Roses fall fleetingly, violets bloom vividly 作:MIA
朝食後。
すみれは自分の着替えを済ませると、鏡を見ながら髪を結って振り返る。
「……あれ? ノバラちゃん、どうしてそっちなの?」
「ふふん♪ ないしょ♪」
すみれはいつもどおり、DA仙台支部特殊作戦群、エクストラの翡翠色の制服に対し、ノバラは真紅のファーストの制服に着替えていた。
確かにノバラはファーストでもあるので、それを着ること自体はあり得ることではあるのだが、初見のリコリスを指揮する訳でもない。
あえて、その制服を選んだ理由が分からずにすみれは首を傾げるが、ノバラは悪戯っぽく微笑むのみだ。
しかし、まぁ、すみれにとっては比較的どうでもいいことではある。
お揃いじゃないのが残念ではあるが、真紅の制服に身を包んだノバラも大変可愛らしいので、見惚れている内に忘れてしまった。
「忘れ物はない? ハンカチとティシューは?」
「ちゃんと持ったよー」
まるで世話焼きの母親と娘のようなやり取りではあるが、いつものことである。
決戦前だというのに、いつもと変わった様子のない、相変わらずのノバラの様子にすみれは、くす、と笑みを零した。
「……なぁに、すみれ?」
「何でもなぁい!」
……お母さんみたい、という言葉をすみれはそっと飲み込んだ。
◇◆◇
ノバラを見た千束は不思議そうな顔をした。
「……アンタ、それ……」
すみれと同じような反応であるが、千束が反応したのは別のものだ。
「……どう? かっちょいい!?」
わざとらしく腰に巻いたホルスターにはM1911カスタムとノバラ愛用の短刀が吊り下げられている。
「……赤星と黒星はどこにしまってるんです?」
その二つがノバラの愛用と言って良いのか分からないが、模擬戦で使っている様子を見る限りでは相当に使い込まれていた。
たきなとしては、使い慣れた銃を手放す訳もなかろう、と思ってそう聞いたのだが、ノバラは、にひ、と笑ってスカートを捲る。
「……こ・こ♡」
……その幼い容姿に見合わないアダルティックな赤い下着が露わになる。
すみれは思わず鼻を押さえ、千束は頭を抱えた。
「……隠せるの良いですけど、そこっていざというとき抜き難くないです?」
そして、たきなは、ノバラの下着と羞恥心の無さに反応した二人と違い、武装としてどうなのか、という疑問を呈した。
ノバラの太ももに括りつけられたホルスターには先の二丁が収められていた。
「……って、そうだけどそうじゃないよ、たきな!? はしたないから、スカート下ろせ! 任務の前にすみれが血を噴くわ! ……ってか、何でそんなエロいの履いてんの、アンタは!?」
言われたとおりにスカートを下したノバラは、少し考えてから、ぴっ、と指を立てて答える。
「……勝負下着だし?」
……明らかに、今思い付いた、と言わんばかりの雑な回答であった。
「勝負の意味が違くない!?」
確かに、勝負のとき、と言われたらそうなのだが、その意味するところは違うだろう。
一方、ノバラが普段履いているえっちぃ下着を見慣れているたきなからすれば、今日のはむしろ大人し目と感じている。
最初の頃こそ面食らったが、慣れてしまうと、あ、これ、可愛いかも、と考えるくらいには余裕もできていた。
男物のトランクスを履いて、『通気性も良くて、動きやすい』などと言っていたたきなではあるが、ノバラに勧められたえっちぃ下着を履いて、『ぴったりフィットして、動きやすい』と感じる程度には常識改変されている。
「……そんなことを言ったら、ノバラは割かし頻繁に勝負をしていることになりますが」
今日のは見た目こそアダルティックであるが、布面積も厚さもちゃんとある分マシである。もっと透け透けのピンクやら黒やら、もはや下着とは思えない紐のようなものを履いているときもあるのだ。……もちろん、普通の可愛いヤツのときもあるが。
「……え、マジ? アンタ、いつもそんなの履いてるの……?」
千束がちょっと顔を引き攣らせた。
「……あれ!? 何か痴女みたいに思われてるっ!?」
がびーん、とノバラはショックを受けた。
別にノバラとて、好き好んでえっちぃ下着を履いている訳ではない。
一番免疫のありそうなすみれがクリティカルダメージを受けていることからも分かるように、仙台ですみれと同棲している際のノバラの下着は、常識的なものが多かった。
そんなノバラがわざわざえっちぃ下着を普段使いをしているのは、今般のたきなの下着事情に鑑みればお察しだ。
千束に窘められて、男物のトランクスから、一般女子の普通の下着にランクアップしたたきなが、ノバラの影響(洗脳?)を受けて、オシャレ女子の勝負下着を隠し持っているくらいには進歩しているのである。
……恋人の千束はもっとノバラに感謝しても良いと思う。
(くっ……だが、あえて言うまい……残念だったたきなの下着が、今やえろえろになっていることに、
「……しかし、M1911ですか……お揃いですね?」
千束の愛銃と同系統、加えてたきなの二丁目と同じである。
……何やら独自のカスタムがなされているようではあるが。
「ふふん♪ この日のために新調したんだよ!」
銃を抜いて、にまにま、と微笑みながら、新しい愛銃にノバラは頬擦りする。
「……どうせほとんど使わないクセにぃ」
揶揄うように千束がそう言って笑うと、ノバラが盛大に頬を膨らませる。
「つーかーいーまーすぅ! どっかのへっぽこと同じにしないでくださぁい!」
「っんだよ、アンタも当たんないでしょ!?」
「「……んむむ!!」」
千束とノバラが睨み合いながら、互いに額をぶつけ合う。
「……やめなさい」
てぃ、とたきなが二人の頭頂部に軽く手刀をする。
まぁ、二人とも本気でやっているのではなく、いつものじゃれ合いである。すぐに互いに笑みを浮かべている。
「……つーか、銃だけじゃなく、
担当を指差して千束が嫌そうな顔をした。
ノバラは愛刀を呪物扱いされて不満気である。
「えー……この子も可愛いのに……」
「……
「かぁいいでしょ?」
由緒正しいであろう短刀もそんな風にされては形無しである。
「何か曰くつきなんですか?」
「……『花鋏』。彼岸花時代から受け継がれている、最も血を吸った刀、だったよな?」
千束が確認するようにそう聞くと、ノバラは嬉しそうに頷いた。
「何度も打ち直されているけどね? 元は普通の日本刀くらいの長さだったのに、今やこんなに短く……まるで私に誂えたみたいにぴったりに!」
(そんなことで喜ぶなよ……)
千束としては複雑な心境である。
彼岸花時代から受け継がれている、最も血を吸った刀。
その説明に嘘はない……頭に、『
ノバラ本人から聞いた訳ではないが、千束は知識としては知っている。
……仲間殺しの忌むべき妖刀、『花鋏』。
歴代の裏切者を処分する処刑人の中でも、最も信用に足る者に貸与されるものである。
信用……それは強さであったり、忠誠心であったり。時代によってまちまちであるが、間違いなく言えることは一つ。
……それを持つ者は、元同僚であっても殺す覚悟を持っているということだ。