Roses fall fleetingly, violets bloom vividly 作:MIA
「……すももさん、私たちは?」
せりが心配そうに外の様子を伺っている。
ノバラとすみれの強さを知っていても、どうしても心配になってしまうだろう。
優しすぎるのは、せりの欠点ではあるが、同僚を心配する美徳であるとも言えた。
可愛らしい後輩にして、未来の上司を見ながら、すももはゆるゆると笑みを浮かべる。
「まだ動きだすには早いですねぇ」
ふふふ、と笑って見せれば、せりは、自分が余計な心配をしている、と悟ったのか、顔をうつ向かせて恥ずかしそうにしている。
「まぁ、ノバラ先輩だから、あれくらいじゃあね」
スコープで、先をちらちら確認しているすずなからすれば、正直な話、ノバラのような圧倒的なヤバさが伝わって来ない。
強いのは分からないではないけど、相手にならなさそうだな、という感想である。
「……でも、機械化兵って強いんですよね?」
「純
事実、哄笑しながら、すみれが傭兵たちを薙ぎ払いつつ、虫を解体するかのごとく、機械化された四肢を引きちぎっている。
うわぁ、とか、ひぃ、などの悲鳴が木霊し、マシンオイルと流れ出た血がアスファルトを濡らして、阿鼻叫喚の地獄絵図を作り出していた。
「……うぇぇ……」
その光景を見たすずながふざけて顔を顰めながら、えずく真似をするが、その隣では、青い顔をしたせりが真剣に吐き気を堪えていた。
「……ありゃ? エチケット袋いる? ゲロ吐くなら見えないようにしてね?」
すずなは、けらけら、と笑いながら、シートポケットからエチケット袋を取り出して、せりに差し出した。
「……すずなって、本っ当にデリカシーないよね……」
複雑な顔をしながら、エチケット袋を受け取ったせりは、念のために、袋を広げてスタンバイした。
乙女の尊厳的にゲロを吐いている姿を親友に見せたくなどないが、こちらの方でも地獄絵図を作り出す訳にもいかない。万が一に備えるのも危機管理である。
「あはは、せりが出すもん出すところなんか、ノバラ先輩との模擬戦で見てるし、訓練中だって、走りながらゲロ吐いたり、失禁したりしてたでしょ? 今更、今更!」
「今、それを言う!?」
せりが青い顔を羞恥で赤く染めて、ぷりぷりと怒った。
頬を膨らませながら、ぽこぽこ、とすずなを叩いているせりは、怒りの余り、先ほどまでの気持ち悪さを忘れているようであった。
(……ふむ。これもすずな嬢なりの気遣いなんでしょうが……)
「もう! もう!!」
怒りが大半、残りが恥ずかしさのせりには伝わるまい。
外の緊迫した戦闘とは裏腹に、車内では意外にもほのぼのとした雰囲気であった。
◇◆◇
……副長は頭を抱えた。
機械化兵の攻撃を難なく避けて葬り去るノバラの強さも頭が痛いが、それ以上に、すみれの戦い振りに見覚えがあり過ぎた。
軽々と人を吹き飛ばし、素手で人を引き千切る。
……その膂力は彼らの主、御形ハジメを彷彿とさせる。
(……最悪だ!)
よりにもよって、何故、
(……いや……『今日』だからか!?)
……子どもが一人いるとは聞いていた。互いに望まぬ形で産ませた子であるとも。
……そして、その手に抱くことすら叶わず、行方知れずになっていたことも。
その嘆きを、絶望を直接知っている者は少ない。
……だが、同じような痛みを抱えている者たちがここには集っている。
まさしく、その古傷を抉るがごとき所業である。
「……やってくれたな、リコリスども! DA!!」
父親の護送に娘を使うとは! 敬愛する主の娘に自分たちの相手をさせるとは!
自分たちの身勝手でどれだけ人を不幸にするのだ!
……目の前が真っ赤になるほどの怒気が渦巻いた。
「……副長……どうしますか?」
(……ここで隊長を奪還できないとなれば本末転倒だ。だが、アレを殺さずに止められるか……?)
憤怒で我を忘れそうになる一方で、非情で冷徹で理性的な思考は考える。
……手加減できる相手ではない。殺す気で掛かってなお、こちらが殺し尽くされるかもしれない相手である。
……甘いことなど言っていられなかった。
(殺らなければ殺られる! ならば、殺る以外に選択肢はない!
車内でわずかな時間を過ごしたとしても、それが自分の娘だと確認する術はないだろう。
……それならば、改めて確認のしようがない程に殺してしまうほかない。
もし、露見して恨まれようと憎まれようと、副長の優先度は決して変わることはない。
「……我々の目的は隊長の奪還だ……っ! それ以外の全ては些末なことだ! ……万が一、隊長が咎められるなら、俺が一人で腹を切るっ!!」
タァン、と空に向けて銃を放ち、副長は叫んだ。
「……『
◇◆◇
「……ももちゃん先輩! 後方、動きました!」
前線ではなく、後方を監視していたすずなは、『
事前にノバラから聞かされていた『
その組織の中では異端ではあるが、今回派遣されている中では
(……このタイミングはとても有効だとは思えませんがねぇ? 姐さんや司令は一体何を仕組んだのやら。妙に殺気立っているのも気になりますが……まぁ、
すももは、にやり、と笑みを浮かべる。
すずなの腕は確かだし、せりは優し過ぎるきらいがあるものの、甘くはない。
……自信を持って言える。この二人は頼れる仲間であると。
「……それじゃあ、お仕事といきましょうか、お嬢さま方? すずな嬢は狙撃ポイントに移動。孤立して敵さんとかち合わないように、場所は上手く移動してくださいよ?」
「了解!」
「せり嬢はあたしと遊撃。なぁに、難しいことはありません。よそ見をしているおじさま方をちょっと小突くだけです。適当に注意を引いたら、それで十分……姐さんとすみれ嬢からちょいとでも注意を逸らしたら、ヤツらはあの世行きだ。……まぁ、隙があったら、勿論、殺っちまって構いませんがね?」
「はぁい」
さすがに鉄火場に拳銃一丁では心許ない。
すももとせりはMP7、狙撃を行うすずなはM24を装備している。
……短刀と赤星、黒星の拳銃を基本装備にしているノバラとそもそも素手で戦っているすみれの頭がおかしいのだ。
(……普通に考えて、あれでアレとまともに戦えるとか人外なんですよねぇ……)
やはり、自分はファーストになどなれる器ではないし、セカンドでも身に余ると改めて考えて、すももは苦笑した。
「……さぁ、行きやしょうか」