Roses fall fleetingly, violets bloom vividly 作:MIA
「あぁぁぁぁぁ!!」
銃を構えた千束がM1911を乱射する。
もとより、千束の命中率は良くはない。たきなが的中させることができないというのに、千束が当てることは叶わない。
難なく躱した楓が皮肉気な笑みを浮かべる。
「……それが答えか? ……残念だよ、千束。私とて、お前たち姉妹で殺し合いをさせるつもりはなかったんだが……。お前が敵として立ちはだかるなら仕方ないよなぁ?」
くい、と楓が顎で千束に背後を指し示す。
まさか、と思い、千束は振り向いてしまう。
(……いない!?)
千束が視線を正面に戻したときには、楓は既に手の届く位置まで迫っていた。
「すまん、すまん! まだ、ちょっと、早かった……なぁ!!」
「くぅぁ!?」
腹の下から突き上げられるような衝撃とともに、千束の体が後方へと吹き飛ばされる。
傍目から見ればまるで魔法を使ったかのようにも見えるだろう。およそ打撃で人一人を吹き飛ばせるような距離ではなかった。
(……い……たくはない……?)
衝撃こそ激しいものであったが、ダメージとしてはそれほどでもない。
ふわり、と浮いた体で着地の姿勢を取りつつ、何の意図があってのことか、と千束は内心で首を捻る。
にや、と笑った楓が銃を構えるのが見えた。
(やばいやばいやばい!?)
千束が銃弾を避けることができるのは、地に足が付いているからこそ、空中に浮いていれば、当然避けることはできないし、着地した瞬間であっても難しい。
千束に銃弾を如何にして当てるかを考えられた千束の攻略法の一つである。
ずどぉん、という音を聞きながら、千束は後方に倒れこむようにしながら、銃弾を避ける。
肩口に後方に転がり、足で反動を付けつつ、頭の横に添えた両手で体を押し上げるようにしながら、後ろ回り受け身で立ち上がる。
「はっはっは。上手い上手い。だが、私が二射目を撃っていたなら死んでいるぞ? ……たきな、どうした? 撃ってもいいんだぞ? 私が避けたら千束に当たるがな! あははは!」
((性格が悪すぎる!!))
楓が千束を撃たず、たきなを警戒していたのは、射撃中のタイミングではたきなが当てて来ると予測してのことだろうが、千束の視界を遮るように立っていたのは偶然ではないだろう。
たきなに撃たせず、仮に撃ったとしても躱せる位置。
……そして、躱せば千束に当たる位置。
たきなもそれを理解しているからこそ、撃てなかった。
千束が銃弾を躱せるのは見えているから、観察できているからこそ。
彼女の認識外からの射撃は当然躱せない。
自分で撃つのではなく、誰かに撃たせる。千束の攻略法その二である。
「くっ……」
自分の今の位置では、たきなが撃てない。そう理解した千束は、回り込みながら、銃を放つ。
「ふふ」
ずどぉん、ずどぉん、と楓が千束に応射する。
それは確かに千束を狙ってはいるが、避けられることを前提にした射撃。
(何を考えて……?)
「そら、もっとそっちだ」
ずどぉん、という銃声を聞きながら、千束は更に銃弾を避けて回り込もうとする。
(……あれ? ……位置が?)
派手に動いている様子が見えないのに、楓の位置が微妙にずれている。
千束がそのことに気づいて、はっとした瞬間、楓が大きく歩を進める。
「さぁ、千束……
……その言葉に千束はぞっとした。
千束が楓の銃を避け、避け易い方向に動き、楓が大きく一歩動いた結果……。
……知らず、千束の位置はたきなと楓の射線の中にあった。
(……避けたらたきなに当たる!?)
自分は躱せる。だが、たきなは避けられるか?
その刹那の判断の中で、千束は
……ずどぉん!
