Roses fall fleetingly, violets bloom vividly   作:MIA

179 / 297
175 Deep kiss

「……もっと……大人のヤツがいい……」

 

 そのおねだりはすみれからすれば一世一代の大博打であった。

 

 ……分の悪い賭けである。

 

 ノバラはノーマルを公言しているし、性的に見られることを避けているような節があったからだ。

 

 一方で、千束たちが言うように、押せば何だかんだ言いながらも受け入れてくれる、というのも、すみれの心の中には確かにあったが故のおねだりである。

 

 ……だが、すみれの期待は別の意味で裏切られる。

 

「だから、いいってば」

 

 少しは何か言われるだろうと思っていたのに、ノバラはあっさりと快諾した。

 

 すみれは、思わず、ぽかん、と口を開ける。

 

「……え!? え!? 何でそんなあっさり!?」

 

 すみれが慌てて、そう問い詰めるものの、ノバラは、はてな顔だった。

 

「……? 別に減るようなもんじゃないでしょ?」

 

 ノバラの答えは、実にノバラらしいものではあるが、すみれは、顔を赤くしながら、更に確認する。

 

「そうかもしれないけど!? い、イヤじゃないの……?」

「……嫌だったら、そもそも布団に一緒に入れないでしょ?」

 

 それは確かにそうだろうけど、とすみれも一瞬納得しかけるが、いやいや、と首を振る。

 もしや、ノバラは何をされるか、分かっていないのだろうか、とすみれは考え、すぅ、と大きく息を吸ってから、言葉を発した。

 

「す、すみれは! ノバラちゃんの口の中に自分の舌を入れて、ノバラちゃんの口の中をぐっちょぐちょに犯して、ノバラちゃんの舌にでろんでろんに絡ませて、ノバラちゃんの唾液を味わいたいって思ってるんだよ!?」

 

 その言葉に、ノバラはけらけらと笑い声を上げる。

 

「ぶっちゃけたわねぇ……その言葉に、うわぁ、とは思うけど、行為自体は別に……」

 

 そこまで言っても、特にすること自体に抵抗感がなさそうなノバラに、すみれは、疑念を持った。

 

「ノバラちゃん、抵抗感薄すぎない!? はっ!? もしかして経験が!?」

 

 普段、触れるくらいのキスしかしないが、もしや、そういうキスも経験済みなのではないか、ということである。

 

 だが、ノバラはけろっとしたもので、くすくす、と笑いながら答える。

 

「そりゃあるわよ……相手はお察しだけどね。……そう言えば、本人覚えているのかしら? 人を練習相手にしたこと……」

 

 お察しの相手……つまりは千束である。

 

 そして、ノバラの話振りからすれば、一緒に暮らしていた時期のことだと予想される。

 

「……犯罪だぁ!?」

 

 小っちゃいころのノバラがディープキスをしていた、と考えると、絵面は犯罪チックではある。相手も幼児だった訳だが。

 

「子ども同士のお遊びよ」

 

 ノバラからすれば、懐かしい思い出でしかない。……千束が思い出せば黒歴史だが。

 

◇◆◇

 

「……うひゃー」

 

 洋画には濡れ場シーンがあることが多い。

 ねちっこいディープキスが描かれていることもある。

 

 千束は恥ずかしくなって赤い顔をして、目を手で覆って恥ずかしそうにしていた。まぁ、空いている指の隙間から見ていたのだが。

 

 一方のノバラは良く分からず、画面を見ていた。

 

「……えろれろ?」

 

 こんな感じか、とノバラは舌をうねうねさせて真似て見せた。

 

「……やめなさい!」

 

 艶めかしく動く舌に、千束が赤い顔をしながら、制止するも、ノバラはこてんと首を傾げた。

 

「これ、なに?」

「なにって、キスだよ! キ・ス!!」

「……千束にキスされるのは好き。でも、これいつものヤツじゃない」

「そりゃそうよ。恋人同士の、いわゆる大人のキスってヤツだし……」

 

