Roses fall fleetingly, violets bloom vividly 作:MIA
普段であれば、まだ布団に入っている時間ではない。
だが、明日の朝は少々早い。
食事を終えたノバラたちは早々に床に着くことにした。
東京で過ごすのは最後の夜。
ノバラとすみれは同じ布団で横になっている。
(……たきなは千束といちゃいちゃしてるかな?)
千束とたきなはたきなの部屋で同じように同じベッドの中だろう。
本当はイロイロしたいところではあるだろうが、さすがに今日は控え目なハズだ。明日の作戦に差し障る。
「の、ノバラちゃん……」
ぽっ、と顔を赤くしたすみれがノバラの方に体を向けている。
「なぁに、すみれ?」
「……もっとくっついてもいい?」
「いつもそんな遠慮しないじゃない? いいわよ、別に」
「えへへぇ……」
むぎゅ、とすみれがノバラに身を寄せ、その豊満な胸の感触がノバラの腕に伝わる。
「………………明日ね」
ぽつり、と呟いたノバラの言葉に、すみれは、ノバラの腕をぎゅっと抱きしめる。
「………………うん。……いいの? ノバラちゃん?」
すみれはノバラが必要であれば、あれだけ仲の良い千束やたきなであっても必要であれば殺す、という尋常ではない覚悟で作戦に臨むことが分かっている。
……そして、その覚悟をさせているのが自分だということも。
おバカなすみれには、理解できないことも多いが、ノバラ曰く、最適解は一つではない、ということ。
だが、おそらく、ノバラは悲しい決断をするような気がしていた。
「……さて?
にぃ、とノバラは笑みを浮かべる。
すみれが何となくではあれ、この作戦がどういった意図で行われているか、理解しているとノバラは思っている。
テロリストの殲滅。
リリベルの撃退。
……そして、それに留まらない何か。
いずれも様々な選択肢があるが、大筋は決まっている。
楓の整えた舞台通りに進めるか。
あるいは、それをノバラがぶち壊すか。
又はそれらすら飲み込み千束とたきなが舞台を丸ごと奪い去るか。
そのどれであってもノバラとしては構いやしないのだ。
「……やっぱり、ノバラちゃんはズルいよね」
ノバラはすみれには細かいことを教えてくれず、更には楓の作戦を聞いた振りをして自分の作戦を立てている。
「皆が素直過ぎるのよ。ハッピーエンドもバッドエンドも私は自分で選ぶ。他人の手になんて委ねないわ。後悔……はするかもしれないけど、自分で選んだものなら納得はできる」
楓であれば、しっかりと具体的に目標を定めて、そこに至る筋道を立てる。
しかし、はっきり言ってしまえば、ノバラにはそこまで確固たる目標がある訳ではない。
当初、すみれの体調回復という目的はあれど、すみれの体調回復という点であれば、ノバラの思考の内では、それ以上悪化しないという意味では、すみれを殺すという考えも、当然にあった。結果、今はそれを選んでいない、ということに過ぎない。
……元々、ノバラは自分が生きていること、それ自体に対しての興味は薄い。目標らしい目標もなく、
しかし、守る、と言っても幅は広い。敵対者から守るのか、それとも尊厳を守るのか、あるいは痛みから守るのか。
そして、それは主観的なものか、客観的なものか。
誰が何をどうやって誰の何を守るのか。
組み替えれば、無限に答えはある。
その中の最適解さえ、その視点によって様々だ。
故に、ノバラにとっての最適解は複数存在しており、彼女にとってみれば、どれであったとしても構わない。
「千束を殺して、たきなを犯してあなたを救っても良い。千束を生かして、たきなをバラして、あなたを見捨てて逃げることだってある。周りがどんなに最低な結末だと思っても、自分自身が信じられるなら、どんな結末だってハッピーエンドだって言い張るわよ」
大切な何かを犠牲にしたとしても、それを是として決めたのは自分自身。
あのとき、こうすれば、というのは、どんな決断をしても付きまとうものではあるが、自分自身がこれで良かったと信じ、信じ続けることができるならば、傍目にはどれだけバッドエンドに見えていようが、自分にとってはハッピーエンドなのだ。
「……狡賢く、強かに。そうじゃなければ、私は何も守れない。誰も守れない。何も救えない。……ヒーローじゃないからね。どちらかと言えば、
「……うん。すみれも付き合うよ……最後まで」
ノバラの言葉にすみれは、ノバラの肩の辺りに顔を押し付ける。
……泣き出してしまいたい気持ちもある。
だが、それではノバラの決意に水を差す。
だから、すみれは涙を流さない代わりに、きつくノバラに抱き着くのだ。
「……すみれ」
ノバラの声にすみれは押し付けた顔を離して、ノバラの顔を覗き込む。
「なぁに?」
ノバラが体ごとすみれの方を向いたので、すみれは、ドキリ、としながらも、ノバラの顔をじっと見る。
「……ノバラちゃん?」
すみれがそう声を掛ければ、ノバラもすみれの顔を見つめ返して、柔らかく微笑む。
(……ああ、ノバラちゃんの笑顔だ)
すみれは、ノバラのその表情に少しだけ顔をうっとりさせて、自らも微笑もうとしたとき。
……急にノバラの顔を近づいて。
……ちゅ、と唇に柔らかいものが触れた。
「の、ノバラちゃん!?」
「どうしたの、そんなに慌てて? これくらいはこれまでだってしたことあるでしょうに……」
ノバラは何でもないことのように振舞っているが、すみれはそれどころではなかった。
……確かに、ノバラとすみれはキスをしたことはある。
今よりももっと子どもだったすみれは、無邪気にノバラにキスをせがんでは、仕方ないなぁ、とばかりにノバラが応えてくれていた。
愛情を確認するためのおねだり。
嫌がられず、それをしてもらえていたからこそ、すみれはノバラに安心して甘えることができていた。
そして、キスの意味がすみれの中で変わってからは、おねだりしたことがない。
まして、ノバラの方から自発的に、というのはほとんどないことだった。
「の、ノバラちゃん……すみれは……すみれはノバラちゃんのことが大好きなんだよ……?」
「? 知ってるわよ? 私もすみれのことは愛しているわ」
分かっていないのか、意図的なのか、ノバラの言葉ですみれは肩透かしを食らった気分だった。
ミズキにも相談していたとおり、軽く流されてしまいそうである。
「……すみれは、もう、子どもじゃないんだよ? キスの意味だってちゃんと分かってる。なのに、どうして……?」
すみれが少し真面目な顔でそう問い詰めると、ノバラは少しバツが悪そうな顔をしながら、少し考えて答える。
「…………最後になるかもしれないじゃない?」
ぽつり、と答えたその言葉にすみれは、思わず息を飲んだ。
「そんなこと!? そんなこと、言わないで……」
「可能性の話よ。任務を熟すなら、何時だってその可能性はある。今回のは特に、だけどね。そのときになって後悔するよりだったら、できることはやっておかないとね?」
「……ノバラちゃんは、すみれとキスしなかったら後悔してたの?」
「……どうかな? やり残したこと、みたいには思うかもね」
「じゃ、じゃあ、すみれもしていい?」
「別にいいわよ? ……ん?」
あっけらかんとノバラが答えて、目を瞑って、唇を差し出すような格好をとった。
「……もっと……大人のヤツがいい……」
もじもじと顔を赤くしながら、すみれがそう言った。