Roses fall fleetingly, violets bloom vividly   作:MIA

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母の日なので、急遽、番外編の差し込みです。


EX5 Mother's Day

「……何でこういう日に限ってお仕事なの……?」

 

 ……厄介な現場に今日も一人。

 

 最上ノバラは死んだ目をしながら銃を両手に構える。

 

「……ホント、最悪……」

 

 テンションは低いが、内から沸々と湧き上がってくる怒りにも似た想いでパフォーマンスは普段以上である。

 ぶつくさ文句を言いながらも、銃弾を躱して近寄ってきては、脳天に銃弾をお見舞いしていく……そんな姿は敵からすれば、悪夢に等しい。

 

「……それもこれも、あなたたちが悪いことしているからよねぇ?」

 

 また一人、脳漿をぶちまけて一人倒れる。

 

 銃を構える手が、かたかた、と恐怖で震えている。

 

 ……自分たちは狩る側ではなく、狩られる側だった。

 

 彼らはようやくそれを理解し、そして、絶望した。

 

 まともに戦えるような心理状態ではなく、かと言って逃げる場所がある訳でもない。

 

 生きたい、と思うなら、少女を殺し、その躯を乗り越えるしかない。

 

 ……それは分かっている。

 

 だが、濃密な死の気配に飲み込まれ、足を一歩動かすことさえも難しい。

 

「……今日って母の日なのよ? せっかくお姉ちゃんたちと会えると思っていたのに……台無しにしてくれたあなたたちは、私の憂さ晴らしに付き合ってもらうとして……」

 

 ……髪の間から除く黒く昏い瞳が彼らを射抜く。

 

「……クソったれのあなたたちでも、死に至るその瞬間くらいは、母親に感謝してもいいんじゃない?」

 

 ノバラが、にや、と口元だけが微笑みの形を作り……数瞬の内に、その場所には血の花が咲いた。

 

◇◆◇

 

<お仕事入っちゃったよぉ……>

 

 数日前に届いたノバラの悲しそうなメッセージ。

 千束の返信に未だ既読が付かないところを見ると、現在進行形でお仕事中なのだろう。

 

 東京(こっち)に来れそうだ、とノバラ本人も楽しみにしていたので、千束も楽しみに待っていたのだが。

 

「……はぁぁ……」

 

 千束は溜息を付きながら、ちらり、と隣を見る。

 

「……はぁぁ……」

 

 ……千束と同じように、溜息をつく、フキの姿がある。

 

「……ねぇ、フキ~? 何で私をここに呼んだのよ?」

 

 スケジュールみっちりのノバラが何故か日付を指定して、無理矢理にでも東京へ来ようとしていたのは、千束も知っている。

 結果、あまり、時間がないから、本部で合流、ということになっていたことも。

 

 ……しかし、肝心の本人が来れないことが分かっているのであれば、千束が本部に来る意味がない。

 

 ……遠いし、何もないし。嫌味を言われたり、したくもない検査をされたり。

 

 そういった理由で、千束は基本的に本部に寄り付こうとしない。

 だが、フキが『いいから来い!』と強く言うから、来るには来たのだが……。

 

 その結果、()()()、とばかりに体力測定と未受講の研修を詰め込まれて、千束はくたくたである。

 

「……自分が来れなくなっても、絶対にお前を呼べ、ってノバラからメッセージが来てんだよ。じゃなきゃ、呼ばねぇよ!」

 

 けっ、とフキがそっぽを向きながら、そう答えると、千束は、フキのノバラに対する意外な弱さに、にやにや、と笑みを浮かべる。

 

「か~っ……アンタはそういうところ、ノバラに甘いよね!」

 

 フキは、普段はああしろ、こうしろ、と教育ママのごとく、ノバラに厳しい割に、ちょっと甘えられたり、頼られたりするとこのザマである。自分の感情は置いておいて、ノバラのことを優先しがちなのだ。

 

 自覚がノバラに甘い、という自覚のあるフキは、少しだけ頬を赤くしながら、ちっ、と舌打ちをする。

 

「……普段、だだ甘なお前に言われたくねぇな!」

 

 フキにも言い分はある。

 

