてくれるなよ、ミズキ。…………忘れたらおしおき」

「はいはい! いてら~!」

 

 顔を赤くしたミズキが追い出すようにしっしっと手を振っている。

 

 どことなく満更でもない、という顔をしている様子が何とも、からかわれた子どものようで、たきなは少しだけおかしくなった。

 

 くすり、と笑みを浮かべたたきなに、ミズキはバツの悪そうな顔をしている。

 

「何だ、楓、もう行くのか?」

 

 奥から少し慌てたようにミカが現れる。

 どうやら、楽しそうにしていたので、気を遣っていたらしい。

 頃合いを見て、コーヒーを出す予定だったのだろう。挽きたてのコーヒーの香りがわずかにしている。

 

「先生……ミカさん。邪魔をしました。ミズキに渡したものは後で、ミカさんも確認しておいてください。……次はゆっくりとコーヒーをいただきますよ」

 

 楓は右手を胸に添えて一礼するという気障な仕草をする。

 

(……『先生』? どうしてこの人が、店長をそんな風に呼ぶんだろう。ミズキは『おっさん』……参考にならない。楠木司令とクルミは『ミカ』、千束とフキさん、ノバラさんも『先生』……。共通点は……『リコリス』?いや、でもそれだと、私が仲間外れに……そして、この人は研究者……そんなことあり得るでしょうか……)

 

 考え込んでいるたきなの袖をクイクイとノバラが不思議そうに引っ張っていた。

 

「たきな~、行くよ~?」

 

 袖を持っていたノバラの手を取ると、たきなは軽く握りしめて柔らかく笑みを浮かべる。お返し、とばかりにノバラがにぱっと微笑む。

 

「すみません、ノバラさん」

 

 ノバラの手のひらは、たきなが慣れ親しんだリコリスのもの。よく鍛えられ、ちょっとだけ硬くなっている。ノバラの努力の証が刻まれている、そう考えれば、この小さい手がとても尊く思えて、違和感など覚えなかった。

 




ミズキと楓は同期という設定です。
今のところ、同い年を想定しているので、アラサーです。

アラサー、ロリ巨乳、白衣、不健康・・・属性盛りすぎ?
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