Roses fall fleetingly, violets bloom vividly   作:MIA

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 利根川手前のPA。

 

 誰もいないPA。建物を背にするようにして二台の車が停まった。

 

「くぁ~っ! やっぱりちょっと物足りなーい!」

 

 ちょっと高めの座席からノバラが、ぴょんこ、と飛び降りて、背伸びをしながらそう叫んだ。

 

「飛ばして遊べただけ、アンタはマシでしょ? 私らは乗ってるだけだよ? ……たきなは誤射ったけど」

「……早とちりして警戒したのって、私より千束が先ですよね!?」

「撃つ判断したのはたきなじゃん!」

 

 窓を開けてその様子を見ていた千束が、にひ、と笑ってたきなを見ると、たきなが抗議するように叫んでいた。

 

「二人ともいちゃいちゃしないで、私にはぐとなでなでをぷり~ず!」

 

 えへ、と満面の笑顔をしたノバラが両手を広げたハグ待ちポーズで千束たちを見ている。

 

「……ソレは気にせんでもいいぞー。手錠も捕縄も意味ないし、どうせ逃げる気なんてないし。……()()()()()()()()()()()?」

 

 楓の言葉に、千束は苦笑しながら、ドアを開けようとしていて、気づいた様子がなかったが、たきなが、ちらりと御形を伺うと、すみれの名前に御形が反応しているように見えた。

 

(……? 楓司令の言葉に、この人の反応は……?)

 

 怪訝に思うものの、たきなも千束に促されて、車を降りる。

 

 ノバラの後ろ辺りに、すみれが、とてとて、と歩いているのが見える。

 

「千束ちゃん、たきなちゃん、お疲れ様ー」

 

 すみれは千束とたきなを認めると、元気良く手を振っている。

 

「おー、すみれ、お疲れさん! よしよし、ちゃんと髪とか整えてるな! …………ちょぉぉぉっと赤黒いのが残ってるけど……」

 

 千束がすみれに駆け寄ると、ケガがないか確認しつつ、身だしなみをチェックしていた。

 服は着替えたと言っていたから制服は綺麗なものだが、すみれの長い髪に血の跡を発見した千束は少しだけ、頬を引き攣らせた。

 

「さすがに移動中に全部落とすのは無理だよ、千束ちゃん……これでも頑張って拭ったんだよ? ……せりちゃんが」

「いや、自分でやってないのかよ!?」

 

 てへ、と笑うすみれに千束が遠慮なく突っ込んでいる。

 

(……頭から血を被ったんでしょうね……)

 

 たきなも血を見るのは慣れているが、好んで見たいものではないし、ましてや被りたいとも思わない。血を被ることに忌避感のなさそうなすみれの様子から、普段からそうなのだと思うとあまり気持ちが良いものではない。

 

 ……そんな風に思っていたからだろうか。たきなはすみれの姿に違和感を覚える。

 

「……ケガが無さそうで何よりです、すみれ」

「うん、ありがとう、たきなちゃん?」

 

 じっ、とすみれの様子を見るたきなに、すみれは、きょとん、とした様子で困惑気味に微笑みながら少しだけ首を傾げる。

 

(……いつもどおり、わんこで可愛いすみれですね……でも、何でしょう? ここまで出かかっているのに……)

 

「おーい、すみれー! 早く、こっちゃ来ーい!」

「はぁい!」

 

 ドアが開いたままの車から、楓の催促の声。

 すみれが、ぱたぱた、と走って、たきなとすれ違う。

 

 ……錆びた鉄の匂がした。

 

◇◆◇

 

 ハグ待ちのままのノバラを千束は思いっきり抱きしめる。

 

 ぽかぽかと温かい体温。ノバラがここにいる、ということを改めて感じる。

 

 ……普段と違って、血と硝煙の匂いがしているのは台無しだが。

 

「……あれ? そういや、着替えたって言ってたけど、今度はそっちなの?」

 

 千束はノバラが翡翠色の制服に着替えていたことに気づいた。

 

「ふふ。私はこっちの制服の方がおきにだからね!」

 

 そう言ってノバラは笑うが、千束はノバラが囮を全うするために何か小細工をしたんだろうな、と考える。

 

 ……妹に良いようにされたのちょっと悔しい。

 

