Roses fall fleetingly, violets bloom vividly 作:MIA
正面ではド派手な戦闘が行われているが、元リリベルたちが隠密行動を取るには良い陽動となっていた。
リコリス側では二人の少女が正面で同僚と仲間を殺戮し尽くしてはいるが、元リリベルたちとしては、自分たちの目標が完遂できればそれでいい。
そう割り切って、一応、同僚である傭兵部隊が蹴散らさせるのを無視した上、仲間たちがやられているのを感じて後ろ髪を引かれる思いがありながらも前に進んできた。
小隊を指揮する元リコリスの男は、声を発することなく、ハンドサインで車両近くで隊員を止める。
(……この中に隊長が)
護衛がいない訳もないだろうと、そっと様子を伺うが、中の様子は分からない。バックドアが開いている状態から、もしかして、連れ出したのか、と考えそちらに二人を連れて回り込む。
(……いない?)
やはり、連れて逃げているのか、と考え、次の指示を出そうとした。
……だが、パシュ、と空気を切り裂くような音を聞くと同時、自身の額に銃弾が当たったことを悟る。
(……狙撃……警戒を……)
何か指示をしようと考えるが、思考がまとまらない、男は何もできないまま、どさりと車の中に倒れこみ、それを見て、慌てた部下二人も、続いて、脳天に血の花を咲かせた。
◇◆◇
元リリベルたちを狙撃したのはすずなだ。
すももたちと別れたすずなはこっそりと移動すると、絶対に相手が確認するであろう車周辺を狙える位置に潜んでいたのだ。
彼女は近接技術もそこそこ得意ではあるが、目とカンの良さから、狙撃手を買って出ることが多い。
ノバラの薫陶を受けている彼女は訓練を厭うことはないし、練習できるだけ練習しまくっているのである。
ギネス記録の狙撃をする訳でもない、この程度の短い距離の狙撃は何てことないものである。
三人ともにヘッドショットを成功させたすずなは満足そうな笑みを浮かべる。
だが、あんまりのんびりもしていられない。後続には撃った場所が分かってしまっているであろうし、再びこっそりと移動しなければならないのだ。
ノバラ、あるいは、すももほどに、上手く気配を消して動くことはできないが、それでも、すずなの気配を消す技術は並みのリコリスは遥かに超えている。
(……まず、三点ってところかな? せりたちはどうだろ?)
すずなはそう考えながら、にしし、と笑った。
……まぁ、あの相棒のこと、緊張感のない戦いぶりで、しかし容赦なく叩き潰していることだろう、と考える。
◇◆◇
すみれが暴虐的に傭兵たちを殺戮し、更には、仲間が轢殺される姿を目の当たりにしながらも、元リリベルたちの士気が落ちた様子は見られない。
並の相手なら、戦意喪失して潰走を始めても良さそうなものだが、元リリベルたちは、未だすみれに対して立ち向かっている。
「……精鋭ですねぇ。あたしが足を止めんで、せり嬢は確実に退場させてください」
「了解でぇす!」
すももが軽く走りながら、すみれを囲んでいる状態の元リリベルに銃弾を浴びせる。防弾使用のボディアーマーを使用しているせいか、倒れた者は少ないが、幾名かがすももの銃弾を受けて倒れる。
……しかし、こちらに気づかれた。
何名かが、せりたちに向かって走り寄りながら、銃を構え始めている。
「……ん、しょっと!」
その様子にまるで慌てた様子のないせりは、自分の銃を構えると軽く腰を落としながら、薙ぎ払う。
タタタッ、という音とともに銃弾が射出され、その反動に合わせて、せりの豊満な胸がぷるぷると震える。
(……姐さんが見てたら、憤死しそうな光景ですねぇ……)
すももは、苦笑しながら、眼鏡を軽く、押し上げる。
……ついでに、自分の胸を見下ろし、少しだけ、ぷにぷにと揉んでみる。
ノバラやすずなほどの大平原ではないが、なだらかな丘陵である。
あまり口にも表情にも出しはしないが、それは数少ないすもものコンプレックスでもある。
……まぁ、自分以上に貧しい人たちがいるせいで、ここ最近はあまり気にしていなかったとも言うが、せりの暴力的なまでの威力は羨ましくはある。ちょっと邪魔そうではあるが。
「……わ! わ!? す、すももさぁん!? 数が、数が、増えてきましたよぉ!?」
せりの焦ったような声がして、すももはせりの様子を確認する。
……声こそ焦っているが流れるようにマガジンを交換しながら、銃を構えようとしている相手や距離を詰めてきた相手を優先的に撃っている。
慌てているように見えても、脅威度を冷静に判断している証左である。
(……ま、『
元リリベルとして、相当の訓練と実戦を行い、裏切った後も戦場を渡り歩いた彼らは、確かに経験を積んだ歴戦の猛者ではあろう。
殺しの経験値という意味では、彼らの方が圧倒的にすももたちより上である。
……だが、彼らはどれだけ死にそうな目にあっただろうか。
頭がおかしい訓練量の『性根更生会ノバラ組』ではあるが、本当に見るべきなのは、その
構成員の誰もがあまり意識していないのも少々恐ろしいのだが、彼女たちは、少なくともノバラと戦闘訓練をした際には、疑似的な死を体験している。
丁寧に優しく……しかし、残虐に。彼女たちはノバラに
免疫がなければ、それこそ発狂してしまうほどのノバラの気配。
ハード過ぎる訓練で、倒れたら立ち上がれなくなるほどの疲労困憊の中、ノバラの気配に喰われて殺され、しかし、それを乗り越える。
その結果。
(……姐さんに一度喰われている連中は、いっそ恐ろしいほどに、死に抵抗感がない……いや、肝が据わった、というべきですかねぇ? 表面上はともかく、彼女らはいたく冷静だ)
構え、射撃、弾倉入替。死ぬ思いで訓練した彼女たちのそれは、日常動作レベルにまで至っており、有事であっても、ごく自然に行える。
戦闘という非日常の中にいながら、彼女たちの心情は日常生活を行っているほどに凪いでいるのだ。
戦闘を恐れていない訳ではない。死を怖がらない訳ではない。
それすら受け入れて、それを日常としている彼女たちは、言うなれば、死兵の一種であろう。
必死で抵抗している訳ではないが、実に冷淡に戦いの趨勢を見ている。
……故に、極めて強い。
そして、その中で、肉体的にも精神的にも最もタフなのが、このせりという少女である。
技術的に拙い部分はあれど、彼女は既に化け物にカテゴライズされる人種に片足を突っ込んでいる。
「すももさぁん!? 援護が欲しいんですけどぉ!?」
ひぃん、と泣きそうな顔をしているが、途切れることなく銃を撃ち続け、相手の発射したRPGをしれっと蹴り返していたりする。
……そんなこと、まずまともな神経ならやろうとすら思わないだろう。
これだけでも、せりが既にぶっ飛んだ存在となってしまったことが良く分かる。
(……本当に援護がいるんですかねぇ……?)
すももは首を捻りながらも、一応は銃を構えた。