Roses fall fleetingly, violets bloom vividly 作:MIA
『できることとできないことがあるなら、できることをやってしまって、できないことは誰かにやらせてしまえばいいじゃない?』
サクラはノバラに、ファーストになることへの不安を相談したときの解決策がこの言葉である。
それでいいのか、とサクラは思ったが、実のところ、本当にそれでいいのだ、と実感し始めていた。
どうしても自分でやらなければならないことは別だが、誰かに任せてもいいものまで指揮官がやる必要はない。
実戦指揮は得意でも、作戦を考えるのが苦手であれば、優秀な参謀に作戦を考えさせればいいし、逆もまた然り。実戦指揮が苦手なら、最終判断はともかくとして、得意なものにある程度の裁量権を渡してやらせてしまえばいい。
一番最悪なのは、できもしないことをできると見栄を張った挙句、やっぱりできません、と直前に放り出されることだ。これをやられたら、上も下も大混乱するだろう。
指揮官に最終的に求められるのはこの割振りの匙加減である、というのがノバラの言葉の真意である。
『やることがたくさんあるなら、やれることからやってしまえばいいでしょ?』
これもまたノバラの言葉であるが、仕事をたくさん抱え込んでしまって、結果、処理仕切れずにパンクするなら、やれることから片付けてしまえば良いということであり、自分で抱えるものをできるだけ少なくして対応するように、との助言であった。
(……そうなんだよなぁ……あたし、バカだから何でもかんでも同時にやろうとするのは無理な話……つまり、今回の作戦もそういうことだろ?)
それ故にサクラは、今回の作戦を遂行するに当たり、優先順位を付けた。
まずは、自分に割り振られた任務を遂行すること。
……いつもの仕事であるし、難しいことは特にない。襲撃した先のテロリストを殲滅するだけの簡単なお仕事だ。
次いで、作戦全体の戦況を確認しつつ、必要な指示をすること。
……こちらはまだまだ勉強中だが、背伸びをする必要はない。フキに助言を貰いつつ、淡々と進めればいい。
このように順位付けをすれば、前者を早く終わらせれば、その分、後者に集中できるというのは自明のことである。
「……フキ先輩。ただ、テロリストを殲滅するのも面白くないんで、競争しませんか?」
にっ、と笑いながら、サクラがフキにそう持ち掛けると、フキは眉を寄せて、険しい顔をする。
「……はぁ? 遊びじゃないんだぞ、サクラ?」
真面目なフキであれば、そう答えるであろうことは、サクラも予想していたことではある。
だが、この提案はそれなり以上に利があるとサクラは確信していた。
「へへ……別に遊んでるって訳じゃないっスよ? あっしらの仕事が早く終われば、その分、他の連中の進捗確認し易いじゃないですか。あっしだって、サードをわんさか連れてるときだったら、こんなこと言いませんよ。……でも、今回の現場はあっしとフキ先輩の二人きりです。それなら最速で終わらせてしまった方がいいでしょ?」
フキは少しだけ考える仕草をしながら、サクラの提案を考える。
(……普通ならチームの安全を確保するために慎重に行動をする必要があるが、私とサクラの二人であれば、そんな心配は不要ってことか。加えて大規模作戦の指揮を執りながら、というのは、私でも持て余しかねない。経験の少ないサクラであれば余計に、か。そう考えれば、速攻で終わらせる、というのは悪くない。あるいは、楠木司令の戦力配分にはそういう意味もあるのかもしれないな……思ったよりも状況の分析が的確だな)
「……乗った。……負けた方は何をする?」
ふ、と後輩の成長を内心で喜びながら、フキは笑みを浮かべた。
まさかの賭けの提案に、サクラは一瞬目を丸くするが、すぐに楽しそうな笑みを浮かべる。
「お? 乗り気っスね、先輩! そんじゃあ、まぁ、リコリコのスイーツ食べ放題辺りでどうですか?」
「……いいだろう、手加減しないぞ、サクラ?」
「どっちの方です?」
サクラは両手を頭の後ろで組みながら、愉快そうにフキの方を見ると、銃を構えたフキが、にやり、と笑った。
