Roses fall fleetingly, violets bloom vividly   作:MIA

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174 pretty please with a cherry on top

 普段であれば、まだ布団に入っている時間ではない。

 

 だが、明日の朝は少々早い。

 

 食事を終えたノバラたちは早々に床に着くことにした。

 

 東京で過ごすのは最後の夜。

 

 ノバラとすみれは同じ布団で横になっている。

 

(……たきなは千束といちゃいちゃしてるかな?)

 

 千束とたきなはたきなの部屋で同じように同じベッドの中だろう。

 

 本当はイロイロしたいところではあるだろうが、さすがに今日は控え目なハズだ。明日の作戦に差し障る。

 

「の、ノバラちゃん……」

 

 ぽっ、と顔を赤くしたすみれがノバラの方に体を向けている。

 

「なぁに、すみれ?」

「……もっとくっついてもいい?」

「いつもそんな遠慮しないじゃない? いいわよ、別に」

「えへへぇ……」

 

 むぎゅ、とすみれがノバラに身を寄せ、その豊満な胸の感触がノバラの腕に伝わる。

 

「………………明日ね」

 

 ぽつり、と呟いたノバラの言葉に、すみれは、ノバラの腕をぎゅっと抱きしめる。

 

「………………うん。……いいの? ノバラちゃん?」

 

 すみれはノバラが必要であれば、あれだけ仲の良い千束やたきなであっても必要であれば殺す、という尋常ではない覚悟で作戦に臨むことが分かっている。

 

 ……そして、その覚悟をさせているのが自分だということも。

 

 おバカなすみれには、理解できないことも多いが、ノバラ曰く、最適解は一つではない、ということ。

 だが、おそらく、ノバラは悲しい決断をするような気がしていた。

 

「……さて? ()()()()()かしら?」

 

 にぃ、とノバラは笑みを浮かべる。

 

 すみれが何となくではあれ、この作戦がどういった意図で行われているか、理解しているとノバラは思っている。

 

 テロリストの殲滅。

 

 リリベルの撃退。

 

 ……そして、それに留まらない何か。

 

 いずれも様々な選択肢があるが、大筋は決まっている。

 

 楓の整えた舞台通りに進めるか。

 あるいは、それをノバラがぶち壊すか。

 又はそれらすら飲み込み千束とたきなが舞台を丸ごと奪い去るか。

 

 そのどれであってもノバラとしては構いやしないのだ。

 

「……やっぱり、ノバラちゃんはズルいよね」

 

 ノバラはすみれには細かいことを教えてくれず、更には楓の作戦を聞いた振りをして自分の作戦を立てている。

 

「皆が素直過ぎるのよ。ハッピーエンドもバッドエンドも私は自分で選ぶ。他人の手になんて委ねないわ。後悔……はするかもしれないけど、自分で選んだものなら納得はできる」

 

 楓であれば、しっかりと具体的に目標を定めて、そこに至る筋道を立てる。

 

 しかし、はっきり言ってしまえば、ノバラにはそこまで確固たる目標がある訳ではない。

 

 当初、すみれの体調回復という目的はあれど、すみれの体調回復という点であれば、ノバラの思考の内では、それ以上悪化しないという意味では、すみれを殺すという考えも、当然にあった。結果、今はそれを選んでいない、ということに過ぎない。

 

 ……元々、ノバラは自分が生きていること、それ自体に対しての興味は薄い。目標らしい目標もなく、()()()()()()()()()を探して、それを守るようにしながら生きてきた。かつはそれが千束であったり、フキであったりし訳だが、今はすみれ()()()()()()()()()()

 

 しかし、守る、と言っても幅は広い。敵対者から守るのか、それとも尊厳を守るのか、あるいは痛みから守るのか。

 そして、それは主観的なものか、客観的なものか。

 

 誰が何をどうやって誰の何を守るのか。

 

 組み替えれば、無限に答えはある。

 

 その中の最適解さえ、その視点によって様々だ。

 

 故に、ノバラにとっての最適解は複数存在しており、彼女にとってみれば、どれであったとしても構わない。

 

