Roses fall fleetingly, violets bloom vividly   作:MIA

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219 System down

(……順調だな)

 

 未だ慌ただしい司令室ではあるが、既に楠木には、秘書の淹れた紅茶をゆっくりと味わう余裕すらできていた。

 

 サクラとフキが早々に秋葉原にあったテロリストのアジトを殲滅し、他の進捗状況を見ながら、必要に応じ指示を出しているから、楠木に判断を求められることすらない。

 

 東京近郊にあるテロリストのアジトへの一斉襲撃。

 

 入念に計画されていたその作戦にはイレギュラーが入り込む余地すらない。

 

 随時、戦況の情報共有を行っているオペレーターたちの業務はまだ進行中であるが、この作戦以外には大きな案件もなく、むしろ、いつもより平和なくらいであった。

 

「……順調ですね」

「こちらはな。サクラも意外に頭を使ってくれた。毎回、こんな方法を執られるのは少々困るが、今回に限って言えば、その柔軟性は十分評価に値する」

 

 楠木としては、フキに戦況を確認させつつ、サクラが適宜判断を行うだろうと想像していたが、どうやらサクラはそんな器用なことはできないと判断したのか、一気に自分の仕事を終わらせる選択をしたようである。

 離れた場所の戦況を確認しつつ、自らも作戦に従事するという特殊な作戦状況であることも鑑みれば、身の丈にあった選択をしたとも言えよう。

 

「……問題はノバラたちか」

 

 そう口にするものの、楠木はノバラたちとテロリストの戦闘に関して言えば何の心配もしていない。

 書類上、データ上のノバラたちしか知らない者であれば、戦力比も考えると、無謀とも言える作戦だと思われてもおかしくない。

 

 しかし、楠木はノバラの、ノバラたちの実力を正確に把握している。

 

(……ノバラ一人であったとしても蹴散らせるレベル。これにすみれ。更には、成長株のせり。練度の高いすずな。安定した実力のすもも。……負ける要素がない)

 

 紅茶を一口啜って、ふぅ、と息をはく。

 

 表向きの作戦はテロリスト撃退までで、それ以降の対リリベル戦があることを知る者は楠木以外にいない。

 

 ……そして、楠木もそれ以降の計画は承知していない。

 

 本当の問題はそこから先である。

 

「……ノバラの方は終わったようですよ? 大崎の身柄も確保しています……達磨にされているようですが」

「やり過ぎだ、あのバカめ……回収はどうなっている?」

 

 ちっ、と楠木は舌打ちする。

 

 ノバラからすれば、自分とすみれの実験を裏で操っていた人物だ。ノバラは自分のことだけならともかく、すみれのことも加わればまるで容赦がない。

 その心情を考えれば、生きていただけノバラは理性的であったと楠木にも理解できる。

 ……しかし、それはそれ。楠木は司令官としての仕事を全うしなければならないのであるから、頭が痛い。

 

「合流まで三〇〇秒です」

「急がせろ。あの豚の頭の中身にはまだ用がある」

「……豚……」

 

 楠木の秘書は、ちょっと呆気にとられた表情をする。

 

「……何だ?」

「いえ、司令がそんなことを言うのは珍しいな、と」

「……言いたくもなる。……真島に渡った武器の流れを見たか?」

「……あれはアラン機関が……」

「だが、アラン機関が作って売った訳ではあるまい。あれだけの量を確保し、供給できるところはそうない。出所を探れば、行き着くのは、あの豚のところだ。そういう意味でも、確保は絶対に必要だ」

 

 まぁ、国内の流通ルートのほとんどは、ノバラの手によって調査済み、大規模なところは処理済みではある。

 だが、大崎の頭の中には、それ以外の伝手や方法が詰まっている。可能な限り絞りつくす必要がある。情報さえ引き出せれば、頭がぱーになっていたところで関係ない。多少強引であっても、情報を抜くまでの間、生きてさえいれば、べつに構わない。終わったら……わざわざ取っておく必要もないので、屠殺場に豚の死体に混ぜて、産廃処理行きである。汚豚にふさわしい末路と言える。

 

「サクラ隊、全箇所での処理完了です!」

 

 オペレーターの一人からそう声が上がり、安堵の声が広がる。

 

「最後まで気を抜くな! 散歩に行っていただけの人員が戻って不意を打たれる可能性もある。撤収を急がせろ」

 

