Roses fall fleetingly, violets bloom vividly 作:MIA
20、21がむしろ18の直後くらいです。
まぁ、20、21はノバラちゃんの走馬灯的な何かということで・・・
「……って……感じでフキと会ってたんだよ……」
……ノバラは虫の息だった。
応急手当の知識を活かして、完全に落ちたノバラをたきなが介抱し、ノバラは力なくたきなの手を握っている。
見た目は、儚くなる寸前の少女の様相だ。
対して千束は綺麗な土下座をしていた。
「千束、やり過ぎです」
妹は虫の息で、愛すべき相棒は冷たい目をしている。
コレ、私が悪いのぉ!? 原因、ノバラでしょぉ!?
と千束は心底そう思っているが、見た目にはそんなことはおくびにも出さない。たきなが怖いので。
「本っ当に申し訳ない!」
地面に頭を擦り付ける勢いでとりあえず謝る。
これで相棒が沈静化して、妹が納得するなら、安いものであった。
「まぁ、たきなの献身的介抱を受けられたので、それは役得して」
千束の内心を知っていてなお、ノバラは満足そうに笑みを浮かべて、ケロリとしていた。
「……タフですね、ノバラさん……」
はぁ、とたきなは呆れた様子でため息をついた。
それを見とがめたノバラはたきなの両手を取って、上目遣いでたきなの顔を覗き込んだ。
「もう、たきな~。他人行儀にしないでよぉ! ノバラって、呼び捨てで呼んで?」
甘えるような声がたきなの脳を揺らす。
「……で、ですが」
会ったばっかりの少女を呼び捨てにするのは、たきなにはハードルが高かったので躊躇する。それには、千束に妹分に対する遠慮もあったのだが。
「……だめぇ?」
うるうるとした泣きそうな目でたきなを見るノバラ。
……普段、前髪で隠れていて、よく見えないノバラの表情のすべてが見えた。
つり目がちだが、くりっとした大きな瞳。乳白色の肌。小ぶりな鼻に、愛らしいピンク色の唇。
たきなは、思わず、可愛い、と思ってしまう。
「いや、それズルいでしょう!?」
これで、ダメって言ったら、自分が悪い人みたいである。
……たきなは、覚悟を決めた。
「分かりました。……の、の、ノバラ」
若干つっかえたが、何とか言い切った。
その瞬間にノバラはたきなの首に抱き着いた。
「たきなお姉ちゃん! 大好きぃ!」
千束に似た甘い香りとともに、そんな言葉がたきなの脳髄を直撃した。
……千束とノバラの関係を見ていて、妹っていいものかもしれない、とは思っていた。思ってはいたが。
(何だか思っていた以上に破壊力が高いです!? 何なんですか! この可愛い生き物!?)
「!? んっ、んっ。……そうですか、これが妹……
思わず出そうになる鼻血を誤魔化すため、真っ赤な顔をしながら、たきなは咳払いをした。
……たきなはダメになっていた……。
意識的なのか、無意識的なのか分からないが、ノバラはこうやって、年上の相手
……これが、業か、と千束は渋い顔をした。
愛想よくしろ、適度に甘えろ、ちょっと揺れてそうだったら、「お姉ちゃん」と呼んでやれ。
あまりに不愛想で、千束とフキ以外には気味悪がられていたノバラに、そういう処世術を冗談半分に吹き込んだのは千束自身ではあるのだが。
肉親というものがおらず、普段、甘えることも甘えられることも少ないリコリスにはあまりにも刺激的だったからなのか、これをモノにしたノバラは当時からヤバかった。クリティカルヒットを連発し、どれだけのだだ甘お姉ちゃんリコリスを製造したことか!
数年たっても変わっておらず、それどころか進化していそうな勢いである。
いや、すみれを見る限りでは、その影響力は年下にも発揮されているとも考えられる!
どころか、楓の影響でヤバい方向へ進化している気さえする!
(……私は何てもの世に送り出したのかっ!?)
たきなに限って無かろう、と思っていたが、甘かった。
……いや、ノバラが一歩上手だったと言うべきか。
「おい、ウチの相棒を変な方向に目覚めさせるな!」
千束の抗議の声を聞いたたきなは、ギロッと千束を睨んだ。その目のぐるぐるだった。
「千束、『私のノバラ』に何てこと言うんですか!?」
たきなはノバラを後ろからぎゅっと抱きしめながら、そう叫んだ。
……あ、これ、あかんやつ。
……しかも、何かノバラの髪の香りでトリップしているのか、頬を上気させたまま、幸せそうに目を細めているし!
