Roses fall fleetingly, violets bloom vividly   作:MIA

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178 to be not yet quite awake

 ……たきなは寝ぼけていた。

 

 別に朝に弱い訳ではないが、ノバラほど極端に強い訳でもないし、千束のように寝汚い訳でもない。

 

 寮生活のときには、周りに迷惑を掛ける訳には、という思いがあり、一人暮らしのときには、自分で朝食を作り、時間通りにリコリコに着いていなければ、という使命感もあった。

 

 しかし、ここ最近は、朝食をノバラと一緒に作るときもあるが、基本的にはたきなが起きた頃には、おいしそうな朝食がノバラの手によって作られていることが多い。

 

 よって、ちょっと寝ぼけていたところでおいしい朝食にありつけると学習しており、何より眠そうにしているたきなを、ノバラが楽しそうに甘やかすのだ。

 

 ……平たく言えば、たきなは完全に油断していた。

 

 寝る前にはちょっと予定外の体力消耗があったせいで、大変気持ち良く眠りに着いてしまっていたことに加え、起床時間がいつもより早い。

 

 目覚ましが鳴る前に目を覚ましてしまったことも悪かった。

 

 キッチンからする楽しそうな声に誘われて目を覚ましたのだが、中途半端に目を覚ましてしまったせいで、未だ夢心地である。

 

「……ふぁ……楽しそうですねぇ……ノバラ……」

 

 欠伸をしながら、たきなが部屋から出てリビングダイニングに出ると、愛らしい小柄なシルエットを捉える。

 

「あ、おはよー、たきな」

「……っ!?」

 

 ノバラがいつものように挨拶する横で、千束が、ぼん、と音がするような速度で顔を真っ赤にして俯いた。

 

 そのせいで、たきなは千束に気づかないまま、ぽてぽてと歩いて、いつものようにノバラを後から抱きしめた。

 

「……今日も良い匂いですねぇ……今日の朝ごはんは何です……?」

 

 ノバラの頭の上にあごを乗せつつ、すぅぅ、と息を吸い込んでいるのは、朝食の香りを吸っているのか、ノバラ吸いをしているのか判断が付かない。

 

 ノバラにとってはいつものことなので、別に気にすることではないのだが、今日、この場で、というのはあんまりよろしくない。

 

「たきな、たきな! 起きて起きて!」

「ん~……や、ですぅ……ん~……ノバラ、あったかぁい……すぅ……」

「私の頭の上で寝ないで!? 今日はマズイんだって!!」

「ん~……?」

 

 いつもと違うノバラの対応にたきなはぼやっとした頭の中で怪訝に思いながら、こしこしと目を擦って、ふわぁぁ、と大きく伸びをしながら欠伸をする。

 

「……もぅ……どうしたんですか……? ……ノバ……ラ……?」

 

 徐々に覚醒したたきなは、ノバラの他に誰かいることに気づく。

 

 淡く輝くような金の髪。大きく愛らしい紅い瞳。

 

 ……自分の恋人である、錦木千束が顔を赤くして俯いてそこにいた。

 

「お、おはよ……たきな……」

 

 ぽっ、と赤く頬を染めて、たきなを上目遣いで見てくる千束は、他の誰にも見せたくないくらいに愛くるしいが、それより何より状況が悪い。

 

 ……たきなは顔を青くした。

 

「お、おはようございます!? ち、千束……あの、これは、いつもこうなんじゃなくてですね……たまたま、というか何というか……普段は私も朝食を作るのを手伝うんですけどね!? だから、あの、その違いますっ!? 違いますよっ!?」

 

 珍しく慌てたたきなのしどろもどろな説明に千束は、ぷっ、と吹き出した。

 

「……たきなが寝ぼけるとこんなのなんだ! ノバラ、アンタ独り占めしてやがったな?」

 

 ふふふ、と楽しそうに笑う千束を見て、たきなとノバラは顔を見合わせた。

 

「……怒ったり、嫉妬したりしないの、千束?」

 

 怒らないまでも、もっと嫉妬するだろうな、と思っていたノバラからすれば、ちょっと拍子抜けだった。

 千束は、くすくす、と笑いながら、否定するように手を振った。

 

「……うん? 今更、アンタとたきなに嫉妬したりしないって。アンタは私の妹だしね。それに普段から二人してべたべたしてるでしょ?」

 

 そう指摘されて、たきなはちょっとだけ頬を引きつらせた。

 

「え……あれ? そんなにべたべたしてます……?」

 

 たきな本人としてはあまり自覚がなかった。

 

 ……しかし、言われてみれば、ノバラを撫でたり、抱き締めたり、ということには全く違和感がなく、ごく自然にやってしまっている辺り、べたべたしていると受け取られても仕方ないことではある。

 

「この子がスキンシップ過剰なのは今に始まったことじゃないし、たきなだって楽しそうにしてたじゃない?」

「それは、まぁ……はい……」

「別にやらしーことしてる訳じゃないんだから、そのくらいじゃ嫉妬しないよ」

 

(ほーん……やらしーことしてたら、嫉妬するってことだね!)

