Roses fall fleetingly, violets bloom vividly   作:MIA

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227  at her best

(……本気のすみれかぁ……御免被りたいなぁ……)

 

 共に生活し、一緒に仕事をした仲であるからこそ、千束はすみれのヤバさ加減を理解していた。

 

暴走特急(genocide express)』などと呼ばれている彼女であるが、単純な身体能力のみで人を轢殺するという芸当は不可能だ。

 

 それを可能としているのは、体当たり、という極めて単純な戦闘行動を突き詰めた彼女の爆発的加速力があってこそのもの。

 

 筋肉の異常発達という症状に悩まされていたすみれは、それ故に訓練時間が限られている。よって、彼女は何度も型を行って、体にその動きを染みつかせる、ということができない。

 

 その欠点を補う方法として、すみれは、イメージ通りに体を動かすことで解決を図った。……そうせざるを得なかった、とも言うが。

 

 そして、そんな彼女が模倣しているのは、ノバラという最良の格闘術のお手本なのである。

 

 最速、最短、最効率。

 

 訓練に訓練を重ね、鍛え磨き上げられたノバラの格闘術は、本来、無駄というものをほとんど許容しない。

 

 その無駄のない動きを脳裏に焼き付け、すみれに可能な範囲で再現されたものの内、最も彼女の特性に合っていたのが、体当たり、という、ごく単純な技だったのである。

 

(……単純過ぎるが故に、対応策が少ない。さて、どうしたもんかな? さすがに模擬戦と同じことをしてもねぇ……? 短い期間とは言え、ノバラが何の対策もしなかったとは思えないし)

 

 ……初動を潰す。当てさせない。

 

 千束が模擬戦のときに取った方法はこれだ。

 

 今回はどうするべきか。

 

(……ま、私はやれることをやるだけ)

 

 妹分が本気でくるのだ、ちゃんと相手してやるのが姉の務め。

 

 にぃ、と千束は不敵な笑みを浮かべた。

 

◇◆◇

 

(千束ちゃんかぁ……勝てるかなぁ……?)

 

 すみれとしては、まともに敗北を味わされた相手である。正直、相手としては若干の苦手意識がある。

 

 しかし、ノバラがすみれに千束を任せると言ったのだ。

 

 今度こそ、その期待を裏切ることはできない。

 

 すみれは自分のやるべきことを考える。

 

(……すみれが千束ちゃんの相手をするって言っても模擬戦じゃない。たぶん、隙があるなら、ノバラちゃんが狙われる。だとすれば、千束ちゃんをすみれに注目させなきゃだね)

 

 すみれからすれば、正直、不利な相手。

 ノバラに本気を出していい、と言われたものの、本当の本気で殺しに行けるか、と言えば、今、現時点でのすみれでは難しい。

 

 ……難敵を前にしている。

 

 そう考えるとすみれの顔には自然と笑みが浮かぶ。

 

「んふふ」

 

 ……楽しい。

 

 すみれは、有象無象を蹂躙することが好きだ。

 自分の突撃で、ぐちゃぐちゃに壊れ行く様。バラバラになって壊れた人形のように転がる手足。ぶちまける血の温かい感触。

 

 無邪気に、無慈悲に、人を壊す作業は、全力で動いても良いときのすみれの数少ない娯楽。

 

 だが、強者と相見えるのも、やはり、楽しいのだ、ということを覚えた。

 最初こそ、敗北という苦い味を舐めることになったが、勝利となれば、実に甘露であろう。

 

「さぁ! 殺ろう? 千束ちゃん!! すみれと遊んでよ!」

「……あぁ、遊んでやるよ、すみれ! 存分にな!」

 

 すみれが腰を落として構え、千束は銃を構える。

 

◇◆◇

 

 たきなは出し惜しみをするつもりはない。

 始めから二丁の拳銃を構えたたきなは、じっとノバラを観察する。

 

(……武装は出発時と変わっていない。M1911はホルスターに、『花鋏』という短刀も腰にぶら下げている。スカートの中で見ませんが、当然、黒星、と赤星は持っているでしょう。これにナイフなど、ですか。ノバラ最大のアドバンテージがないとは言え、基本的には私が不利、と言うべきでしょうね)