「千束を殺して、たきなを犯してあなたを救っても良い。千束を生かして、たきなをバラして、あなたを見捨てて逃げることだってある。周りがどんなに最低な結末だと思っても、自分自身が信じられるなら、どんな結末だってハッピーエンドだって言い張るわよ」

 

 大切な何かを犠牲にしたとしても、それを是として決めたのは自分自身。

 

 あのとき、こうすれば、というのは、どんな決断をしても付きまとうものではあるが、自分自身がこれで良かったと信じ、信じ続けることができるならば、傍目にはどれだけバッドエンドに見えていようが、自分にとってはハッピーエンドなのだ。

 

「……狡賢く、強かに。そうじゃなければ、私は何も守れない。誰も守れない。何も救えない。……ヒーローじゃないからね。どちらかと言えば、悪役(heel)だし。悪役なら悪役らしくやるよ」

「……うん。すみれも付き合うよ……最後まで」

 

 ノバラの言葉にすみれは、ノバラの肩の辺りに顔を押し付ける。

 

 ……泣き出してしまいたい気持ちもある。

 

 だが、それではノバラの決意に水を差す。

 

 だから、すみれは涙を流さない代わりに、きつくノバラに抱き着くのだ。

 

「……すみれ」

 

 ノバラの声にすみれは押し付けた顔を離して、ノバラの顔を覗き込む。

 

「なぁに?」

 

 ノバラが体ごとすみれの方を向いたので、すみれは、ドキリ、としながらも、ノバラの顔をじっと見る。

 

「……ノバラちゃん?」

 

 すみれがそう声を掛ければ、ノバラもすみれの顔を見つめ返して、柔らかく微笑む。

 

(……ああ、ノバラちゃんの笑顔だ)

 

 すみれは、ノバラのその表情に少しだけ顔をうっとりさせて、自らも微笑もうとしたとき。

 

 ……急にノバラの顔を近づいて。

 

 ……ちゅ、と唇に柔らかいものが触れた。

 

「の、ノバラちゃん!?」

「どうしたの、そんなに慌てて? これくらいはこれまでだってしたことあるでしょうに……」

 

 ノバラは何でもないことのように振舞っているが、すみれはそれどころではなかった。

 

 ……確かに、ノバラとすみれはキスをしたことはある。

 

 今よりももっと子どもだったすみれは、無邪気にノバラにキスをせがんでは、仕方ないなぁ、とばかりにノバラが応えてくれていた。

 

 愛情を確認するためのおねだり。

 

 嫌がられず、それをしてもらえていたからこそ、すみれはノバラに安心して甘えることができていた。

 

 そして、キスの意味がすみれの中で変わってからは、おねだりしたことがない。

 

 まして、ノバラの方から自発的に、というのはほとんどないことだった。

 

「の、ノバラちゃん……すみれは……すみれはノバラちゃんのことが大好きなんだよ……?」

「? 知ってるわよ? 私もすみれのことは愛しているわ」

 

 分かっていないのか、意図的なのか、ノバラの言葉ですみれは肩透かしを食らった気分だった。

 ミズキにも相談していたとおり、軽く流されてしまいそうである。

 

「……すみれは、もう、子どもじゃないんだよ? キスの意味だってちゃんと分かってる。なのに、どうして……?」

 

 すみれが少し真面目な顔でそう問い詰めると、ノバラは少しバツが悪そうな顔をしながら、少し考えて答える。

 

「…………最後になるかもしれないじゃない?」

 

 ぽつり、と答えたその言葉にすみれは、思わず息を飲んだ。

 

「そんなこと!? そんなこと、言わないで……」

「可能性の話よ。任務を熟すなら、何時だってその可能性はある。今回のは特に、だけどね。そのときになって後悔するよりだったら、できることはやっておかないとね?」

「……ノバラちゃんは、すみれとキスしなかったら後悔してたの?」

「……どうかな? やり残したこと、みたいには思うかもね」

「じゃ、じゃあ、すみれもしていい?」

「別にいいわよ? ……ん?」

 

 あっけらかんとノバラが答えて、目を瞑って、唇を差し出すような格好をとった。

 

「……もっと……大人のヤツがいい……」

 

 もじもじと顔を赤くしながら、すみれがそう言った。

 

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