Roses fall fleetingly, violets bloom vividly 作:MIA
「さぁて、威勢の良いこと言っちゃったけど、どうやって迎撃しようかね?」
たはは、と笑いながら、千束は大きく伸びをしながら、準備運動を始めていた。
単純に追い返すだけなら、自分とたきながいれば何とでもなるだろうと思っていたが、よくよく考えてみたら、御形を奪還されないようにしなければならない、という条件もあった。
……正直、ちょっと面倒臭い。
「……考えてなかったんですね、千束?」
じとっ、とたきなが見つめれば、千束は明後日の方を見ながら答える。
「いや、ほら。強く当たって、あとは流れで、みたいな?」
「……それで何とかなるのは、千束とかノバラとかすみれとかの人外代表だけです」
八百長試合じゃあるまいし、とたきなは呆れ顔である。
「……そんじゃどうする?」
千束が腕組みをして少し考える仕草をすると、たきなは、何か考えがあるのか、にや、と笑っている。
「……アレを使います」
たきなが空を指さしたので、千束もその方向を見ると、ドローンが何機か飛んでいるのが分かる。
ちょっと遠いが見覚えのある機体であった。
「クルミかぁ……え、何時からいたの?」
まぁ、確かにいること自体は全然おかしくない。
自分の興味を満たすのを優先するのが、クルミであるし、極秘任務だと言っても、何だかんだ情報を入手しているであろうことは想像に難くない。
しかし、大して朝に強くもないクルミがこの時間にドローンを飛ばしているのは意外だし、何より東京からここまで普通に飛ばしてきたとも考えにくいのだが。
「……? ここに着いたときはもういましたよ?」
逆に言えば、それまでたきなは見かけなかった、ということでもある。
(……つまりは、ここに来るって分かってたってことか。また、ラジアータに仕掛けたのか……? ……いや、意外にノバラに普通に教えられていた可能性もあるな。クルミが自分の意志でやってるのか、それともノバラから唆されたのか。前者ならいいが、後者ならクルミも警戒しなきゃならないことになる……それだとちょぉっとしんどいな)
千束としてはクルミを気に入っているし、クルミもリコリコの面々を大事に思っているのは良く分かる。だが、ビジネスの話だとしたら、ある程度の割り切りはあり得る。
……つまりは敵となる可能性。千束はそれを危惧していた。
「……クルミ、戦域情報を送ってください」
クルミに電話を掛けたたきなが、ドローンの方を見上げながら、そう言うと、苦笑気味のクルミの声が聞こえる。
『……何だ、もう気づいたのか? 気づかれないようになるべく上空を飛ばしていたのに』
「いると思って探せば、すぐに見つけられます」
たきなはクルミなら何らかの方法で、こちらの様子を見ているだろうと思ってのことだ。そして、映像を確認したいなら、方法は限られてくる。最も使いやすい方法としては、ドローンだろう、と思って空を見ていたからすぐに気づいたのである。
(……ドローンもおそらく最初からここに設置していた可能性が高いです。他にも何か仕掛けていそうですが……さすがにあまり思い浮かびませんね。防犯カメラの映像くらいは手の内でしょうが……)
『やれやれ……相手はリリベルか? ……五人組、四班。ちょっと多くないか?』
スマホの画面上、赤い光点が示される。北と南から二班ずつが迫っている。
千束はそれを、ちらり、と見て考える。
……千束が想定した人員よりは少ない。相手側が普通のリコリスを相手にするという前提で臨んでいるのだとしたら、過剰戦力とも言えるが、重要度から考えて、リコリス側だってそれなりの戦力を出してくる、と考えるのが普通である。
加えて、何やらリリベルに恨みがありそうな御形が素直に奪還されるとも思えない。テロリスト側には、元部下がいたらしいので、こちらであれば素直に着いていった可能性もあるが。
「中途半端な数だねぇ……あの人を
「……千束、違います」
千束がたきなの声にそちらの方を向いて見れば、たきなは薄っすらと笑っていた。
「……う、うん?」
(……あれ? 何か、これ……怒ってない?)
「私と千束がいて、ノバラもすみれもいるのに、その戦力……相手の指揮官はただの阿呆か、こちらを舐めている、ということです。……どっちだと思います?」
「……わ、私は前者だと思うけどな~?」
たきなはとても素敵な笑顔をしているが、コメカミには青筋が浮かんでいた。
つまり、たきなの判断は後者である、ということだ。
たきなはあまり軽く見られることは好まない。
千束とノバラだったら、油断してくれてらっき~、と悪い笑顔を浮かべるところだが、たきなはやるなら全力で、と言った感じなので、苛ついているのも理解はできるのだが。
「……あの人たち、延空木事件のときも、こちらを殺そうとしていましたよね……?」
「いや、まぁ、そうかもだけど……ほら、アイツらもこういう仕事柄、上の指示には逆らえないじゃん?」
「ええ、それは理解しています……ですが、その上は、少々理解が足りていないようですので…………潰していいですよね?」
静かに怒り狂っているらしいたきなは、物騒な言葉とは正反対に、千束が思わず顔を赤くしてしまうほどの、満面の笑みを浮かべていた。
……逆にそれがゾッとするほど恐ろしいのだが。
「殺しちゃダメだよ!?」
「潰すだけです」
「殺しちゃいそうなんだけど!?」
「じゃあ、へし折ります」
「プライドとか鼻っ柱とかだよね!? 間違っても首とか背骨はダメだからね!?」
「ええ、分かってます……ちゃんと優しくしてあげますよ? 二度と
(たきなの殺意がやたら高いんだけど!? 何で!?)
あわあわ、と千束がどうにかたきなを落ち着かせようとする。
そして、そんな慌てている様子の千束にたきなが、くす、と笑みを浮かべる。
「……リリベルには、個人的にちょっと物申したいところもありますし」
「たきな、そんなに接点ないでしょお!?」
「はい。私はありませんけど…………確か、昔、千束を殺しに来たんですよね?」
「……へ? ああ、あったねぇ、そんなことも……」
確かに、初めてたきなが千束の部屋に来た時、そんな話をした記憶はある。
女性の寝所に無許可で侵入してきたことは千束も文句の一つでも言いたいところではあったが、彼らも仕事である。やましい気持ちがあるのだったらまだしも、純粋な仕事として乗り込んできた彼らに対して、千束としては、ご苦労さん、と一言労ってやりたいくらいであった。
まぁ、適当にボコにして、窓から追い出していたら、いつの間にか方針転換したのかぱったり来なくなってしまったが。
そんな訳で千束としては、今更どうこう言うつもりはなかったのだが……。
「……許せません……」
「……はい?」
「……こんなに可愛い千束を……私の可愛い千束を殺そうとしたとか……ゆ・る・せ・ま・せ・ん!!!!」
(……そっちかぁ……!? ……あれは、まぁ……うん。リリベルが悪いよね!)
愛されてるなぁ、と千束は頬を染めながら、照れ笑いをした。