Roses fall fleetingly, violets bloom vividly   作:MIA

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218 request and hesitation

 クルミがDAという組織の歪さに疑いを深めつつあったとき、リリベルの制圧を終えたノバラからの電話が鳴った。

 

『……クルミ。そっちの準備はできてる?』

「ノバラか……こちらは、もう準備できているが……」

 

 以前のクルミであれば、何の躊躇もなく指示のとおりに実行していただろう。

 だが、思慮を巡らせるにつれ、本当に大丈夫なのか、という思いを抱き始めていた。

 

 ……自分だけならまだいい。だが、リコリコまで巻き込む可能性まで考えてしまうと二の足を踏む。

 

『……『が』? ()()()()()()?』

 

 そんなクルミの心情を感じ取ったのか、ノバラの口調は強めだ。

 

(……これは……誤魔化せないな。何を企んでいるのかは分からないが、正直に聞いた方がまだマシだろう)

 

「……何をするつもりなんだ、ノバラ。そろそろ教えてくれてもいいだろう? さすがのボクでも、今のお前の胡散臭さでは、素直にお前の依頼を実行する気にはなれないぞ?」

『いいえ。あなたは絶対に実行するわ、()()()()()()()。その結果がどうなるか分かったとしても、その結末を見るために……見たいがために、実行せざるを得ない』

 

(ちっ……良く分かってやがる……何も知らないならまだしも、首を突っ込んでしまった以上、結末を見ないという選択肢はあり得ない)

 

 クルミの、ウォールナットとしての性分を正確に理解した上での、ノバラの言葉。

 

 見透かされた感じがどうにも気に入らないので、クルミは精一杯の反抗を試みる。

 

「……千束とたきなの不利益になるならやらん」

 

 ぶすっ、とした顔をしながら、クルミはそう答えた。

 偽りのないクルミの本心ではあるが、ノバラが直接的に千束やたきなの不利益になる小細工をするとは思っていない。

 

 くすり、と電話口でノバラの笑い声が聞こえる。

 

『……ならないわよ? 分かっているでしょう? 相手はDAであって、千束でもたきなでもない。間接的な不利益は当然あるかもしれないけれど、あなたはそれを承知して私の依頼を受けた。そのはずでしょう?』

 

 そうなんだよなぁ、とクルミは、がしがし、と頭を掻いた。

 

 直接的な不利益。

 例えば、この作戦において、クルミが情報操作をして、作戦行動を困難にする、だとか、千束やたきなを直接的に害するような誘導をする。こういった依頼であれば、いくら積まれようがクルミは受けなかっただろう。

 

 だが、ノバラの依頼は、仮に自分が死に瀕したときに、千束に速やかに自分の心臓を移植する手はずを整えることと、指定時にラジアータをハッキングして、数秒程度機能不全に陥らせること。

 前者は、千束の心情はともかくとして、不利益になるものではないし、万が一に備えてのもの。万が一があったとき、自分の死を無駄にしない、というノバラの保険である。

 後者は、ノバラの悪だくみの一環ではあろうが、直接的に千束とたきなに不利益が被ることは、まずあり得ない。現に、今も二人はラジアータからのバックアップを受けているのではなく、クルミが直接に(片手間で)支援しているのだ。

 

 だからこそ、クルミは何の疑いもなくノバラの依頼を受けた。多少の胡散臭さはあれど、御同類が仕掛ける悪戯だと思っていたからだ。

 だが、どうにもきな臭く、ただの悪戯に収まるものではなさそうだった。

 

「……なら、その間接的な不利益とやらの程度を教えてくれ」

 

 ……もっとも、クルミには大体の予想はできている。

 

『あなたのことだし、想像できているんじゃないの? まぁ、でも、私の口から言うのが筋かな? 依頼主としてはメリット、デメリットを明らかにしないとね? 信義則に反するもの』

 

 くすくす、とノバラが楽しそうに笑っている。

 

『リコリスとしての地位の剥奪……と言うよりは、リコリスという機能が喪失する、が正しいかな? ……どう? 予想どおりでしょ?』

 

 やはり、とクルミは渋い顔をする。

 

(……つまりは、DA内でクーデターか。ノバラ一人で絵図面を描いたとも思えん。首謀者は楓。実行部隊がノバラというところか。楠木が全く預かり知らないということもないだろうが……大規模にリコリスを動員している現状、アイツを責めることはできない。悪くても、テロリストを一掃した功と帳消し。大きなデメリットはない。それ故の黙殺ってところか……アイツもアイツで相当に狸だな……)

 

「確かにボクの予想の範疇内ではある。お前は別にDAに忠誠を誓っている訳でも、リコリスとしての役割に誇りがある訳でもないだろうからな。……だが、解せん。今日、このとき、その場所で事を起こすということは、千束とたきなと敵対してでも、という意味だろう? 何故だ? お前は千束を姉とも母とも慕っているし、たきなだって……」

