Roses fall fleetingly, violets bloom vividly 作:MIA
ノバラはゆっくりと車を降り、その後にすみれが続いた。
RPGの着弾点からは焦げ臭い匂いがする。
その先に、ちらり、と目を移せば、こちら側に走り寄ってくる人影が見える。
ざむっ、ざむっ、という足音は成人男性の平均から考えても、相当重いことが分かる。
「……機械化兵ね。四肢置換型かな?
「じゃあ、傭兵さんたちだねぇ」
その戦闘力を考えれば、危機感が薄いと言われるかもしれないが、ノバラもすみれものんびりしたものだった。
……彼女たちにして見れば、ヤバイ相手がいるのはいつものこと。今更驚くことも慌てることもない。
「……まぁ、好き好んで自分を改造した変態さんたちだからね。壊したところで、誰も何も言わないでしょ」
「そうだねぇ」
その意思に関わらず、実験、研究と称して、身心に障害のある彼女たちからすれば、傭兵たちの考えは全くもって相容れない。
ノバラもすみれも可能性を奪われた側の人間で、彼らは可能性を奪う方の人間だ。
ただでさえ、テロリストには容赦しないのが鉄則であるのに、彼女たちがそんな者たちに一片の慈悲を掛ける訳もない。
「……
「
ノバラとすみれはいつも通りに歩みを進めた。
◇◆◇
「……一人はガキかよ、つまんねぇな」
彼らにとって、戦場は娯楽だ。
血と臓物をぶちまけさせて、むせ返るような血の匂いの中で、悲鳴という音楽を聞きながら、生殖活動を行うことが何よりも気持ちが良い。
……だが、少女、ノバラは彼らの好みではなかったらしい。
「でも、もう一人は食いでがありそうですぜ?」
もう一人の少女、すみれを見れば、メリハリの利いた体は確かにそそる。
可愛らしいその顔が絶望に歪んで、泣き喚いている姿は大層美しかろう。
「……んじゃ、ガキの方を適当にそいつの前でバラしながら、ぶち犯すか! 死体とやる趣味はねぇから殺すなよ? 悲鳴が聞こえないんじゃ興ざめだからな!」
げらげら、と傭兵たちは笑って、ノバラたちに銃を向ける。
「……まぁ、でも生きてさえいれば、足と腕はいらねぇな?」
そう言って、男は手に持ったAK-47の引き金を引いた。
◇◆◇
彼我の距離はそこそこあるが、ノバラには下卑た男たちの声は聞こえていた。
だが、完全に相手を殲滅する方向に意識を切り替えたノバラにとっては、彼らの言葉は何の意味もない。まったく別の生き物の言葉のように思える。
……まぁ、平時で聞いていたところで、ノバラなら笑顔で黙殺して、後ろからナイフで刺すような言葉なので、どちらにしろ、かれらの運命が変わるようなものではないのだが。
マズルフラッシュをどこか、ぼうっ、と見ながら、ダダダッ、という銃声が聞こえる前に、ノバラは体を動かした。
面で制圧されるならともかく、個別に発砲された程度では、ノバラに銃弾が当たることはまず無い。
本来のノバラであれば、狙いも何もつけたもんじゃないがないが、彼女が今演じているのは錦木千束。彼女と同様CARシステムに則り、半身になって、胸元付近に銃を構えている。
……悲しいことに
軽く体を反らして、銃口を相手に向けて、引き金を引く。
何発目かで相手の頭が弾け飛んだ。
◇◆◇
「くそ、頭がおかしいのか、あのガキ!?」
ゆらゆらと体を揺らすようにして、少女は銃弾の中、歩みを進める。
戦場であっても、そんな行動をしてくる者は皆無と言っていいだろう。
普通は、その凶弾に倒れ、運よく当たらなければ、物陰に身を隠す。
遮蔽物を利用しつつ、少しずつ距離を詰めることはあっても、こうも無造作に前に進んでくるのは自殺志願者としか思えない。
……だが、当たらない。
(……まさか、避けているのか!? 冗談だろう!?)