「……また悪だくみしてやがったな、子狸め! うりうり!」

「ひゃう!? 不意打ちはだめぇ!? や、やめてぇぇぇ!? そこはらめぇぇぇ!?」

 

 抱きしめた状態から、千束が脇の辺りを擽ると、ノバラは大げさに嬌声を上げながら、身を捩る。

 

 仲良さ気な二人の様子にたきなは思わず苦笑する。

 

 千束にがっちりホールドされつつ擽られているノバラは、力が入らなくて抜けられないのか、それとも抜け出すつもりがないのか、たきなには定かではないが、気にせずにノバラを後ろから包み込んだ。

 目に涙を浮かべながら、嬌声を上げていたノバラが、下からたきなを見上げて、にこ、と微笑む。

 

「……千束、そろそろ止めてあげてください。ノバラだって戦闘終わりですよ? もうちょっと労わってください」

 

 よしよし、とたきながノバラの頭を撫でると、ノバラは、えへぇ、とだらしない顔をする。千束もそんな様子に苦笑しながら、正面からやんわりとノバラを包み、たきなと同様にゆっくりとノバラの頭を撫でる。

 

 ……甘やかし姉二人によるサンドイッチである。

 

 へちょ、と顔をゆるゆるに緩めているノバラは、普段の凛々しい感じと異なっており、正直、人様にお見せできる状態ではない。

 加えて、腰が抜けたように全身の力が抜けたノバラを、千束がその柔らかいクッションで受け止めつつ、後ろからたきなが腰を抱くようにしてノバラを支える。

 

「……ノバラ、大丈夫ですか!?」

 

 あまりの急激な脱力具合にたきなが思わず心配するが、ノバラはどこか、ぽぅっ、とした幸せそうな表情であり、その顔を確認した千束は苦笑気味だった。

 

「お、久しぶりにオーバーヒートしたな」

「……オ、オーバーヒート……?」

「あはは。この子は、ほら、感情表現得意じゃないからさ、幸せ過ぎるとどうしたらいいか分からなくなって、処理落ちすんのよ……っと!」

 

 くたっ、としているノバラを千束がお姫様抱っこで抱える。

 

「あ、千束、私が……」

「いいって、いいって! これは私の特権!」

 

 基本不愛想で、仮面を張り付けたような笑顔の多い妹の、本当に幸せそうな顔。

 間近で見られるのは、姉としての特権だ。

 それに比べれば、抱き上げることくらい何ということもない。

 

「……車に行こうか、たきな」

「……はい」

 

 二人でノバラの顔を覗き込んで、くす、と笑みを浮かべあった。

 

◇◆◇

 

 車内の空気は微妙だった。

 

 すみれは、後部座席にいる御形に全く興味を示していないようであり、楓と話している様子であるが、楓はそれに楽しそうに相槌を打ちながらも、時折、剣呑な目で御形を睨んでいる。

 

 最終的に御形は楓に最初に言われたとおり、口を開かないことにしたらしい。額に汗を浮かべながら、瞑目している……しているが、時折、ちらり、と楓とすみれの様子を伺っているようである。

 

 千束はノバラをすみにもたれかかる様に座らせると、未だ、ほへーっ、と宙を見つめているような状態のノバラに苦笑する。

 

「すみれ、ちょっとノバラのこと頼むわ……」

「はぁい。んふっ、ノバラちゃん、可愛い!」

 

 珍しくすみれがノバラを撫でまわしている。普段は専ら逆のことが多いが、見た目はこちらの方が自然だった。

 

「おいおい、千束~……ノバラをこんな状態にして、大丈夫か? 奴さんたちはもう来ているみたいだぞ?」

 

 にやにや、と楓が面白そうに笑っている。

 

 その興味は、『英雄(must heroine)』錦木千束と『片翼(heroine's wing)』井ノ上たきなの二人が圧倒的戦力差のあるリリベルを相手にどう対処するか。これに尽きる。

 

 単純な殺し合いであれば負けはない。だが、あちらは生死を問わないが、こちらは殺してはならないというある意味ハンデ戦。

 このハンディキャップがどの程度影響するかは、やってみないことには分からない。

 

「あははー、楓さん……私たちを見くびらないでください」

 

 ……しかし、千束は不敵に笑う。

 

「……私とたきなが組めば、最強ですよ?」

 




シリアス?が続いたので、次回はちょっと息抜き番外です。
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