Roses fall fleetingly, violets bloom vividly   作:MIA

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200話超えちった


196 resolution

「……相変わらず容赦ないですね、ノバラ先輩……」

 

 すずながノバラたちと合流したときに発した言葉がこれである。

 

 狙撃手として移動しつつ戦っていた彼女は、すみれの行った虐殺現場を直接見ていないし、ノバラが大崎をダルマにした状態を確認したのもここに来てからだ。

 

 酸鼻極める光景に少しだけ顔を顰めるが、それは光景がアレなだけで、同情している訳ではない。

 

 ちらりと地面に横たわった大崎の姿を見れば、自決しないように轡が咥えさせられており、四肢を切り取った痕は、焼け爛れている。火薬の匂いと肉の焼け焦げるような匂いがしていることから考えれば、火薬に火を着けて傷口を焼くという、かなり荒っぽく止血したらしい。

 

「……焼灼止血法ですか? 血が止まるだけで応急にもなりませんけど」

「えぇ……? 何で私が汚豚の応急手当をしなきゃいけないのよ……とりあえず、引き渡すまでに生きてれば良いだけなんだから。触るのもキモいのに止血してあげただけマシでしょ?」

 

 本当に容赦ないなぁ、とすずなは苦笑する。

 ノバラがここまで嫌悪する敵も珍しい。良くも悪くも相手に興味がないノバラは、仮に必要があれば、敵であってもちゃんと応急処置をするのだが、この相手には全くそんな気はないらしい。

 

「んー……? でも、ちゃんと、豚さんを焼いたような香りがしてるよ?」

 

 何が『ちゃんと』なのかは分からないが、少なくともすみれの目には大崎は人間大の豚くらいにしか見えていない。

 

「すみれ、やめなさい。豚さんに失礼でしょ?」

 

 むぅむぅ、と何か横たわっているナニカが涙を流しながら抗議をしているようにも見えるが、すずなは努めてそれを無視することにした。

 

「……ノバラちゃん……すみれ、お腹空いた……」

 

 ぎゅるる、とお腹を鳴らして、すみれが切なそうな顔をしている。

 

 そのあまりの緊張感の無さに、ノバラも、はぁ、とため息をつく。

 しかし、まぁ、すみれの燃費の悪さは今に始まったことではない。

 

「……せり」

 

 ノバラがせりを促すと、心得た、とばかりにせりが背負っていたサッチェルバッグを開く。

 

「あ、はぁい! ……どうぞ、すみれさん!」

「わぁい! 肉巻きおにぎりだ!」

 

 コンビニで買ってきたらしいおにぎりが五個ほど。いずれも肉々しい肉巻きおにぎりである。

 

(……この状態で肉とは……)

 

 ひく、とすずなは顔を引き攣らせた。

 

 辺り一帯は血の海だし、臓物がそこかしこに散らばっている。

 何なら斬り取られた四肢もその辺に落ちているし、肉の焼けた香ばしい匂いもしている。

 

 ……疲れて、お腹が空いているはずなのに、すずなには全く食欲が湧く気配がなかった。

 

「……ノバラさんも何か食べます?」

「……水でいいわ……」

 

 ですよねー、と若干顔を青くしているせりが、甲斐甲斐しくノバラに水の入ったペットボトルを渡しつつ、濡れタオルでノバラに着いた汚れを拭いている。

 

(……すみれさんの作った虐殺現場には、さすがの先輩も食欲無くなるんだねぇ……)

 

「せり、私にも何か飲み物頂戴? 走ってばっかだから、喉が渇いちゃった」

「すずなはスポーツドリンクでいい? ちょっと、温くなっちゃったけど……」

「うん、それでいいよ。冷たいのは美味しいけど、体が冷えちゃうしね」

「せりとももちゃんも、水分は摂りなさい。口をゆすぐだけでも、ちょっとはマシよ」

 

 ノバラは水を口に含んで、軽くゆすいだ後、吐き出して、それから、ゆっくりと水を飲み始める。

 

「水も飲めなくなるほど軟な鍛え方はしてませんよ。ねぇ、せり嬢?」

「はい! 肉はダメでも、スイーツなら今でも食べられます!」

 

