Roses fall fleetingly, violets bloom vividly   作:MIA

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206 They begin their combat action

「……それじゃあ、始めようか? 戦闘開始(Open combat)!」

 

 そう宣言すると、千束は身を隠していたノバラたちの乗っていた車両の陰から身を曝け出す。

 

 リリベルたちはまだ木陰などに身を隠しているが、既に射程圏内にいる。

 

 だからこそ、無防備に姿を晒した千束に、困惑した様子が広がる。

 

 ……本当に撃っていいのか?

 

 もとよりリコリスとリリベルは敵対している訳ではない。本来あるのは役割分担だけのはずである。

 

 だが、権力や利権と言った大人の都合がそれを許さない。

 もちろん、真っ当な者もいる。しかし、そういった者でさえ、内部を正そうとすれば、結局のところ権力争いに足を突っ込むことになる。

 そうなってしまえば同じこと。振り回されるのは現場の人間である。

 

 そして、リコリスもリリベルも人間だ。機械ではない。

 

 明確な敵対を行動を取っていないリコリスが一人。自分たちの存在を認識していながら姿を現した。

 

 リリベルたちは、今回の作戦にリコリスが護衛に付いていることは聞いているだろうが、それが誰かも、人数も分からない。知っているとしてもごく少数だろう。

 

 彼らも職分を全うするために存在しているのであって、好んで殺人をしようと思っている訳ではない。

 まして、自分たちと同じような境遇のリコリスである。積極的に撃ちたいと思うはずもない。

 

 だからこそ、判断に迷う。

 

 今、目の前にいる、その赤い制服を着た少女が敵か、味方か。

 

 ……分からなければ、撃てない。

 

「……ちっ!」

 

 しかし、赤い戦闘服を着たリリベルが千束に向かってARX160を連射する。

 

(……情報共有ができてないねぇ。してないのか、できないのか、知らんけど。とりあえず撃ってきたのが一人とか助かるぅ!)

 

 飽和射撃をされれば、さすがの千束も物陰に隠れるほかないが、一人が撃ってきただけなら避けきれる。

 

 隊長クラスには千束が護衛に付いていることが知らされていたようだ。だからこそ、迷わず撃ってきた。

 

 ……しかし、それは悪手だ。

 

 わずかな逡巡。驚きによる硬直。それは明確な隙になる。

 

 ……それを自分の相棒は見逃さない。…………ついでに手癖の悪い妹は何か仕掛けるだろう。

 

 千束はそう信じている。だからこそ、後ろの様子を気にすることなく、千束は銃弾の雨の中、前に進む。

 

「……ノバラ!」

了解(Aye-aye)。……それじゃあ、後、よろしくねー」

 

 たきなの呼びかけにノバラが素早く反応して、リリベルたちがいる方向に何かを投げ込み、自分は移動を開始した。

 

(……げぇ!?)

 

 後方から投擲されたものだから、千束にもチラッとしか見えていないが、そのシルエットは手榴弾である。

 スタングレネードでもスモークグレネードでもない。完全な殺傷兵器としての手榴弾である。

 

 通常だったらリリベルたちが死にかねないし、何なら千束にも被害がある。

 

 ……しかし、リリベルを殺してはマズいと一番分かっているのはノバラである。

 

 今すぐ回れ右をしたい気持ちを抑えて、千束はなおも前に進む。

 

 手榴弾に慌てて、退避を始めるリリベルの姿が見える。

 

(……あー、あー……ダメダメ……遮蔽物から出ちゃあ……)

 

 パンパンパンパン、とたきなの銃の音がした。

 

(……たきなの獲物だよ)

 

 銃声と同じく、四発着弾し、両肩を撃ち抜かれたリリベルが二人、苦悶の声を上げて、地面に倒れる。

 

 ……それから、ぽふん、と間抜けな音がした。

 

 どうやら、ノバラの投げた手榴弾が発生源のようだ。

 

(…………性格悪ぅ! 普通、ここでオモチャを使うかっ!?)