 

『お前の姉だろう』という言葉をクルミは飲み込んだ。ノバラがそれを聞かされていようがいまいが、本人の口から聞くまでは、クルミが口を出すことではない。

 

『それは問題じゃないんだよ、クルミ。千束とたきなを敵に回す? 当然、折り込み済みだよ。二人が私たちに付いてくれるのがベストだけど、説得するだけ無駄かな? 私と違って、千束もたきなもあれでリコリスという役割に誇りを持ってるし。……だったら、叩き潰すしかないよね。私には……私たちには、DAなんて必要ないんだから』

「……意外だな。お前ならDAなんて、どうでもいい、と言うと思っていたんだが」

『どうでもいいよ? 私の邪魔をしないなら。……でも、邪魔をするなら潰す。奴らは……少なくとも上層部の幾人かは私と、私たちと明確に敵対した。ビジネスライクではあってもこっちは筋を通したのに、それを裏切ったのなら、それはもう敵対行為でしょう? 裏切るなら、裏切られる覚悟があってこそ。そんな覚悟すらない連中に舵取りなんて無理な話よ。……その程度の組織なら、もういらないでしょう?』

「……敵対? 裏切り? ……どういうことだ? いや、それ以前に。ボクの知る最上ノバラなら、そこまでこだわらないだろう? 何故って、興味もないし、期待もしていないからだ。やられた分、相手に意趣返しをするにしろ、そんな結論にはならないハズだ。……一体、何がお前の逆鱗に触れた?」

 

 ……いや、可能性は限られている。

 情動の薄いノバラがこだわるとすれば、自らの根幹となるべきものしかない。

 過去、自らを育てた千束とフキ。

 現在、自らが育てているすみれ。

 

 そして、ノバラが千束との敵対すら考慮に入れていたとするならば。

 

「……すみれの身に何があったと言うんだ?」

『ま、クルミなら気づくよねぇ……結論から言えば。すみれは病気ではなかった。だが、上層部はそれを私たちに隠したままで、知らない私たちに実験を継続させていたってことよ……許せる訳がないわ』

「なるほどな。お前がそれほど怒っている理由は分かった」

『……怒ってる? ああ、そうなのかもね。あんまり自分では自覚はないんだけど』

「それ以外に表現のしようがないだろう。……しかし、そうか。だからこそ、千束と敵対しても、ということになるのか」

『ええ。私はすみれが大事。もちろん、千束も、たきなも、リコリコの面々もね? でも、すみれに関して言えば特別よ。私が保護して、私がこの世界に引き込んだ。だからすみれのことは私の責任。……ふふっ、こうなってみて、初めて千束とフキがどれだけ私を大事に思ってくれていたか分かる。他の誰よりも、私がすみれを守らないと、って思えたんだよ』

 

 クルミは目を瞑る。自分がノバラを翻意させることは不可能だ。

 そして……。

 

『さぁ、()()()()()()()。私は依頼者として果たすべきことをしたわ。後はあながた依頼を完遂する番よ』

 

 依頼として受けたものを反故にすることは、ウォールナットとしてのプライドが許さない。

 

 ……その先にどれだけの悲劇が待ち受けていたとしても。

 

「……ま、お前の考えは分かった。だが、千束とたきなを殺すなよ? その二人だってお前の大事なものだろう。あと、念のためだが、ボクの身はホントに大丈夫なんだろうな?」

『心配性ねぇ……()()()は大丈夫よ』

 

 言外に、千束とたきなは保証しかねる、という意味を見いだし、クルミは歯を食い縛る。

 

 どのみち、クルミがやろうがやるまいが、ことここに至ってはノバラたちと千束たちの激突は必至。

 

 ……ノバラとて何の覚悟もなく、こういった展開に持ち込んだのではない。それを無視することは、クルミには出来そうもなかった。

 

「……そうか。それで合図は?」

『千束たちの方はどんな感じ?』

「制圧が終わって、応急手当をしているな」

『そ。なら、私が千束とたきなのところに到着するまでの間に、二人の銃以外の銃声が聞こえたらスタートして。……もし、鳴らなかったときは……』

 

 少しだけ、寂しそうなノバラの声。何かを言いかけている、その途中、車内から大きな銃声がする。

 

 クルミは先の指示通りそれを合図にENTERキーを押した。

 

 クルミがセットしていたプログラムが動き出す。

 動作を確認したのか、電話口でノバラのため息とも、笑い声とも思える吐息が聞こえる。

 

『……あ、でも、()()()()()()()には迷惑掛けるかもね?』

 

 最後に盛大な爆弾発言を残し、ノバラは電話を切った。

 クルミは慌てて、リダイヤルするも、あちら側で電源を落としているようだ。

 

「あ、あいつは、もう……本っ当に、もう……」

 

 やってくれたな、とクルミは頭を押さえた。

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