Roses fall fleetingly, violets bloom vividly 作:MIA
『大崎蓮司』はテロリストである。
生粋の傭兵であり、エコノミストを標榜する彼からすれば、その評価に文句の一つでも言いたいところではあるが、別に言ったところで一円の得にもならないので言わないだけだ。
世間様が己をどのように評価したところで、自分の仕事は変わらない。
世界中に種をまき、美味しく実がなったところで刈り取る。
つまるところはそういうことだ。
宗教が理由でも、民族対立が理由でもいい。
争いが起こる種をまき、その先に武器弾薬という水をやり、金と快楽を手にする。
世界の秩序がどうたらと言っている同僚もいるが、彼が『
……もっとも、『
『
一応、『
戦場や被災地に集まっては、物資の配布や救助活動を行う。
これが表としての『
この裏では武器の密輸、孤児を集めて兵士にしたり、娼婦にしたり、場合によっては臓器売買を行ったりもする。
これらの収入は寄付として処理され、『
『
天才がいる必要もない。
才能などなく、ただ愚直に何かできる者であればそれでいい。
人の数と金の力で世界のパワーバランスを好き勝手に動かす。
それが『
◇◆◇
『……確認しました。情報提供のとおり、赤い制服に金色の髪、錦木千束と思われます』
スピーカー越しに聞こえたその声に、大崎は鷹揚に頷いた。
つるりと禿げ上がった頭に、肥大化した体。
単純に肥えている訳ではないが、その巨体は人に嫌悪させるには十分な容姿である。
……一言で言えば、いわゆる
「ならば予定通りだ。川口で仕掛ける」
大崎の目が獰猛に輝き、口元には下卑た笑みが浮かぶ。
「……出番だぞ、犬ども。お前たちの主はそこにいる。精々頑張ることだな」
トラックを改造した思しき輸送車の中、くひひ、という大崎の笑い声が響く。
一部の男たちは忌々しそうに大崎を見ながらも、その不満を口にすることはない。
これまでだって耐えきたのだ。今更、犬扱いをされたところで、大願成就の前には些末事。そう考えて黙殺する。
『
その夢を叶えるために、幾多の戦場を渡り歩いた。
犬と呼ばれ、蔑みられながらも、彼らは『
しかし、『
元リリベルである彼らは、部隊内において極めて秩序だった行動を行い、模範的な兵士ではあるため、『
金や殺戮、略奪や凌辱を目的として彼らと異なり、元リリベルたちが望んでいるのは純粋に強敵との戦闘だ。
そして、それができるのは、御形ハジメの元だけだと信じている。
だから、彼らは自分たちの頭である御形ハジメの解放を目指している。
一方の大崎にとって、御形ハジメは目障りな存在でしかない。
自分が第六席なのに対し、彼は第三席。
『
故に、大崎の目的は、元リリベルたちをできるだけ損耗させた上、どさくさにまぎれて、彼らごと、御形ハジメを排除するつもりである。
そして、今回、動いているらしいリコリスを孕み袋として持ち帰る。
彼自身も楽しめるだろうし、彼の直属の部下たちも大いに楽しんでくれることだろう。
(……そう言えば、実験体もいたな)
癪ではあるが、極めて強力な戦士である御形ハジメの体質を人工的に再現するために行われたものだ。
(あれも、実に良い母体となってくれるだろう)
戦力となるものはいくらあっても困らない。
優秀な母体から優秀な子が生まれるであろう。
実験体であれ、リコリスであれ、優秀なことには違いない。
彼や彼の部下には良いストレス発散になるであろうし、副次的に戦力補充も可能。一石二鳥である。
「……楽しくなるな」
ぐふふ、と笑った彼が体を反らすと、醜い肉がぶるりと震えた。
◇◆◇
「……奴ら、乗って来ますか、姐さん?」
「絶対に乗ってくるわ。じろじろと見られていたもの」
相手に確認させるために、拘置所に車を入れる際、ノバラは正門でわざわざ一度車を降りて姿を見せている。
「……そんなの分かります?」
ノバラは見られていた、と言うものの、周囲を警戒していたすずなには分からなかった。
「……ノバラさんが特殊なだけだと思うよ、すずな?」
自らも警戒していたものの、何ら分からなかったせりもすずなに同意する。
「あなたたちねぇ……もっと、自分たちが見られていると思って想定しなさい。自分ならどうやって偵察するか、隠れるか、偽装するか。どこから観察するか、何を使うか。想像を働かせれて探れば、悪意ある視線は結構分かるものよ? ……例え機械越しであろうとね」
「……ドローンですか?」
機械、というところに反応したせりが、そう尋ねるが、素直過ぎる答えにノバラは思わず苦笑した。
「こんな早朝にドローンなんて目立つでしょ? 自立式の小型カメラが落ちていたのは見つけたし、ランニングをしている人……不自然に多くなかったかしら? もう少し遅い時間なら分かるけどね?」
その辺りに落ちている小石に偽装されてはいたが、前日に
朝日は昇っているが、朝のランニングを始めるにはまだちょっと暗いだろう。確かにこの時間帯に走っている人は、ノバラ自身を含めて確かにいるが、この周囲には普段同時間帯でランニングしている人は決まっている。当日に増えているのは明らかに不自然である。
ノバラの自意識過剰ではなく、入念な下調べと観察力があってこそ、監視されていることが分かるのだ。
「……そんな具合だから、釣れたのは間違いないわよ?」
「ってことは、やはりぶつかるのは……川口ですかねぇ?」
「ま、十中八九そうするでしょうね?」
首都高速から東北自動車道へ向かう場合、必ずそこは通らなければならないし、料金所という障害物がある。
現在、千住新橋近辺から東北自動車道は急遽の道路修繕ということで、車両通行止めになっているため、高速で突っ切る、ということもできなくはない。
ただし、緊急車両扱いで車両通行止めの中、高速道路を走行するとは言っても、最低限の安全運転は必要だ。どうしても速度を落とさざるを得なない場所がある。
その一つが川口料金所であり、戦闘を行うにも場所が開けていて都合がいい。
……最初の戦闘は、そこで行われることになるだろう。