Roses fall fleetingly, violets bloom vividly   作:MIA

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222 intuition

 千束とたきなが駆け付けたとき、楓が車外で立ち竦んでおり、すみれの姿が見当たらなかった。

 

「楓さん、大丈夫ですか!?」

 

 千束が楓に駆け寄って、そう問うと、楓は肩を竦めて苦笑した。

 

「……やられたよ。見事な手際だ」

 

 くい、と顎で示された車内を見れば、頭の吹き飛んだ御形らしい遺体が残っていた。

 

「そんな……」

 

 千束は悲しそうな顔をしながら、目を伏せた。

 楓は、がしがし、と頭を掻きながら、ため息をついた。

 

「……下手人のリリベルはすみれに追わせてはいるが。まぁ、殺られちまったものは仕方ない。しかし、最低限の落とし前はつけさせてもらう」

 

 あまりにもあっさりしている様子の楓に、たきなは怪訝そうな目を向けるが、楓は、にやり、と笑みを返す。

 

「……何だ、たきな?」

「……作戦が失敗した、というのに随分あっさりしているんですね?」

「……失敗? 手違いはあったが、成功の範疇内だろう? 手隙になった東京近郊のテロリスト共のアジトを潰し、誘導されてきたテロリスト共は撃滅した。……ああ、護送の件か? 十分、囮としての役目を全うしてくれただろう? 法務省から、ごちゃごちゃ言われるかもしれないが、どうせ死刑判決を受けている者だ。遅いか早いかの違いしかない。書類上は、刑を執行したことにすれば、何の問題もないぞ?」

 

 くくっ、と喉を鳴らして笑う楓の様子から、確かに何の問題にもならないであろうことはたきなも理解できた。

 

 ……だが、それだけではないことも分かる。

 

 自分たちに与えられた、元々の作戦を思い出す。

 

 御形ハジメの仙台への移送、これを奪取しようと動くテロリストの殲滅とリリベルの制圧。

 

 楓の言葉からすれば、後者が本命で前者はそれの囮だ。

 無論、身柄を奪われたり、殺されたりしないよう最大限努力はするが、所詮は努力する程度で何が何でも、という訳ではない。

 

 しかし、作戦説明時の楓の様子からすれば、これらですら、彼女にとってはエサ程度しかないのだろう。

 

 極秘の作戦。しかし、適度に情報を漏洩させる。

 

 それがどこからどう伝わったのか、それを手繰れば、彼女の作戦を妨害しようとした者が分かる。

 

「そうそう。そう言えば、我々は極秘の作戦として行動していたのに、どうしてリリベルが邪魔しに来たのかな? 不っ思議だなぁ? 一体、誰が情報を漏らしていたのか気になるなぁ? 仮にこの情報が……私の提案した作戦が、それを了承した上層部の誰かに漏らされたのだとしたら……問題だなぁ? さぁ、ソイツは……ソイツらはどうしようか?」

 

 わざとらしい言葉を並べ、へらへらと笑っている楓だが、その目はまるで笑っていない。

 ぞっとする程冷たい目をしている。

 

(……それも、この人の想定内なのでしょうが。……いえ、今から動くのでは遅い……既に動いている? ある意味、一番目立つノバラは、ここにいる……ならば誰が?)

 

 楓の懐刀はノバラで間違いないし、彼女の切り札、鬼札である。周りにもそう認知されていることだろう。

 

 暗殺者としての評価は高いが、リコリスの、少なくともファーストとしての評価はそれほど高くはないノバラ。

 

 姿が見えないのならこれ程恐ろしい存在はないだろうが、何処にいるかが分かっていれば、少なくとも当座の脅威にはならない。

 

 彼女がここにいる限り、楓の作戦は、テロリストの撃滅を目的としたものだと、傍目から見たら、そう見える。

 

 ……しかし、考えてみれば、目の前にいる人物は、DA仙台支部特殊作戦群の司令官なのである。

 

 何も戦力がノバラとすみれだけとは限らない。

 

