Roses fall fleetingly, violets bloom vividly   作:MIA

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217 Walnut is convinced

「……やれやれ、たきなめ……便利に使いやがって」

 

 たきなから戦域情報の送信を依頼されたクルミはぶつくさ文句を言いながらも片手間で、たきなの依頼に対応する。

 

「……ったく。ボクへの依頼は高く付くぞ!」

 

 たきなに……ついでに、千束にも何をやらせようか、とクルミは頭の隅で考える。

 

 本来の彼女であれば、金銭を要求するところではあるが、採算を度外視しても構わないくらいには、喫茶リコリコを、その面々を気に入っている。

 

 延空木事件の前までには、自らの安全を確保するためだったり、ちょっとした罪悪感が理由でもあったりしたが、今では仲間意識を強く持っている。

 

 だからこそ、打算抜きで、手助けしてやろうか、という気にもなるのだ。

 

 だが、しかし。正式な依頼があるならば、そちらもちゃっかり手掛ける訳で。

 

「ふむ……ノバラの依頼の方も予定どおりだが……」

 

 先般、ノバラから依頼された内容からすれば、それなり以上に危ない橋を渡るのだろうと想像していたが、現在の戦況を見る限り、ノバラが危機に陥るとは到底思えない。

 

 DA内部の参考記録でも、ノバラが戦闘を行っている映像記録は少ないが、数少ないそれを素人のクルミが見ても、周囲から一頭抜けていることは疑いがない。

 それを踏まえれば、延空木事件で投入されたリリベルクラスであれば、彼女にとって物の数ではないことは想像できる。

 

(……ノバラがテロリスト側と戦っていた映像が撮れなかったのも痛い)

 

 考えてみれば当たり前の話ではあるが、ノバラはクルミに作戦の内容全てをリークしていた訳ではなかった。

 

 そもそもクルミが聞いていた話では、千束たちと別行動をするとも聞いていなかったし、戦闘が起こるとしたら、ノバラの依頼にあった場所、今現在戦闘をしている場所だけだと思っていた。

 

(……先入観を上手く利用されたな。失敗した)

 

 ノバラの依頼。

 即ち、彼女が死に瀕した場合、速やかに彼女の心臓を千束に移植する手筈を整えること。そして、その予定の場所は、現在の戦闘している場所。

 

 東京都内からそこまでドローンで追うのは無理だと判断し、クルミは事前にそこにドローンを運ばせることで、状況確認をすることとした訳だが。

 

 ……結果、うまうまとノバラに出し抜かれた形である。

 

(そもそも、アイツは諜報活動も行っているんだし、情報戦はお手の物、ということだな……まぁ、ノーリスクで勉強できた、とでも思っておこう)

 

 実際、クルミに損害はない。

 強いて言えば、テロリストを撃退している映像が撮れなかったことくらいである。

 電子戦に限るならまだしも、対人に関する情報戦ではノバラに一日の長がある……まぁ、クルミの対人スキルの低さもあるのだろうが。

 

 クルミは頭を切り替えて、今、やるべきことを進めていく。

 

 ……それはもう一つのノバラの依頼。

 

 指定されたタイミングでラジアータをハックする。

 

 かつて、アラン機関、吉松に依頼されたものと同じ、というのは、クルミに嫌なものを感じさせるが、十分な報酬と、少なくともノバラがクルミを殺そうとする理由がない、ということから引き受けたものだ。

 

 ……それに付き合いこそ短いものの、クルミはノバラを気に入っている。ミカは機械がてんでダメだし、千束はメカメカしいものが好きな割に、ハードもソフトもからっきし。たきなは一般常識レベルくらいはあるが、専門的な話になれば付いてこれない。ミズキは元情報部というだけあって、それなりに詳しいが、クルミと同レベルで話せるか、と言えば、そこまでの専門的知識を有している訳でもない。

 

 だが、ノバラは、クルミが話せる、と思うくらいには、こちらの事情に詳しい。仕事のパートナーにしたい、という話を振ったのも冗談ではなく、本気である。

 

