Roses fall fleetingly, violets bloom vividly 作:MIA
都合、八箇所。接射しても、機械化兵は倒れはしない。
しかし、倒れこそしないが、一番効果が合ったのは目であった。
彼らは既に人間を辞めて、その生態は機械に近いのであろうが、脳みそは自前だ。痛みは無かろうが、急に視界が無くなったことに困惑したのだろう。
(……元がどんな人間かは知らないけど、やはり機械化兵の限界はそこか)
南部義藤の思想からすれば、誰彼構わず機械化しようとしているものではない。あくまで、欠損を埋めて、再び戦場へと向かわせるためのものだ。
だが、一部はその性能故、単純に兵器としての強さを求めた。
さすがに人間の処理能力を超える代替物を作ることはできなかったため、中枢部分には生きた人間を使わざるを得なかった。
おそらく、薬剤で人間らしさは奪われている。指定された命令を判断して実行するだけの機能は残っているが、求められている機能は、機械化された自分の体を動かすという、ある種のコンピューターの役割に過ぎない。
体のほとんどを機械化された彼らに痛覚はない。生きているのは、内臓と脳、それに付随する器官の一部。取り分け、視覚、聴覚は、彼らに残った人間性の代表格であろう。
それを急に失う。
いかに鈍麻した思考であっても、反射的にそれは異常として認識するだろう。
……故に困惑する。
目を潰された機械化兵がノバラを探すようにしながら、関係のないところに銃弾を放つ。
視界を潰された程度で、冷静に戦うことができない。
過去、兵士ではあったのかもしれないが、少なくとも極限状態を生き抜いたようなベテランではない。
つまりは、どんなに強化しようが、人間という軛から解き放たれていたないということだ。
それ即ち、彼らにとって、ノバラは天敵で、ノバラにとっては獲物に過ぎないということ。
(……生物的な恐怖は抑えられない。そう言うことなら、コレはただ堅いだけの人間だ)
銃弾が直接通らなくとも、殺りようはある。
人間の脳を使用して人間の体の延長線上として四肢を動かしているとするならば、脳から発せられた命令が体に走っていることになるし、内臓も生きたままだ。
(だとすれば、一番の弱点は首か……堅そうだけど……小柄でいけるかな?)
まぁ、最悪押し込むしかない。以前と同じだ。すみれを助けたあのときと。
唯一の懸念は、その点の改修がどの程度なされているか、であるが。
(……駆動させるために、関節を採用しているなら、完全な改修は不可能だ。それに銃弾相手なら、あのときの状態でも十分だった。ゲリラや暗殺ならともかく、正面切っての戦争で、ナイフで切りかかる奴なんていない。乱戦状態であっても機械化兵相手に接近戦をしようとは思わないだろう。……あれ? そう考えると私とか、すみれの戦闘スタイルって、リコリスとしてはともかく、相当アホな部類なのでは……)
途中、自分のアイデンティティを壊してしまうようなことを考えたものの、ノバラの体は動き出している。
未だ混乱している相手に近づくと、しゅる、と相手の体に巻き付くようにしながら、相手の体によじ登る。
さすがに、それには気づいたのか、ノバラを外そうと腕を伸ばすが、ノバラはそれを器用に避けつつ、首にナイフを突き立てる。
ガキッ、という堅い手応えがあるが、やはり継ぎ目のようなものはある。
人工皮膚の外からでは分かり辛いが、骨格はおおよそ人体を模しているものとだと推測する。
(……ふふん。ここと、ここ! そんで、ここ!)
首と体の付け根に左右から、そして、頭と首の付け根に一つ。ノバラは隠し持っていた小柄で楔を打った。
継ぎ目に噛み合った小柄で、首と頭が動かないように固定された。
「……それじゃあ……」
相手の頭を土台にして、ノバラは宙に舞う。
くる、と宙で体を半回転させると、逆立ち状態のまま、落下スピードを殺さず、相手の頭を掴んで、さらに四分の一ほど体を回転させ、自分の全体重を乗せて、頭と首の付け根に打たれた小柄を思いっきり蹴り抜く。
「……バイバイ!」
バキ、とも、グシャ、とも思えるような音がして、機械化兵の頭は
蹴ると同時に、頭を引っこ抜いた形になったノバラは思いもよらない手応えに驚きつつも、体を翻して両足で着地する。
力を失ったように、機械化兵が、がくりと膝をついて、その動きを止めた。
「……残り、ふたぁつ!」
にひ、とノバラは悪戯っぽい笑みを浮かべた。
◇◆◇
(……遊ばれているのか……?)
