Roses fall fleetingly, violets bloom vividly 作:MIA
えちえち下着のノバラちゃんです。
擽られ、笑い過ぎたすみれはぐったりとした状態で、楓の膝の上に頭を乗せて横なった。
すみれを膝の上に乗せた楓は、くすくす、と微笑みながら、すみれの顎の辺り撫でている。
「……しかし、カエデ。単に家族で顔を合わせるために、この機会を作った訳でもないだろう? テロリストにリリベルを相手にするなど、わざわざそんな危険を冒す必要はない。……一体、何を考えている?」
一見すれば、和やかな雰囲気であった楓とすみれを見る御形の顔は険しい。
御形の経験上、楓は……カエデと呼ばれていた少女は、わざわざ自分のため、あるいはすみれのために、こんな機会を作る程、慈悲深い性格をしていない。
独善的で、利己的な快楽主義者。
それが憚りのない御形の楓に関する人物評である。
御形が最初に楓に出会ってから十五年以上。
久しぶりに顔を合わせた彼女の根幹は何一つ変わっていないように見えた。
楓はすみれの髪を、ゆるり、と手で梳かしながら、にぃ、と笑みを浮かべる。
「……なぁに、ちょっとばかり、DAとかいうクソったれの組織には御退場頂こうか、と思ってね?」
御形はその言葉に息を飲む。
だが、楓がそう考えて実行する、ということに御形は何ら矛盾を感じなかった。
当時でさえ、忠誠心、という意味では欠片もない。
仕事は仕事としてやるが、自分のやりたいことをするための居場所造りと割り切っていた彼女は、優秀ではあっても、使いどころを誤れば、立ちどころに敵に回る可能性がある危うい駒ではあった。
そうするだけの理由があって、勝算があるのであれば、彼女は
……強いて疑問があるとすれば、今日この日まで我慢していたことくらいか。
「お前がそう言うからには、勝算があってのことだろうが……何故、このタイミングなんだ?」
「このタイミングだからさ! 国内のテロリスト。少なくとも東京近郊は一掃した。余程のバカでもない限り、この国に手出しするのは危険、と理解したことだろう。そもそも、ウチでテロを起こす旨みはそれほど無いしな? リスクとリターンを比較衡量すれば、この国に手出しをする意味はない。DA不存在による諸外国からのテロという名のちょっかいはこれで断てた訳だ」
「……加えて、リリベル。殺してこそいないだろうが、それなりに戦力は削がれただろう? 加えて、リリベルが今回動いていた本当の理由……これを暴露すれば、あそこは足の引っ張り合いで当分動けないだろうよ」
確かめるまでもなく、楓もノバラもリリベル上層部側の意図は知っていた。今回の作戦、ノバラが対リリベルに参加したのも人証を押さえるためだ。
「……これでテロリストも、リリベルも手出しはできない。あとはリコリスをどうするか、だが。……リコリスの最大戦力が今、ここにいるなぁ……? これを潰されたリコリスがまともに戦えるか? 加えて、こちらにはノバラがいる。アイツの隊は解体こそされたが、あそこの隊長のサクラも、隊長になって日が浅く、完全に隊員を掌握しているとまではいかないだろう。……仮にノバラを相手にしようとしたとき、最も数の多い彼女たちが果たして動くか? 良くて二分、こちらに付く者の方が多いかもしれないなぁ? ……まぁ、そんなことしなくても、ノバラとすみれがいれば、十分に戦力は足りている。……どうだ? 実に良いタイミングだと思わないか?」
「えー……千束ちゃんたちと戦うのー……?」
膝の上ですみれが、不満そうな顔で楓を見上げる。
「まぁ、アイツらは殺してもいいし、捕縛してもいいし、調略してくれてもいい」
「……どれも難しいと思うけどなぁ」
「奇襲できたら、十分勝算はある。……ま、ノバラが来たらだけどな」
そして、ちらり、と楓は御形に視線を送る。
「……後は、これを聞いたアンタをどうするか、だ」