(……まぁ、あのべたべたくっついてくるのだけは勘弁願いたいが)

 

 ノバラの高めの体温を思い出し、ぽっ、とクルミは頬を赤くする。

 

 ……恥ずかしいだけで、別に嫌な訳ではないのだ。

 

 あとは、ENTERキーを押すだけ、という状態になって、ふと、クルミは考える。

 

(……そう言えば、こっちもボクにやらせているのは、何か理由があってのことか? 有機的に対応できる、という意味では確かにボクに任せるのが一番だろうが、単純な演算能力という意味では、デイジーの方が上だろう。得手、不得手はあるにしろ、ボクにも、デイジーにもできることのハズ……ノバラがボクに依頼した、ということはそれ相応の理由があると考えるのが自然だ)

 

 クルミから見てもデイジーは高性能だ。

 ある意味において、ラジアータよりも隙がない。

 ラジアータが演算能力でのごり押しを得意とするなら、デイジーは最低限の演算能力で正面を防御しつつ、その余の全力を使って相手の裏を突くことに特化している。

 コンピューターの正攻法に頓着しない、発想力とも言うべきその性能こそが、デイジーの最も恐ろしいところである。

 

 クルミの見るところ、デイジーは単純な演算能力こそ、ラジアータに劣るが、仮に仕掛けたとするなら、ラジアータを容易に落とすだけのポテンシャルを秘めている。

 これだけの能力を持つデイジーをノバラが遊ばせているとは到底思えない。

 

(……何だ? 何を見落としている?)

 

 過去に二度、クルミはラジアータのハッキングに成功しているし、現在でも当時のバックドアも残っている。更には、ノバラから渡されたアクセス権限もあり、三度目が失敗することはあり得ない。

 ノバラ的に絶対に失敗できないからこそ、クルミに任せたのだと思えなくもないが……。

 

(……絶対にそれだけのハズがない!)

 

 ……確信をもってそう言える。

 

 そうこうしている間に、ノバラは予備部隊のリリベルをほとんど一瞬の内に制圧した。

 

(おいおいおいおいおい!? あれが最弱のファースト!? そんな訳あるか!? 千束と同等……いや、それ以上だぞ!?)

 

 クルミは荒事に関しては素人だが、それでも分かることもある。

 

 千束の身体能力は極めて高い。動体視力、反射神経、洞察力。アラン機関が目をつけたのも頷けるほど天才的だ。

 しかし、真島相手には苦戦した。真島の能力が千束と相性が悪かった、という面もあるが、根幹的には体力差だろう。

 

 一方のノバラは総合的には確かに千束に劣るのだろう。だが、真島に苦戦するとは思えなかった。

 素の身体能力の低さを補って余りあるほどの技量の高さと練度。

 

 こと近接戦であれば、ノバラの戦闘能力は千束を凌駕していると言っても過言ではなかった。

 

 これだけ高い戦闘能力を有していながら、最弱、と評価されている意味が分からなかった。

 

 ノバラの活動履歴を見る限り、彼女の従事している作戦は他のファーストに比べても格段に多い。それに鑑みれば、過小評価されることなどあり得ない。

 

 ……何処かで、誰かが、事実を捻じ曲げなければ。

 

(……評価対象外項目や評価上限があるからと言って、あれを単純に最弱と呼ぶか!? やはり、何処かで意図的に情報を伏せていると見るべきか……司令官クラスでなければ、ファーストと言えど、一リコリスの評価をいちいち見るとも思えんし)

 

 だが、ノバラの能力が過小に評価されているのに対し、千束は過大と言わないまでも高く評価されているのは不自然に見える。

 

(電波塔事件の『英雄』。その肩書だけで千束を評価している訳ではないのだろうが、評価のブレが大きいようにも思える……千束の現在の作戦への参加状況、殺しをやらないというスタンスを考えれば特に……)

 

 ……錦木千束と最上ノバラには()()ある。

 クルミはそう確信した。

 

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