 

 にた、と笑ったノバラが動くより早く、千束に両手を押さえられた。

 

「……いらんことするなよー? おいたはいかんよ、おいたは」

 

(あはは! さすが千束! 読まれたか!)

 

 虚をつくならともかく、正面切っての攻防であれば、やはり、反応速度から千束に軍配が上がる。

 

 そして、ノバラの思考回路さえ本能的に察している千束は、ノバラにとって致命的に相性が悪い、ということを改めて感じる。

 

(うん。やはりもしものときは、私がたきな。すみれが千束の相手をすることになりそうだね。模擬戦のときと同じように)

 

 頭の隅ではそんなことを考えながらも、ゆるっとたきなの拘束を解く。

 

 そして、ノバラが、ぽふ、と手を叩く。

 

「ま、たきなも起きたし、ご飯もできたし。あとはすみれを起こしてご飯にしましょう? あんまりのんびりできる時間もないしね? 千束、たきな、配膳お願いね? 私はウチの寝坊助さんを起こしてくるから」

 

 そう言い残して、ノバラは自分の部屋に向かってすみれを起こしに行く。

 

 そっと扉を開けて入ると、すみれは起きてはいた。

 

 こちらもノバラたちの声で目を覚ましたのだろう。

 

 布団で体を起こしたまま、頭を右へ左へとふらふらさせている。

 

 ノバラは近寄る、とすみれの頬を、ぺちぺち、と叩く。

 

「おはよー、すみれ、ご飯だよー」

 

 小さく囁いただけなのだが、『ご飯』という言葉にすみれは反応したぴくりと動く。

 

「……んー……ノバラちゃんのご飯……」

 

 くしくし、と目を擦りながら、とろんとした目でノバラを見つめた後、すみれは、ぽっと頬を赤くして微笑んだ。

 

「えへぇ……おはよう、ノバラちゃん……」

「起きたのはあなたが最後よ、早くなさい」

「ふぁ~い……」

 

 すみれは何とか起き上がったものの、やはりまだ眠いのか、ノバラにつかまるようにしながらフラフラと歩いてくる。

 

「お……ふぁよう……千束ちゃん。たきなちゃん」

「ほれほれ、早く座れ、すみれ!」

 

 ぽやん、とした目で座ったすみれであったが、目に入った朝食にすぐに目をキラキラさせ始めた。

 

「うわぁ! おいしそう! 朝からお肉もある!」

「ああ、その肉は私な? 他はノバラ作」

 

 千束とすみれがそんなことを話しているが、最後にノバラあっためたミルクを配った後に座った。

 

「それじゃあ、いただきましょう! いただきます!」

「「「いただきます」」」

 

 たきなとノバラはサラダから、千束とすみれはしぐれ煮をご飯にとってぱくり。

 

「うんうん! ご飯が進むよ、千束ちゃん!」

「生姜が利いてるのがいいよなぁ。あ、大根下ろしかけると旨いんだっけ?」

 

 さっそく千束は大根下ろしを混ぜてみる。

 しぐれ煮の塩加減を大根下ろしが滑らかにし、そこに大根独特の辛さを感じる。だが、不快というわけでもなく、お肉の脂っぽさを洗い流すようで、やはりこれでもご飯が進む。

 そして、味噌汁の納豆を崩しながら啜ってみる。納豆のどろっとした粘り気があるものの、味噌との相性がよく、するすると飲めてしまう。

 そして、サラダ。ナッツの混ざったサラダは香ばしさも加わり、あっさりとしたドレッシングとの相性もよかった。

 そして、だし巻き卵。一口かじれば、じゅわ、と出汁の味が口の中に広がる。

 

(うぅん……悔しいけど、ノバラが作った料理はやっぱり旨いなぁ……)

 

 そう考えながら、自分の作ったしぐれ煮を食べているノバラの様子を伺う。

 

 美味しそうに箸を進めていることから、どうやら合格点ではあるようだ。

 

(よく考えてみれば、結構、朝から豪勢な飯だな。まぁ、今日は大量にカロリー消費するだろうから、当然と言えば、当然だけども)

 

 ノバラはその辺りも踏まえて、朝食にしてはややボリューミーな感じにしているのだろう。あんまり食べ過ぎてもパフォーマンスは落ちるし。

 

 食事を終え、つらつらそんなことを考えていた千束の前にコーヒーが置かれて、無意識の内にそれを啜って……一気に目が覚めた。

 

「……うわ。何これ、すげぇ…旨い」

「ホントだぁ……フルーティーで、何だか柑橘系の酸味みたいのまで感じる。すごぉい!」

 

 千束とすみれの驚いた様子をたきなとノバラはにこにこと見ている。

 

「それが、こないだ話になったパナマ・ゲイシャ。すっごいでしょ?」

「ああ……これだけ、旨いなら、アンタがあんなに気持ち悪い状態になってたのは分かるわ……」

「今飲んでるので、最後だからね。ちゃんと味わってね?」

 

 ノバラの淹れたコーヒーを飲んだ四人は、一部が寝ぼけていたのが嘘のようにしゃっきりと覚醒していた。

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