Roses fall fleetingly, violets bloom vividly   作:MIA

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215 Three of us, parents and a child

「それにノバラはすみれと同い年だぞ!?……見た目はアレだが」

 

 楓が御形に、ガミガミ、と文句を言っている。それを聞いている御形が何となく嬉しそうに見える様子から、すみれは、自分がM気質なのは、遺伝だったか、と感慨深く頷いてから苦笑した。

 

「……ちっ、だが、まぁ、仕方ないか……私がノバラの方に寄せているんだからな」

「……何でそんなことしてるの?」

 

 楓の少し苛立たしさの残る顔を見ながら、すみれは首を捻った。

 付き合いの長いすみれからすれば、ノバラと楓は別に似ているとは思わない。似ていると思うのは、せいぜいで髪型くらいのものである。

 

 ……しかし、あえて似せているのだとしたら、周囲に誤解されるのは仕方ないだろう。むしろ、それを狙っている、とも思える。だが、すみれにはその意図がよく分からなかった。

 

「その方が都合がいいからさ。言っちゃあ何だが、お前は体格こそハジメに似ているが、顔の造りは完全に私似だからな! それこそ、コイツが一目で私の娘だと分かるくらいには、当時の私とそっくりなんだぞ?」

「ふぇぇ……そうなんだぁ……それで、都合がいいって言うのは、どういうことなの?」

「……また、取り上げられるのを避けるため、か」

 

 すみれは唇に人差し手を当てて、考えるも、特に何も思いつかないが、御形は思い当たることがあったため、そう答えた。

 

 そして、どうやら、それが当たりらしく、楓は大きく頷いた。

 

「……そうだ。すでにリコリスとして実績があり、()()()()のノバラを上手くあしらえるのは、私か、楠木先輩くらいのものだ。仮に私とノバラが本当に母娘だったとしても、容易に引き離すことは出来ないし、あの子を敵に回すことを考えれば、上層部だって二の足を踏む。……だが、保護されただけの、すみれでは、その特殊性からしても口実を作りやすい。だから、DAには、私とすみれが母娘であるとバレる訳にはいかなかった。……疑われてはいたけどな。ノバラがすみれを保護してくれたこと、デイジーが出来上がった後だったこことは幸いだった。自分の保護した子を無理矢理引き離すようなことはノバラの逆鱗だし、デイジーはDAからの調査を上手く誤魔化してくれた……具体的には、私とノバラのDNA検査を私とすみれのものだと偽ったりな?」

 

 色々とタイミングが良かったんだなぁ、とすみれは他人事のように関心した。

 楓もノバラも、何か色々やっているな、ということは分かっても、当時のすみれではそんな工作をしているとは思いもしなかった。

 

 ただ、守られていたんだ、とそう実感できて、少し胸の辺りが温かい。

 

 だが、気になるところもある。

 

「……うん? ……っていうことは、ノバラちゃんもグルなの?」

 

 グル、という言葉が適切かどうかは置いておくとして、少なくとも、楓がすみれという存在を隠すために、ノバラを目くらましに使っていたということであるし、それはノバラが承知していなければ、機能しないだろう。

 

「……アイツは分かってはいると思うが、私からは特に何も言っていないし、アイツも無用な詮索しない。アイツはアイツで、そうした方がすみれを守りやすいと考えてのことだろうな」

 

 うーん、とすみれは考える。

 

 ノバラは確かに洞察力もある。だからこそ、楓が格好を自分に似せてきた、とするなら、その意図を探るし、本人から聞かないまでも、その意味するところを正確に把握できる。

 

 それにノバラと楓の付き合いは長い。本当に隠そうとしていること以外はお互いにツーカーなのである。

 

 だから、楓とノバラが母娘と周囲に思われることにも互いに何等かのメリットがあったということなのだろう。

 ……それが何なのか、すみれには分からない訳だが。

 

