Roses fall fleetingly, violets bloom vividly   作:MIA

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198 Bon voyage! Farewell!

 ノバラたちが交戦状態に入る少し前。

 

『……間もなく、移送班とテロリストが交戦に入ります』

 

 オペレーターから告げられた言葉に、サクラは、にやり、と笑みを浮かべる。

 

「誘引状況はどうっスか?」

『主力は十分に引き付けられているかと』

 

 サクラの見ているタブレットには、元々待機していた人員の約6割以上が身柄の奪還に動いていることが分かる数値が表示されている。

 

「そんじゃ、予定通りっスねぇ。さすがは、ノバラ。時間ぴったしですよ?」

「……どっかのバカと違って、アイツは几帳面だからな」

「フキ先輩に似たんじゃないっスか?」

「……あのバカのダメなところが似たら困る。そりゃあ、ちゃんと躾けたさ」

「……先輩って教育ママみたいっすねぇ……」

「誰がママだ!?」

 

 うがぁ、とフキが叫ぶ前に、サクラは笑いながら耳を塞いでいたので、ノーダメージである。

 

「よぉし! お前ら、仕事の時間だぞー! お花摘みから帰ってきてない間抜けはいないだろうなぁ!?」

 

 そう言ったサクラの言葉に、各班は自分たちの状況を待機状態から臨戦状態にすることで返答する。

 各班のいつでも行けるよ(All Green)、の合図に、サクラはちょっとだけホッとする。

 

「……おーけー、全員、準備完了だ。……サクラ隊、総員、突入準備!」

 

 そう声を掛けながら、サクラも自身の銃を手に取る。

 

 ……早朝平日の秋葉原には人気が少ない。

 それに突入予定の雑居ビル周辺は、道路工事があるとして、こっそり通行制限されている。

 多少大きい音がしても工事の音と誰も気にも留めまい。

 

 全てが同じような擬装をしているとは限らないが、多かれ少なかれ似たようなものだろう。

 

「しっかし、いくらあたしと先輩がファーストとは言え、一番敵さんの多いところに二人だけとか酷くないっスか?」

「……そうか? 戦力割振りは楠木司令がやったんだろうが、適切だと思うぞ?」

「でも、二人だけって、あたしらと……ヒバナ、かやペアくらいっスよね? エリカは何かぞろぞろ連れてきましたし」

「ヒバナとかやは相模原。相手の人数的には少ないし、あの二人なら大丈夫だろう。エリカたちは横浜。ここに次いで人員が多く、武装はあっちの方が重装備だ。人数を多く連れて行くのは当然だろう? ……それとも、何だ? びびったのか?」

「まさか! 上等ですよ……見せ場があるのは良いことっス」

「……サクラ、お前は作戦状況見ながら、必要に応じて、他の班の判断も必要なんだからな? くれぐれも熱くなり過ぎて、忘れるなよ?」

「うへぇ~い、了解っス~……」

 

(……ファーストになったの素直に嬉しいんだけど。指揮とかやっぱガラじゃないんだよなぁ……ノバラのヤツはよくもまぁ淡々とやってやがるもんだ)

 

 なってみて分かるファーストの大変さ。

 

 今のところはフキの補佐もあって大過なく熟せているものの、これがいきなり預けられたらお手上げ状態であったことだろう。

 

 基本的に作戦立案は司令部が行うが、現場目線での修正も行うし、戦闘状態に入れば、司令部の判断を待つまでもなく判断することも必要だ。そして、それが間違っていたら、その責任は指揮官であるファーストのもの。

 加えて、平時であっても、部隊員や班員の訓練とその進捗の把握、必要に応じて健康状況の確認からお悩み相談まで。

 

 ……考えるだけで胃が痛い。

 

(……セカンドが一番楽しかったかもしれない……)

 

 フキが比較的自由にやらせてくれていた、というのもあるのだろうが、指揮官であるフキの命令に従って、暴れていれば済むことだったし、班員を指揮することも、正直、ざっくりとした命令を飛ばすだけで楽なものだった。

 

(……そりゃ、『行け』と『引け』くらいしか指揮しないんだから、楽に決まってるわ)

 

 正直、セカンドはタイミングを計る勘所の良ささえあれば、何とかなるレベルである。

 

 ファーストに求められる指揮能力とは大きく異なる。

 少なくとも戦術レベルで司令部の意図するところを理解している必要があるし、それをどのように命令系統に乗せるのかを考える必要もある。作戦の進捗状況を把握しながら、適切に戦力の再配置をすることも考えなければならないので、部下の能力把握、敵戦力の把握、適切な戦況予測など一作戦でもやることが多い。

 

 これらに加えて、自身の戦闘能力と戦果も期待されるのだから堪らない。

 

(……やっぱ、ノバラは頭おかしいわ……)

 

 苦手なのは狙撃くらいのもので、大体の任務は一人で熟せるし、作戦指揮どころか、司令部よりも的確に作戦立案(という名の悪だくみ)をしているくらいだ。サクラ自身と比べれば、その異常さが際立つ。

 

(……フキ先輩は『アレは例外』って言ってるものの、あたしは本当にファーストとしてやれてるのかね?)

