Roses fall fleetingly, violets bloom vividly   作:MIA

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フキちゃん回 2


21 Like a Doll

「うげぇ!?」

 

 ノバラの姿を見るなり、フキは乙女にあらざる声で呻いた。

 退避しようと考えたときには、時すでに遅し、ノバラはフキにいつものとおりに抱き着いていた。

 

「フ~キ~! 久しぶり! 元気してた!?相 変わらず、腰細っ! 太ももからお尻への肉付きがぐっど! 細すぎず、太過ぎず、それでいてもちもちしてる! あ、シャンプー変えた? 胸のサイズちょっと大きくなったね、羨ましい……」

 

 べたべたすんすんといつもどおりの様子にフキは諦め顔になった。

 

 ……もう、好きにしろ……。

 

「……相変わらずだな、ノバラ」

 

 フキがくしゃりとノバラの頭を撫でると、ノバラはフキに満面の笑顔を返した。

 

「たっだいま~! フキお姉ちゃん!」

 

 ……ずるいヤツだ。

 

 いつもの挨拶(セクハラ)は、フキ的に自重しろ、と言いたくなるが、こう笑顔を返されると許さざるを得ない。何せ可愛がっていた妹分だ。

 

 千束と二人で世話を焼いていたことが懐かしい。

 

 訓練生時代、千束に押し付けられたこの少女は、当時は今のような破天荒とも言うべき性格や抱き着き癖もなく、ただただ大人しく、放っておけば皆にその存在を忘れられてしまうような少女だった。

 千束とノバラは、千束がサードに上がってリコリス棟に移るまで。

 フキとノバラは、その後、フキがサードに上がるまで同室で過ごしていた。

 ……確かその後は、札幌支部でサードになったのであったか。

 いずれにしろ、ノバラが千束とフキの影響を一身に受けて、現在の性格となったのであるから、この悪癖は自らの責でもある。甘んじて受けるしかない。

 何かとスキンシップをしたがるのは、間違いなく千束の影響だが、抱き着き癖は、千束がいなくなってから、ぐずぐずと泣き暮らすノバラを事あるごとにフキが抱きしめていたからだろう。……それ以降のセクハラは知らないが。

 

「ほわぁ! この人がノバラちゃんのもう一人のおね~さん?」

 

 抱き着いたままのノバラを腰に引っ付けたままのフキをすみれは覗き込んだ。

 

「はじめまして、お義姉さん(・・・・・)、ノバラちゃんの相棒やってる伊達すみれです」

 

 すみれがにこにこと差し出した手をフキが握ると、ちょっとだけ恥ずかしそうな顔をしている。人見知りをする性質なんだろうな、とフキは苦笑する。

 

「春川フキだ。……大変だろう? こいつの相手」

 

 何せ、フキは現時点で大変だった。

 フキは、離れろ、とばかりにノバラの頭を押すが、離すもんか、とノバラはより一層抱き着いてくるのだ。

 

「いや~……どちらかと言うと、私が迷惑をかける方なので~」

 

 たはは~と苦笑するすみれに、フキを解放したノバラがえへんと胸を張る。

 

「フキ、私だっていつまでも子どもじゃないんだよ!」

「ほう?私の前で一丁前にお姉さん気取りか?」

 

 フキがノバラの頭を押さえつけるように髪をぐしゃぐしゃにして撫でてやると、ノバラは面白くなさそうに口を尖らせた。

 

「フキ、妹が可愛いのは分かるが、もう少し信用してやれ」

「楓さん……いえ、ノバラの実力は承知していますが」

「人として、だよ。もう『お人形さん』ではないんだからな」

 

 ……その表現は誰のものであったか。

 千束に押し付けられたばかりのノバラは確かに人形のようであった。

 だが、それを事もあろうに「お人形さんみたいで気持ち悪い」などと言った輩がいた。千束は目に見えて激怒し、フキは静かに殺意を募らせた。

 ……だが、その時、千束とフキは反省もした。

 自分たちはノバラを可愛がってはいたが、それは愛玩として可愛がっていたのではないかと。

 ソイツのことは、思い返しても殺意しか湧いてこないが、それは重要な分岐点でもあった。『世話を焼く』から『愛情を持って育てる』に変わった瞬間だからだ。

 そのせいもあってなのか、ノバラは千束とフキを姉のように慕っているのだから。

 

「……そうですね」

 

 妹離れは済ませたつもりだった。

 だが、ノバラは未だ自分の庇護下というイメージが抜けていない。

 ノバラの戦闘能力の高さは十二分に承知しているが、フキや千束の前ではまだまだ甘えたがりのお嬢さんだ。

 壊すことは得意でも、誰かを守ったり、育てたり、あるいは愛したりというのは、まだ早いと思っていたのだ。

 

 だが、楓の言葉でフキは妹が成長しているということを知った。

 

 ……それが嬉しくて、誇らしくて、少しだけ寂しかった。

 

「あいさつは終わったか?」

 

 忘れていた訳ではないが、楠木の前である。

 いつまでも妹にでれでれしている訳にはいかない。フキは姿勢を正すと一礼する。

 

「失礼しました」

 

 しかし、そんなフキとは違って、ノバラはいつもどおりだった。

 

「楠木さんも久しぶり~」

「おまっ!?」

「やれやれ、私もか?」

 

 ととっと駆け出すとノバラは楠木に抱き着いた。さすがにセクハラはしないが。

 しかし、楠木も満更でもない様子で受け止めているのは、『ノバラだから仕方ない』なのか、楠木の懐が深いからか、あるいはその両方か。

 

「あ~……何かホッとする~……」

 

 身長差故に、楠木のお腹の辺りに顔を埋めている格好になるが、ノバラはそんなことを呟いた。楠木は苦笑した様子でノバラの頭を撫でている。

 

「……司令相手にそんなことするヤツも、言うヤツもお前だけだよ……」

 

 フキは思わず額に手を当てた。頭が痛い。

 親しき仲にも礼儀あり、と言うか、そもそも上司と部下だ。普通に懲罰ものである。

 楠木は冷たい印象を受けることも多いが、基本的にリコリスに甘い。そして、特にノバラにはだだ甘である。

 本当は千束に『代わって』ノバラを使いたかったというのもあるだろう。

 結果として、千束がアラン機関の支援を受けて延命したから、ノバラが台頭しなかっただけで、仮に千束が早期に引退をしていたら、間違いなく本部のエースはノバラだった。

 ……当のノバラには全くそんな意識もなく、あっさりと札幌支部に引き抜かれた訳だが。

 

「そろそろいいか、ノバラ?」

「や~、だんけ」

 

 思いのほか大人しく離れたノバラは、楠木ににこりと笑みを浮かべると、それを見て、楠木は頷いた。

 

「フキ、お察しのとおり、相手はこいつ等だ……構わないのか?」

 

 楠木の傍らに控えたノバラはフキに向けて、挑戦的な笑みを浮かべている。

 

 ……この時期に、支部のヤツがいるんだ。当然だな。

 

「……ノバラなら、理想的ですね」

 

 サクラならノバラを見て侮ることは間違いなく、実力に疑いがない。

 フキの提案には持ってこいの人材ではあった。

 

「ならば、もう少し内容を詰めるとしようか」

 

 ……不安があるとすれば。

 

 楠木とノバラの二人が悪い顔して笑みを浮かべていることくらいか。

 

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