「……随分と信用しているな?」

「……悪いか? あの子を人間に育てたのは、さっきの金髪の子だが、私は私であの子を愛情を持って鍛えたつもりだ。血の繋がりこそないが、ノバラだって私の娘……あの子の強かさは十分信用に値する」

 

 御形の不思議そうな顔に、楓が少し誇らし気に答える。

 

「……くく」

 

 ……御形は思わず声を漏らした。

 

 御形の知る楓は、他人を信用する、などと簡単に口にするタマじゃなかった。

 だと言うのに、楓がノバラを語るとき、自慢げに、誇らし気に、嬉し気に微笑んでいる。

 

 ……そして、照れ臭さを誤魔化すように、すみれを撫でている様子がまた、らしくない。

 

 過去、見たことがない楓の表情。

 辛いだけではなかった、ということが分かる優しい微笑みを見て、御形は嬉しく思った。

 

「……んだよ?」

 

 少しだけ顔を赤くして、こちらをじろりと睨みつける、照れの混じった昔通りの不機嫌そうな顔が、また御形の笑みを誘う。

 

「……いや? あの可愛気のないクソガキだったお前が、一丁前に()()やってると思うと笑えてくる」

 

 御形自身、母という存在を知らない。

 だが、今の楓の姿には確かに母性を感じている。

 

「しれぇ……お母さんは、昔は、どんな人だったの……?」

 

 目をぱちぱちさせながら、楓をクソガキ呼ばわりした御形をすみれが意外そうな顔でのぞき込んでくる。

 

 顔の造形こそ当時の楓にそっくりに見えるすみれだが、感情を素直に表情に出すその仕草は、楓にはまるで似ていない。

 

(……まったく、誰に似たのだか)

 

「ふふ……それこそ、話題に上がっている、ノバラという子と似ているんじゃないか? 生意気で、捻くれていて、人間不信気味……それなのに、妙に大人びている割には、悪戯好きで。何かにのめり込んだら、寝食忘れて没頭するような危なっかしいガキだったな」

「……似てるような、似てないような?」

 

 はて、とすみれは首を傾げ、そして、考える。

 

(……あー、でも、そうかぁ……。昔のしれぇに千束ちゃん要素とフキちゃん要素が混じると確かにそんな感じかも?)

 

 千束の奔放さとフキの生真面目さが奇妙に混じり合い、楓の性格に溶け込ませたのなら、確かに今のノバラに似ているように思えるのだ。

 

「……しかし、今もそうだが、ハッと息を飲むほどの美人だったぞ? ……すみれと違って、ちんまい感じだったがな」

 

 にっ、と揶揄うように笑った御形に、楓が真っ赤に顔を染め上げる。

 

「……あんだと!?」

 

 怒ったように声を上げるが、口元にはにんまりと笑みが浮かびそうになっている。

『ちんまい』と呼ばれるのは、不本意だが、美人だと言われるのは嬉しい。

 

 ……恋心を抱いていた相手なら猶更に。

 

「あ、しれぇが照れてる!」

 

 くすくす、とすみれが楓を指さして笑うと、楓は、にやぁ、と悪戯っぽい笑みを浮かべながら、手をわきわきさせている。

 

「うるせー!? 母親を揶揄うんじゃない! こうしてくれるわ!」

「あははっ!? やめてぇ!? くすぐらないでぇ!?」

 

 止めるように口にしながらも、すみれはあまり抵抗せずに楓からくすぐられている。

 人並以上の彼女が、本気で抵抗したならば、楓の身が危うくなる、という配慮もあるが、すみれは楓やノバラのスキンシップが嫌いではないから、甘んじて受けている、という面もある。

 笑い声を上げて、くねくね、とすみれは身を捩るが、楓は器用にすみれを離さずにくすぐっていた。

 

 ……仲の良い、母と娘のじゃれ合い。

 

 ……御形はそこに、もしかしたら、在ったのかもしれない『家庭』の姿を幻視した。

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