Roses fall fleetingly, violets bloom vividly   作:MIA

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193 She's going to offer flowers to the dead

「はい、これで最後、っと!」

 

 コツを掴んだノバラにとって、応用力のない機械化兵はさほど強敵ではなかった。

 

 相手に捕まらないように忍び寄り、首に小柄を刺して、その上からどうにか中まで押し込む。

 蹴り込むのが一番性には合っているが、あまり多用するのも演技に差し支える。残る二体は小柄を接射して首に打ち込んだ。

 

「……そんで? アンタはやんないの?」

 

 くすり、と小馬鹿にしたような笑みを浮かべて、大崎を煽ってみるが、彼の表情は変わらない。

 

(……機械化兵が無くなる前には、仕掛けてくるかと思ってたんだけど……)

 

「ふむ……なるほどな。錦木千束、アラン機関が御執心だったのも良く分かる。類まれなる殺しの才能、か。言い得て妙だ。確かにこれは殺しの才能と言わざるを得ない」

 

(……ほ? すんごい勘違いしてくれてる……おもろ!)

 

「対人間であれば無類だろう……その分析能力と気配操作は。どうやれば、効率的に殺せるか分かっているからこそ、相手の銃弾を避けることができるのだろう。大したものだ」

 

 したり顔で分析をしている大崎を見ながら、ノバラは笑いを堪えている。

 

「しかし、最も見るべきはその気配操作の術か。薄くなったと思えば、異常な程に濃く思える。そこにいると強く印象付けられれば、次に気配を消したとき、相手はそこにいると誤認してしまう訳か」

 

(……的確に分析されてるけど、笑っちゃいそう! ああ、言いたい!! すっごく言いたい! 『ざんね~ん、ノバラちゃんでしたー☆』って、すっごく言いたい!!)

 

 だが、まだそのタイミングではない。

 

 相手の思惑を最も台無しにできるタイミングこそが、そう言って、ぷーくすくす、と笑える最高のタイミングなのだ。

 

「……良い母体になりそうだ。優秀な兵士を産んでくれることだろう」

「……アンタみたいな豚とまぐわえって? 豚は豚らしく、豚とぷひぃぷひぃ、って盛ってなよ!」

 

 ノバラがM1911を大崎に向かって放つ。

 

 ……しかし、大崎は、手を軽く振るって銃弾を止めた。

 

「……ふーん? 銃弾で貫けない程の皮膚かな? 自前?」

 

 ノバラの見るところ、大崎は特殊な装備をしているようには見えない。消去法的にそう言った答えを導き出した。

 

 大崎のこれまでの戦歴を考えれば、何かしら特異な能力があるのだろうと予測してはいたが。

 

(まさか、生身で防弾仕様とは……本当に相手が千束たちだったら詰んでたかも……)

 

 千束とたきなの戦闘能力は高いが、ノバラほど多彩な攻撃手段を有している訳ではない二人には、キツい相手だ。

 

 ……まぁ、それでも意外と何とかしそうな二人ではあるのだが、こう言った相手では、単純に銃のみでの対応は難しいのは確かである。

 

 だが、ノバラならば、二人に比べて相性は良いと言えた。

 

「……それ以外の何だと思ったのだ? まさか、俺があの汚らわしい機械化を受けているとでも?」

 

 そう言って、大崎が嘲るような笑みを浮かべた。

 

「うわ、酷いヤツ! 自分の手駒にはやっといて、汚らわしいとか……」

「弱者と一緒にするな……俺にそんなものは必要ない。戦争で身体を欠損するなどという恥も未だかつて受けたことはない。だとするならば、必要とする意味はないだろう? 今までも……そして、これからもな」

 

 自信有り気に大崎はそう言った。

 

 大爆笑したくなる気持ちを抑えて、ノバラは嘲笑を浮かべるに留める。

 

「なぁにぃ? それって自信? それとも自慢? まぁ、どっちでもいいけど。()()()()()()()()()から、言い訳は今の内に考えておいた方がいいよ?」

 

 煽るようなノバラの言葉に大崎は、ギロリ、と眼光鋭く睨む。

 

「……お前にそれができるのか、錦木千束?」

 

(やべぇ……戦闘中に大爆笑しそう!!)

 

「それを聞いている時点でアンタは二流だよ、汚豚さん?」

 

 未だノバラを千束と勘違いしたままの大崎に真実を告げるタイミングを計りながら、ノバラは、にやにや、と笑みを浮かべている。

 

 明らかに自分を侮っている様子のノバラに大崎は目に見えて怒りを表す。

 

「……分からせてやるぞ、雌餓鬼。俺の腹の下で自分からおねだりするようになるくらいにな!」

 

 大崎がそう怒号して、一歩踏み出すと同時、ノバラも大崎に向かって踏み出した。

 

◇◆◇

 

「……答えはノーだよ、()()()()()()

 

 副長のどこか親しみが籠った声色に、すみれは、きょと、と首を捻った。

 

(……何だろう、この人の、この感じ。しれぇとかミカせんせいみたいな子どもを見る感じ? どうして、この人からそんな感じがするんだろう?)

