Roses fall fleetingly, violets bloom vividly 作:MIA
たきながノバラに声を掛けたとき、彼女は雑に取り出した手榴弾をリリベルたちがいるであろう場所に正確に投擲した。
ここで本物を使う訳がないと信じていたたきなは、ノバラが後で気配を消して移動するのを感じながら、抜いたM&PとM1911で射撃を始める。
たきなが二丁拳銃を練習していたのは、千束対策の一面もあるが、同類に遭遇したときに戦えるようにするためだ。更には、二丁拳銃とすることで、正確無比な彼女の射撃技能から、単純に弾幕を張る、という効果ではなく、単純に攻撃能力を二倍にすることに成功している。
右のM&P、左のM1911。
同時に別の狙いを付けたとしても、射程圏内ならば、狙ったところへの命中率は、誤差、半径五センチメートル以内でほぼ百パーセント。
……秘かなたきなの自慢でもある。
パンパンパンパン、と右と左をそれぞれ二連射。
ノバラの悪戯に思わず木陰から身を晒した間抜けな二人のリリベルの両肩を打ち抜く。
視界の中では、千束がそれを見て、近接戦を仕掛けるのが見える。
おそらくは組織立っていたリリベルも思わぬ反撃に狼狽えている様子が良く分かる。
一つは殺しに来るとは思わなかったのに、手榴弾を投げ入れられたこと(オモチャだが)。
もう一つは、千束が銃弾を避けたこと。そして、これを見て、相手が錦木千束だと認識したこと。
加えて言えば、自惚れかもしれないが、身を晒したリリベルが正確に両肩を撃ち抜かれたこと。
これらの要素が絡み合って、集団での戦闘に慣れているハズのリリベルたちが浮足立って、結果、指揮系統が乱れ、只中に踏み込んだ千束との乱戦という状況になっている。
(……隊列を組んでじりじり迫られるよりも理想的ですね。乱戦なら私たちの舞台です)
千束がほぼ一瞬で二人、リリベルを撃ち抜いた様子が見える。
そして、千束に対して応戦しようと身を動かせば、当然、たきなの銃に対して無防備になる。
パンパンパンパン!
千束の背後にいる二人を撃ち抜く。千束はそれを分かっていたかのように、自らの後にいるリリベルには構わず、自分に応戦して銃を放つリリベルに近づいて、するり、と銃弾を躱すと、胴体と顔面に向けて銃を放った。
リリベルとしても、座してただやられる訳にもいかない。
たきながバックアップしていることに気づくと、こちらの方にも銃を向けてくるが。
(……よそ見は危ないですよ)
パァンパァン、と千束の放った銃声が聞こえる。
自分が千束を狙おうとする相手を見逃さないように、千束も自分を狙おうとする相手を見逃さない。自分たちの射程の範囲内であれば、互いが確実にフォローできると信じている。
『……私とたきなが組めば、最強ですよ?』
そう言った千束の言葉の意味が良く分かる。
千束の弱点、見えなければ、銃弾を避けるという芸当はできない。
たきなの弱点、身体能力的には一般人故に、銃弾の雨の中で対抗射撃する術が少ない。
しかし、たきなが千束の見えていない後方の敵を始末して、千束がたきなを狙っている敵を倒せば、互いの弱点無くなる。
特に打ち合わせをしている訳ではない。
互いが互いの最適を探した結果、同じ結論に至っている。
くすり、とたきなは微笑む。
愛しい恋人であり、頼もしい相棒である千束と同じ思考を共有していることが嬉しい。
一秒でも早く千束の体温を感じたい、とそう思った。
(……なら、早く終わらせないとですね?)
たきなは、再び狙いを定めて、引金を引いた。
◇◆◇
千束は不思議と怖さを感じていない。
一対一ならば、元々さほど怖さを感じない。だが、乱戦となれば、前後左右、多くに注意を割かなければならない。
そして、どうにもならないのは後方だ。
実際に避けられるかどうかは置いておくとして、何かがいるのは、何となく分かるし、撃ってくれば、体は防御するか射線から身を隠そうと反応する。
だが、見えていない相手からの射撃は千束にとっても脅威であり、撃たれれば恐怖もある。
しかし、今の乱戦状態では、何も恐れることは無かった。
後方で銃を構えたリリベルがたきなによって正確に両肩を撃ち抜かれる。
(さっすが、たきな! 愛してるぅ!)
離れていても背中にたきなの温もりを感じる気さえした。
守られている、愛されている、という実感は千束の歩みを進めさせる。
あまりの幸せに、にまにま、と笑みさえ零れる。
……だが、その可憐な微笑みは、一瞬の内に凄絶な笑みへと変わる。
たきなの射撃に気づいたリリベルがその方向に向けて応射しようと構えていた。
その行為は、千束から注意を逸らすと言うことを意味する。。
そして、それは千束に対する明確な隙であり。
(
……逆鱗でもある。
距離を詰めた千束は、腰に構えた銃を一撃、そして、少し体を逸らして顔面に一撃。ついでに倒れこむ前に側頭部に後回し蹴りを食らわせる。
完全に気を失い、痙攣さえしている様子に、千束は、ぺろ、と舌を出す。
(……やり過ぎちった☆)
……だが、後悔はしていない。
殺そうとは思わないが、たきなに銃を、殺気を向けた相手を許すつもりはない。
(……残りは十と少し。北側が戦闘に加わってくるより先に全員潰さないとね)
不敵な笑みを浮かべて、千束はなおも歩みを進める。
◇◆◇
当初組織立って動いていたリリベルは、千束が姿を現したこと、そして、殺しに来ることはないという前提で動いていたリリベルにノバラが仕掛けた悪戯で千々に乱れていた。
「バラバラに戦うなっ! 隊列を作れっ!」
赤い戦闘服を着た隊長格のリリベルがそう声を上げて、再度隊列を作り直そうとしていた。
声を上げて、指示をする。
隊長として、それは必要なことでもあるが、同時に、自分の位置を知らせること、自分が指揮官であることを示すリスキーな行為でもある。
しかし、そのリスクを取ってでも指示をしなければ、千束を相手にすることはできない。そういった判断がそこにはある。
錦木千束を正面から相手をしたところで、銃弾は躱され、リリベルをも凌駕するその身体能力は純然たる脅威に他ならない。
対応策自体はそう難しくない。隊列を作って、避ける隙間がないほどに統制した射撃をすることである。
だから、再び隊列を作り直して応戦する、その判断は間違いではない。
……だが、その判断は遅すぎ、千束が距離を詰めているときにすべきではなかった。
「……よっ!」
近寄った千束に反応してARX160を向けようとするが、それよりも早く千束にそれを蹴り飛ばされる。
近距離戦。銃を抜くか、ナイフを抜くか、それとも体術で対応するか。
隊長格のリリベルはわずかな迷いの中で、使い慣れた拳銃を抜く、という選択肢を取る。
「くっ!」
腰のホルスターから予備の拳銃を抜いて構えようとするが、先に千束にその腕を捕まえられた。
小手捻りで捕まえられたその手を後方に押されると同時、前側に体重の乗った両足を蹴り払われる。
顔からうつ伏せに倒れる形となった。
肩口を踏みつけられ、身動きを封じられると、カチャ、と銃を構える音がする。
「……それじゃあ、お休み」
パァン、という銃声とともに、後頭部への衝撃。隊長格のリリベルは意識を手放した。