Roses fall fleetingly, violets bloom vividly 作:MIA
ちらちらノバラちゃんに片想い中らしき男子を書いていたので。
次回はちゃんと本編書きます。
「うむむ……」
ノバラは腕を組みながら、頭を捻っていた。
『ノバラちゃんスペシャル』がぷちバズりしたせいで客足は伸びているものの、ほとんどが一見さん。二回目、三回目とリピートしてくれる人はいるものの、常連さんと言えるほどに通い詰めてくれる人はいない。
(……何か負けてる気がする!)
別に勝負をしている訳ではないのだが、常連さんたちからの千束への人気振りを考えると、もう少し自分も何かしてみたい、と比較的どうでも良いことを考えていた。
「お? そうだ!」
◇◆◇
「いらっしゃいませー」
入店してきた大学生の男性を空いているカウンターにノバラは案内した。
既に頼むものが決まっていたのか、座ると同時、『ノバラちゃんスペシャル』とコーヒーのセットの注文があった。
この人は見たことがあるな、と考えながら、ノバラは千束とすれ違い様に声を掛ける。
「……千束?」
「ん」
千束が指でOKサインを出す。
同じように、とてとてとノバラはたきなに近づいて声をかける。
「……たきな?」
「はい」
同じようにたきなが頷く。
姉二人の回答を得て、ノバラは厨房に戻りながら、にやりと笑みを浮かべた。
◇◆◇
……最初に喫茶リコリコを訪れたのは、軽い気持ちだった。
同じ大学の女子たちが話しているのを聞いて、たまたま興味を持った。
店のSNSを覗いてみれば、可愛い女の子が給仕している様子が映っていた。
(ふーん……雰囲気も良さそうだし……話題にも上がっているなら、話のタネにもなるかな?)
彼は積極的にモテたいとまでは考えていないものの、機会があれば女子とお近づきにはなりとは考えていた。合コンなどにも誘われるし、同じ講義を取っている女子と昼食を共にすることもある。
何かの話題になれば、程度の軽い気持ちであった。
……まぁ、上がっていた写真の『ノバラちゃんスペシャル』なるパフェをちょっと食べてみたいと思ったのもあるが。
毎週水曜日は午前の二コマしか講義を入れていない。平日日中ならさほど混んでもいないだろうと考え、その日を選んで、喫茶リコリコを訪れた。
「……いらっしゃいませ」
彼を出迎えたのは、眼鏡をかけた大人の女性だった。こちらが気後れしてしまうくらいの美人さんである。
平日日中だと言うのに、そこそこ人が入っているし、座敷の方では何やら、原稿を書いているらしき人もいる。
もっと洒落ているのか、と思っていたが、中々アットホームな雰囲気であった。
「んと、ノバラちゃんスペシャルとコーヒーで」
そう頼んで、スマホをいじりながら、待つことしばし。
コトリ、と静かにコーヒーが置かれる。
顔を上げれば、がたいの良い黒人男性が和服を着こんでいた。
「……どうぞ」
「……どうも」
(……和風喫茶に黒人男性が和服とか。凄いミスマッチ……)
字面だけ見れば、その通りなのだが、全体的な雰囲気として見れば、彼がここの主だと分かるくらいには馴染んでいる。
そんなことを考えながら、コーヒーを一口啜る。
(……ん。ちょっと苦めかな?)
砂糖を入れようか、と迷っているところに、小柄な人影がお盆にパフェを乗せて運んできた。
「お待たせいたしました。こちらノバラちゃんスペシャルです。食べ方に決まりはありませんので、お好きにお召し上がりください。ちなみに、私のおススメは、ちょっとだけ混ぜて食べるの! 良かったら試してみてね」
にこ、と微笑む少女は幼げだが、可愛らしい容姿をしていた。
(……小学生、いや中学生か……? 違うな、バイトしてるんだろうから、少なくとも高校生くらいかな? でも、こんな時間に? 訳アリ……いや、定時制とかかも?)
彼がそんなことを考えていると、少女はフフッ、と笑った。
「バイト代も貰ってますけど、実は授業の一環なんです。ここ、ウチの学校の提携店なんで、私以外にも何人か働いてるんですよ?」
「ああ、社会勉強的なヤツかな? 頑張ってね」
「はぁい。ありがとうございます。それ、私が作ったんです。美味しく食べてくださいね」
お盆を後ろ手に持って、少しだけ前かがみになるようにしながら、少女はウィンクしながら、微笑んだ。
ちょっと背伸びをしているような感じが何とも可愛らしかった。
「さて」
彼はさっそく、パフェに取り掛かる。混ぜたのがおススメ、とは言っていたものの、最初はやはり味の対比を楽しんでみたい、と粗さの違うずんだ、あんこ、つぶあん、それぞれと白玉一個ずつで味わって、コーヒーを飲む。
(あ、旨い。パフェもおいしいけど、このコーヒー。パフェと食べると、この苦みが丁度いいんだ)
彼のそんな様子に気づいたのか、黒人男性は、嬉しそうに笑みを浮かべていた。
彼は更に、少女の言葉通り、少し混ぜながら、食べ進めていく。混ぜてしまうとそれぞれの個性が無くなってしまうのでは、と懸念していたが、そんなこともなく、ずんだの香ばしさとあんこの甘さが上手く交じり合い確かに美味しい。
パクパクと食べ進めてしまうと、アッという間に無くなってしまった。
器を下げに来た少女にコーヒーをもう一杯頼む。
「パフェ、美味しかったよ」
そう答えると、少女は嬉しそうに笑った。
「良かった! そう言って貰えると、開発した甲斐があるよ。あ、コーヒーですよね? 少々、お待ちください」
(へぇ……あの子が開発したのか、それも授業の一環なのかな。……ん? っていうか、だとすると、あの子がノバラちゃん、ってことか?)