 司令官の楓自体がくせ者で、ノバラを筆頭に、すみれと一癖ある面子が隊員となればその同僚は……推して知るべし。そもそも、すみれ曰く、ノバラが一番の常識人だと言うのだから、その人間性は期待できない。

 

 ……下手をすれば……下手をしなくても、既にDA本部内は上を下への大騒ぎになっているかもしれない。

 

「……それより、いいのか? 千束、たきな。私は、すみれに追わせたとは言ったが、アレは少々やり過ぎるぞ? 今の人類に潰れたトマトから供述が取れるような科学力はないぞ」

「あ、そっか。こっちだけじゃなく、そっちもあったか!?」

 

 しばし呆然としていた千束ではあったが、すみれが追ったとなれば手加減は期待できない。追いついたのだとしたら、ぷちっ、と潰されている可能性はまぁまぁ高い。

 

「たきな! すみれを追いかけるよ!」

 

 たきなの返事を聞かずに、千束は駆け出し、たきなは、ちらり、と楓に視線を送ってから、その背中を追い始める。

 

 ……どくん、と心臓が脈を打った。

 

(……楓司令は何故、車の外に? ……すみれに追わせた? ……どのタイミングで? いえ、そもそも……御形ハジメはそう簡単に殺せる人物だったでしょうか……?)

 

 手錠も捕縄も意味がないと言われていたその膂力。いざとなれば、全て引き千切って、逃げ出すことさえできたはず。

 

(……抵抗していた様子はなかった。……避けなかった? ……避ける必要がない? ……甘んじて受けたから。……何故?)

 

 ……様々な情報が頭の中を巡り、結論至るその前に。

 

 本能的にたきなは追いついた千束の手を思いっきり引いた。

 

「ちょ!? 何!?」

「……っ!」

 

 不意を突かれた千束は驚きながら、バランスを崩し、たきなの方に倒れこむ。たきなはそれをかばうように抱きしめながら、地面に伏せた。

 

 ……直後、ずどぉん、という銃声がした。

 

「……おや? ノバラから聞いてはいたが、本当に勘がいいのだな、たきな?」

 

 そう言って、右手でデザートイーグルを構えた楓が楽しそうに笑っていた。

 

 その様子を見て、たきなは困惑よりも先に合点がいった。

 地面からゆっくり起き上がりつつ、たきなは楓を睨む。

 

「……なるほど、あなただから警戒されずに殺すことができた……いえ、あなたが相手だから、殺されてくれた、というところですか」

 

 顔見知りであったような二人。

 何やら因縁があったらしいことは分かる。特に御形には罪悪感のようなものが見て取れていた。

 だとすれば、楓に殺されるのは仕方ない、と思っていてもおかしくない。

 

「はははっ、頭の回転も悪くない。概ねそのとおりだと思ってくれていいよ?」

 

 かちり、とたきなは銃を構えて、楓に向ける。

 

「おやおや、いいのか? 誰も指示をしていないぞ? この作戦の最上位は私だ。私の命令無く、その引金が引けるか?」

「私たちに向けて銃を撃った……つまりは裏切り、ということでしょう? 最低限の防衛は許されるハズです」

 

 銃を向けられながらも、楓は全く慌てた様子がない。

 

「なら撃ってみるがいい!」

 

 挑発か、とも思うが、たきなは撃つという選択をして、引金を引く。

 

「……なっ!?」

 

 千束のように、相手のわずかな筋肉の動きなど察知したのではく、ノバラのように空間と撃つタイミングを見切ったのとも違う方法で。

 

 ぬるっ、とした動きで楓はたきなの銃弾を躱した。

 

 一瞬、呆気に取られたたきなの隙を楓は見逃さすに、間合いを詰めてきた。

 近接戦に切り替えようと、たきなが蹴りを放つ。だが、やはり、ぬるり、と避けられる。

 

(……やっぱり……やっぱり思っていたとおり、この人、強い!!)

 

 たきなは、知らず、にぃ、と笑みを浮かべ、少しだけ体を震わせた。

 

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