Roses fall fleetingly, violets bloom vividly   作:MIA

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211 first aid

 ぱぁん、と千束の放った銃弾が最後のリリベルの眉間を打った。

 

「ほいっ……と! これでお終いかなー……あー、でも、たきなの撃ったヤツは止血くらいはしてやらんとなー。太い血管、逝ってないといいけど……」

 

 どういう命令がリリベルに出されているか千束には分からないが、たった二人……一応、ノバラが参加していたことを加えても三人に、ギッタギタにやられ、治療をされてなお戦闘を継続するという恥の上塗りのようなことはしないだろうと、手近なところにいるリリベルの止血を開始する。

 

「うっわ、めっちゃ、血、出てるじゃん、アンタ! あ、ほら、動くなって!」

 

 どうやら銃弾が貫通しているらしく、まぁまぁの出血量だった。千束はナイフで服を裂き、傷口を露出させるとサッチェルバッグから止血パッドを張り付ける。

 本来ならさらに圧迫して止血をしたいところだが、応急処置が必要なのは一人ではない。仕方なく、切り裂いた服で傷口付近をきつく縛り上げた。

 

 同じ要領で応急処置をしていると、赤服のリリベルが頭を押さえながら起き上がる。

 

「……つぅ……!」

「あ、起きた?」

 

 ひょこ、と顔を覗かせた千束に、一瞬警戒するが、周りの様子を見て、自分たちが負けたのだということを理解する。

 

「アンタ、動けるでしょ? 部下の応急処置くらい手伝ってよ」

 

 自分で気絶させておいて何だが、千束は負傷したリリベルにも容赦がない。

 

「いっつつ……言われなくてもやるよ、クソッ! 俺らのバックパックにも応急処置用の物資が入っているから、適当に使え!」

 

 赤服は自分のバックパックを下すと、千束に放る。受け取った千束は早速中身を改める。

 

「マジ? 助かるわー。あ、水。水ある? 本当は傷口も洗いたいんだよねー」

「各自ペットボトル一本くらいしか入れてねーよ」

 

 言う通り、中から水のペットボトルが出てくるが、傷口を洗い流すのに十分かと言われると、微妙である。

 

「あー……これで足りるかな?」

「無理しなくても止血だけでも助かる。……ところで、殺してねぇだろうな。さすがに誰か死んでたら収められるものも収まらないぞ。お前の相手は大丈夫だろうが」

「あ? 私の相棒舐めんな? 全員両肩ぶち抜いてるだけで、死んでねえっての!」

 

 リリベルは辺りを見渡し、確かに言われているとおりだと認識する。

 

「ちっ、乱暴だな……応急処置が終わったら、俺らは下がる」

 

 現状を確認すれば、それなりの人員が両肩を撃たれて戦闘不能状態。千束に撃たれた相手は、じきに目を覚ますだろうが、《あの》錦木千束と戦った後、というのであれば、直ちに戦闘に復帰できるとも考えにくい。

 万全で戦って負けたのだ、今更、復活した戦力で再戦などできるはずもない。

 

「あら、素直。そっちは一体どんな指示が出てんのさ?」

「車の中にいる人の奪還、最悪は処分。護衛のリコリスは殺しても構わないけど、なるべく殺すな。……まぁ、お前相手なら、無駄な指示だったな、そう簡単にくたばるわけがねぇ」

 

 お偉方は錦木千束を相手にするということの難しさをあまり理解していなかったらしい。なるべく殺すな? そもそも殺すことすら難しい相手に意味のないことだ。殺しに行ってやっと対等の相手。ならば余計なことは考えず、接敵時に撃てと命じた方がいくらかマシだろうと思っての判断で作戦を行ったのだが、結果としては、あまり上手く行かなかった。

 特に、リコリス側がこちらを殺す意図はないことが告げられていたから、手榴弾が投げ込まれたときには、一瞬頭が白くなった。これも大きな敗因の一つであった。

 

「あぁ! だから、あんたは殺す気で来たのか!」

「そんくらいしなけりゃ、お前とまともに戦えないだろうが!」

 

