Roses fall fleetingly, violets bloom vividly 作:MIA
大崎の武器は一応AK-47である。
ただし、大幅にカスタマイズされたそれはすでに原型を留めていない。銃床部分は鋼鉄製の大斧のようになっており、銃身は長く、柄の代わりに使えるように革が巻いてあり、更に先端には銃剣が取り付けられている。
彼にとって、それは銃であると同時に、鈍器であり、槍であり、斧である。
多少雑に扱おうが、返り血で汚れようが、何ともなく動くAK-47は、そんな大幅な改造をされて、本来の銃以外の用途に相応に使い込まれていても、やはり動く。
だからこそ、大崎は自らの武器を気に入っている。
そして、今回
ぐぉん、とノバラの足を刈り取るように、高速に斧が振られた。
「おっと……!」
互いに間合いを詰めていたノバラと大崎ではあったが、大崎が斧を振るったことにより、ノバラはその攻撃範囲内に入る直前で、足を止める。
にぃ、と笑みを深めた大崎が、斧を切り返し、今度はノバラの腕を狙うように切り上げつつ、踏み込んでくる。
する、とノバラは後ろに下がりつつ、大崎の攻撃を透かし、その持ち手に向かって銃を放つ。
しかし、銃弾はその皮膚を貫くことはなく弾かれ、大崎自身には何の痛痒もない……どころか、衝撃すら感じていないように見えた。
(うーん……単純に硬いって、訳じゃない。銃弾が通らない程度には硬く、でも、それでいて、柔軟で頑丈……)
厄介だなぁ、とどこかのんびり考えながら、振り下ろしの斧を見送ったノバラではあったが、次の瞬間、大崎は斧の振り下ろしの威力を利用しつつ、その巨体に見合わない速度で蹴りを放つ。
ぐぉん、という凡そ人の蹴りで奏でるができない轟音が響き、その蹴りはノバラの胴体に吸い込まれた。
◇◆◇
「あぁっ!?」
せりが心配そうに声を上げる。
大崎の蹴りがノバラにヒットし、小柄なノバラの体は放物線を描くように何メートルも吹っ飛んでいるのだ。心配もする。
しかし、声を上げた一番の理由は驚きだろうか。
『性根更生会ノバラ組』において、ノバラとの模擬戦を幾度か行っているが、銃でも体術でも、ノバラへのクリーンヒットを成し遂げた者はいない。
避けるでもない、逸らされるでもない、ノバラにガードさせざるを得なかった、それだけでも一大成果なのに。
あの巨大豚のごとき相手があっさりとヒットさせた。
それに驚愕し……自分の中にあるわずかなプライドに傷をつけられたようにも感じていた。
「……心配ないよ」
そんなせりとは対照的に、すみれは平然とし、せりの肩を軽く叩いた。
「……すみれさん?」
そう言えば、自分より大騒ぎしそうな人が大人しくしていることに、せりは少し首を傾げた。
「クリーンヒットなんて私も数えるほどしかしたことないけど……それで五体満足でいるんだよ? あの程度の攻撃が効いている訳ないよ」
その言葉にせりは、うわぁ……、と若干引いた顔をした。
まともに受ければ、体が爆ぜるほどのすみれの膂力を受けて、今なお、ぴんぴんしているのだから、あの程度でどうにかなるとは確かに思えない。
「……ま、姐さんのことです。何か仕掛けてるんじゃあないですかね?」
◇◆◇
吹き飛ばされつつ、ノバラは考えていた。
(あー、本当に良かった。こっちに来たのが私で。千束はさすがにこれを受けたら、壊れちゃうもんねー)
くる、と空中で姿勢を整え、体重を感じさせない様子でふわりと着地する。
「えほ、えほっ……ふわぁ、砂が口に入った! じゃりじゃりする!」
軽く咳き込みながら、ノバラが顔を顰めている。
思っていた以上にダメージの無さそうなノバラの様子を見て、大崎は若干考える。
(……威力を殺されたか? 常人であれば死んでいてもおかしくない。それが、咳き込む程度くらしか効いていないとは……ついやり過ぎたかと心配したのだが……まぁ、生きていた方がこちらに都合が良い)
「……ふむ。せっかくの母体を壊してしまったかと思ったぞ。……確かにクリーンヒットしたはずだが、どういう理屈だ?」
その言葉に、ノバラは、くすり、と笑みを浮かべる。
やはり、大崎は傭兵上がりでしかなく、武術の心得に乏しいらしい。
虚を突き、相手を殺すことには特化していると言えなくもないし、彼は彼の特性を活かした戦い方をしているのではあろうが、それだけではノバラを理解することはできないだろう。
大崎の蹴りがノバラに触れる寸前、ノバラはその蹴りに合わせて、後ろに飛びつつ脱力し、その蹴り足に纏わりついて、その威力のまま、後ろに吹き飛んだのだ。
まるで、足からすっぽ抜けた靴のように。
「さぁて、どうしてでしょうねぇ? ま、アンタの特性は大体分かった……今度は私の番だよね?」
避けようと思えば、避けられるように戦闘を組み立てていただろう。
だが、、ノバラはあえて受けるように戦闘を組み立てた。
大崎の特殊な皮膚が、斬れるか否か。実際に触って確かめるために。
そして、確信する。
(小柄はともかく、『花鋏』なら問題なく斬れる!)
伊達に妖刀などと言われていない。その切味は一切の曇りなく、その皮膚も肉も骨も問題なく断ち切れる。
だが、ギリギリまで『花鋏』を使うと悟らせてはならない。
(……万が一、あの斧やら銃剣やらと斬りあったら欠けちゃうし……)
加えて、可能な限りの時間、千束だと思わせておきたい、という思惑もある。
(……やられたときに私が千束じゃないって分かったら、どんな顔をしてくれるかなぁ? 怒り? 羞恥? それとも、絶望? きっと、それは面白いものでしょう……? 生憎、私が本当にそう感じているのかは、もう分からないけどね)
ノバラのその感情はあるいは憎悪と言ってもいいのかもしれない。
……ただし、彼女はそれを認識しない。できない。
『
学習結果として、感情のようなものは確かにあるが、それは彼女本来のものではない。
彼女が本来の感情らしきものを発露させようとすればするほど、元の彼女の姿は薄れて行き、仮面を被って余所行きの姿をした最上ノバラという少女を象る。
(……アンタが実験を考えなければ、今の私はいない。
いかに妖刀『花鋏』と言えど、あれ程の相手に使い方を誤れば、斬れないどころか、折れてもおかしくない。
正しい使い方で、最良のタイミングで、最高の刀を使い、絶技で以って初めて斬れる。
……大崎蓮司はそうするに値する相手である。
ふぅ、と息を吐いたノバラは、集中を深めていった。