そう言った楓は懐からデザートイーグルを取り出し、御形顔を狙ってぴたりと構えた。
使用されている銃弾、.50AE弾は現在でも最高峰の威力を誇る。
「いくらアンタでも、これで目ん玉撃ち抜かれたら、生きていられないでしょう?」
「それはそうだな。だが、それでいいのか? ……せっかくの戦力をそんな風に減らしても」
「……まぁ、正直? 私は別にアンタを殺したい程、憎んでいる訳ではないってことは、今日、アンタと面を合わせて見て、改めて分かった。まぁ、考えたことがないと言うとウソにはなるがな。だが、ここでアンタを殺す意味はあるぞ?」
「……それは?」
「……仮にアンタと共闘して、ここを乗り切ったとして。アンタが私たちを裏切らないと言えるか? 当然にリリベルも身柄の引き渡しを要求してくるだろうし、万が一、アンタがリリベル側に行ったとしたら、その後、アンタが率いてくるリリベルはおそろしく厄介になる」
「……ならばどうする?」
その御形の問いに、楓は、うーむ、と考える仕草をする。
「……そこなんだよなぁ? 戦力は欲しいが、私はアンタをそれ程信用しちゃいない。裏切られれば、それこそ私の計画は水泡に帰すしな。それを考えれば、今、アンタを殺すを方が簡単だし、勝算が大きい……」
楓にとっても悩みどころではある。
ノバラとすみれ対千束とたきな。
この戦闘になったとき、殺しに行くノバラ・すみれ組に対して、千束・たきな組はあくまで不殺にこだわるだろう。
この点、ハンディキャップを貰っているようなものではあるが、ノバラとすみれも、この二人相手に本気で戦えるか、という問題もある。
だから、こう言った不確定情報を加味すれば、せいぜいで五分五分。だが、楓と御形が加われば、間違いなく勝てる、とも思える。
だが、楓の知る、
故に、後の不確定要素となる御形を生かしておく、という選択肢は取り得ない。
「……まぁ、そう言うわけで、私のために、死んでくれ、ハジメ!」
ふ、と笑う楓。
その顔を見て、御形は理解した。
楓は自分を未だに愛してくれていた。
不幸な出来事はあったものの、それでも、すみれという存在を近くに置いて、そこに愛情を注ぎ、間接的に御形に対する想いを捨てないでいた。
だが、同時に心の中に育ったDAに対する憎悪もまた育てていたのだろう。
そして、その憎悪を自分に消すことはできない。まぁ、一部を肩代わりくらいはできるのかもしれないが。
「……どうせ、俺の死刑は確定しているし、元より、お前を無理矢理に犯し尽くしたあの日から、俺が殺されるとすれば、お前の手でと考えていた。最後に愛するお前にも、会えないと思っていた最愛の娘、すみれにも会えた。俺に思い残すことなどないよ」
御形は死を受け入れて、薄く笑う。
すみれの膝の上から起き上がり、とろん、とした表情のまま、楓の隣に座る少女を御形は軽く撫でる。
くしゃ、と不器用に撫でる仕草は、すみれからすれば、心地よいものではなかった。だが、父の最後の温もりだと、理解しているから、多少雑であっても、微笑みを浮かべて受け入れる。
「……さよならだ、すみれ」
迷いもない笑み。
「……カエデ」
「……何だよ?」
「結果、お前を傷つけたのは間違いない。ずっと……ずっと、謝りたかった。だが、俺の、俺たちの立場がそれを許さなかった。そんなことすら許されなかったんだ……だからこそ、お前が望むなら、徹底的に壊せ。俺たちの人生を台無しにしたヤツらを」
「アンタに言われるまでもねぇよ! ……全て潰す!!」
「任せる……ならば、俺は少し早く、地獄で待っていよう!」
にや、と笑った御形に楓も微笑み返すと、躊躇いもなくその引き金を引いた。
ずどぉん、と銃声が響き、御形ハジメの頭部を完全に破壊する。
「……私もいずれ行く。あまり待たせるつもりもない……だから、またな、ハジメ……」
楓の瞳からは一滴、涙が零れた。