Roses fall fleetingly, violets bloom vividly   作:MIA

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第八章 Day of the Decisive battle
177 I'm glad you were born


 翌朝。

 

 日も上がらない内にノバラは目を覚ました。

 

 隣ではぐったりしたようなすみれがいつもの変な寝息すらなく泥の様に眠っている。

 

(……ん~……ちょっと刺激が強かった?)

 

 二回目までのキスは何とか、すみれも何とか耐えていたのだが、三回目にノバラがその舌を器用に動かしまくった結果、目をグルグルさせながら、気を失ってしまった。

 

 ……まぁ、興奮の余り眠れないよりは余程マシだろう。ぐったりこそしているが、顔色自体はてかてかしているし。

 

 くす、と微笑むと、ノバラはすみれを起こさないようにそっと部屋を抜け出した。

 

 さすがのノバラも、決戦前にいつものメニューを行う訳ではない。皆が起きる前に朝ご飯を、と思ってキッチンにやってくる。

 

「……お?」

「……あれ?」

 

 普段は寝坊助な千束がエプロンを付けて立っていた。

 思わずノバラは珍しいものを見るような目で千束を見る。

 

「おはよう、千束お姉ちゃん♡ ……夕べはお楽しみでしたね?」

「おはよう、ノバラ。……そちらこそ?」

 

 互いに、くすり、と笑いあった。

 

 千束からはノバラにとっては嗅ぎなれたたきなの匂いが濃く染みついているようであった。

 おそらく、自分からもこれまでにないほどすみれの匂いが染みついているのだろう。

 

「……千束が早起きなんて珍しいね?」

 

 揶揄う様にノバラが意地の悪そうな笑みを浮かべると、千束は苦笑いを浮かべた。

 

「……アンタの中で、私はどれだけズボラなのよ……私だってやるときはやりますよー」

 

 千束のそんな言葉を聞きながら、ノバラもエプロンを着ける。

 

「その『やるとき』が今日の朝ご飯?」

 

 ノバラが、きょと、と首を傾げれば、千束は恥ずかしそうにしながら、腕を組んだ。

 

「……悪い? 私は、これでもアンタの姉よ? アンタが何を考えているのか、何をしたいのかは分からないけど、アンタが頑張ろうとしていることを応援しないほど、狭量じゃないよ、私は」

 

 ぱちぱち、とノバラは目を瞬いた。

 

 てっきりもっと警戒されていると思っていたし、事実警戒されてはいるのであろうが、千束から紡がれた言葉は全く別のものであったためだ。

 

「……私が頑張ったら、後悔するんじゃない?」

 

 ノバラは、暗に敵対する可能性があることを千束に伝えてきたつもりだ。

 

 だから、何なら嫌われても仕方ないくらいには思っていたのだが。

 

「するかもな。だけど、今のアンタは可愛い可愛い私の妹だ!」

 

 しかし、千束はそれらも全て飲み込んで笑ってみせた。そして、ぐりぐり、とノバラの頭を撫でる。

 

 そんな千束を見ながら、ノバラは、ぽぅ、と頬を染めて微笑んだ。

 

「……だから、千束のことって大好きよ」

 

 千束の腕に抱き着いて、自分の方に引っ張りながら、背伸びをする。

 

 その意図に気づいた千束は、やれやれ、と少し腰を屈める。

 

「……昔みたいに唇にしたらたきなが怒るから、やるならほっぺな」

「……ん♡」

 

 ちゅ、と千束の頬に温かいものが触れる。

 

 とん、と離れたノバラが唇を手で押さえながら、嬉しそうに微笑む。

 

「……えへ」

 

 ぽわ、としたその表情はとても幸せそうに見えた。

 

 千束としては、ノバラのそんな表情が見れるのは嬉しいのだが、一緒に暮らしていたときはもっとべたべたしていたくらいなのである。キスの一つくらい今更なことであるので、やや苦笑気味だった。

 

「何でそんなに嬉しそうなのかね、アンタは」

「だって、たきな以外の人だったら、千束はもうこういうの許さないでしょう? 私が例外……特別だって思ったら嬉しいじゃない?」

「……? 何、当たり前のこと言ってんの? 最初からアンタは私の……私たちの特別でしょ?」

 

 そう言うと、千束はノバラを自分に引き寄せて抱き締めると、そっとその薔薇色の頬に口付けをする。

 

「私もたきなも……ついでにフキも。アンタのことが大好きだよ。アンタが生まれてきてくれて。私の妹になってくれて。今、ここにいてくれて」

 

 抱き締めたノバラをそっと持ち上げる。

 

(……おっきくなったなぁ……)

 

 昔は痩せっぽちで、子どもながら、こんなに痩せてて大丈夫なのかと心配するほど、羽のように軽かったのに、今はずしりと腕に重みを感じる。

 見た目よりも重さを感じるのは、ノバラの体には余分な脂肪がなく、外見からは想像ができないほど、鍛え上げられているからに他ならない。

 