そして、特に気にしてもいなかった、相手のプロフィールが頭を過る。
電波塔事件の英雄、錦木千束は、多数のテロリストを相手に、銃弾を掠らせることすらなかったという。
眉唾もので、どうせ誇張されているのだろう、と思っていたが、現実で見ると、その恐ろしさがよく分かる。
……銃弾を避けられているということに気づき、わずかでも恐怖を抱いたとしたら、彼らの士気は格段に下がってしまうだろう。
「下っ手くそだなぁ、お前! 俺がやってるよ! こうだ、こう! ……あ?」
別の男がノバラを狙って撃つが、まるですり抜けるように躱される。
男も今、銃弾が当たらないという、その恐怖を身に染みて感じているだろう。
ひくっ、と男が頬を引き攣らせ、引き金を引く指が、次弾を放つのを躊躇ったその一瞬、男の頭は弾け飛んだ。
「クソがっ! もう遊ぶな! 殺せ!」
指揮官の男がそう叫ぶが、その判断は少し遅かった。
◇◆◇
ぐしゃり、と金属が引きちぎれる音がする。
銃が下手くそなノバラの必殺の間合いは近接戦だが、銃すら持たないすみれの間合いは、十分に助走距離が取れる、中距離から近接である。
ノバラが銃弾を避けることで、敵の注意を引き付けると、すみれは大きく横に駆け出して、ノバラが銃を撃ち始めると同時、敵に突撃を開始した。
すみれのコンプレッションスーツは自身の筋肉の肥大を抑えるための拘束服であると同時、外部から身を守る装甲であり、衝撃を緩和するアブソーバーでもあるのだ。
『
よって、機械化兵であっても、人間砲弾のごときすみれの特攻は受けることすら難しい。
仮に受け止められたとして、精密機器である彼らの義肢はその性能を大きく減退することになる。
「あはは! 何だぁ、こんなに脆いの!」
機械化兵を捕まえると、その機械化された腕を引き、体を蹴り上げる。
容赦なく腕を引き千切りながら、溢れるマシンオイルをまき散らし、すみれは高らかに笑う。
引き千切った腕を見せつけるように、ぐしゃり、と握り潰し、用を成さなくなったそれを無造作に放り捨てる。それを受けたアスファルトにずしりとした音が響く。
無邪気な子供が虫の羽や足をもぎ取るような気軽さで、すみれは機械化兵たちを解体し始めた。
◇◆◇
すみれと同様、前に歩みを進めていたノバラは十分に間合いまでやってきていた。
「クソがっ! もう遊ぶな! 殺せ!」
指揮官らしい男の声が聞こえたが、その直後にすみれが特攻した。
相手が二人であることを忘れ、すみれから目を離し、自分に相手が集中することは想定の内ではあったが、この辺りを上手く捌けていない辺り、相手は確かに強いのであろうが、自分たちより強い相手と戦うことに慣れていない。
もっと言えば、共闘の意味を理解できていない、個人の集まりでしかない。
一定程度の目的を共有できてはいるようだが、そのような適当指揮系統では、正直恐れるに足りなかった。
「やれやれ……あなたたちでは、『花鋏』を使うまでもないわね」
いつの間にか、手の届く距離まで到達していたノバラに、男は拳を上げる。
「舐めるなぁ!?」
ぶん、と振り下ろされた拳は四肢機械化技術で鉄の塊となったものではあるが、当たる要素のないノバラからすれば、何の意味もない。
着弾点から気配を消したノバラを男は捉えられない。
あ、と気づいたときには、喉に熱い感触を感じる、斬られたのだ、と気づき、押さえようと手を伸ばそうとするが、虫を殺すような瞳をしたノバラ、脳天に小柄を突き刺されて、視界は暗転した。