Roses fall fleetingly, violets bloom vividly   作:MIA

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176 Caution

(すみれはうまくやってるかなぁ……? 私とたきなも押せ、って言って、終いにはミズキが押し倒せって言ったらしいけど)

 

 千束はたきなの香りを感じながら、そんなことを考えていた。

 

 ごそ、と隣にいるたきなが千束に覆いかぶさるようにしてくる。

 

「……何を考えているんですか、千束?」

「ああ……すみれはちゃんとやってるかなぁ、って」

 

 そう言うと、たきなが、くす、と笑う。

 

「やっぱり千束はお姉ちゃん気質なんですね」

「だって、心配でしょ? ……こう言っちゃなんだけど、今日、踏み出せないなら、あの二人は進展ないよ? 押せ押せな分、せりの方が有利なくらい」

「それは同感です……でも、千束? 妹たちが可愛いのは分かりますけど、今は私たち二人きりなんですよ?」

 

 少し拗ねたように、たきなが口を尖らせる。

 

「ごめんごめん! ……ん♡」

「……ん♡」

 

 謝りながら、千束がたきなに唇を寄せると、たきなもそれに応えて唇を重ねた。

 

「……キスすれば誤魔化せるとか思ってません?」

 

 しっかりキスをしておきながら、たきなはちょっと不満そうな顔をした。

 

「そんなこと思ってないけど……決戦前夜となると、私としても思うところがある訳ですよ、たきなさん!」

「それでは、その思うところをお聞きしましょうか、千束さん?」

 

 そんな言葉を交わしながら、互いに、くすり、と笑みを浮かべる。

 

「……真面目な話、今回の作戦、私たちが思っている以上に根が深いと思う」

 

 楓の考え、楠木の怒り、ノバラが語った覚悟。

 

 これらに加えて、DA上層部の思惑、リリベル側の計画、テロリスト側の意図。

 

 それぞれがそれぞれの想いを持って、決戦に臨む。

 

「司令たちの様子とノバラの動きを見れば、確かにそうでしょうね」

 

 たきなも司令たちの言葉などから、千束の懸念に同意した。

 

「リコリス、リリベル、テロリスト。三つ巴以上は確定している中で、私たちはいつ襲い掛かってくるか分からない猛獣を守ることになる訳だしね?」

「『御形ハジメ』、ですか。確かにリリベルか、テロリストの動きに合わせて脱走を図られれば面倒ですね……」

 

 そして、護衛対象者も問題だった。

 

 テロリスト側は彼の元部下がいるし、リリベルは古巣だ。

 テロリスト側は彼の身柄を奪うことが目的だろうが、リリベルの方は、抹殺したいのか、それとも奪還したいのか、それともその両方か。

 いずれにしろ、問題は彼が襲撃のタイミングで逃走を図るとすれば、ほぼ確実に成功させる、ということだ。

 

「……もしかして、調べた?」

 

 たきなの深刻そうな様子に、千束はたきなが何らかの情報を仕入れているのであろう、と当たりをつけた。

 

「ノバラとクルミからデータを貰いました。ノバラからは現役時代の戦闘動画を、クルミからはリリベル時代評価データ等を……正直、化け物ですよ。……もしかして、千束、知ってる人でしたか?」

「うんにゃ。直接は知らない。だけど、話は聞いたことがある。曰く、人型の羆、だってさ」

 

 相手が何人だろうと関係ない。

 圧倒的パワーと暴力で、前に立った相手は文字通り、全て薙ぎ払う。

 

「体をぶん回すだけで、人を殺せる……すみれが本気出したらそんな感じだろうけど。正式な訓練を受けていないすみれと、リリベルとしての英才教育を受けたヤツでは次元が違う」

 

暴走特急(genocide express)』と呼ばれているすみれの戦い方に確かに似ている。だが、決定的な違いがそれだ。

 

 すみれは限られた練習時間の中で、ノバラに体術を仕込まれてはいるが、それは体を効率よく動かすための方法の一つとして教えられたものだ。

 対して、彼は、まさしく殺戮するための技術として教え込まれ、実践経験も豊富である。

 力の強い素人と力の強い歴戦の軍人。その程度の戦力差は見込むべきであろう。

 

 ……長い勾留生活でどれだけなまったのか、あるいは、なまっていないのか。そして、今回の移送に何を考えているのか。

 

 強いことに間違いはない。だが、それ以上にどう出てくるかが全く見えてこない。

 

 何時、牙を剥いてくるか分からない相手を守りながら戦う、というのは、困難な任務ではあった。

 

「……厄介な相手ですね。テロリスト側の相手はノバラたちがしてくれるのですから、そちらはあまり心配はいらないでしょうが」

「……それも問題なんだよ、たきな」

 