 あはは、と笑う千束に、リリベルはうがーっ、と声を上げる。

 

「……千束?」

 

 ある程度の治療を終えてきたのか、若干血が付着しているたきなが油断なく赤服のリリベルに銃を向けたまま千束に声を掛ける。

 

「あー、たきな! 大丈夫、大丈夫! コイツらだってアホじゃないから、もうやる気はないよー」

「ですが……」

 

 千束は警戒をしている様子はないが、たきなとしては、危険があるなら警戒するのが当然だ。銃こそホルスターに収めるが、未だ疑わし気な視線で赤服のリリベルを見る。

 どちらかと言えば、たきなの対応の方が当たり前なので、赤服のリリベルは両手を上げて降伏した旨を示す。無論、本心から今更敵意はないのである。

 

「……俺らはすでに全滅状態で、お情けで応急処置までして貰ってるんだぞ? 今更やり合うかよ。……そういや、ウチの支援の連中が来ねぇな?」

「あー、そっち……ノバラが行ったから制圧されてるんじゃない?」

「……げ。ってことは、あの手榴弾はクソガキの仕業か……相も変わらず性格と根性が捻じ曲がってやがるな……」

 

 はぁぁ、と深い溜息をついて、赤服のリリベルは顔を手で押さえた。

 

「お? よく分かってるじゃん! 私だけじゃなく、ノバラともやったことあんの? 災難だねぇ……」

 

 千束はそんな様子を見て、けらけら、と笑う。

 

「あの……もしかして、お二人とも、お知り合いですか?」

 

 意外にも仲の良さそう? な様子にたきなは首を傾げる。千束が敵に対しても普段からあんまり隔意なく接しているのは今更のことではあるが、千束の言葉から、どうやらこの二人が顔見知り程度ではあることを悟る。

 

「ほら、前に話したでしょ? お部屋に来たリリベルの話。コイツ、そんときの一人。乙女の部屋に夜這いに来たのに、色気がなくて、血の気ばっかでさぁ……こぉんなに、可愛い女の子相手に口説き文句の一つもなく、しつこく鉛弾を撃ってくるなんて失礼だと思わない? いやぁ、追い返すの面倒だった!」

「可愛い女の子ってタマかよ、お前……大体、あんときはまだちんちくりんだっただろうが。こっちは窓からぶん投げられて、骨が逝っちまったせいで、復帰にすげー時間が掛かったんだぞ?」

「乙女の部屋に夜這いして、そんくらいで済んで良かったね!」

 

 カラカラ、と悪びれもなく笑う千束に、赤服のリリベルはバツの悪そうな顔をしている。

 

 ……たきなと出会う前のことである。

 

 当然、過去のことをどうこう言える訳ではないことをたきなも分かってはいる。分かってはいるが……何と言うか、こう、いらっ、とする。

 

「…………千束、ちょっとむかついたんで、ソイツ、殺してもいいですか?」

 

 満面の笑みを浮かべたたきなが、真剣な口調でそんなことを言ったので、千束は慌てる。

 

「ちょー!? ストップストップ!? ダメだよ!? 絶対ダメだかんね!?」

「ええ、分かっています。……所謂、振り、というヤツですよね?」

 

 ふふ、と笑うたきなの目は笑っていない。本気である。

 

(どの辺!? どの辺がたきなの逆鱗に!? あ、そもそも男の子と仲良さそうにしていること自体がNGか!? それとも、昔、私を殺しに来たことか!? 女の子と認識していないところか!? か、可愛い女の子、って言うのを否定されたところか!? ……あ、何か全部な気がしてきた! 私の恋人、私のこと好き過ぎぃ!)

 

「振りじゃない! 振りじゃないからぁ!? ……アンタも、ぼさっ、としてないで、早く、お仲間をまとめなさい! ここは私に任せて、先に行けぇ!?」

 

 殺意の波動を振りまくたきなを正面から抱きしめるようにしながら、千束が叫ぶ。

 

「……お、おぅ……お前も大概だが、相方も相当だな……」

 

 ひく、と頬を引き攣らせた赤服のリリベルは動けるものに手伝わせて部下の回収をし始めた。

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