「……ほら、変な方向にスイッチ入っちゃったでしょ……!」
千束がノバラにそう耳打ちすると、ノバラは千束から目を逸らして明後日の方向を見た。
「てへ?」
いつもどおり、可愛く微笑むが、もはや、姉にそれは通用しない。
「だから、笑って誤魔化すなっ……!」
だが、たきなが(色んな意味で)怖いので、それ以上何もできない千束。
苦悩している千束を見て、ノバラはにししと不敵な笑みを浮かべる。
「大丈夫だよ、千束お姉ちゃん。私は魔法の言葉を知っている」
ノバラの唇が三日月のような綺麗な弧を描いて笑みを作る。
……絶対に、ロクなこと考えてないわ。まぁ、でも、今のたきなに私が何を言っても聞かないというか、聞こえないだろうし。
「……大丈夫なんでしょうねぇ……これ以上、たきなを壊したら、怒るよ」
千束は怪訝な表情をするものの、ノバラはケタケタと笑いながら、鷹揚に頷いた。
「へーきへーき。
すぅ、と息を吸い込んだノバラの雰囲気が一変する。
……空気がひりつく。
ぽかぽかと温かく、あまあまだった空気が、一瞬にして雪原に立っているかのように凍てつき、その冷気が肌を撫でたような気さえした。
しかし、それは殺気ではない。
……『死』という現象そのものが具現化したような怖気だった。
(……変わってないなぁ、コレ……)
……かつて、ノバラを「気味が悪い」などと宣った輩がいた。
そう、彼女は、
幼い少女にコレを本気で向けられたのなら、それも仕方あるまい。自分は喰われる側だと、ただただ無力でちっぽけな存在だと、否が応でも分からせられる。
……存在ごと喰われ、抹消されるような気さえする、得体の知れない恐怖心。
ノバラの幼少時、これを平然と跳ね除けることができたのは、誰よりも『生』を渇望していた千束と、誰よりも『必死』だったフキだけであった。前触れなく訪れるコレは大人にも対応が難しく、やむを得ず最も耐性のあった千束にノバラが押し付けられた所以である。
「
コレを向けられたたきなは、驚きもせず、むしろ楽しそうに笑った。
「
キラキラとした笑みは
「……ね?」
同意を求める言葉とは裏腹に、あれ?という顔をしたノバラ。
乗ってくるとは思っていたが、こう、もう少し、驚くとか怖がるとか、それでも武者震いをして挑んでくるとかそんな風に考えていたのだが。
全く応えていないどころか、心底楽しそうにしている。ちょっと予想外だった。
「『ね?』じゃないわ!別の方向にスイッチ入れやがって……」
あ~あ、私、知~らない、とばかりの千束。
「何時ですかどこですか後でってどれくらいあとですか私はいつでもいいですというか今からでもいいですいえ今すぐヤりたいですヤりましょうさぁヤりましょう今すぐヤりましょう!」
たきなの目は再びぐるぐるになった。
興奮した様子で、ふんすふんす言いながら、『ヤる』と連呼するたきなに千束は若干引いた。
「……たきなお姉ちゃん、そんなにがっつかないで。ちゃんと楽しむためには待つ時間も大事だよ?」
ノバラは未だ自分を抱きしめているたきなの左手に自分の左手で触れ、自分の肩辺りにかかっているたきなの髪を右手で優しく梳くと、その髪にちゅ、と口づけをする。
たきなはくすぐったそうにして嬉しそうにしながらも、残念そうに声を上げる。
「そ、そんな!? 焦らさないでください、ノバラ!?」
「焦っちゃ、だぁめ♡ ちゃんと我慢しないとご褒美あげないんだから」
緩くたきなの抱擁を解いたノバラは、たきなの右手を両手ですくうように取ると、その甲に、再び、ちゅ、と口づける。
たきなはぴくりと体を震わせ、頬を赤らめてノバラを潤んだ瞳で見つめる。
「ん……っ、分かりました……絶対ですよ?」
たきなの初心な様子にノバラは満足そうににこりと笑みを浮かべると、右手の人差し指をピッと立てると、軽く頭を振って、長い前髪の中から覗いた右目をぱちりとウィンクする。
「それに……今からとっても楽しいショーが始まるんだし、見なきゃ損でしょ?」
にひっと笑ったノバラの悪戯っ子めいた笑いに、千束はちょっと考える仕草をする。
「ほ~ん……それが楠木さんとの悪だくみ?」
先ほど言っていた、フキの提案と楠木との悪だくみの話。
(まぁ、この子が『ヤる』って言ってるんだから、
「そうそう! だから、早く
そう言って、ノバラは千束とたきなの手を取った。