 私らにはまだ早い、と言いながら、赤い顔をしている千束を放って、ノバラは舌の動きを真似し続けた。

 

「……れるれろ?」

「だから、やめなって! ……はしたない子は私の練習台にしちゃうぞ?」

 

 千束としては、半ば冗談のつもりだったのだろうが。

 

「……いいよ?」

 

 そう答えたノバラが、ぺろ、と舌を出して、ピンク色の口腔が覗く。

 

「……ごくっ……い、一回くらいなら、練習! そう、練習だよね!?」

 

 そう宣言するように言った、千束が拙くノバラの唇に、自らの唇を重ね、れろ、と互いに口の中に舌を侵入させる。

 

「んっ……♡ ……あむ♡」

「……れる♡ ん……ちゅ♡」

 

 そうやって、夢中で互いを求めていると、すっ飛んできたフキに千束が思いっきり殴られたのだ。

 

◇◆◇

 

「……じゃあ、すみれとのキスも遊びなの……?」

 

 うるうる、と見つめてくるすみれにノバラは苦笑した。

 

「人聞き悪いわねぇ……お遊び、と言うよりは、おままごとの延長線上でしょう?」

「すみれは本気だもん!!」

 

 ぷく、とすみれが頬を膨らませる。

 

「ふふ……じゃあ、私を本気にさせてみて?」

 

 ノバラが、くすり、と笑ってそう言うと、すみれは口をぎゅっと結ぶ。

 

 ……覚悟を決めたようだ。

 

「……い、いくよ!?」

 

 そう宣言したすみれが、まずノバラの唇に、ぶちゅっ、と自らの唇を重ねると、その勢いと裏腹に、おずおずと舌をノバラの口の中に侵入させる。

 

 ちょん、とノバラの舌を確認すると、すみれは緩く舌を絡ませていく。

 

「んー♡ ……んむっ!? っっ!? んぁ!?」

 

 じれったい、と思ったのか、ぢゅる、とノバラがすみれの舌を絡めとり、吸い上げる。更には、すみれの口の中に侵入し、舌の裏側や歯の裏側まで舐めとられる。

 

 堪らず、すみれは顔を離した。

 

 ちゅぽ、という音と共に、唇が離れると、互いの唇に唾液が糸を引いている。

 

 ノバラが赤い舌で、ぺろり、と舐めるのに対して、すみれは、ずずっ、と吸い取るようにして唾液を拭った。

 

「……ナニコレ!? 何これぇ!?」

 

 すみれは困惑した。

 

 千束にどんな感じなのか聞いてはいたが、想像していたものとは全く違った。

 

 唇を重ねるのだけでもすごく幸せなのだから、もっと幸せになる感じなのだろうな、とふんわり考えていたのだが、幸せを感じるとかの次元ではなかった。

 

 ……暴力的なまでのノバラの味がダイレクトにすみれを染め上げた。

 

 本来、味覚的には味などほとんどないのだろうが、メープルシロップにはちみつを加え、砂糖を入れたような感じに感じるほどとことん甘かった。

 

 甘い、と感じると同時、かつてない快感が口の中に発生して全身を巡ると、下腹部が、かぁっ、と熱くなるのを感じていた。

 

「……? お望みのディープキスでしょうに……」

 

 自分からやりたがったクセに、変な子ねぇ、とノバラは呆れた顔をしているが、まったく動じていないその様子をすみれは信じられない顔で見た。

 

「何でノバラちゃんは平気なの!? こ、こんなに気持ち良いなんて聞いてないよ!?」

 

 はわわ、と顔を赤くしたすみれが、慌てたようにしながら、ノバラの体を揺する。

 

「そんなに良かったの? ……もう一度しようか?」

 

 揺さぶられながら、ノバラは、くすくす、と笑うと、自らの舌で唇を一周するように舐めて見せた。

 

「……モウチョットオチツイテカラオネガイシマス……」

 

 愛しい人のそんな仕草にすみれはドキドキしっ放しであった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。