Roses fall fleetingly, violets bloom vividly 作:MIA
「……何でこういう日に限ってお仕事なの……?」
……厄介な現場に今日も一人。
最上ノバラは死んだ目をしながら銃を両手に構える。
「……ホント、最悪……」
テンションは低いが、内から沸々と湧き上がってくる怒りにも似た想いでパフォーマンスは普段以上である。
ぶつくさ文句を言いながらも、銃弾を躱して近寄ってきては、脳天に銃弾をお見舞いしていく……そんな姿は敵からすれば、悪夢に等しい。
「……それもこれも、あなたたちが悪いことしているからよねぇ?」
また一人、脳漿をぶちまけて一人倒れる。
銃を構える手が、かたかた、と恐怖で震えている。
……自分たちは狩る側ではなく、狩られる側だった。
彼らはようやくそれを理解し、そして、絶望した。
まともに戦えるような心理状態ではなく、かと言って逃げる場所がある訳でもない。
生きたい、と思うなら、少女を殺し、その躯を乗り越えるしかない。
……それは分かっている。
だが、濃密な死の気配に飲み込まれ、足を一歩動かすことさえも難しい。
「……今日って母の日なのよ? せっかくお姉ちゃんたちと会えると思っていたのに……台無しにしてくれたあなたたちは、私の憂さ晴らしに付き合ってもらうとして……」
……髪の間から除く黒く昏い瞳が彼らを射抜く。
「……クソったれのあなたたちでも、死に至るその瞬間くらいは、母親に感謝してもいいんじゃない?」
ノバラが、にや、と口元だけが微笑みの形を作り……数瞬の内に、その場所には血の花が咲いた。
◇◆◇
<お仕事入っちゃったよぉ……>
数日前に届いたノバラの悲しそうなメッセージ。
千束の返信に未だ既読が付かないところを見ると、現在進行形でお仕事中なのだろう。
「……はぁぁ……」
千束は溜息を付きながら、ちらり、と隣を見る。
「……はぁぁ……」
……千束と同じように、溜息をつく、フキの姿がある。
「……ねぇ、フキ~? 何で私をここに呼んだのよ?」
スケジュールみっちりのノバラが何故か日付を指定して、無理矢理にでも東京へ来ようとしていたのは、千束も知っている。
結果、あまり、時間がないから、本部で合流、ということになっていたことも。
……しかし、肝心の本人が来れないことが分かっているのであれば、千束が本部に来る意味がない。
……遠いし、何もないし。嫌味を言われたり、したくもない検査をされたり。
そういった理由で、千束は基本的に本部に寄り付こうとしない。
だが、フキが『いいから来い!』と強く言うから、来るには来たのだが……。
その結果、
「……自分が来れなくなっても、絶対にお前を呼べ、ってノバラからメッセージが来てんだよ。じゃなきゃ、呼ばねぇよ!」
けっ、とフキがそっぽを向きながら、そう答えると、千束は、フキのノバラに対する意外な弱さに、にやにや、と笑みを浮かべる。
「か~っ……アンタはそういうところ、ノバラに甘いよね!」
フキは、普段はああしろ、こうしろ、と教育ママのごとく、ノバラに厳しい割に、ちょっと甘えられたり、頼られたりするとこのザマである。自分の感情は置いておいて、ノバラのことを優先しがちなのだ。
自覚がノバラに甘い、という自覚のあるフキは、少しだけ頬を赤くしながら、ちっ、と舌打ちをする。
「……普段、だだ甘なお前に言われたくねぇな!」
フキにも言い分はある。
本当は常から甘やかしたいのに、千束が際限なくノバラを甘やかすから、自分が厳しくしないと、と思って、厳しく接しているのである。
たまにぐらい自分が甘やかしたっていいだろう、という思いがある。
しかし、千束は千束で、甘やかすのは自分の特権と思っているフシがあるので、この点、とことんフキと意見が合わない。
「……あぁん!?」
「っんだよ!?」
目を三角にした千束がフキを睨み、持ち前の三白眼を細めて、フキは睨み返す。
睨み合いはどちらも引かないので、必然的、額を密着せて、睨みあうことになる。
「「……んむむむっ!!」」
ぐり、と互いの額で押し合い、更には、睨み合う。
……千束とフキにはよくある光景ではある。
「……フキ、千束」
不意に聞こえた第三者の声に、二人は、パッと体を離す。
「楠木補佐……すみません、見苦しいところをお見せしました」
当時は司令官補佐の肩書だった楠木に、フキはすぐに頭を下げ謝罪したが、楠木は仲良さそうな二人の様子を見て苦笑している。
「あー! 楠木さん、お邪魔してまーす!」
一方の千束は、肩書なんて関係ねぇ、とばかりにいつもの調子である。
フキのコメカミには青筋が浮かんだ。
「おまっ!? 補佐にんな雑な挨拶があるか!?」
フキがぷりぷり怒る様子に、ノバラは、くすくす、と笑みを浮かべるばかりであるが、やれやれ、と言った表情の楠木が、苦笑しながら、持ってきた箱をテーブルの上の千束の前とフキの前に置いた。
「ああ、いい、いい、フキ。別に仕事中でもないしな。今日の私は荷物の運び人だ」
ふふっ、と面白そうにしている楠木に、千束とフキは互いに顔を見合わせて、首を捻った。
「……荷物?」
「……私たちに、ですか?」
一応は秘密組織であるDAに直接荷物を送ることはできない。だから、リコリスは直接通販で何かを買うことはできないので、申請して購入し、物資と一緒に届くのが通常だ。
だが、今回の荷物はそう言った普通の手順を経ることなく、楠木に回ってきたものだと推察される。
何だろう、と二人で首を傾げるも、花の香のするその箱を、二人はそれぞれ開いた。
「……あれ? カーネーション?」
「……そのようだな」
千束のものはオレンジ色の、フキのものは赤のカーネーションだった。
……千束は少し考えて、今日が何の日かを思い出す。
「あぁ!! なるほど、母の日ってことか!」
「……読めてきたな。本来は自分がサプライズで渡す予定だったのか」
「そっかぁ……だから、本部に来てって……」
千束もフキを笑みを浮かべ合って、自分のカーネーションを眺めている。
そして、千束が、ふと気づく。
「……楠木さん宛てにも届いているんじゃない?」
「……良く分かったな。私のはピンク色だった」
「あはは、ピンクも可愛い感じでいいでしょうねぇ」
千束はのほほんと妹の送ってきてくれた花を楽しそうに見てる。
一方でフキは考えていた。
(私が赤で、補佐がピンク? なのに、千束がオレンジ……)
王道の赤がフキに贈られたの純粋に母に対する物としてだろう。姉だが。
楠木にピンクが贈られたのは「感謝」の花言葉によるものだろう。
だとすると、千束のものは?
(「純粋な愛」、「熱愛」、「清らかな慕情」だったか……? まぁ、昔から千束にべったりだったから、本当にそういう意味かもしれないなぁ……)
ノバラの感謝の意とともに、遠回しにそんな感情を向けられていることに、千束はいつ気づくだろうか。
(……何か気づかないまま、スルーして、別の誰かとあっさりくっつきそうな気がするな)
鈍ちんの千束を不憫に思い、フキは千束の肩を叩いた。
意味の分からない千束は、フキが何をしたいのか分からず、首を捻り、へらり、と笑った。