(……そう、多少バタつきはしたが、予定通りだ、こちらは……さぁ、どうする楓? ……そして、ノバラ)

 

◇◆◇

 

「千束とたきなにノバラたちが合流しましたが……リリベルが戦闘態勢に入っています!」

 

 ノバラたちがテロリストを撃退し、千束たちとの合流を果たした後、予定になかったリリベルの動きを知り、オペレーターが慌てている。

 

 楠木は、はぁ、とため息をついた。

 

「……そちらは、我々の管轄ではない。モニタリングだけしておけ」

「しかし、リリベルですよ? 殺しては不味いのでは……?」

「だから、千束とたきなが出ているだろう? あの二人ならまず殺さん」

「なるほど……司令、もしや予想されていましたか?」

「護送対象は元リリベルだ。何かしら落とし前をつけに来る可能性は当然あるだろう」

 

 残りは御形ハジメの護送だけであり、楠木の所管の仕事は終わった形ではある。だが、これから起こることを考えれば、司令室を離れる訳にも行くまい。

 

 結末がどうなるにしろ、大騒ぎになることは間違い。

 

 あの悪戯妖精(Gremlin)が二人、いや、デイジーを含めれば三人が揃っているのだ。小さく終わる訳もない。

 

(さて……一体何を仕掛けてくるのか)

 

 しばし、楠木は考える。

 

 楓がDAを、少なくとも上層部を面白く思っていないのは、明らかだ。

 加えて、ノバラもすみれも、上層部に振り回された。すみれはともかく、ノバラはこれを理解している。

 

 ……これらの状況を考えるに。

 

(やはり、DAを内から壊す、か。ノバラがいれば、確かにそれは可能かもしれないが……失敗すれば、生き残れまい。だが、それだけの覚悟をもってやるということ。今更引き下がりはしないだろう。私にできることは精々邪魔をしないようにする程度か……)

 

「千束、たきながリリベルの撃退を完了しました。ノバラは前線に乗り込んで来ているリリベルの司令官を捕縛しているようです。こちらの処分はどうしましょうか?」

「……ノバラが生かして捕縛した、ということは利用価値があるということだ。しっかり回収しろ」

 

 ……と、そんな指示を出していた際、DA本部全体の電源が落ちた。

 

(……またか!? 技術開発部め! 何が三度目は無いだ!!)

 

「早く予備に切り替えろっ!」

 

 楠木の怒声を聞くまでもなく、オペレーターは緊急マニュアルに従って、予備の電源、予備のシステムへの切り替えを始めている。

 

 程なくして、予備で作動している赤に近い色の非常電灯が点灯し、普段よりも遅い予備のシステムが立ち上がった。

 

「切り替え完了しました、すぐにラジアータの再起動を……」

 

 本来の手順であれば再起動が正しい。

 ……だが、楠木はそれを制止する。

 

「……再起動は止めておけ。明確な敵対意志を持った相手に再起動をする意味はない。各支部との連携が取れるまでは現状把握を徹底しろ」

 

 実際、本気で仕掛けられているのだとしたら、システムを再起動したところで、再び乗っ取られるのがオチだ。

 

 ……楠木の判断は決して私情によるものではない。

 

「はい! ……え、でも、これ!? 何で!? あ、あぁ!? ウソ、ウソよ、こんなの……!?」

 

 予備であっても、最低限DA本部のシステムは作動している。

 

 ラジアータの本体が動かないとしても、直近二日程度の犯罪発生予測は保存されており、本復旧までの間の業務に支障はない。

 

 また、緊急時用に他の支部に配備されているAIとのリンクも確保されており、非常時においてはそちらも使用できるようになっている……はず、であった。

 

「どうした!?」

 

 楠木の声に、オペレーターは端末を操作して、各支部との連携状態をメインモニターで共有する。

 

 ……本来、グリーンで表示されるはずの各支部とのリンク状況は、イエロー。

 

 即ち、機能が限定されている、ということである。

 

「…………ぜ、全支部のシステムが、ダウン、しました」

 

 呆然とした様子でオペレーターが楠木の方に向かって振り返る。

 

「……識別、ウォールナット、です」

 

 メインモニターには、()()()()()のウォールナットが使用していたリスを模したロゴが表示された。

 

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