Roses fall fleetingly, violets bloom vividly 作:MIA
「……ノバラたちは予定通りのようだな」
時間通りに拘置所内に車を入れ、現在、出発する準備を整えているようであった。
「んじゃ、こっちも予定通りっスねー」
作戦車両の中で待機中のフキとサクラはスマホで状況を確認しつつ、自分たちの作戦の進捗を確認している。
「……ちょっと、到着が遅れてるところもあるみたいっスけど、あちらがドンパチ始める頃には間に合うっス……フキ先輩は、ホントにあっしのところで良かったんですか?」
「……お前のサポートが私の仕事だ。それにどっちに行ったところで邪魔だろう。私の戦闘スタイルとあいつらの戦闘スタイルは全然違う」
千束の方では、慣れてもいない不殺をせざるを得ないし、ノバラの方は、戦闘というより戦争になる。乱戦になってしまえば、フキがノバラの足を引っ張ることになりかねない。
「……先輩が邪魔なんてことあります? あっちには、せりとすずなも行ってますけど……ついでにすももも」
確かに彼女たちに比べれば、実力的にはフキが上だろう。
だが、ノバラたち自身の戦いやすさという点で、フキは彼女たちに譲るだろうと考えている。
「アレらはちょっと特殊だろう。仮にもノバラの部下なんだ。私と違って、アイツに合わせるくらいのことはするだろうし、経験が浅いとは言っても、その分、練習量は豊富だ。役割は遊撃だろうが、せりの近接はまぁまぁだし、すずなは狙撃手としては優秀だ。それに、すもも……アレも戦闘能力だけならファーストに並ぶ」
「あれ? そうなんスか? すももはあんまり練習に来ないからあっしはあんまり面識ないんですよねぇ……」
「細々とした雑用をやらされていたからな。それに、伸びしろのあるせりとすずなに比べれば、アイツが猛練習する意味はあまりない」
「……強えんですか?」
「強い、というよりは優秀、と言うべきか。身体能力も高く、射撃精度も良いが、何よりも戦闘の組立てが巧い……それをチームに共有できるんであれば、ファーストの目もあったんだがな……」
すももは同年代のセカンドの中では抜きんでている存在ではある。
最近はマシにはなったが、彼女は何というか、周りに合わせる、空気を読むというのがド下手くそだったのである。
実力が突出している分あまり問題になっていなかったが、確かに彼女は指揮官向きではなく、一兵士の方が合っている性格をしていた。
「……ノバラのチームに入れたのは正解かもな」
そもそもノバラとて、指揮官向きの性格はしていない。元々が人見知りで他人に興味がない。
そんなノバラが指揮官としても評価されているのは、他人の使い方が巧いからだ。
何でもやる。何でも使う。
すももは自分が戦って勝てれば何でもいいタイプだが、ノバラは勝つためなら何でもするタイプだ。……そう育ったとも言うが。
自分個人で完結させてしまうすももとの決定的な違いは、他人を巻き込もうが関係なしに勝利に徹するノバラとの覚悟の差だろう。
必要であれば、他人を切り捨てることに躊躇のないノバラと、必要があってもその決断のできないすもも。
ノバラのそれは、他人に対する興味の薄さから来るものではあるが、合理的に考えて何が良いかを即座に判断し、情を差し込む余地がない非情さであるとも言える。
必ずしもノバラのやり方が正解だとはフキは思わないが、すももが得られるものもあるだろうと思う。
「……いずれにしろ、
「へへ……うっス!」
フキの言葉にサクラが大きく笑みを浮かべる。
……作戦開始のときは迫っていた。
◇◆◇
(……他は大丈夫なのでありましょうか?)
かやがペアを組んだのはヒバナであった。
見知らぬ先輩ではなく、共闘したこともある先輩、というのはかやにとっても有り難い話ではあるのだが、特に目立った戦闘能力がある訳でもないかやとしては、この先輩がどうして自分をペアに選んだのか、首を捻らざるを得ない。
「かや、お前、前に出るのと、バックアップ、どっちがいい?」
「……は? や、小生、どちらかと言うと後衛ではありますが……」
『性根更生会ノバラ組』の訓練は完全に前衛に特化していると言っても過言ではないが、かやは元々中距離から長距離の支援戦闘を得意としていた。
……まぁ、今は前衛もそれなりにできると自負できるくらいにはなっているが。
「ふーん? ……じゃあ、
(……そう言えば、ヒバナ先輩は、前回もエリカお姉さまのバックアップに徹していたような? 確かに、あまり前に出ているイメージはありませんが……)
フキチームではサクラが前衛、中衛にフキ、ヒバナが並び、後衛にエリカが続いていた。エリカが後方にいるのは、彼女のカンの良さと実力からバックアタックを受けても即座に潰せるという、実は攻撃的な布陣でもある。
また、完全に前に出るときは、サクラとエリカを前に出して、その分ヒバナが後ろに下がる。
派手さこそないものの、チーム内ではヒバナの存在が攻守のバランスを取っていると言えよう。
普段、彼女がそう言った役回りをしているのは、実力が不足しているからではなく、どこに置いても大丈夫というその実力への信頼故のことである。
ヒバナはグロックを置くと、座席下からアタッシュケースを取り出して、それを開けた。
「……え!?」
その中身を見て、かやはぎょっとした。
「……P90じゃないですか!?」
個人防衛火器であるP90は確かに取り回しの良い銃ではあるが、かやには正直重武装過ぎると感じた。
……まぁ、テロリスト相手に屋内戦をやるには適しているとも言えるのかもしれないが。
「あぁ。久し振りの出番だな?」
ヒバナが楽しそうに各種点検を始めている様子からするに、本気でこれを使う気でいるようだ。
「それ、支給じゃないですよね!?」
一部の例外を除いては、銃は基本的にグロック。そのはずなのであるが。
「……いや、支給だぞ? 普段使わないだけで。このくらい大規模な作戦じゃないと出番もないしなぁ……」
どうやらヒバナもその例外の一人であったらしい。
「……もしや、エリカお姉さまも何かお持ちなので?」
「エリカ? アイツならF2000も、MP7も持ってるし、この間乗った車だってほぼアイツに支給されてるヤツだぞ?」
さすがに車はチームに対して与えられていたものではあるが、整備も運転もほとんどエリカが行っているので、チーム共通で、エリカのもの、という認識である。
「ひょえぇぇ……」
「……驚くようなことか? 必要なものならちゃんと申請すれば、支給されるんだけど」
ゲーム機やら、サクラのバイクやら。フキチームは割かし好きに支給されている。この辺はフキが上手いこと上と交渉している結果でもあるのだが、それに見合った成果を出しているからでもあろう。
「ま、かやも何か欲しいんだったら、作戦が終わってからおねだりして見るんだな。ウチらの財布を握ってるのはサクラだから、可愛くおねだりすれば頑張ってくれるだろ」
部下の士気を維持するため、必要な支給品を獲得するのも、ファーストの仕事の内だ。
……書類仕事に四苦八苦していたサクラがどうやって、彼女たちの要望に応えるのか、実に見物である。
ヒバナは少しだけ意地の悪い笑みを浮かべた。