Roses fall fleetingly, violets bloom vividly   作:MIA

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180 Horticultural shears

 ノバラに『花鋏』が貸与されたのは、ある意味嫌がらせである。

 

 沖縄での司令官に対する一件にしろ、彼女は命令は無視しないが、意図的に曲解するという上層部にとっては、便利な手駒でありつつも、使い所を誤ると、自らがケガをするという、実に頭が痛い存在だ。

 

 そんな彼女に由緒正しい妖刀を与えて、その任に就かせようとすれば、さすがの彼女も辞退するだろう、辞退しないまでも何処かで命令を無視するだろう、と思ってのことだ。

 

 ……そうすれば、処分する名目も付くと考えたのだ。一部の(アホ)が。

 

 考えの浅い彼らは、最上ノバラという少女の特性を完全に見誤ったと言って良い。

 

 ……ノバラはそれはもう良い笑顔で受け取った(お前ら全員ぶち殺すと決意した)

 

 ノバラは基本的には常識に沿った良心で以って判断はするが、それは行動の結果の話であり、これは、千束とフキの教育の賜物である。

 根本的に彼女には良心などないし、極一部の身内を除いて、他のリコリスには興味がない。

 よって、裏切りの名目のあるリコリスを処分することに、何ら良心の呵責を感じない。

 嬉々として勤しんだ訳ではないが、そういった任務であっても淡々と熟す。

 

 同僚のリコリスに対しても()()なのだから、裏切った上層部に対してどう出るか想像できるだろう。

 

 ……特に電波塔事件以降、千束の抹殺指令を出した者は彼女の逆鱗に触れた。

 

 公的機密機関と言っても、やっていることは後ろ暗い。そのため、清廉潔白と言える者は数える程だし、そう言った者はそんなアホな命令をする訳がない。

 

 故に彼らを裏切者扱いにすることは容易だし、それさえ明らかであれば、その処分はノバラの業務の範疇内と言えなくもない。

 

 大義名分があるならば、それを錦の御旗として、彼らを血祭に上げても、誰憚ることもない。

 

 結果、彼らは妖刀の切れ味を自らの体で味わうこととなった。

 

 さて、ノバラが『花鋏』を持つこととなった来歴はこのようなものだが、こんなことを仕出かされたにもかかわらず、何故未だに彼女の手に『花鋏』があるのか。

 

 一つは適任者の問題。ノバラ以上に精神的苦痛なくその任に就くことができる者は皆無である。

 

 次いで実力。ノバラのスペック上の戦闘能力はファーストの中では最弱とされているものの、その隠密能力と圧倒的タフネスは、単純な戦闘能力を補って余りある。場さえ整っていれば、ほとんどのファーストに対しての抑止力となり得るのだ。

 

 加えて、銃器が発達している中で、短刀を十全に使いこなせる者は少なく、そも、妖刀とまで言われている『花鋏』を好んで持ちたがるものはノバラ以外いない。由緒正しい、と言っても、使い手のいなくなった刀はただの美術品に成り下がる。死蔵されるよりは、使い潰されるた方が本意であろうとの判断であり、事実上、ノバラが最後の担い手となっている。

 

 ……だからこそ、好き勝手に装飾している訳だが。

 

◇◆◇

 

「……つくづくノバラはそういうものに好かれますね?」

「厄介事はゴメンだけど、この子は別にいいのよ? ……何か親近感もあるし。何より滅茶苦茶斬れる。この子に慣れちゃったら普通のナイフは使えなくなるよ? 私は使うけど」

 

 事実、制服の中には見えないように小柄も仕込んである。

 

 使えるものはその辺に落ちているものでも武器として使うのがノバラの本来の戦闘スタイルではあるものの、何か武器を一つ選べと言われれば、『花鋏』を選ぶことになるだろう。

 

 妖刀などと物々しい呼ばれ方はしているが、ノバラにとっては頼りになる相棒の一つである。

 

「……でも、ノバラちゃんがそれ持ってるの久し振りに見たよ」

 

 鼻を押さえたままのため、鼻声のすみれは『花鋏』を見ながらそう言った。

 

「ま、すみれはあんまり見ないかもね?」

 

(……つまり、すみれは『知らない』ってことか)

 

 通常任務でノバラが『花鋏』を持たないのは使うべきと思う相手が少ないからではあるが、処分の際には例外なく持ち歩いている。

 

 リコリスが銃を使うのに制服を着ることが条件となっているように、彼女がその役目を果たすときは『花鋏』を持っていることが通例だ。相手には何ら意味のないことではあろうが、ある種の礼儀と捉えてもいいだろう。

 

(…………アホめ……何でもかんでも一人で抱えやがって……)

 

 言わないのではなく、言えないのだろう、とは思うものの、千束は遣る瀬無い気持ちが溢れてくる。

 

 本当は、頑張ったな、と言ってやりたい。辛かったな、と言ってやりたい。

 だが、それでは、ノバラが言わずにいた気持ちを無駄にする。

 

 ……千束には二人に分からないように、ぎゅっと自らの腕を握って自身を律することしかできなかった。

 

「……さてさてお嬢様方、準備が整いましたら、ダンス会場へ移動しましょう? 今日のパーティー、ド派手に決めるよ!」

 

 時計を気にしつつ、ノバラがそう言って、にぃ、と笑みを浮かべる。

 

 ……幸いにも、ノバラは千束が少し暗い表情をしていたことには気づいていない様子である。

 

「……へいへい。じゃあ、行くとしますか!」

 

 気合を入れ直すようにそう言って、千束もノバラに笑みを返して、自分の気持ちに蓋をした。

 

◇◆◇

 

 マンションのエントランスには二台のバンが停まっていた。

 

「あ、じゃ、千束とたきなはそっちね。楓司令を任せた!」

 

 そう言ってノバラが、ひらひら、と手を振った。

 

「「……は!?」」

 

 さっさと別の車に乗ろうとするノバラに、千束とたきなは思わず声を上げた。

 

「聞いてないぞ!?」

「言ってないもの? 詳しくは楓司令に聞いて? そっちは作戦開始まで時間あるしね……行くよ、すみれ」

「はぁい」

 

 千束の抗議の声を、するっ、と流して、ノバラはすみれと連れ立って車に乗ってしまった。

 

 伸ばしかけた手が中途半端に空を彷徨う。

 

「……えぇ……?」

 

 呆気に取られている内に、ノバラたちは出発してしまう。

 

「おら、千束! たきな! はよ、乗れ!」

 

 バンのスライドドアが開き、運転席に座っている楓から声が掛かり、千束とたきなは不承不承ながら車に乗った。

 

◇◆◇

 

「……あれでいいの、ノバラちゃん?」

「いいのいいの。現地に行ってしまえば、あとは四の五の言えないし、楓司令が上手く説明するでしょ? 面倒事を人に押し付けてるんだから、それくらいはやってもらわないとね?」

 

 ノバラのその言葉にすみれは苦笑した。

 

(……千束ちゃん、怒るだろうなぁ……)

 

「……姐さん、あたしらは予定通りでいいんで?」

「構わないわ。予定通りに。任せたわよ、ももちゃん、せり、すずな」

 

「……へい」「はぁい」「了解でーす」

 

 運転席のすもも。後部座席のせり、すずながそれぞれ答える。

 

「さて、私たちのチームが全員揃っての初出動よ? ……楽しく行きましょ?」

 

 ()()()()()()()を装着しながら、ノバラはそう言って、不敵に笑った。

 

 

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