Roses fall fleetingly, violets bloom vividly   作:MIA

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225 I do not forgive!

 たきなは楓をどうやって攻略しようか、と思案を巡らせていた。

 

 たきなの見るところ、楓の身体能力は千束のようにずば抜けて高いという訳ではなさそうだった。だが、鍛え上げた肉体とバランス感覚、そして、経験に裏付けされた戦闘センスは、実に厄介なものであった。

 

 そういった意味では、戦闘に限れば、楓はノバラと同様、努力型。

 

(……研究者として成果を上げていることを考えれば、戦闘の方はおまけ程度なのでしょうが……戦闘の組み立ての巧さは、どうやって戦うかを何度もシミュレートしているからかもしれませんね)

 

 身体能力でごり押しする千束と天性的な勘の鋭さを持つたきなとは戦い方がまるで違う。

 

 楓もノバラも戦闘においては非常に理性的だ。

 

 ともすれば、感情を優先しがちな千束とたきなとは異なり、彼女たちの判断は()()()()()、非常に冷静かつ冷酷だ。

 

 その判断基準は単純な、より利益の大きい選択肢は何か、ということに尽きる。そのため、様々な選択肢を検討しているのだろう。

 

 楓がやって見せた千束の攻略法もその成果の一つだ。

 

 千束が幼少のときからリコリスをしているとは言え、十以上年上の楓との経験値の差は歴然である。通常のリコリスと比べれば、それでも千束の経験値は高い方なのだが……。

 

(……ノバラと同類、と考えるなら、死線をいくつも潜り抜けているに違いありませんね)

 

 死線を潜り抜けるという経験は貴重だ。

 

 リコリスはその性質上、直接的なドンパチはそう多くない。

 

 電波塔事件やたきなの遭遇した銃取引、延空木事件が例外なのである。

 

 ……しかし、それを乗り越えた者はやはり強い。

 

 周囲を見ても、延空木事件の作戦に従事していたものは、他のリコリスに比べて実力が一つ頭抜けている。

 

 通常のリコリスなら現役時代に一度あるかないかの厄介な現場。それに当たり前のように投入される千束や毎度厄介な案件にばかり当たっているノバラは例外中の例外だ。

 

 そして、その例外の一人が目の前にいる。

 

 千束とたきな。現役リコリスのペアの中では最強と言っても過言ではない二人が攻略の糸口さえ掴めない。

 

 ……それほどに隙がなかった。

 

「……司令、千束とたきな()遊ばないでくれる? 二人の相手は私とすみれでしょう?」

 

 ……いつの間にそこにいたのか。

 

 一切の気配を感じさせず、千束の隣にノバラが呆れ顔で佇んでいた。

 

 たきなも千束も楓を見ていた。しかし、だからと言って、近寄ってくる人間がいるなら気が付かないはずもない。

 

 だが、ノバラはまるで、そんな気配さえ感じさせず、そこにいるのが当たり前のように()()のだ。

 

(……これが、ノバラが本気で気配を消す、ということですか)

 

 ノバラがその気だったら、千束もたきなも知らずに殺されていてもおかしくない。それほどまでに鮮やかな隠形だった。

 

「いやぁ……すみれがお前を呼んでくるまでの時間稼ぎのつもりだったんだが、思いのほか楽しくなってしまってな! ん……? すみれはどうした?」

 

 楓はノバラの側にすみれがいないことに気づき、不思議そうな声を上げた。

 その言葉を聞いて、はぁぁ、とノバラが深いため息をつく。

 

「……司令が、ばっかん、ばっかん、ぶっ放しているから心配になって、私が急いで来たから置いてきたわ。直に来るでしょう」

「何だ、お前、そんなに私が心配だったのか?」

 

 けらけら、と楓が楽しそうに笑うが、ノバラの顔は憮然としたものだった。

 

「……はぁ? 司令は殺したって簡単に死なないでしょう? 私が心配したのは千束とたきなよ」

「おやおや、優しいことで……今から殺しあうって言うのになぁ?」

「だとしても、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 じろり、とノバラに睨まれて、楓は苦笑する。

 

「ふん、まぁ、そうだな……っと、すみれも来るようだし、後は任せるぞ、ノバラ」

 

 てってっ、と軽いランニングくらいのスピードで駆け寄ってきているすみれの姿を見て、楓は踵を返す。

 

「はいはい。司令は遊んでないで、やるべきことをちゃんとやってください。い・い・で・す・ね!?」

 

 ノバラの念を押すような口調に、楓は万歳して、その言葉に逆らわない、というジェスチャーをする。

 

「おお、怖っ! へーへー、ちゃんとやりますよ。お前らこそ、勝手に死んでくれるんじゃねぇぞ?」

 

 それは楓なりの激励ではあるのだが、ノバラの顔は渋い。千束とたきなをまともに相手にするのはそれだけキツイということである。

 

「……全力は尽くしますよ」

「ならば良い……私を、私たちを失望させるなよ、ノバラ」

 

 楓のその言葉に、ノバラは背中越しにひらひらと手を振って返した。

 

「機会があったら、また遊んでやるよ、千束、たきな。……まぁ、ノバラとすみれを何とかできたらの話だがな」

 

 暗に、できないだろう、と言われたような気がして、たきなは楓を睨み付けたが、楓はそんなことを気にせず、ノバラたちの乗っていたワゴン車の後部座席に乗り込んだ。

 

「さてさて、千束、たきな。大体のところは司令に聞いているのかな? あの人、肝心なことを言い忘れてたりするからフォローが大変なんだよね」

 

 ノバラは、千束とたきなと敵対している、という状況を理解しながらも、いつもと変わった様子がない。

 

「……DA内でクーデターをやるそうですよ?」

 

 たきながそう答えると、ノバラは苦笑した。

 

「あはは。ざっくりしているけど、まぁ、一言で表せれば、そうなるね」

 

 軽い感じで答えるノバラだが、だからこそ、その中に千束はノバラの本気を感じ取った。

 

「アンタ……本気なの……?」

 

 千束の改めての問いかけにノバラが頷く。

 

「……うん。知ってのとおり、私はDAという組織に興味はないし、リコリスという職務に執着もない。私たちみたいのが生きていくには便利だから、最低限の仕事はしているけどね。私は確かに忠誠心なんてものはないけど、でも、DAに不利益を科される謂れはない。少なくとも上層部のやり口は私にとっては許せるものじゃないんだよ……私がすみれを保護したというのに、ヤツらは()()()()()()()()()()()()! 私にも楓司令にも、当のすみれ本人にも知らせずにね! だけど、すみれはリコリスとして正式な訓練を受けている訳じゃない。すみれの症状が改善したら、少なくとも一般人と同等レベル。そうなったすみれには、利用価値は次代のための母体としてのものしかなくなってしまう。そうでなければ処分の対象よ。……どうして救った命を殺されなきゃならないの? そんなの許せる訳がない! 私はすみれを家族として、妹として愛している! ……それを奪おうとするなら……」

 

 ノバラがちらりと千束とたきなに視線を送り、次いで……。

 

「…………誰であっても私が殺す!!」

 

 ……覚悟を決めたようなノバラの言葉。

 

 風が吹いている訳でもないのに、突風が突き抜けたような感触。

 殺気というには生温い、大きな気配が辺りを包みこんだ。

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