 いつの間にか消えてしまいそうなほど儚げだった少女はもういない。

 

 今、自分の腕の中にいるのは、悪戯好きで、甘えたがりのクセに甘え下手で、厄介事ばかり引き寄せてしまう体質の努力家で可愛い自分の妹だ。

 

 ……その存在が誇らしく、そして、嬉しい。

 

「……嬉しい。嬉しい、嬉しい! 嬉しい!!」

 

 くるくると狭いキッチンの中で回る。

 ちょっとでもバランスを崩したら危ないが、相手はノバラである。遠慮はしない。彼女にして見れば、自分を含めて重心をコントロールするなんて造作もないこと。万が一にも転ぶなんてことはあり得なかった。

 

「あははー! 危ないよー、千束お姉ちゃん!」

「わぷっ!?」

 

 そんなノバラだからこそ、抱き上げられつつもバランスを崩さないようにしながら、千束の頭を、ぎゅう、と抱き締めることができた。

 

 ほんのりとした柔らかさが千束の顔に触れて、どことなく甘い、ノバラの匂いを感じる。

 

 少しだけ恥ずかしくなった千束はゆっくりとノバラを下した。ノバラが抱き着いたまま離さないので、ノバラの小さい胸に顔を埋めている形だ。

 

「ほーらー! はーなーせー!」

 

 中々離そうとしないノバラの脇を擽る。

 

「いやん、いやん♡」

 

 けらけら、と笑うノバラが楽しそうに、嬉しそうに体をくねらせる。さすがに擽ったいのか、長くは続かなかったが。

 

「まったく、悪戯っ子め。落としたら危ないだろ」

「そんなヘマしないでしょ? 私も千束も」

「そらそうだろうけども。スリッパなんだから、万が一もあるでしょ? そんなんでケガしたら面白くないでしょうに……」

「そうだね。はんせいしまぁす」

 

 えへ、とノバラが悪びれもなく笑っている。

 

(……しとらんな、これは)

 

 それだけ信頼している、ということかもしれないが、それ以上にこういったじゃれ合いを楽しんでいるからだろう。

 

「やれやれ……それじゃあ、当初の目的を果たそうか?」

そうだね、朝食を作ろう(I'm glad to hear that,let's make breakfast together)! 姉妹で合作と行きましょうか?」

 

 そう言いながらノバラは卵を取り出したが、千束は少し考えこんでいる。

 

「しっかし、何を作ったもんかね?」

「私、だし巻き作るから、昨日の残りのお肉で、牛しぐれ煮でも作ったら?」

「ああ……そりゃ、ご飯が進みそうだな」

 

 千束が冷蔵庫から昨日の残りの割り下と、牛肉、ストックしてあったショウガを取り出し、下処理に取り掛かる。

 

「お好みで大根おろしとか混ぜて食べるとさっぱりいけるよー」

 

 その背中にそう答えると、びし、とサムズアップが返ってきた。

 

「お野菜は……ピクルスもあるけど、サラダがいいかな? 温玉乗っけて、ちょっとナッツが入って香ばしい感じにして」

 

 ノバラは冷蔵庫を見ながら、何を作ろうかと考える。

 

「……後はスープか。……この納豆、使っちゃおうかな?」

 

 千束が牛しぐれ煮を作っている横で、ノバラはパパっと、作業を進めていく。

 保温性の高い容器に卵を入れ、そこに熱湯を加えるて、蓋を締める。これで放っておいてもできる。

 これの出番はまた後だ。

 

 ノバラは多めの卵を割って、出汁を加えると、砂糖を足して、しっかりと混ぜ合わせていく。卵焼き用のフライパンに油をしくと、少量の卵液を作り、薄く卵焼きを作ると、くるくると丸めていき、空いたスペースに卵を入れ、丸めた卵の下も軽く上げて卵を染み渡らせる。火が通ったら、また丸めていくを丁寧に何度も繰り返していくと、出汁巻き卵の完成だ。

 

 買っておいたナッツを何種類か袋に入れると、とんとん、と叩いて粗く潰していく。

 千切ったレタス、千切りにしたキャベツ、カットしたトマト。そこに出来上がった温玉を乗せ、ナッツをパラパラと振りかければ、温玉サラダの完成だ。

 

 そして、最後、千束が下した大根の余りを薄く千切りにして、煮込み、昨日の残りの油揚げ、人参、キノコ類も入れて、煮込み、火が通ったところで、火を止め、ノバラこだわりの味噌を溶いていく。そして、最後、すり鉢で軽くすりつぶした納豆を上から加えて、軽く馴染ませる。根野菜類と納豆の味噌汁の出来上がりだ。

 

「……手際いいなぁ」

 

 自分が一品作っている間に、ノバラはさらっと三品作り上げてしまった。味で負けるつもりはないが、この無駄がなくきっちりと作り上げる様子には千束も感嘆した。

 

「慣れてるからね」

 

 一緒にキッチンに立てたのが嬉しいのか、ノバラは酷くご機嫌だった。 

 

 

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