Roses fall fleetingly, violets bloom vividly 作:MIA
「……? ノバラちゃんと同じ理由?」
すみれもノバラが依然はどこかで被験者とされ、千束に預けられた、という経緯は承知している。
だが、ノバラがその被験者になる以前の過程、それはすみれも同じだという話を聞いて、思わず首を捻った。
「ノバラは元々リコリスとして育てられるために集められたんだが、売り渡されたのか強奪されたのか……後にCBを裏切るCBの研究者に引き取られているんだ。どうやら、すみれも同様にこの時期に身柄が引き渡されているようだ。リコリスは戸籍も何もないからな……追うのが難しかったが、そこまでは分かっている」
ふぅ、と楓が溜息をつく。
当時の孤児を集める担当者が、要は人身売買を行っていた、ということである。
リコリス、リリベルにするため集めた孤児は基本的に戸籍もなく、その数が十分に把握されていた訳でもない。各支部に孤児を割り振ったときに、少ない、と思っても、わざわざ、問い合わせる、ということもなかった。徐々に孤児自体の人数が減っている、という状況も踏まえれば、多少減っていたところで、誰も気にも留めなかった。
だからこそ、ある意味杜撰な計画でも、人身売買が成功していたのだとも言える。
「あとは、お前に行われた研究だが、端的に言えば、後天的に御形ハジメと同等の戦士を作れるか、という検証だ。各種薬剤を投与してミオスタチン欠乏症が起こり得るかという実験だな。正直、毒の種類を変えて投与を繰り返していたようにしか思えんが、すみれに限っては、ある種のアルカロイドの投与後にミオスタチンが著しく減少するということが分かったようだ。まあ、他の人間では一切再現性が取れなかったから、これは、すみれ特有の体質、ということだ。そして、これが判明して以降は、最も効率的なものは何か、にシフトし始めて……という段階で、ノバラが保護した感じだな。……だから、すみれも薄々感じていたんだと思うが、お前は薬を投与しなければ、自然と一般人に近づいていくはずだ」
「え!? すみれ、初耳なんだけど!?」
自分の体質は実は薬剤投与のせいだ、と知ったすみれは驚くも、今、川辺の処方してくれる薬を飲んでいて、過去、あれほどあった体調の悪さがまるでないことが不思議ではあったのだ。
「すまんすまん。おいそれと言える話ではないからなぁ……DAがすみれに期待しているのは、その圧倒的な強さな訳で……正直、お前が一般人レベルの身体能力に戻ったとき、何かできることあるか?」
楓にそう言われてみて、すみれは考えてみる。
すみれは正直、身体能力以外に秀でているものはない。
一応、銃を取り扱うことはできるが、たきなほどの精度では撃てないし、銃撃戦となったとき、千束のように銃弾を避けることもできない。強いて言えば、殺しなれているから、躊躇がない、という程度だろう。
学力の面で言っても、年相応かそれ以下であり、知能指数的には普通程度でも、ノバラに保護される以前の記憶がほとんどない、という育ち方のせいで精神的にも未熟だ。
このような状況に鑑みれば、すみれが誇れることは一つだけだ。
「……ないと思うよ! 誇れるのは、この可愛さくらいかな!」
すみれは胸を張って、えへ、と笑った。
自意識過剰と言うなかれ。客観的に見ても、すみれの容姿は整っているし、メリハリの利いた体は、常日頃からノバラの嫉妬の視線を受けている。筋力量こそ多いが、すみれは基本的にモデル体型なのである。
はぁぁ、楓は大きなため息をつきながら、顔に手を当てた。
(……いや、まぁ……確かに可愛いんだが……)
先に述べたとおり、親の贔屓目という訳でもないのだが、それを堂々と言うのは、正直どうか、と楓は思っている。
「……ま、そういう訳で、原因が分かっていても、DAのバックアップを要する以上、今後、量を減らしていくにしても、お前には最低限の戦闘能力が期待されるってことだ」
その言葉を聞いて、御形は、ピクリ、と眉を動かした。
楓は明言していないが、戦闘能力のないすみれをDAは保護しない、つまりは、処分もあり得る、ということを敏感に悟ったからだ。
「ふーん? まぁ、すみれは、ちょっと不便だけど、それは正直どうでもいいかな! 戦えないすみれはノバラちゃんの隣にいることはできないし……ノバラちゃんと離れるくらいだったら、すみれは、苦しくても戦うことを選ぶよ?」
自分の生死が掛かっていることを知ってか知らずか、すみれがあっけらかんと口にした答えに楓は苦笑する。
対して、御形は理解が追い付かず、顔を硬直させた。
「…………待て。ノバラというのは、先ほどの少女か……?」
自分たちを車に残して、場を外した少女を御形は思い出す。
幼げだが、確実に修羅場をいくつも乗り越えてきたであろう凄み。
小柄な見た目からは想像がつかないほどの修練の跡。
ちらり、とこちらを見てきた人間味のない、機械のような昏い瞳
……御形ですらぞっとするほど、得体の知れなさを感じさせた。
単純な強さであれば、御形の方が上なのは間違いないが、勝てるか、と問われれば、分からない、と答えるほかないほど、底が見えない。
だが、御形が固まったのはこれらが理由ではない。
すみれがノバラを語るときの上気した頬、熱っぽい瞳。それこそが御形を硬直させたのである。
「そうだよ。すみれを保護した張本人。私の教え子でもあり、すみれの片想いの相手だよな?」
「わぁぁぁ!? 何でしれぇが知ってるの!?」
「何年の付き合いだと思ってるんだ? 見てれば誰だって分かるわ、そんなもん。分かってない……というか、理解しないのは、ノバラ本人くらいだぞ?」
「むぅ……」
すみれは可愛らしく唇を尖らせているが、御形の顔は引き攣っていた。
(……女性同士。そういうのもあるのか……)
「か、片想い……? い、いや、そうか……深くは聞くまい……だが、あの子はすみれの妹……カエデの二人目の子どもではないのか……?」
そして、もう一つ気になっていた点。
今の楓とノバラは良く似ているように見えていたこと。
事実を知っている者からすれば、頓珍漢な問いではあるが、御形は大真面目である。
今更、どの面を下げて聞くのだ、と言われても仕方のないことだが、かつての愛しい妹分が、もし、今、別の男と幸せに暮らしていたら、と考える嫉妬にも似た気持ちは、聞かない、という選択肢を御形に許さなかったのだ。
……その気持ち、不安、嫉妬、恐れ、罪悪感、思慕。御形が楓に向けている複雑な感情からすれば、それは理解できなくもない話ではあるが。
デリカシー、という点から見れば、完全に欠如している訳で。
「はぁぁ!? アンタ、そんな風に見てたの!? 私が体を許したのは生涯でアンタだけだぞ!?」
……楓は激怒した。
当たり前である。
結果、無理矢理に奪われた貞操ではあるが、御形に対する慕情があったからこそまだ耐えられたのだ。そうでなければ、とっくに命を断っていてもおかしくはない。
だと言うのに、まるで自分がそれをなかったかのように新しい家庭を持った、などと思われるのは、楓としても心外なのである。
ぷりぷり、と怒って文句を言っている楓と、先ほどまでの威厳のある様子はどこに行ったのか、ぺこぺこ、と頭を下げている御形を見て、すみれは笑った。
(……なぁんだ。きっかけが無理矢理になってしまっただけで、お母さんもお父さんもらぶらぶなんだー)