 ふんす、と気合を入れるせり。

 ……まぁ、確かに、死ぬほど走らせた後に、吐くまで食え、とばかりに食べさせられるのがいつもの訓練メニューではある。

 それに比べれば、多少、食欲は落ちていようとも、何かしら胃に入れることは問題ないのだろう。

 

「……無理して食べる必要まではないわよ。後でゆっくり味わって食べなさい」

 

 変に鍛えすぎたかなぁ、とノバラも少し反省する。

 苦笑気味のノバラの様子を見て、すずなは、くすくす、と笑い、せりは元気に手を挙げた。

 

「はぁい」

 

 せりとすももも水分補給をして、人心地ついた。

 すみれはまだもぐもぐと幸せそうにおにぎりを頬張っているので、そちらは置いておくとして、今後の方針を考えなければならない。

 

 すみれをせりとすずなに任せ、ノバラとすももは車の置いてある方へ移動を始め、すももは探るような視線でノバラを見る。

 

「……姐さん、あたしらはこれからどうするんで?」

「私とすみれは、車で千束たちとの合流するわ。あなたたちは、アレをちゃんとDAに渡しておいて。それまでは死なないようにお世話をよろしくね?」

「……死ななきゃいいんで?」

 

 その扱いから、一応は生かしておく必要があるが、死んだら死んだで別にいい、と言わんばかりのノバラの態度から、どうやらそれはおまけのようなものなのだろう、とすももは考える。

 

「引き渡したときに生きていればどうでもいいわ。私はもう興味もないし。お偉方はソレの頭の中身が欲しいんでしょうけど?」

「なるほど……承知しました……()()()()()()()()()、姐さん?」

 

 厳しい顔をして念を押してくるすももに、ノバラは、くすり、と笑みを向けた。

 

「ここから先は私とすみれの個人的な用事よ。あなたたちを付き合わせる訳にはいかないでしょ?」

 

 この先に待ち構えているのは、リリベルとの戦闘、護送対象者と千束、たきなとの合流だけのはず。

 だと言うのに、『個人的な用事』というノバラの言葉に、すももはきな臭いものを感じ取っていた。

 

「……あたしは姐さんが付いて来いというならどこまでもお供しやすが」

「……せりとすずなにはまだ早いわ。……ももちゃん、あとは任せた」

 

 ぽん、と肩を叩かれる。

 ……信頼されてはいるのだろう。

 だが、地獄まで付き合え、とは言われなかった。それを少しだけ寂しく思う。

 

「……………………へい」

 

 顔を俯かせて、かち、と眼鏡を位置を直す。

 

「……何でそんな心配そうな顔してるの?」

 

 くすっ、と笑うノバラの顔はいつもの様子ではあるが、すももはその顔の裏側にある想いを読み取ってしまった。

 

 進んで死ぬ気はないのだろう。

 

 ……だが、死を覚悟している。

 

 死を覚悟しているのはいつものことなのだろうが、その重みが大きく異なる。

 

 ノバラの強さからすれば、生きて帰ってくることが当たり前。

 

 しかし、相手を殺すために、自分が死ぬこと、殺されることを覚悟する。そう言った、礼儀としての覚悟と。

 

 十全を尽くして、死力を尽くしてなお、死ぬかもしれない、という恐れにも似た感情に加えて、死んでもやり切るといった覚悟。

 

 今のノバラの覚悟は後者のものだ、とすももは悟る。

 

「……姐さんっ! ……いいえ、何でも、ありやせん……あたしは、相馬すももは、姐さんに救われました。あたしは姐さんの冷たいようで温かいその心根に心底惚れています……だから、どうか……どうか! 無事にお帰りください!」

 

 すももは言いたい言葉と泣きそうになるのをどうにか堪え、ノバラに向かって頭を下げることしかできなかった。

 

「……心配しないで、ももちゃん。確かに、私たちの相手は強いよ? でも、私が何の勝算も無しに戦うわけがないでしょう? だから、待っていて。あなたと、せりと、すずなの三人で」

 

 にぃ、とノバラがいつもの悪戯っぽい笑みを浮かべるのを見て、すももは深々と頭下げる。

 

「……はいっ! ……無事の御帰還をお祈り申し上げますっ!」

 

 ほろり、と一滴。涙が零れた。

 

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