Roses fall fleetingly, violets bloom vividly 作:MIA
「……やれやれ不甲斐ないことだな」
自分の部下……手駒とは言え、傭兵連中には過度な期待はしていない。
大崎にとって、傭兵連中は賑やかし。
自分の目的を達成できるならそれはそれで良いが、できなくても自分が動けば済む話。そう思って使えば、実に面白くしてくれる。
大崎は戦争屋で商売人だが、娯楽はとても大好きだ。
彼らが歌わせる下品な悲鳴は人の怨嗟が響き渡り、とても心地が良かった。
それが聞けなくなるのは残念ではあったが、また買ってくれば済む話。頭のネジが二、三本飛んでいるような奴らはゴロゴロいる。音楽性は異なるだろうが、それはそれで、面白い悲鳴を作ってくれるだろう。
すぐに見つからないなら、多少時間はかかるが作ってしまえば良い話。
彼なら、
いつでも燃え上がる火種は用意してある。ちょっと空気を入れてやれば容易く燃え上がるだろう。売上も期待でき、兵士志願者も生まれるだろう。一石二鳥であろう。いや、
……少し考えるだけでも楽しくなりそうだった。
「……そのためには、邪魔なものを片付けないとな」
目障りな御形ハジメを始末し、彼以外に飼い慣らせない
……新たな戦力の目途も立っている。
「……出るぞ」
ぶるん、と腹を震わせた彼の声に、機械の駆動音が答えた。
◇◆◇
「さぁて……ようやくお出まし?」
ずむ、ずむ、と重い何かが弾んでいるような音がするが、その移動速度は思いのほか速い。
「待っていたわよ? ……大崎蓮司?」
ノバラはM1911を大崎に向けながら、にやり、と笑って見せる。
ここで撃っても意味はない。だが、牽制は必要だ。
彼自身にも。そして、彼の周囲に佇む
「ふん……お前が錦木千束か。電波塔事件の英雄は発育不足らしいな」
「……あぁん? 誰がちびっ子ひんぬーだぁ、コラぁ!?」
(……
ノバラが本当に千束のフリでこのセリフを言っているのだとしたら、本物の千束も言いたいことは大いにあるだろうが、彼女は結構ガラの悪いセリフを言っていることも多いので、ノバラとしては、結構再現率が高いと思っている。
「お里が知れるな、錦木千束? どうやら、リコリスは教育がなっていないらしい。少し俺が躾けてやろう」
じっとりと頭からつま先まで値踏みされ、ねちゃっとした笑みを向けられる。
「ハ……キモい目で見てこないでくれる? 豚野郎!」
そう言って、ノバラは大崎に向かって中指を立てる。
その様子を見て、大崎は、一層笑みを深める。
「くふふふ……それがお望みなら、せいぜい、俺の腹の下で、下品な面を晒すことだな! ……行け。殺すな」
大崎の言葉で機械化兵が前に出る。
……ノバラは笑った。
(いやはや、傭兵連中にお行儀の良さなんて期待しちゃいないんだけどさ……? 一応は指揮官のコレがアレか……コレ、千束をお持ち帰りして、
基本、感情の振れ幅がほとんどないノバラではあるが、千束がそういう目に遭っていることを想像すれば、意外なほどに頭に血が上った。
……しかし、冷静に計算もしている。
彼らは母体としての千束にも何某かの興味を抱いているようであり、現時点において、積極的に殺すつもりはないようだ。それはノバラにとっても好都合である。
こちらの容姿を確認するためであったのだろうが、大崎はノバラから十メートルと少しの位置にいる。
ノバラにとっては一息の距離。一瞬の間があれば、十分に殺せる位置である。
(機械化兵は四体……いずれも
南部義藤が思ったよりもノバラに好意的だったので、この程度の数で収まっているのだ、と思うことにする。
おそらく、金額自体もそれなりに高いだろうが、おそらくコレは持ち帰った後、解析しても良い、という前提で引き渡されたものだ。大崎らは、簡単に持ち帰ることができると考えているようではあるが。
(……危ないおもちゃはちゃぁんと廃棄しないとね? 子供たちが怪我をする前に……)
彼らが本格的に構える前にノバラは移動を開始した。
彼らにはその姿がどのように見えていただろうか。
……完全に気配を消したノバラは。
気配を消すと言っても、実際に姿が消えている訳では勿論ない。
しかし、認識できなければ、消えたとの同じだ。
ご丁寧にノバラは、気配を消す直前、ほんの一瞬だけ、気配を強めた。
ここにいるぞ、と強く意識させた。
その上で気配を消したならば、どうなるか。
機械化兵の脳は人間のものだ。もしかしたら、一部を何らかのコンピューターに補助演算させている可能性はあるが、基本的には自前だ。
そして、脳は意外なほどに錯覚を起こす。
よって、ほんのわずかな瞬間、彼らはノバラがまだ動いていないと認識してしまった。
……だらこそ、ノバラは簡単に彼らに近寄ることができた。
もしかしたら、千束なら複数のアサルトライフルに狙われて避け切るかもしれないが、ノバラに同じ芸当はできそうもない。
だから、小細工をして奇襲する。
胸元に構えたM1911で胴体に一発、少し体を反らして顔面に一発。
普通ならこれで十分だが。
(……やはり固い。まるで通っていない)
さすがに総金属製では燃費が悪く、教科樹脂なども使っているのだろうが、近接で撃ったM1911で一切の痛痒を感じていない様子である。
銃声で彼らがノバラの姿を認知する。
(さて、昔は仲間に向けて撃てなかったようだけど今はどうかな?)
向き直った一体が容赦なく発砲するが、ノバラはするりと避けて、先ほど銃弾を撃ち込んだ機械化兵を盾替わりにする。
ばがん、ばがん、と何かが割れる音がして、機械化兵が倒れる。
(……制限を緩めすぎたな? ……これなら避け切って、同士討ちを狙えるかも? ……でもそれだけじゃあなぁ……)
何と言うか、せっかく千束の演技をしているのに、千束らしくない。電波塔事件時代の千束が相手を殺す気でやっていたら、もっと恐ろしい強さをしているハズなのだ。
……まぁ、ところどころ、ノバラの得意な戦い方をしてはいるが、相手がまだ気付いていないからセーフ扱いである。
(……同士討ちも狙うけど、避けつつ、ちゃんと、ぶち殺す。これだね!)
ノバラが前に進んだことで、残り三体は横一線に並んだ感じであり、ごく限られた射線しかノバラには通らない。
ノバラから見て、一番手前の機械化兵は続けてノバラを狙っているが、残り二体はまだ銃がこちらにも向いていない。
それを認識したノバラは自身の体を加速させる。
途中で、向かい合っている相手が銃弾を放つが、一丁だけならどうとでもなる。ゆらゆらと横に避けつつ、相手がそれに誘われるように、追いかけてくる。
そして、一瞬で、体を沈めると、地面ギリギリを這うようにして一気にに近寄る。
機械化兵は予想外のことに戸惑っているような様子を見せたが、関係ない。
ノバラは相手の懐に入ると、その体を駆け上るようにして飛び、幾つかの銃弾を放った。
膝の裏、脚の付け根、陰部、鳩尾、右胸、首、目、そして、脳天。
まるで、舞を見ているほどに、鮮やかで滑らかな動きである。
相手を跳び越すような形で、ノバラはふわりと着地した。