Roses fall fleetingly, violets bloom vividly 作:MIA
千束にとって、ノバラの
そもそも幼少の頃のノバラは、自分のその特性がどういったものかも理解していなかったし、それ故に制御すらできていなかった。今でこそ意識的にオンとオフを切り替えているが、当時は誰彼関係なく、時間と場所さえ関係なかったと言って良い。
……そんなノバラに常に接していたのだ。千束は慣れている……ハズだった。
そんな千束であってすら、先の言葉と気配には、思わず鳥肌が立った。
(…………これが、ノバラの本気の殺気か)
髪の間から覗いた黒い瞳が爛々と炎を灯している。
今のこれを除けば、長い付き合いの千束ですら、ノバラが本当の感情を見たのは、自分との別れのときくらいしかない。
(……どうして、アンタの本当の感情が見えるときは、こんなときばかりなんだろうなぁ……)
……千束の胸には悔しさがあった。
千束としては、ノバラのことを本当の妹のように可愛がり愛してきたつもりだし、ノバラも千束を姉として母として慕って愛してくれていたと思う。
だが、ノバラの借り物ではない本当の感情と思えたのは、今回を含めてもたった二回。それも喜怒哀楽の中では、怒と哀のネガティブなものしかない。
……そんなことでしか、壊れてしまった彼女の感情を呼び覚ますことができなかったのだ。
どうして本当の感情で喜ばせたり、楽しませることができなかったのか、と無力感が募る。
「……本当に本気、なんだね……ノバラ……」
千束の悲しそうな言葉にノバラがゆっくりと頷く。
「……うん。私は前に話たとおり、ちゃんと千束にもたきなにも銃を向ける覚悟をしてきたよ。……千束は大丈夫? 私もすみれも、ゴム弾程度じゃ止まらないよ?」
「……だろうね」
千束は、ゴム弾が入っているマガジンを排出すると、新たに取り出した実弾のマガジンを差し込んだ。
カチリ、という音がする。
「……アンタがそう言ってたんだ。私だって覚悟の一つくらししている。……本当はそんな覚悟、したくなかったんだけど」
千束が実弾に切り替えたことに満足そうにノバラは薄く微笑んだ。
「たきなは…………大丈夫か」
ノバラの決めつけるような言葉にたきなは、むくれた顔をした。
「私だって、思うところはあるんですが……」
「でも、たきなが何の覚悟もなく立ってるなんてことないでしょ?」
「……もちろんです」
そう言ってたきながノバラに対して銃を向けた。
一触即発。そんな空気が周囲に立ち込める。
「……もう! ノバラちゃん、置いて行かないでよ!」
ぷくっ、と頬を膨らませたすみれが、てってっ、と小走りくらいでノバラの側に立つ。
「……あ、あれ? ……どういう状況?」
千束とたきなの向けてくる厳しい目線に、すみれは首を傾げた。
「楓指令がDA内でクーデターやるんだけど、それに反対されてる、ってところかな? まぁ、部外者で事情を知っている者は消したい、というのもあるんだろうけど」
「ふーん……? まぁ、すみれ、バカだから、そういうのはノバラちゃんに任せるよ!」
「はぁ……やれやれ。私だっていつまで一緒にいれるか分からないのよ? もうちょっと自分の判断というものを持ちなさい?」
「ちゃんと持ってるよ! ノバラちゃんが選んだ方を選ぶっていう判断を!」
えへ、と笑うすみれにノバラは、はぁ、と顔に手をやった。
すみれのノバラへの依存振りは今に始まったことではないが、今後を生きていくには、もう少し自分というものを持たせる必要を感じる。
「はぁ……まぁ、いいわ。すみれは千束をお願い。
「……いいの? 殺しちゃうかもよ?」
「殺さないのが一番だけど、殺してしまったらそれはそれ。そうするしかなかったってことよ」
「はぁい!」
すみれがいつものように笑顔を見せながら、千束と対峙する。
「たきなは私とよ……模擬戦の借りは返すわ」
「個人で見れば、アレはあなたの勝ちでしょう? 私こそ、リベンジを果たします」
たきなは両手で持ったM&PとM1911をノバラに向けた。
◇◆◇
車の中に入った楓は、持ってこさせたノートパソコンを起動させる。
(……やれやれ。本当に武力で潰せれば、どれだけ楽なことか……)
上層部の頭を挿げ替える。
それ自体は最早確定路線だ。
とは言っても、いずれDAを廃止するにしろ、いきなり廃止というのは中々難しい。
各地の訓練生やリコリスたちの問題。DAに勤めている職員の問題。
これを考えれば、潰して、はい、おしまい! とできる訳もない。
最低限必要な機能を残しつつ、癌化したところを摘出する、ということが必要だ。多少、健常な部分を失ってしまうが、それは組織を改める際に必要な犠牲と割り切るしかない。
それが娘の、娘たちの大事な人であったとしても。
そして、全国の訓練生とリコリスを養うのには金がいる。こんなごたごたしている組織ではあるが、奇特なスポンサーは確保できていた。もっとも、楓としてはあまり頭を下げたくない相手ではあるが。
ビデオ会議機能を起動すれば、即座に二人の男性の姿が表示される。
「……さて、こちらは、やることやって、お膳立てもしましたよ。お約束通り、ご協力頂ける、ということでいいんでしょうねぇ?」
『……ああ、仕事振りは満足している。約束は達成されたのだ、我々は支援を続けるよ? 錦木千束に殺しができるようになればなお良いが』
『ふふふ。まぁ、私も最上ノバラの本気を見れる貴重な機会だ。当然、支援は続けさせてもらおう。……結果がどうなろうとも、ね』
「それはどうも。アラン機関もCBも景気が良くて結構なことで」
声色にこそ表さないが、元々DAのスポンサーであるアラン機関とCBが相手、というのは楓がどうにも気持ちが悪いところでもあるが、一番の大口がそこであり、元々、協力的であるから、そうならずを得なかったという部分もある。
まぁ、味方が上層部にいるだけマシなのではあるが。
『ふむ? しかし、彼女たちに私たちの代理戦争をさせているようになってしまったのは、どうにも気を咎めてしまうね』
『代理戦争? そう思うのは勝手だが、我々にはそんなつもりはない。どうせ勝つのは我々だ』
『おやおや……まぁ、それはいいとしても、我々も他の上層部を笑えないのかもしれないねぇ。『
『見るのは義務であろう。低俗な連中が娯楽にしているのが問題なのだ』
『私と意見が一致したようでなりよりだ。……そういうことだ、楓君。DA常任理事である私たちは君の作戦決行を支持する』
「では、常任理事二名の支持を受け、問題の理事については、欠格事由を認め、背任者としての処理を開始します……」
『まぁ、待ちたまえよ。決着を見せてからでも遅くはあるまい。彼らにとっても最後の楽しい遊びの時間だ。それくらいの猶予をあげてやりたまえよ。動かぬ証拠にもなるだろうしね』
「は。……デイジー、そちらはどうだ」
『おーるおーけーですよ、楓。ばっちり撮れてます』
「ウチの連中の投入準備は?」
『無論、いつでも行けます』
「なら、あとはこちらの戦闘次第か……デイジー、念のため優先命令権者の第三位にすみれを登録しておけ」
『ふーん……? ノバラだけじゃなく、楓も……? まぁいいけど……』
「待て!? ノバラも? どういうことだ!?」
『あ、でも、もう、戦闘始まっちゃうし。後でね』
楓はデイジーの言葉に不審なものを感じつつも、四人の戦いの様子に目を向け始めた。