銃を撃ち放った楓が、右手の甲を左手で軽く叩きながら、ぺちぺち、と拍手をした。
「いいぞ! 良く避けたな、二人とも! 千束はあと一拍遅れていたら、少なくとも掠らせていたぞ? だが、よくあの場面で相棒を信じる決断をした。たきなは身を躱す判断が早かったな! しかし、本来なら、あの位置を取られる前に、お前が動くべきだった。お前の勘の良さが無かったら死んでいるぞ?」
少しでも判断が遅れていたら、死んでいたかもしれない。
そんな想いが、千束の背中を冷たくさせた。
……千束が避けられない位置に誘導する。千束の攻略法その三。
(……経験値が違い過ぎる……っ!
無論、誰もができることではないだろう。
楓の生来の戦闘センスに加えて、歴戦の経験が千束を攻略する方法を簡単に見出した。
千束の持つ銃弾を避けるという特殊技能の一つは、発想次第で完封できる、と楓は鼻歌混じりにやって見せたのだ。
千束がどうやって戦えばいいのか、と悩んでいる一方で、たきなは楓の動きを考察していた。
(……銃弾の避け方が、当たる瞬間に逸れるような感触だったのが気になっていましたが、今の千束の誘導で、少し分かりました。位置を変えていないようで、微妙に動いている……すり足……とも違うのでしょうが、あまりにも微細な動きのせいで、こちらの狙いが逸れたことが分かり辛い……)
前後左右、戦闘している相手に気づかせないほど、微妙に動いて、銃弾が放たれた瞬間には、狙いが外れている。更には、その繊細な足運びを可能とする足腰を使って、射線からぐにゃり、と上体をずらしつつ、重心が崩れていることすら気づかせずに普通の姿勢に戻る。
千束の銃弾の避け方は、筋肉の微細な動き、服の動きを知覚し、動く、その瞬間に避け始める。動体視力、洞察力、そして、その身体能力があってのもの。
ノバラの銃弾の避け方は、銃を抜き、銃口を向ける、という動作から、撃つまでのタイミングと射線を見抜き、射線から身を躱す。戦闘経験による読みと限りなく予備動作を消していることによる。
対して楓は、相手が銃で狙い始めたときから、その歩法で微妙に射線をずらしつつ、射線を予測して、当たらない位置へと体を動かす。これは戦闘経験に加え、動いている動作を悟らせないことで、射撃の間合いを外している、というこである。
三者三様ではあるが、理屈上、ノバラと楓のものは、一定程度の身体能力が再現可能であるとも言える。
だが、たきなには、楓の攻略法は何となく見えていた。
シュートレンジでは、胴体、頭を狙うことがほとんどが、楓の場合、上体に当てることは難しいが、下半身を狙うことは楓の歩法を止めることに繋がると考えたのだ。
「千束! 私の銃弾は避けてくださいね!」
そう言って、たきなは銃を構える。
ひぃっ、と千束は少し、顔を青くする。今ならば、確かに千束の位置はたきなと楓の射線から外れているが、たきなが撃ち始めたら、楓は、また、千束と重なる位置に向かって動くだろう。だとすれば、たきなは千束の体を目隠し代わりに使って、楓への射撃を開始するだろう。
撃たれる千束としては堪ったものではないのだが、たきながそれで攻略できると判断したというなら、千束に否やはない。
タンタンタン、とたきなが銃撃を始めると、楓は面白そうな顔しながら、銃弾を避け始め、千束を盾として使い始める。
たきなは、千束の視線がこちらを見ていることを確認しながら、千束の裏に隠れている楓の姿を想像し、銃を放つ。
千束が射線を隠しているから、楓には避けられない、と考えたのだが。
「甘い甘い。千束がどう避けるのかが分かれば、何処を狙ってくるかなんて分かる。まだまだだな」
楓は千束が避けた弾丸を更に避けている。
(……本当に化け物ですね)
たきなは戦慄を感じながらも、どこか楽しい、と感じている自分を感じていた。