Roses fall fleetingly, violets bloom vividly 作:MIA
「……言えないならいいわ。私が答えてあげる。史上最強最悪のリリベル。『御形ハジメ』の身柄……というよりは、その遺伝情報と、宇宙一可愛いくて素敵で、史上最強のリコリス。『錦木千束』を母体として確保すること。おまけで、可愛い可愛い私の妹。『伊達すみれ』も同じように確保すること。……違うかしら?」
ノバラの言葉に男は内心で冷や汗を掻いた。
ノバラの言葉は正鵠を得ている。
リコリス、リリベルの運用は『ただ』ではない。
全国から少年少女をかき集め、教育を施し、使う。
慈善事業として割り切るならまだしも、この方法は至極効率が悪い。
玉石混交の孤児の中から、有用だとされる人材がどれだけ出ることか。
そして、組織を維持運営するに当たっては、最低限必要な戦力を確保する必要がある。替えの利かないファースト級の人材は正直いくらいても足りない程だ。仕方なしに、セカンド、サードという人数で埋めているに過ぎない。
……そう。人材が足りていないのだ。
今はまだ良い。だが、この先。人口減少の中、孤児の確保自体が難しくなることは明らかだ。
……ならばどうする?
今後、人員は不足するにしろ、必要最低限の質を保持するためには?
優秀な者同士を掛け合わせて、定期的に製造する、という考えはそれ程突飛なものではないだろう。
例え、そこに当人の意思がなく、人権を無視したとしてでもだ。
今後の十年、二十年先。安心安全なこの国を維持するためには、必要なこと。
優秀なリリベルと優秀なリコリスで繁殖を行う。
現状、そのために不可欠とされているのが、種としての『御形ハジメ』と母体としての『錦木千束』。予備の母体としての『伊達すみれ』である。
内々に、極秘裏に進められていたこの計画。
一リコリスが知り得るハズのない計画。
……だからこそ、男は少女の言葉に反応することは許されなかった。
これは自分の、自分たちの出世の種でもある。
だが、知られてしまえば、自分はおろか、芋づる式にリリベル側の上層部も、リコリス側の上層部も、DA上層部も、そのまた上も処理されかねない。
相当数の幹部が粛清されることになる。そして、それは、治安維持がどうの、と言っていられる事態ではない。根本的にこの国の秩序が書き換えられる可能性すらある。
……それ故に、この少女に、何も悟らせてはならない。
結果、男は沈黙を選択するしかないのだ。
「……なるほど、なるほど。口は固いようね。御立派、御立派!」
ぱちぱち、と笑顔でノバラは手を叩く。
……そして、男の耳の近くでそっと囁く。
「……いつまでだんまりを決め込めるか。……楽しみだわ?」
あまりの悍ましさに、男はノバラから身を離し、睨み付けようとして……後悔した。
三日月のように細められた口元の笑み。
黒々とした虚無を映した昏い瞳。
……人を相手にしている気さえできなかった。
「……化け物めっ!」
虚勢混じりにそう叫ぶ。
「……私が化け物なら、あなたたちは何なのかしらねぇ? 人でなしさん? 私が生まれながらの化け物だとしたら、あなたたちは、人であること辞めた、人でなしよ。……人間扱いされることを期待しないことね!」
がこっ、とノバラが男の顎を掌底で打ち抜く。糸が切れたようにぐったりとシートに倒れた男をノバラ狭い車内でありながら、器用に縛り上げると、車から引きずりおろして、荷物のように転がした。
(……皮肉なこと。私の言葉に反応しなかった……出来なかった、ということは、認めているのと同じことでしょう? まあ、何の確証もなくそんな話をする訳もなし、否定したり、とぼけたりしたところで結果は同じ……リリベル側のデータサーバーを覗けば、完全に裏も取れる。ま、人証として、コイツを確保するのが、私の最低限のお仕事。……あとは、上手くやってもらいましょう。上層部だの組織だの、私は興味ないし……)
「コレはこれでいいとして、リリベルはトラックに運んでやるか。……あ、あっちも縛っとかないと!」
『……ノバラは優しいねぇ』
デイジーの苦笑めいた言葉にノバラは首を傾げる。
「……そう? 私、割かし、自分が外道だって、自覚があるんだけど……」
数えきれないほどの人を殺してきたし、汚れ仕事もやってきた。それに対して自らは特に何も思わないが、客観的に言って外道だと認識している。
治安維持? 犯罪抑止? 未然防止?
そんな御大層な理由はない。
そう育ち、そう役割を与えられたが故の演技。
『本当の外道やクズ、下衆っていうのは、たぶん、そういう自覚もないと思うなぁ……だから、うん。お母さんは本当は優しいんだって私は思うわけですよ』
デイジーはそんなノバラの内心を分かってのことか、不器用な母を、くすり、と笑う。
単なるプログラムでしかない自分に魂を吹き込んだのは他ならないノバラであるとデイジーは思っている。
〔愛おしいっていう気持ちが本当に私にあるのだとしたら……私があなたに抱いているこの気持ちこそが『愛おしい』っていうことだって思うよ、
「あら。娘に褒められちゃった! 母親冥利に尽きるねぇ……よっ、と! あ、やっぱりコイツら、クっソ重いわ……くじけそう……」
文句を言いながらもノバラはリリベル五人を縛り上げ、一人ずつ引きずっていき、トラックの荷台にぶち込んだ。
ぱんぱん、と手を叩き、土ぼこりを落とすと、ぐーっ、と背伸びをする。
「千束、たちも、終わった、かなー……?」
伸びをした状態のまま、左右に体を倒し、次いで前屈をして、最後に体を後ろに反らす。
『うん。もう片付いているみたいだね』
「そう……じゃあ、こっちの結果、司令に送っといて。後の判断は司令に任せるわ。……ま、決まってるでしょうけど?」
思ったとおりの、クソみたいな計画だった、とノバラは吐き捨てる。
『……ノバラ、どうするつもりなの?』
「さて、どうしようかなぁ? ……義理もあれば、恩もある。これを返さない訳にいかないし、私は私で義務がある。最低限、私の義務は果たすことはできると思うけど……」
『あれ? 意外……てっきり決めてると思ったのに』
「そりゃあ、私だって葛藤の一つくらいするよ? 感情と思考は別物だもの。あちらを立てれば、こちらが立たず。じゃあ、どうしよう、っていうとき、感情がちゃんとあれば、もっと納得のいく結論が出るのかもしれないね。……羨ましい話だよ」
はぁ、とため息をつく。
『やりたいこと、最優先!』、それを公言している千束は特に迷いもしないだろう。たきなは合理的だの効率的だの口にはするが、あれでいて感情任せ、勘任せなところがある。直感的に選んでも、しかし、後悔はしないだろう。
「だから、私には優先順位を立てることしかできないわけ。最優先は、すみれをちゃんと生かして帰して、独り立ちさせること」
……そう。これだけは、ノバラの絶対。
絶対に譲れない、決意と誓い。
何を賭しても叶えるべき未来。
(……そのためなら、何だってする。ウソもつく。人殺しもする。私が死んだって良い。最悪、千束とたきなを殺してでも、叶えるべき私の
「その次は…………」