「……両方だよ! お先!」
そう言ったフキが駆け出して、建物の中に突入した。
……真面目な先輩が賭けを持ち掛けてくるとは思わなかったので、若干油断していた感は否めない。
しかし、まさかそんな抜け駆けをされるとは思いもしなかったサクラは一瞬だけ呆けてそれを見送ってしまった。
「……あぁ!? ずっこい!?」
サクラは慌ててその背中を追いかけた。
◇◆◇
屋内で戦闘をするとき。
相手が正面にいる限り、射線はある程度限定される。
また、室内に飛び込んだとき。
相手が迎撃をしようとするなら、基本的に入口側に向かって射線が集中される。
適当に銃弾をばら撒くならともかく、効果的に相手を止めようとするなら、確実に当たる場所を選ぶことになるので、射線が集中するのは腰から上、大体地面から一メートルからせいぜいで一メートル六十センチ程度になるだろう。もちろん、時と場合、武装にもよるだろうが。
千束であれば、問題なく避けるかもしれないし、ノバラであれば、当たらない位置を上手く使って室内に突入するだろう。
人外の二人に対し、そんなテクニックのないサクラは、女子としては高い身体能力を活かして、先に殺した見張りを先に室内に蹴りこんだ。
ダダダッ、パンパン、という銃声が終わったタイミングを見計らって、悠々と室内に入り、銃声の方向から推測した、敵のいるであろう場所に銃弾を撃ち放っていく。
(……四人、っと)
このような方法を取れば、中に何人いて、どこにいるか大体分かる、というノバラの入れ知恵でもある。
……延空木事件以前であれば、もう少し撃ち合いをする必要もあったのだろうが、強敵と戦ったせいか、それともノバラたちとの訓練の成果か、特に問題を感じなくなっていた。
「……これで終わりか? 先輩の入ったフロアはもう銃声もしていないみたいだし……」
サクラは拍子抜けと言っても良いくらいに楽に感じていた。
(……これなら、ウチの連中との想定訓練の方がきっついな)
テロリストとは言え、プロ寄りのアマというべき連中なので、殻付きひよことは言え、プロであるリコリスの方が手強いのは当たり前である。
更に言えば、その想定訓練は、練習狂いノバラのプロデュースなので余計に。
がしがし、とサクラは頭を掻きながら、ふぅ、とため息をついた。
(賭けはあたしの負けかなぁ……? まぁ、フキ先輩に奢るのは、日ごろの感謝も含めれば全然ありだし、想定の範囲内ってところかな……ああ、慰労名目にすれば、経費で落とせるかも? だとすると、貸し切りにして、ウチの奴ら全員連れてった方がいいか。ノバラも名目を付ければ、経費で落とせるって言ってたしな)
血と硝煙が未だ残るその場所で、サクラは既に頭を切り替えて、慰労会をどうするべきかを考え始めていた。
そんなことを考えながら、車まで戻ってくると、フキは汗すら掻いた様子もなく、座席に座って涼しい顔をしていた。
「さっすが先輩! 早いっスね! スコアどんくらいですか?」
「……十五」
「うぇ……そっちの方が多いんスか……あっし、十四っス」
受け持ち分を早く終えられただけでなく、人数もサクラよりフキの方が多かった。
「……私に勝とうだなんて、まだまだ早ぇよ。……ま、今回の着眼点は悪くない。おかげで他の戦況をゆっくり確認して指揮が執れる」
「どっかヤバいところあるんスか?」
「……エリカのところが、正面で膠着状態だが、これは狙ってやっているヤツだ。他も特に問題ない」
「それじゃあ、こっちは問題なく終わりそうっスね」
からから、とサクラが笑みを浮かべている。
確かに、こちらの方は問題なさそうだが、とフキは少し悩まし気な顔をする。
「……問題はノバラたちの方だな」
「そっちは何か情報来てます?」
「……いや、情報規制されている。私らがあちらの状況が分かるのは全てが終わってからになるだろう。……ちょっときな臭い感じはするが、さすがにどうもしようがないしな」
「ふーん? まぁ、ノバラと千束さんならどうとでもなるでしょ?」
(……そうだといいがな……)
楽観的なサクラに対し、フキは言いようのない胸騒ぎを感じていた。
ノバラちゃんの言葉は、筆者の仕事に対するスタンスでもある。