すみれの戦闘能力は正しく化け物と呼ぶのに相応しいが、副長は未だ倒れていない。
言動は幼く、技術も稚拙。戦闘経験が豊富、という訳でもないだろう。
……だが、この少女はバカではない。
馬鹿げた戦闘能力でありながら、実際は相当クレバーに戦闘を組み立てている。
フェイントで隙を作り、そこを突き、連携を乱し、動揺させ、挑発する。
消して無計画に戦っている訳ではない。
勝てる道筋を立て、その通りに戦う能力がある。
だと言うのに、最も脅威度の高いであろう自分を、あえて、攻撃してきていない。
部下たちは文字通り擦り減ったが、未だ戦線を瓦解させず、維持できているのは、彼女がそうなるように、自分を残しているからだ。
「あはっ! あははっ!! うふっ! うふふっ!!」
無邪気な笑い声を響かせながら、拳を振るえば、頭を吹き飛ばし、蹴りを放てば、上半身と下半身が泣き別れになる。
……悪夢のような光景だ。地面はどす黒く染まっていないところの方が少ないくらいで、そこかしこに内臓が散らばっている。むわり、とした血の匂いが辺りに満ちている。
……それに加えて。
「……すみれさんの戦うところ見てるとお肉が食べられなくなりますぅ……えぷっ……」
「見なきゃいいでしょう、見なきゃ……うぷっ……」
緊張した様子のない二人組のリコリスが周辺の部下たちを淡々と駆逐した。
セカンドの少女は、自分の部下たちと比べても格が違った。
射撃も体術も相当高レベルでまとまっている。彼女が足止めしつつ、もう一人が始末する作戦だったのだろうが、彼女が狙えば、近寄ろうと離れようと確実に足を止められて、隙を晒すことになっていた。
もう一人のサードの少女は、経験は少ないのだろう。
表情はわたわたと落ち着かない様子ではある。だか、それ以外の射撃、弾倉装填などの動きは熟練者のそれだ。
し素人臭さの残る彼女の表情を見る限りでは、彼女には隙があるようにも見えた。
……だが、それこそが罠のようなものである。
戦場であっても、妙に目を引く彼女は、そのあどけない姿で、甘い蜜のように敵を呼び寄せ、しかし、容赦なく喰らう。
……食虫植物のような少女であった。
「……もう、オジサン一人になっちゃったねぇ」
くすくす、とすみれの笑い声がした。
辺りを見渡せば、部下は例外なく赤い血の海に沈んでいる。
「……投降する? オジサン一人なら、認めてあげてもいーよ?」
バトルジャンキーの匂いがぷんぷんするこの少女からそんな言葉が出てくるとはまるで思っていなかった副長は、意外そうに軽く目を見開いた後、自嘲気味に笑った。
「……部下、全員殺された、このザマでか?」
隊長、御形ハジメの奪還が叶ったのなら、立て直せる。だが、自分一人では、ここから巻き返すことはできないし、引いたとして、再起できる目途はない。
(……いや、引いたら、俺も
人間性を奪われ、兵器とされる。
逃げ帰った者、裏切った者は優先的に
以前は、最悪それでも構わないと思っていたし、割り切ってもいた。
腐り切った世界をぶち壊すために。御形ハジメの下、復讐を果たすために。
犬と蔑まれようが、糞便にまみれようが。
殺せ、と言われたら、殺すし、死ね、と言われれば死ぬ。
必要があるなら、靴の裏だって舐めるし、尻の穴だって舐めてやる。
……その程度の恥辱は何て言うことはない。御形ハジメに与えられた恥辱と絶望に比べれば。
「……だからだよ? 自分のことだけだもん。余計なこと考えなくていいでしょ?」
えへ、と笑う少女に、かつて自分たちと肩を並べた少女の姿を幻視する。
(……感傷と詰まらないプライドだな……)
「……答えはノーだよ、
自分だけおめおめと生き残ることなど許されない。
死んでいった部下たちに示しがつかない。
……だが、一番は。
(隊長、あなたと一緒に戦って死にたかった。それができないなら殺して欲しかった。それも叶わないと言うなら、あなたの娘に殺されたっていいだろう?)
目的を果たせずに死ぬのは御免だが、すみれに殺られるなら、まぁ、仕方ない、程度には思っている。
そして、結局、自分は死に場所が欲しかったのだと悟った。