Roses fall fleetingly, violets bloom vividly 作:MIA
「アンタの好みに文句は言わないけどさぁ……フキじゃあるまいし、もっと、こう、何ていうか……年相応の相手がいるんじゃないの? いや、文句言っている訳じゃないし、相手の方を悪く言う訳じゃないけど……」
頭を抱えながら、微妙な顔でこちらを見てぶちぶち文句を言ってくる千束に、むしろノバラの方が頭を抱えたくなった。
(……そう言うのじゃないのにぃ……! でも、
何て言えば納得してくれるだろうか、とノバラは頭を捻る。
……そして、結論。
(うん! 無理!!)
面倒臭い状態になって絡んでくる千束に理論立てて説明したところで、とてもではないが、納得してくれるとは思えない。
「たきな、たきな~! 助けて~!
……故に千束が逆らえないであろう人物を召喚する。
「…………千束」
ゆらり、と千束の背後にいつの間にか忍び寄ったたきなが、千束の肩を叩き、そして、ぎゅっと握る。
「はひぃ!?」
思いのほか力強く握られ、千束は思わず、背筋をピンと伸ばしながら、変な返事をする。
「いつまでも、ノバラに絡んでないで、ちゃんと仕事をしてくださいね♡」
千束が振り返ってみたたきなは、とても素晴らしい笑顔であったが、あまりの迫力に千束は顔を青くして立ち上がった。
「は、は~い♡ ……後でじっくり聞くからね、ノバラ!」
「いってらっしゃーい♡ ……覚えてたらね?」
笑顔で千束を見送った後、ノバラは再びコーヒー豆を見て、にへ、とだらしない笑みを浮かべた。
◇◆◇
「たきなは興味ないの?
手の空いた千束はノバラに聞こえないように声を潜めながらたきなに声を掛けた。
「……興味がない訳ではないですが。少なくとも千束みたいに文句言ったり、無理に聞き出そうとまでは思いませんよ? ノバラが相談してくるなら別ですが……それに、ノバラは割とああいう顔しているときありますよ? 千束が見たことがないだけです」
今日のノバラの顔は確かに隙が多い感じではあるが、たきなはよく見ている表情ではある。
主に千束のことを話しているときのノバラがあんな感じだからだ。
考えているだけで幸せ、とでも言うのだろうか、にやけているのは珍しいかもしれないが、幸せそうにふわりと微笑むノバラはそれはもうたきなにとっては可愛らしいものである。
「……マジで? あの子、基本、仏頂面なのに……」
ノバラは表面的には表情を作っていることが多いが、内心が表に出てくるような表情は少ない。たきなの言葉を疑う訳ではないが、千束には信じ難い話ではあった。
「……千束はやっぱり鈍ちんですね……」
「え? 何か言った?」
「いいえ、何でもありません」
くすり、と笑ってたきなは笑顔で誤魔化した。
◇◆◇
さて、ノバラのコイバナで密かに盛り上がっている店内ではあるが、誰にも見えないところで多大なショックを受けている者たちがいた。
「……あばばば!?」
「ぐぬぬぬぬぬっ!」
……すみれとミズキである。
「ノバラちゃんに! ノバラちゃんにカレシが!?」
「あんのちびっ子! 私を差し置いて金持ちっぽい大人の男性と!?」
ノバラがシフトに入っていないため、厨房で作業をしていたすみれとミズキ。
すみれはショックのあまり顔を青くしているが、ミズキは憤怒で顔を赤くしていた。
「ねぇねぇ!? ミズキさん、すみれはどうすればいいの!? ノバラちゃんを男に盗られるなんてヤだよ!?」
あわあわと両手をバタつかせ、うるうるとした目ですみれがミズキを見る。
「……アンタ、ホントにノバラ大好きっ子ねぇ。ちゃんと捕まえておきなさいよ」
やれやれ、とミズキがため息交じりにそう答えると、すみれはぶんぶんと首を振る。
「だってだって!? ノバラちゃんにすみれがダイスキって言っても、ハイハイって流されるんだよ!? どうやって捕まえればいいの!?」
必死過ぎるすみれの様子に、その苦労が偲ばれる。
「お、おぅ……それはまたストレートな……ノバラはノバラで完全にスルーとか可哀そ過ぎるでしょうに……」
すみれがノバラに対して、肉欲的な意味で好意を持っているのは、喫茶リコリコ店員の中では周知のことである。
……それを理解できていないのは、ノバラだけだ。
(すみれはすみれで難儀でしょうけど。あの子もあの子で大変そうねぇ……)
ノバラとの付き合いが比較的長いミズキからすれば、ノバラが千束に想いを寄せていたのもお見通しである。まぁ、こちらは、ずっと一緒にいたい的なピュアなものではあるが。
だが、見方を変えれば、ぽっと出のたきなに千束を盗られたとも言える。
(千束もたきなも、あれで隠せてると思ってる辺り笑えるわ! もうちょい黙っとこ……どんな風にカミングアウトするか見物だわ)
ミカとクルミは気づいていない様子ではあるが、恋に飢えている女、ミズキは目敏い。
二人の雰囲気が甘々なのをすぐに見抜いた。
しかし、センシティブな話題でもあるので、そっとしているのである。一応、大人なので。
ミズキとしては、もうちょっとノバラに反応があるかと思っていたのだが、店内で見る限り、二人を見て嬉しそうにしている。
(……ま、あの子は大人だからねぇ。自分の気持ちが理解できていない面もあったんでしょうけど、受け容れられることはない、って悟ってたのもあるんでしょう)
二人の関係はどこまでいっても家族でそれ以上には決してなれる訳がない。
傍から見ているミズキでさえ、そう感じていたのだから、当のノバラはもっとそれを感じていたことだろう。
これは現状、ノバラとすみれについても言えることだ。
ノバラはすみれを大事に思ってはいるが、やはりそれは家族に対するもので、このままではそれ以上になることはないだろう。
姉と妹。母と娘。
その認識を壊すのは相当困難なように思える。
「……もうそれで通じないなら、押し倒すしかないんじゃないの?」
ミズキにはすみれの好意をノバラに分からせるにはそれしかないように思えた。
パワー的にはさすがのノバラも敵わないであろうし、別に嫌っている相手ではないから、行けるところまで行けば……あるいは、と考える。
「押し倒す!? む、無理無理!? すみれじゃそこから先、分からないもん!」
ひゃー、などと叫び声を上げながら、すみれが顔を赤くしている。
(……分かってたらやるの……?)
恋に暴走している女の子は怖いなぁ、とミズキは考えながら、女難の相のありそうな姪っ子の将来を心配した。
ミズキさんがノバラちゃんを姪っ子扱いしてるのは、
自分の妹や娘というにはちょっと遠く
妹分の千束の娘扱い
親友の楓の娘扱い
で関係的には姪っ子くらいってことなんで念のため。