そんなことに気づきながら、ぱたぱたと仕事をしている彼女を何となく目で追った。厨房の奥の方までは見えないが、てきぱきと接客している様子は見ていて何とも気持ちが良い。
「どうぞ。今度は食後だろうからね。少しブレンドを変えておいたよ」
「あ、ありがとうございます」
(あ、苦みが弱くなって、その代わりに酸味と香りが引き立ってるなぁ)
美味しくパフェとコーヒーを頂いた彼は機嫌よく会計を済ませた。
お釣りを渡してくれたときに、にこり、と微笑んだ少女の笑顔がやけに脳裏に焼き付いていた。
◇◆◇
(また、来てしまった……)
話作りなら一回で足りるだろう、とも思ったが、何だか無性に『ノバラちゃんスペシャル』が食べたくなったのだから仕方ない。
……いや、正直に言おう。去り際の少女の笑顔が頭を離れなかったせいだ。
少しドキドキしながら、入口のドアを開けると、出迎えてくれたのは、ノバラちゃんであろう少女であった。
「いらっしゃいませー」
彼女に案内してもらい、前と同じカウンター席に座った。
直ぐにノバラちゃんスペシャルとコーヒーを頼むと、彼女は嬉しそうにしながら、厨房へ戻っていった。
そして、ちょっとした雑談などしながら食事を終え、会計を済ませようとする。
ピッタリの会計を払うとレシートと共に、何やらサービス券のようなもの添えられていた。
「あ、それ。次回、百円引きになる割引券です。是非、またいらしてくださいね?」
少女がちょっとだけ顔を赤くして、ちょっとだけ熱っぽい視線で彼を見つめた。
その笑顔にちょっとだけドキドキしながら店を出た後、レシートと割引券を財布にしまおうとして、割引券の裏に何か書いてあることに気づいた。
『二回目のご来店ありがとうございます♡ また来てくれると嬉しいです♡ ノバラ』
わざわざ割引券にこんな手書きをするなんて、もしかして自分に気があるのかも?
そう考えた彼は、また明日来ようと決意を新たにした。
◇◆◇
「うんうん。私も大分人の顔覚えられてきたんじゃない!?」
基本、ノバラは人の顔を覚えるのが苦手なので、喫茶リコリコに二回目に来た人を当てるというちょっとしたゲームをしながら、常連さんを確保するべく小細工をしていた。
人の顔を覚えるのは千束とたきなに答え合わせをしてもらい、正解であった人には、メッセージを添えた割引券を渡すというものだ。
……キャバ嬢の営業みたい、というミズキの感想は置いておくとして。
ちょっとあざといくらいの笑顔と手書きメッセージの特別感で常連さんを大量確保! というノバラの目論見は確かに当たり、着実に常連さんの数を増やしつつある。
「……自分の訓練もできて、お店の売り上げにも貢献できる……計画通り!!」
本人は満足そうに、えへ、と微笑んでいるが、見えないところで千束は頭を抱えていた。
(あんのバカ妹!? 爆弾ばら撒きやがって!? 私はどうなっても知らんぞ!?)
本人は自分に対する好意にも疎いので、そういうことをすると自分がどのように思われるのか全く考えておらず、そして、確かに売り上げに貢献している辺り実に性質が悪い。現時点では大きな問題が起きている訳でもないので、千束としてもあまり強くは言えない。
……だが。
(……毎日自分に好意があると勘違いしている野郎が入れ替わり立ち替わりやってきてんだよ! しかも、揃い揃って、自分から告白する度胸がないヤツばっかり!? どう収拾つけんの、コレ!?)
「……千束?」
あわわ、と頭を抱えている千束を見つけて、たきなが声を掛ける。
千束は少し涙目になりながら、たきなの肩を揺すった。
「……た、たきな……これ、ヤバイんじゃない?」
「……? 何故ですか? ノバラらしい実に効率的な方法だと思いますが……」
千束はその反応に、内心、えぇ……、と思わなくもないが、たきなも割と似たようなところがあるので、そこは飲み込む。
「そうかもだけど! だって、完全にノバラ目当ての野郎ばっかりじゃん!?」
「いえ、女性もいますが?」
「余計に性質悪いでしょぉぉぉ!?」
……全方位無差別とか、始末に負えない。
千束は床に崩れ落ちた。
(……私の教育が悪かったのかなぁ?)
そう考えながら、過去にノバラに言い含めたことを思い出す。
『ノバラ、アンタはもっと愛想良くしなさい。あのとき、私に強がって見せたみたいに笑ってみな? そうすりゃ、きっとイチコロだよ? その上でちょっと甘えるんだ。上目遣いでな!』
(……………………あれ? おかしいな? そういうつもりじゃなかったけど、割とこれまんまじゃね?)
妹が小悪魔チックになった原因を思い出して、千束はちょっと顔を青くした。
「……大丈夫ですよ、千束」
打ちひしがれている千束の肩に、ぽむ、とたきなが手を置いて微笑んだ。
「……何でそう言えるの……?」
うる、と千束は目を潤ませながらたきなを見る。
「いえ、ノバラは仙台に戻りますし……」
たきなは千束の涙目な様子を、可愛いな、と思いながらも、その答えは至極冷静であった。
「ああ、それは確かに……え、でも、残った爆弾はどうすんの?」
「……さぁ? 自然消滅するんじゃないですか? どうせ目当てがいないんですし……」
「……ひ、ひでぇ」
ノバラがお遊び兼訓練を止めない限り、今後も大量発生するであろう勘違いさんたちを思い、千束は心の中で十字を切った。
(……少年少女よ、強く生きてくれ!)