 

「……オジサン、もしかして、私と会ったことあるの……?」

 

 すみれとしては、副長に見覚えはない。

 だが、もしかしたら、彼は自分が覚えていない過去に会ったことがあるのだろうか、と考えた。

 

 もちろん、御形ハジメすら会ったことがないすみれを副長が見知っている訳ではない。

 しかし、副長はすみれを敬愛する主の娘と認識しているが故に、例えすみれが敵であったとしても、本当の意味で敵意を向けることができなかった。

 

 すみれの反応に、副長はそんな自分の心情を見抜かれたことに気づき、少しだけバツの悪そうな顔をする。

 

「…………いいや? 俺に、娘が……姪がいたらって、こんな感じか、と考えただけだ。すまんな、馴れ馴れしくて」

「いいよ、別に。すみれは、すみれの名前が大好きだから、そう呼ばれることは嫌いじゃないもの。例え、今から殺す人が相手だとしてもね?」

「そりゃあ良かった……遠慮した相手を間違って殺してしまったら、可哀そうだからな」

「うふふ……面白いこと言うね、オジサン」

 

 副長の言葉に、すみれは、にぃ、と口の端を歪めて笑う。

 

「……オジサンじゃ、私を殺すことなんてできないよ?」

「……やってみなきゃ分からないだろう?」

「オジサンはそれが分からないほど、弱くないでしょ?」

 

 すみれにとって副長は強敵ではないにしても、警戒すべき相手だった。

 それほどの相手が実力差を見誤るとは思えない。

 

 どうしてこの人はそんなことを言うんだろう、とすみれは不思議だった。

 

 だが、そんな様子を見ながら、副長からその答えが語られる。

 

「クク……すみれちゃん、オジサンの戯言だって聞いておきな。人生にゃ、無理だと思っていても、嫌だと思っていてもやらなきゃいけないことがあるんだぜ? 引いちゃいけないときに引くのは臆病者のすることだ。そして、引いちゃいけない相手と思っている相手に情けをかけちゃあ、ダメだ。……すみれちゃん、俺を臆病者にしてくれるなよ?」

 

 ……矜持、プライド。

 そういったものは、今一つすみれには理解し難いものではあったが、今、目の前にいる人がそれを懸けて戦いに臨んでいるのだと理解する。

 

「……わかったよ、オジサン……すみれは、オジサンの勇気に敬意を持って、本気でやる」

 

 すみれは、戦闘になってしまうと我を忘れ、遊んでしまうことが多いが、この相手にそんな遊び半分の気持ちで相手をしてはダメだと改めて認識する。

 

 

「……それでいい」

 

 そう言った、副長がAK-47を構え、すみれは深く腰を落とした。

 

◇◆◇

 

 互いに隙を探すように睨み合い……そして、同時に動いた。

 

 当然と言えば、当然だが、引鉄を引くだけの副長の方が行動は早い。

 

 タタタッ、という銃声が響く。

 

 ……しかし。

 

 ダンッ、という地を蹴る音と、パンッ、という空気の弾ける音が響いて、銃声を打ち消した。

 

 一秒が何十秒、何分とも感じられる圧縮された時間の中で、副長はすみれが銃弾を弾く様にしながら、突撃してくる様子を見ていた。

 

(……強ぇなぁ……やっぱり、すみれちゃんはアンタの娘だよ、隊長。俺なんかじゃあ、傷の一つも付けられやしねぇ……)

 

 可憐で美しく、そして、強く育ったすみれを誇らしく思う。

 

 ぐちゃ、と腹部が潰れていく様子を感じながら、それでも副長は笑っていた。

 

 腹からせりあがってくる鉄臭い液体を、ごふっ、と吐き出しながら、もの凄いスピードで吹き飛ばされていく。視界の端には、長年連れ添った自分の下半身が見えた。

 

(……すみません……隊長……俺たちでは…………何も……できませんでした……)

 

 暗くなっていく視界の中、副長は敬愛する隊長に謝罪した。

 

◇◆◇

 

 副長の上半身を吹き飛ばしたすみれは、ふぅ、と大きく息を吐いた。

 

 結果を見れば、大した苦戦はしていない。

 

 だが、妙な疲労をすみれは感じていた。

 

(……そうかぁ……死を覚悟をした相手と戦うのってこんなに疲れるんだ)

 

 強敵との別れは悲しくもある。だが、今感じている疲労を心地よくも感じていた。

 

「……あぁ……オジサン、ごめん。すみれ、オジサンの名前、聞いてなかったよ。オジサンのお墓に何て彫ったらいいのか分からないや……でも、きっと、お花は供えるから、それで許してね……?」

 

 ……知らず、すみれの頬には一筋、雫が零れ落ちていた。

 

 

 

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