Roses fall fleetingly, violets bloom vividly 作:MIA
「……もっと……大人のヤツがいい……」
そのおねだりはすみれからすれば一世一代の大博打であった。
……分の悪い賭けである。
ノバラはノーマルを公言しているし、性的に見られることを避けているような節があったからだ。
一方で、千束たちが言うように、押せば何だかんだ言いながらも受け入れてくれる、というのも、すみれの心の中には確かにあったが故のおねだりである。
……だが、すみれの期待は別の意味で裏切られる。
「だから、いいってば」
少しは何か言われるだろうと思っていたのに、ノバラはあっさりと快諾した。
すみれは、思わず、ぽかん、と口を開ける。
「……え!? え!? 何でそんなあっさり!?」
すみれが慌てて、そう問い詰めるものの、ノバラは、はてな顔だった。
「……? 別に減るようなもんじゃないでしょ?」
ノバラの答えは、実にノバラらしいものではあるが、すみれは、顔を赤くしながら、更に確認する。
「そうかもしれないけど!? い、イヤじゃないの……?」
「……嫌だったら、そもそも布団に一緒に入れないでしょ?」
それは確かにそうだろうけど、とすみれも一瞬納得しかけるが、いやいや、と首を振る。
もしや、ノバラは何をされるか、分かっていないのだろうか、とすみれは考え、すぅ、と大きく息を吸ってから、言葉を発した。
「す、すみれは! ノバラちゃんの口の中に自分の舌を入れて、ノバラちゃんの口の中をぐっちょぐちょに犯して、ノバラちゃんの舌にでろんでろんに絡ませて、ノバラちゃんの唾液を味わいたいって思ってるんだよ!?」
その言葉に、ノバラはけらけらと笑い声を上げる。
「ぶっちゃけたわねぇ……その言葉に、うわぁ、とは思うけど、行為自体は別に……」
そこまで言っても、特にすること自体に抵抗感がなさそうなノバラに、すみれは、疑念を持った。
「ノバラちゃん、抵抗感薄すぎない!? はっ!? もしかして経験が!?」
普段、触れるくらいのキスしかしないが、もしや、そういうキスも経験済みなのではないか、ということである。
だが、ノバラはけろっとしたもので、くすくす、と笑いながら答える。
「そりゃあるわよ……相手はお察しだけどね。……そう言えば、本人覚えているのかしら? 人を練習相手にしたこと……」
お察しの相手……つまりは千束である。
そして、ノバラの話振りからすれば、一緒に暮らしていた時期のことだと予想される。
「……犯罪だぁ!?」
小っちゃいころのノバラがディープキスをしていた、と考えると、絵面は犯罪チックではある。相手も幼児だった訳だが。
「子ども同士のお遊びよ」
ノバラからすれば、懐かしい思い出でしかない。……千束が思い出せば黒歴史だが。
◇◆◇
「……うひゃー」
洋画には濡れ場シーンがあることが多い。
ねちっこいディープキスが描かれていることもある。
千束は恥ずかしくなって赤い顔をして、目を手で覆って恥ずかしそうにしていた。まぁ、空いている指の隙間から見ていたのだが。
一方のノバラは良く分からず、画面を見ていた。
「……えろれろ?」
こんな感じか、とノバラは舌をうねうねさせて真似て見せた。
「……やめなさい!」
艶めかしく動く舌に、千束が赤い顔をしながら、制止するも、ノバラはこてんと首を傾げた。
「これ、なに?」
「なにって、キスだよ! キ・ス!!」
「……千束にキスされるのは好き。でも、これいつものヤツじゃない」
「そりゃそうよ。恋人同士の、いわゆる大人のキスってヤツだし……」
私らにはまだ早い、と言いながら、赤い顔をしている千束を放って、ノバラは舌の動きを真似し続けた。
「……れるれろ?」
「だから、やめなって! ……はしたない子は私の練習台にしちゃうぞ?」
千束としては、半ば冗談のつもりだったのだろうが。
「……いいよ?」
そう答えたノバラが、ぺろ、と舌を出して、ピンク色の口腔が覗く。
「……ごくっ……い、一回くらいなら、練習! そう、練習だよね!?」
そう宣言するように言った、千束が拙くノバラの唇に、自らの唇を重ね、れろ、と互いに口の中に舌を侵入させる。
「んっ……♡ ……あむ♡」
「……れる♡ ん……ちゅ♡」
そうやって、夢中で互いを求めていると、すっ飛んできたフキに千束が思いっきり殴られたのだ。
◇◆◇
「……じゃあ、すみれとのキスも遊びなの……?」
うるうる、と見つめてくるすみれにノバラは苦笑した。
「人聞き悪いわねぇ……お遊び、と言うよりは、おままごとの延長線上でしょう?」
「すみれは本気だもん!!」
ぷく、とすみれが頬を膨らませる。
「ふふ……じゃあ、私を本気にさせてみて?」
ノバラが、くすり、と笑ってそう言うと、すみれは口をぎゅっと結ぶ。
……覚悟を決めたようだ。
「……い、いくよ!?」
そう宣言したすみれが、まずノバラの唇に、ぶちゅっ、と自らの唇を重ねると、その勢いと裏腹に、おずおずと舌をノバラの口の中に侵入させる。
ちょん、とノバラの舌を確認すると、すみれは緩く舌を絡ませていく。
「んー♡ ……んむっ!? っっ!? んぁ!?」
じれったい、と思ったのか、ぢゅる、とノバラがすみれの舌を絡めとり、吸い上げる。更には、すみれの口の中に侵入し、舌の裏側や歯の裏側まで舐めとられる。
堪らず、すみれは顔を離した。
ちゅぽ、という音と共に、唇が離れると、互いの唇に唾液が糸を引いている。
ノバラが赤い舌で、ぺろり、と舐めるのに対して、すみれは、ずずっ、と吸い取るようにして唾液を拭った。
「……ナニコレ!? 何これぇ!?」
すみれは困惑した。
千束にどんな感じなのか聞いてはいたが、想像していたものとは全く違った。
唇を重ねるのだけでもすごく幸せなのだから、もっと幸せになる感じなのだろうな、とふんわり考えていたのだが、幸せを感じるとかの次元ではなかった。
……暴力的なまでのノバラの味がダイレクトにすみれを染め上げた。
本来、味覚的には味などほとんどないのだろうが、メープルシロップにはちみつを加え、砂糖を入れたような感じに感じるほどとことん甘かった。
甘い、と感じると同時、かつてない快感が口の中に発生して全身を巡ると、下腹部が、かぁっ、と熱くなるのを感じていた。
「……? お望みのディープキスでしょうに……」
自分からやりたがったクセに、変な子ねぇ、とノバラは呆れた顔をしているが、まったく動じていないその様子をすみれは信じられない顔で見た。
「何でノバラちゃんは平気なの!? こ、こんなに気持ち良いなんて聞いてないよ!?」
はわわ、と顔を赤くしたすみれが、慌てたようにしながら、ノバラの体を揺する。
「そんなに良かったの? ……もう一度しようか?」
揺さぶられながら、ノバラは、くすくす、と笑うと、自らの舌で唇を一周するように舐めて見せた。
「……モウチョットオチツイテカラオネガイシマス……」
愛しい人のそんな仕草にすみれはドキドキしっ放しであった。