Roses fall fleetingly, violets bloom vividly   作:MIA

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18 Force is power

「そういや、あんたまで本部に行く必要あんの?」

 

 うりうりと千束がノバラのあごの辺りをくすぐってやるとうにゃんうにゃん言いながら、ノバラは答える。楽しそうだなキミら。

 

「そりゃ、犯人の引き渡しは……っていたいいたい!」

 

 犯人扱いされた千束は笑顔のまま、ノバラのこめかみに梅干しを食らわせている。

 

「……ホントはすみれとインストラクターを頼まれてるの! 具体的にはAggressor (仮想敵)

 

 つまりは模擬戦の対戦相手ということだろう。

 

「そりゃまた……すみれは知らんけど、あんたの相手はご愁傷様だね~」

 

 少なくともたきなが聞いている話では、ノバラの実力はファースト級。それも指揮に特化しているのでもなく、千束と同様の単体の戦闘能力での評価だから、その実力はお察しだ。地道に功績を積んできただけのファーストなどでは、足元に及ぶべくもない。

 それを分かっていながら、ノバラに対戦相手をやらせる意味とは何だろうか。

 たきなの疑問が分かったのか、運転席の楓はわずかに振り返る。

 

「そのためにやらせるんだよ」

 

 クツクツと笑いながら、楓がそう言った。

 研究畑、というせいもあるのだろうが、楓の話し方は腹に一物あるというか、ある種の性格の悪さが滲み出ているというか。

 

「そのためって何です?」

 

 たきなが心底分からないという顔で問いかけると、楓は、思ったとおりとばかりに破顔した。

 

「『優秀な人は本部にいる』なんて思っていないか?」

 

 暗に、本当にそう思っているのか、と問いかけてくる。

 たきながかつてそうだったように、地方の優秀な人材は本部に送られることが常であり、いつか本部に行くことを目標としている地方のリコリスは多い。

 

「…………そうじゃないんですか?」

 

 ある意味典型的なリコリスの答えに、楓は一層笑みを深くする。

 

「『本部だけ』のはずがないだろう?」

 

 そこまで言われてたきなもようやく合点がいった。

 優秀なリコリスが本部に来ることに間違いはない。だが、ずっといる訳ではないし、各地方においても一定以上の戦力は確保しなければならない。そのためには、本部で経験を積んだリコリスを地方に送り出すという人事異動は自然だし、あるいは、『隠し玉』として地方に留め置かれている者もいるだろう。

 

「ああ……つまり」

 

 これはノバラなどの『隠し玉』を見せつけることで、『本部は優秀、地方は劣等』というある種の特権意識を取り除く方策の一つであるということだ。更には……

 

「地方にも優秀なヤツはいる、ということを見せつける。特に本部へ異動になった者、サードに上がったばかりの者、辺りにな」

 

 なるほど。調子に乗らせない、という意味もあるようだ。

 天狗になっていれば、普通であれば見逃さないことでも、大丈夫だろうとある種の慣れが事故を誘発することもある。

 自信を持つのはいいが、増長されても困るのであろう。

 

「特にこの子の見た目はこんなんだしね~」

 

 ちらりと千束の膝枕でリラックスしているノバラを見れば、ただただ可愛らしい少女にしか見えないし、強者特有の威圧感がある訳でもない。

 

 見た目からして、舐められる。しかし、実力は一級品だ。

 この件に関して言えば、お誂え向き、ということだろう。

 実力でたたき伏せられれば、伸びきった天狗の鼻をへし折って、プライドはズタボロ、自らが優秀などと思わなくなること請け合いである。

 

「『こんなん』言わないでね?」

 

 千束に『こんなん』呼ばわりされたノバラは頬を膨らませているが、千束に頬っぺたをつつかれて、ぷふぅと息をはいた。

 

「……ということは、すみれさんもノバラさん並みということでよね?」

 

 確認するようにたきながすみれを見ると、すみれは、えへへ、と笑みを返してくる。可愛らしいが強そうには全く見えない。

 しかし、ノバラは真顔になって答える。

 

「普通にやったら、すみれは私よりも強いよ?」

 

 その言葉に気圧された訳でもあるまいが、たきなの頬には一滴汗が滴り落ちる。

 

「そんな……ノバラちゃん、恥ずかしいよぉ……でも、褒められるのはちょっと嬉しいかも?」

 

 いやんいやんとを頬に手を当ててくねくねするすみれ。

 顔を赤らめたり、嬉しそうな笑顔になったり忙しい少女ではあるが、たきなはすみれに得体の知れなさを感じていた。

 たきなにはすみれの実力が伺いしれなかったが、ノバラの言を受けて、すみれを見てみると、見た目・雰囲気と内面・実力がずれているような何とも言えない気持ち悪さがある。

 恵まれた体躯、鍛えられているであろう引き締まった身体、それ自体は刀剣を思わせるのに、幼さの残る言動と無邪気な笑顔が無理矢理おもちゃのフォークにしているように思えたのだ。

 

「う~ん……まぁ、確かにね。ノバラは別に身体能力が高いわけじゃなくて、練習量と練習内容がアホなだけだし」

 

「人の練習を『アホ』とか言わないでね?」

 

 そう言えば、『ガン=カタ』の練習をしていた、という思い出話がありましたね。

 

 そして、たきなもノバラの手を握ったときに感じた修練の痕。その練習量は推して知るべし、といったところか。少なくとも、通常の訓練量だけこなしてもああはなるまい。幾度もマメを潰し、それでもなお、修練を重ねた手であった。

 

「逆にすみれは身体能力が高い感じでしょ?」

 

 千束の実感が籠った問いに、ノバラは笑みを浮かべていた。

 

「あ、やっぱり気づいた?」

 

「そりゃあ……いくら、私が女だからって、軽々と持ち上げ過ぎでしょ……あと、ちょっと暴れても、びくともしなかった。手錠なくてもすみれに捕まってたら逃げ出せなかったんじゃないの?」

 

 ……確かに、千束がまぁまぁ暴れていたにもかかわらず、すみれの体は一切崩れていなかった。簡単に持ち上げていたように見えたが、確かにその力は異様である。

 

「え~……でも、それですみれが本気だしたら、千束死んじゃうよ?」

 

 千束がちょっと青い顔をしながら、ノバラを見る。ノバラは不敵な笑顔を浮かべていた。

 

「……ジェノサイドエクスプレスされるってか?」

 

『力こそパワー』が発揮されれば、轢殺されるということだが。

 ノバラの見解はちょっと異なるようであった。

 

「おこめ様抱っこから、てけてけの刑かな?」

 

 つまり、これは、胴体が上下に泣き別れ、ということであろう。素手で。

 

「わお、くーる」

 

 随分とスプラッターな想像だが、むしろ千束は楽しそうに笑っていた。

 

 それは自らへの自信故か。それとも・・・

 

「あはは、そーくれいじー」

 

 無邪気に笑う妹への見栄か。

 

 そのどちらなのか、たきなには分からなかった。

 ……しかし思ったことは一つある。

 

 ……きっと、くれいじーなのはあなたたち二人です。

 




副題を訳すと フォースは力なり と読めなくもないが。
これって、そういう意味だったっけ?
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