 たきなの言葉に千束が難しい顔をした。

 

「はい?」

「……たぶん、ノバラは何か仕掛けてくる。警戒するべき相手は、護衛対象者もそうだけど。……一番厄介なのはあの子なんだ」

 

『たきなのために、私を撃てる?』

 

 そう千束に問いかけたノバラは、互いに撃ち合うことを覚悟していた。

 

 つまりは、ノバラはそうなることを想定し、そして、千束に対してこう言っているのだ。

 

『手加減してくれるな』

 

 非殺傷弾などという甘いことを言わず、必要とあれば……たきなを守るためなら、殺しにこい、と。

 

 ……別に、ノバラとて撃ちたくて撃つ訳ではないだろう。彼女の中の優先順位の問題だ。そこに芯があるからこそ、彼女はそのときには躊躇わない。

 

 妹の悲しい覚悟を千束はちゃんと受け止めた。

 だからこそ、そのときに備えるのだ。

 

 ……自らの主義主張に違えども、愛する妹と対峙するならば、その意志を尊重し、万全の状態で目の前に立ってやることも姉の務め。

 

 ……もっとも、隙があれば、頭を引っ叩いて説教してやろう、とも思っているが。

 

「……ノバラが裏切るとでも?」

 

 たきなが不満そうな顔をしているのに、千束はちょっとだけ苦笑した。

 

「ま、私たちにとってはそう見えるかもね? だけど、今のあの子はすみれのためだったら、何だってやる。私たちと敵対しようが、DAを敵に回そうが、ね」

「確かにそれはそうでしょうが……」

「別に私たちと積極的に敵対したいという訳じゃない。必要があればそうしてくるってこと。だからこそ、警戒は必要だと思う」

 

 千束は確信を持ってそうしてくるであろうと思っているが、その考えをたきなに押し付けようとは思っていない。

 しかし、現実問題、警戒が必要なのは確かである。

 

 たきなも少し考えて、それが確かに必要なことではある、と頷くが。

 

「……………………何か私たちだけ難易度高くありません?」

 

 この点、微妙に納得がいかなかった。

 

 サクラ、フキたちは大規模だが、いつものお仕事。

 ノバラ、すみれは好き放題に暴れるだけ。

 

 だと言うのに、自分たちは、敵の対処だけではなく、護衛対象者を警護しつつ、警戒し、さらには味方に襲われることも警戒しなければならない。

 

「私たちならできるってそう思われてるんでしょ? いいように使われてる感じがするのはちょっと癪だけどね」

 

 たはは、と苦笑しながら、千束もたきなに同意した。

 

「ふふ……まぁ、可愛い妹が甘えているんですから、私たち姉としては大目に見てあげないと、ですね……ん、ちゅ♡」

 

 くす、と悪戯っぽく笑ったたきなが、千束に口付ける。

 

「あむ……♡ ……もう、せっかく真面目な話をしてるのに」

 

 千束はそれを受け止めながら、抗議の声を上げるが、目はとろんとしていた。

 

「似合わないですし、ガラじゃないでしょう、千束?」

 

 そう言いながら、たきなは千束にキスの雨を降らせる。

 

「んぁ♡ そうだけどさぁ……ん!?」

 

 なおも何か言い募ろうとした千束に、たきなは有無を言わせないように、半ば強引に開き掛けた千束の口に自らの舌を入れる。

 

 ちゅる、ちゅ、ぢゅ……、暗い部屋に水音が響く。

 

 はぁはぁ、と荒い息をしている千束から、ちゅる、と舌を引き抜いたたきながにやり、と笑う。

 

「ごちゃごちゃうるさいですよ、千束……私も警戒はします。それでいいでしょう? ……だから、今は私だけを見てください。私だけを感じてください」

 

 たきなが、千束の唇の上を指でなぞって、キスの跡を拭っていく。

 そして、拭い終わったその指を、ぺろ、と舐めながら、そう言った。

 

「た、たきなぁ……♡ キスだけ! キスだけだらかね!? さすがに、今日、最後までとか絶対やめてね!?」

 

 千束はまるで誘っているかのように、頬を上気させて、口元を恥ずかしそうに拭った。

 

 その仕草にたきなはぞくぞくと嗜虐心をくすぐられる。

 

「……心得ましたが。……千束があんまり可愛い反応をすると、ちょっと自信なくなっちゃいますね……だから……我慢してくださいね、千束♡」

 

 にぃ、と口に弧をを浮かばせたたきなが、千束の顔に自らの顔を近づけていく。

 

 ……千束は諦めたように目を瞑り、頬を桜色に染めながら受け止めた。

 

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