 

 ノバラならどんなトリッキーなことをやってきてもおかしくない。前回は、銃を投げつけられたときに判断を誤った。

 

(さすがに二番煎じはやってこないでしょうが……ノバラのことです。何をやってきてもおかしくありません)

 

 ノバラは合理主義な割には突拍子もないこともやってくる。勝つために必要なことなら何でもやる、という実に彼女らしい話ではあるが、常人では出てこない発想すら平然とやってくるのは中々に脅威だ。

 これまで行ったことがない判断を急に求められることになる。

 その刹那の判断の瞬間、わずかな逡巡が、ノバラに対しては決定的な隙となる。

 

 その隙があれば、ノバラなら十分にたきなを叩き伏せることすら可能だろう。

 

(やり合うなら、ノバラがやられたくないことを続けてやるほかない)

 

 ふんす、とたきなは気合を入れなおした。

 

◇◆◇

 

(さて、三人とも、どう考えて、今、ここに立ってるのかなぁ……? まぁ、でも。私の本当の目的に気づいた者はいなさそうだね?)

 

 ……さすがに誰にも分らないだろう、とノバラは、くすり、と笑みを浮かべた。

 

 たきなは、ノバラに向かって真っ直ぐに銃を構えている。

 

 模擬戦の内容を考えれば、もっとノバラの小細工を警戒していても良さそうなものでもあるが、たきなのこれはこれで十分に警戒しているのだろう。

 

 油断も隙もなく、汚れなく澄んだ瞳である。

 

(……たきな、やっぱり強いなぁ……)

 

 ……迷いはあるのだろう。しかし、その迷いを今は感じさせない。

 

(……それでいいよ、たきな。そうでなきゃいけない。あなたはリコリスなんだから……千束の相棒なんだから)

 

「……さぁ、来て。たきな……私が潰してあげるから」

「……ノバラこそ、かかってきなさい。いつものように優しく受け止めてあげますよ?」

 

 ……互いに挑発するような言葉。

 

 二人は共に生活しているときのように、笑みを交わす。

 

「……んふふっ」

「ふふっ」

 

 長くはない二人の共同生活を思い出す。

 

 喧嘩らしい喧嘩もなく、互いに甘えたり甘えられたり。

 抱き合って一緒に眠ったその温もり。

 

 それらの思い出を忘れた訳ではない。

 

 互いが互いを大事に思っている。

 

 今回はその優先順位が違うだけ。

 

 今目の前にいる相手よりも、自分の愛しい者、守るべき者を優先しているだけ。

 その者のために戦うことに二人とも迷いはない。

 

 たきなはM&PとM1911を両手を伸ばして構えるのに対し、ノバラはM1911を腰の辺りに構えた。

 

◇◆◇

 

 最初に動いたのは、すみれだ。

 

 千束には、自分に集中してもらう必要がある。だからこそ、誰よりも早く動き出したのだ。

 

 とは言っても、彼女の動きはさほど大きいものではない。

 

 いきなり千束に突撃した訳でもなく、とん、と一歩踏み出し……そして、思いっきり大地を踏みしめただけだ。

 

「きゅーきょくおうぎぃ~!!」

 

 緊張感のまるでないそんな掛け声とともに踏み出したその一歩は、ズガァン、という音とともに、アスファルトを割り、地面自体を、陥没させた。

 

「いぃっ!?」

 

 さすがの千束もその威力は予想外。

 

 ……単なる震脚一つで舗装された地面が、抉れるとは思わなかった。

 

 そして、割れたアスファルトが塊となって飛んでくる。千束としては、避けるために、距離を取るしかない訳だが……。

 

(……間合いを取られた! この距離で私に当てられるか……!?)

 

 千束の射撃の命中率の悪さを見越しての行動。

 

 千束が距離を取れば、すみれは十分な助走距離が取れる。

 

 ……にこ、と千束の視線の先で、すみれが邪気のない笑みを深めていた。

 

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