 

 殺傷能力のあるものではないだろう、と千束も予想はし、せいぜいで訓練用の模擬弾辺りか、と考えていたのだが、完全なオモチャレベルの代物である。盛大な破裂音がする訳でも、大きく煙が出るのでもなかった。

 

 ……リリベルもまさか、戦場でオモチャが使われるとは思っていなかったであろう。

 

 これは、ノバラの『アンタ(リリベル)たちと真面目に戦ってあげない』というメッセージも含まれているだろう。もしかしたら、『オモチャの方がお似合い』という意味かもしれないが。

 

 どちらにせよ、リリベルを小馬鹿にして、ぷーくすくす、と笑う気だろう。

 

 ……まぁ、千束も人のことは言えない。

 

 今日は実弾を使うつもりで来た。しかし、彼らには、実弾を使うまでもない。

 

「よっ……と!」

 

 一気に距離を縮めた千束は木陰に隠れているリリベルの横に来ると、腰だめに構えた銃の引金を引く。

 

 ぱぁん、という音と赤い染料が舞う。

 

「……くっ!」

 

 近くにいたリリベルが応戦する。

 ダダダダッ、と連射するも、ふわり、と動いた千束の影をなぞるだけ。

 

「はい、お疲れさん!」

 

 千束は、にや、と笑って額に銃口を向けると、そのまま引金を引いた。

 

◇◆◇

 

(……あの調子なら、千束たちは問題ないね)

 

 気配を隠しながら、ノバラは走る。

 

 狙いは前線に来ていたリリベルではない。予備部隊と後方待機中であろう指揮官だ。

 ノバラは南側に展開していた部隊をすり抜けその後方に到達する。

 

(……私たちみたいなバスとは違って輸送トラックか。それと機材車……いや、乗換用の護送車かも? まぁ、私としては、邪魔されないように両方潰すしかないわけだけど……どうしようかな?)

 

 そう考えている間に、予備部隊が準備を始めている。

 戦力の逐次投入、と言うよりは、彼らは本来後方支援の担当であり、身柄を奪還した後に動くべき人員だったはずだ。

 

 しかし、それを投入せざるを得ない状態であるということ。

 

 即ち千束たちが派手にやってる、ということの証左であると同時に。

 

(……形振り構わず、ってところか。奪還目的の連中と思ってたけど……こりゃ、別に殺しても構わないっていう指示かな? 予め予想していたとおり、大っぴらな作戦行動じゃないから、本来の司令室は使えていないんだろうし……だとすると、司令官クラスが直接ここにいる可能性は、やはり高い)

 

 リリベルはその運用上、ファーストクラスの現場指揮官の他に、何らかの判断が必要となった場合、直接指揮を執るために司令官クラス……そこまでいかなくても、ある程度の裁量権を持っているものが待機していることは多い。特に非正規戦は。

 そして、今回の作戦行動は、上層部の意見を受けてのこととは言え、リコリス側とは違い、リリベル側は完全な非正規戦扱いだろう。

 

(ま、普通、お偉いさん方が襲撃されることなんてまずないからね。良い機会だし、たぁっぷり、痛い目に合わせてあげようっと☆)

 

 まずもって、ノバラの狙いは予備部隊の五人。これに加勢を許して、千束たちに負担を掛ける訳にはいかない。

 

(……後のことを考えれば、騒がれる訳にはいかない。これに殺しちゃいけない、となると、ちょっと大変だなぁ……)

 

 殺しありなら、楽勝だが、殺してはならないとなると中々難しい。

 

 ……だが、やってやれないこともない。

 

 ノバラは限界まで気配を消して。ゆっくりと予備部隊に忍び寄っていく。

 

 そして……。まずは、指揮官、とばかりに、赤い制服を着たリリベルの顎を思いっきり蹴り上げる。

 指揮官からすれば、いきなり女子が現れてきたようにしか分からなかった。

 そして、周りの判断が一瞬の遅れている。

 ノバラがそれを見逃す訳はない。

 

(……騒がれる前に全員潰す!!)

 

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