 

 戦闘能力に関しては中々のものだ、と自負しているものの、作戦指揮にはあまり自信がない。フキの補佐に加え、エリカ、ヒバナといったチームメイトが補助をしてくれ、ノバラから引き継いだ隊員は、意外にも自分を慕ってくれているので、最低限は回せているのだろう、と思うが。

 

 ……周りが凄過ぎたせいか、今ひとつ自信が持てないのだ。

 

「……あー、あー、司令部。こちらサクラ隊。いつでも行けますよー。あとは御随意に」

 

 若干勢いのなくなったサクラの声に、フキは怪訝そうな顔をしているが、マイク越しの司令部には伝わるまい。

 

『……移送班は交戦に入った。では、これより、十三階段作戦(Operation Gallows)、第二作戦を開始する! 各員の奮戦を期待する!』

 

 楠木の作戦開始の宣言を聞いて、サクラたちは車を降りた。

 

◇◆◇

 

「……エリカお姉さま、司令部から作戦開始の通達です」

「そう? じゃあ、行きましょうか。予定通り、正面からは私とほか四人。残りは裏から回って。焦らなくていいから、じっくり確実に、ね?」

「「「「「はい、エリカお姉さま!」」」」」

 

(……かやちゃんが、私のことを『お姉さま』とか言うから、すっかりそれが定着しちゃったなぁ……)

 

 何でこうなったんだろう、とエリカはちょっとだけため息をつく。

 

「……どうかしましたか、エリカお姉さま?」

 

 そう言って、エリカの顔を覗くのは、元ノバラ組の中でも実力上位のため、エリカの班では、エリカを隊長とすれば、副隊長扱いされているサードの少女である。

 

「ああ、うん……何でもないよ? 正面は正直乱戦覚悟だから、命大事に、ね?」

「ふふ、乱戦は望むところです、エリカお姉さま。私たちを鍛えたのはノバラ前隊長殿ですよ? それはむしろ私たちの土俵です」

「頼もしいね! じゃあ、一番槍は任せちゃおうかな?」

「……望むところです! ご褒美は期待してもいいので?」

「う、うん? ま、まぁ、私のできることなら……?」

「……うふ、言質、取りましたよ、エリカお姉さま」

 

 にや、と悪戯っぽい笑みを浮かべるサードの少女は、なるほどノバラの教え子だなぁ、と思う強かさが見え隠れしている。

 

(……失敗したかも?)

 

 一体何をおねだりされるんだろう、と作戦の後のことを考えて、エリカは少しだけ顔を曇らせた。

 

◇◆◇

 

 どかん、とヒバナはドアを蹴破った。

 

「ごきげんよう! そして、さようなら!」

 

 部屋に押し入ったヒバナは、一切の躊躇なく、P90を撃ち放った。

 

(ひょわぁぁぁ!?)

 

 普段のヒバナは外見こそちょっと怖い感じであるものの、基本優しい先輩である。後輩たちの面倒見も良く、年下のリコリスたちからは慕われている……というか、懐かれている。

 

 見た目可愛らしいのに、どこか遠巻きにされているエリカとは正反対であった。まぁ、こちらはどちらかと言うと、畏れ多い、と思われているような感じであるが。

 

(……ヒバナ先輩って、()()()()怖い人だったのでありますなぁ……)

 

 かやは楽しそうに引鉄を引いているヒバナの様子をちらりと伺いなら、自分もヒバナが撃ち漏らしたり、殺しきれなかったりした者を淡々と始末していく。

 

「……先輩、この階はこれで終わりです」

 

 かやはタブレットで戦域情報を確認しつつ、ラジアータから送られてきた情報でもこの階に生存者がないことを確認する。

 

「よし。生き残りは?」

「ちゃんと全員始末したでありますよ?」

「それじゃ、順に潰していくか……他も順調かな?」

 

 ヒバナの質問を聞いて、他の戦況を確認する。

 

「んっと……エリカお姉さまのところが、ちょっと数が多いみたいでありますな。裏から入っているので直に挟撃開始して、形勢逆転するでしょうけども」

「ああ、そりゃ、作戦の範疇内だな。エリカのことだ、安全策だろう。正面で引き付けて、後ろから潰す。やろうと思えば正面からでも十分打倒できるんだろうが……サクラとフキのところは?」

 

 そう言えば、あっちも二人だったな、と思いながら、その戦況を見て、かやは固まった。

 

「………………………………もう終わっているようであります」

 

 最も敵人員が多かったにもかかわらず、殲滅済であるという事実に、かやは頬を引き攣らせた。

 ヒバナも相当に飛ばしていたのに、完全にそれを上回っていた。

 

(……ファースト二人の戦力って、()()なんでありますなぁ……)

 

 かやはちょっとだけ呆れてしまった。

 

「早っ! ……あぁ、そっか。サクラめ……戦闘しつつ、作戦指揮をどう執るのか楽しみにしてたのに、自分の方はサクッと終わらせて、あとは指揮に集中するつもりか。まぁ、ありっちゃありだけど、この斜め上の解決方法はノバラの影響かなぁ……?」

 

 ヒバナは苦笑しながら、軽く肩を竦める。

 

「ま、私らもさっさと終わらせようか。早く終わらせれば、自由時間も取れるだろう。何処かでお茶して帰ろうな?」

「はいっ!」

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