 本当は常から甘やかしたいのに、千束が際限なくノバラを甘やかすから、自分が厳しくしないと、と思って、厳しく接しているのである。

 たまにぐらい自分が甘やかしたっていいだろう、という思いがある。

 

 しかし、千束は千束で、甘やかすのは自分の特権と思っているフシがあるので、この点、とことんフキと意見が合わない。

 

「……あぁん!?」

「っんだよ!?」

 

 目を三角にした千束がフキを睨み、持ち前の三白眼を細めて、フキは睨み返す。

 睨み合いはどちらも引かないので、必然的、額を密着せて、睨みあうことになる。

 

「「……んむむむっ!!」」

 

 ぐり、と互いの額で押し合い、更には、睨み合う。

 

 ……千束とフキにはよくある光景ではある。

 

「……フキ、千束」

 

 不意に聞こえた第三者の声に、二人は、パッと体を離す。

 

「楠木補佐……すみません、見苦しいところをお見せしました」

 

 当時は司令官補佐の肩書だった楠木に、フキはすぐに頭を下げ謝罪したが、楠木は仲良さそうな二人の様子を見て苦笑している。

 

「あー! 楠木さん、お邪魔してまーす!」

 

 一方の千束は、肩書なんて関係ねぇ、とばかりにいつもの調子である。

 フキのコメカミには青筋が浮かんだ。

 

「おまっ!? 補佐にんな雑な挨拶があるか!?」

 

 フキがぷりぷり怒る様子に、ノバラは、くすくす、と笑みを浮かべるばかりであるが、やれやれ、と言った表情の楠木が、苦笑しながら、持ってきた箱をテーブルの上の千束の前とフキの前に置いた。

 

「ああ、いい、いい、フキ。別に仕事中でもないしな。今日の私は荷物の運び人だ」

 

 ふふっ、と面白そうにしている楠木に、千束とフキは互いに顔を見合わせて、首を捻った。

 

「……荷物?」

「……私たちに、ですか?」

 

 一応は秘密組織であるDAに直接荷物を送ることはできない。だから、リコリスは直接通販で何かを買うことはできないので、申請して購入し、物資と一緒に届くのが通常だ。

 だが、今回の荷物はそう言った普通の手順を経ることなく、楠木に回ってきたものだと推察される。

 

 何だろう、と二人で首を傾げるも、花の香のするその箱を、二人はそれぞれ開いた。

 

「……あれ? カーネーション?」

「……そのようだな」

 

 千束のものはオレンジ色の、フキのものは赤のカーネーションだった。

 

 ……千束は少し考えて、今日が何の日かを思い出す。

 

「あぁ!! なるほど、母の日ってことか!」

「……読めてきたな。本来は自分がサプライズで渡す予定だったのか」

「そっかぁ……だから、本部に来てって……」

 

 千束もフキを笑みを浮かべ合って、自分のカーネーションを眺めている。

 

 そして、千束が、ふと気づく。

 

「……楠木さん宛てにも届いているんじゃない?」

「……良く分かったな。私のはピンク色だった」

「あはは、ピンクも可愛い感じでいいでしょうねぇ」

 

 千束はのほほんと妹の送ってきてくれた花を楽しそうに見てる。

 一方でフキは考えていた。

 

(私が赤で、補佐がピンク? なのに、千束がオレンジ……)

 

 王道の赤がフキに贈られたの純粋に母に対する物としてだろう。姉だが。

 楠木にピンクが贈られたのは「感謝」の花言葉によるものだろう。

 

 だとすると、千束のものは?

 

(「純粋な愛」、「熱愛」、「清らかな慕情」だったか……? まぁ、昔から千束にべったりだったから、本当にそういう意味かもしれないなぁ……)

 

 ノバラの感謝の意とともに、遠回しにそんな感情を向けられていることに、千束はいつ気づくだろうか。

 

(……何か気づかないまま、スルーして、別の誰かとあっさりくっつきそうな気がするな)

 

 鈍ちんの千束を不憫に思い、フキは千束の肩を叩いた。

 

 意味の分からない千束は、フキが何をしたいのか分からず、首を捻り、へらり、と笑った。

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